2003年度「地方自治論」

レポートに対する担当教員中村祐司のコメント(以下の青字)

 

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レポート一覧はここ

 

 

氏  名

テ     ー     マ

1

臼井 浩子

地方議会と会派

会派は議会のプロセスを円滑にする要因となっている点など、議員へのインタビュをもとに明らかにしている。会派とは「選挙の際に有権者を奪い合わないもの同士によって作られた集団」という指摘は興味深い。ミクロレベルの事例に絞ったことで、新しい知見を提示できた好レポートである。ただし、例えば、地方議員の政策立案能力は首長部局と比べて心もとないという定説に対する反証があってもよかった。

2

亀澤 伸也

宇都宮市における市町合併に対する自治体職員の役割

市町村合併は住民にとって現段階では「肌で感じられる事業」とはいえず、そのことが宇都宮市民の関心の低さにつながっていると推察。また、とくに末端の職員は通常業務に加えて、全部で2000以上もの事務事業の調整に追われている点を紹介している。「自治体職員の啓蒙」を行うためには、まずは合併特例債の取り扱いについて政治的決着を行うべきという主張は重要である。随所に鋭敏な問題意識が展開されている好レポート。

3

鮎ヶ瀬 琢子

栃木県真岡市における市町村合併の現状と課題

一貫して生活者としての目線から居住地の合併問題を考察している。メリット・デメリットの一般論の具体化を終始心掛けたことで、レポート内容に独自色を出すことができた。これを踏み台にして、今後の動きを見据えてほしい。今回の合併に関する1市5町各々の基本的スタンスを明確に推測してもよかったのでは。

4

佐藤 剛司

国分寺町、南河内町、石橋町の3町合併

雇用や購買をめぐる3町の近接自治体への依存状況が日常生活レベルから書かれていて興味深い。合併したとしても、「インターチェンジも、新幹線の駅も無い町」では課題が残る、合併するしないにかかわらず、税金の有効活用がなされればよい、といった一住民としての率直な見解がよく出ている。合併について、自分たちの街のことは自分たちで解決策を導くしかない、という原点を再確認させてくれる内容になっている。

5

濱田 孝子

「鹿児島県姶良中央地区一市六町合併」

「姶良中央地区合併協議会だより」を要領よくまとめている。「新市まちづくり計画」に住民の意見を反映させようとする試みは、他地域の市町村合併を考える上でも見習うべき点であろう。しかし、未協議の項目を見逃さず、合併推進で進行する行政の資料を「すべて鵜呑みにしてはいけない」と指摘する。これは合併問題に限らず、政策課題を論じる際に不可欠な視点である。未協議項目のいくつかを具体的に論じてもよかったのでは。

6

相馬 智華子

秋田県仙北郡内の市町村合併の現状と合併後の未来

従来の合併に向けた流れを分かりやすくまとめた上で、地元「三町村での合併の意味」について考察している。それは歴史的なつながり、自治体間均衡、危機感の共有の3つだという。そして、将来の編入合併への懸念はあるものの、敢えて小規模合併のメリットを指摘している。実質的な対等合併の強みも伝わってくる。合併を逆手にとったしたたかな地域づくり戦略を垣間見る思いがする。

7

佐藤 菜穂美

広域連携―北東北3県における都道府県合併と国立大学再編・統合―

確かに、「幅広く議論していく姿勢」や「グランドデザインをどう描くか」、さらには「広域連携の必要性」など、いずれももっともな指摘であろう。国立大学の再編・統合についても同様である。しかし、最初から最後まで、作成者の目線がいったいどこにあるのか伝わってこない。よくまとめてはいるものの、新聞記事、都道府県・国の文書等で既に言われていることをなぞるだけではいけない。

8

瀬之口 あずさ

現代の日本におけるごみ問題

「ライフスタイルの見直し」や「分別を徹底すること」の必要性は従来から言われている。エコライフについても同様である。参考文献を果敢に読み込もうとした姿勢は感じ取れるものの、やはりテーマが大き過ぎたのではないか。例えば、最終処分場におけるゴムシートの問題一つに絞ってもいろいろと書けそうである。残念ながら、記述中に作成者の考察の独自性を見出せる箇所がほとんどなかった。

9

田名邉 喜子

産廃処理問題と県行政のあり方

「国内最大規模の不法投棄現場」に焦点を絞ることで、青森県の対応をめぐる問題点を明確にしている。確かに論の進め方に一本線が入っている感じで、町の独自案の存在など興味深い。しかし、参考にした情報源をまずは示した上で、そしてできれば、行政側の説明をもう少し詳細に把握した上で、自分なりの見解を提示する必要があったのではないか。

10

小池 愛樹

富山市と宇都宮市の廃棄物対策の違いと今後の展望

多くの情報源に当たりながらも、それらに引きずられることなく、ごみ処理をめぐる両市の違いについて、自分の理解を確実にしつつ論を進めている好レポート。両市の収集・リサイクルシステムについて、本文中の記述は簡素なものとなっている。しかし、情報の人々への浸透策など、後半における矢継ぎ早の力強い主張を読めば、作成者が丁寧に資料を把握した上で見解を提示したことが分かる。比較プラス居住地経験のメリットがレポート内容にフルに生かされているのである。

11

小林 令子

530(ゴミゼロ)運動発祥の地・豊橋市における環境対策の現状と課題

地元の先端的な取り組みが迫力のタッチで書かれ、一気に読ませる好レポート。地元における生活経験と愛着、ごみ対策の実践が文章の中に凝縮されている。「530」「5300」という巧みで魅力的なネーミングも住民の協力を得るには不可欠であることが分かる。宇都宮市でもこのような取り組みができるのではないかと、元気をもらったような気がした。それにしても、ゴミ問題に限らず、先駆的な自治体政策の進展には必ずその核となる人物がいるものである。

12

渡邉 陽子

ごみ問題に関する仙台市と市民団体の取り組み

小学生への浸透ぶりなど、「ワケル君」が要(かなめ)の役割を果たしていることが分かる。市民の自発性に訴える「ポイ捨て」をなくすための条例も興味深い。しかし、情報源が限られたため、記述が平板なものになってしまった。例えば、関連するボランタリーセクターの活動内容や地元企業など、私的セクターが発信する情報にもアクセスしてほしかった。

13

紺野 美奈子

食の安全性を求めて〜野菜編〜

食の安全に対する関心の高まりが新たな野菜市場を生み出していることがよく分かる。作成者の考えを裏付けるような、実際に成功している事業例をうまく提示していて、説得力がある。問題は消費者がコスト(価格)と品質の相反しがちな両要素のどちらに軸足を置くかであろう。食品に限らずあらゆる製品のデフレ状況が歓迎される風潮にのまれずに、消費者はたとえ背伸びしてでも「地産地消」事業を後押ししなければならないのであろう。

14

三角 光弘

NPO法人『富士山クラブ』の試み

事業の立案者と「環境バイオトイレ」設置の担い手がともにNPOであるのは大変興味深い。従来の行政サービスでは達成できないような柔軟で小回りのきいた連携の好例が示されている。それにしても生活文化活動の新領域を開拓するには、既存社会における多くの抵抗を崩さなければならないことが分かる。同時に強靭な意志で理想価値を追求する人物こそが、開拓の最大の原動力であることも教えてくれる。

15

岩井 俊宗

公園がもたらす中心市街地活性化の可能性・影響

テーマ負けしてしまった感じがする。中心市街地の特質と課題の一般論のまとめに終始してしまって、肝心の公園論が出てくるのは最後の方。両者がまったくといっていいほどつながってこない。また、その中身にしても、例えば、郊外の大型ショッピング街に公園が隣接される可能性は除外されている。また、「公共交通体系の整備」一つをとっても課題は山積しているはずだ。

16

純代

インターネットによる村おこし−富山県山田村を例に−

このような事例に接すると、この授業のようにインターネットを教育の場で積極的に利用しようと考えている者としては大いに力づけられる。仮にインターネットが世に存在しないとしても、山田村は別の手段を用いて活性化方策を追求したに違いない。ユニークなパソコン指導、医療への利用、ボランティアとの接触、村外交流などが、小規模な村だからこそ可能となった理由がよく分かる。情報源を丁寧に咀嚼し、自分の理解を確実にしつつ、段落と段落を適切な問題意識の提示でつなげた好レポート。最後の指摘は重要である。合併というものの粗暴性の一端を垣間見る思いがする。

17

津田 安希子

地方自治体による国際協力―北海道・中国の『友好の森』づくり―

北海道と遼寧省との交流事業(最後の方で黒龍江省にも言及)の成功例が丁寧にまとめられている。うまくいくには事業内容や人々の姿勢、価値観の共有などが不可欠なのであろう。「地方自治体だからこそできる『国際協力』がある」ことを知ったのは作成者にとって大きな収穫だろう。結論部分が一般論となってしまったのが惜しい。

18

木下 とも美

地域からの国際協力

島根県横田町の試みが、タイにおける「一つの国の教育制度まで変えようとしている」と同時に、横田町の地場産業の再活性化につながる可能性が示されている。しかし、後者についてはその可能性が低いこと及びその理由が冷静に記述されている。「国内では評価されにくい地域資源でも有効活用できる」「自分たちの地域社会を新たにとらえなおす事ができる」という指摘は重要。興味深い事例に絞り込んで、作成者の洞察力も十分に提示された好レポート。

19

グェンティタンフェ

地域社会における多文化共生への試み

川崎市の「外国人代表者会議」の概要説明。「民族・コミュニティ間の緩やかなネットワーク作り」を現実の施策に反映させるために、市ではどのような試みを行っているのであろうか。三項目の提言の中身は何か。「英語表記の町の広報」にしても従来からいわれている政策課題であり、これがなかなか達成できないのはなぜか。「多文化共生」という時に、他の言語との関連はどうなるのか。もっと具体化レベルに掘り下げた指摘がなされなければいけない。

20

三宅 裕子

日本における不法滞在外国人の現状と問題点、特に東京における対策

日本と東京における不法滞在者とその対策を概観した上で、不法滞在者数の把握がなされていないこと、在留資格獲得のハードルが高いこと、そして国内ブローカーの存在が問題だとしている。また、不法滞在を生み出す当該国の状況や、不法滞在に追い込まれる現状にも目を向ける必要があると指摘する。関連のインターネット情報をよくまとめてはいるのだが、例えば、もう少しテーマを絞って、不法滞在者の「地方拡散化傾向」を示すデータや一つの事例を取り上げることはできなかったか。

21

川村 奈津美

栃木県の国際化推進計画

栃木県が打ち出している計画内容について、きっちりと要点を無駄がない形でまとめている。しかし、そこから何が見えてきたのであろうか。栃木県特有の事情が何か明らかになったのであろうか。考察の前提作業として、行政が提供する資料をまとめることの意味は決して小さくない。しかし、その作業を武器に、あるいはそこから見えてきた視点をもとに、絞り込んだテーマを自力で設定し調べていくことが肝要であろう。例えば、留学生支援事業一つをとっても、そのしくみや所期の目的達成をめぐっては様々な課題があるはずである。

22

齊藤 麻由子

LRT導入とその利点

車依存社会を何とかしなければならないという明確な問題意識は伝わってくるし、意見は分かれるものの、解決策の切り札という見方もされるLRT導入に関心を抱かせてはくれる。しかし、読み手が知りたいのは「初期投資の負担軽減」の具体策であり、「自動車交通の規制と誘導」「バス路線の再構成」「鉄道との結節の強化」の実際の中身と、それらに対する作成者の評価であろう。レポートの導入部分の勢いを最後まで継続してほしかった。

23

松本 千穂

足利銀行破綻・一時国有化が与える影響

地域金融という一見とっつきにくい問題に正面から考察を加えている。情報源が展開する論調と歩調を合わせているようにも感じられるが、「身近にある銀行」が破綻したショックを敢えてレポート作成の原動力に転換させたことが伝わってくる。個人株主の心情を察し、3市の対応を批判的に捉えている。こうした率直な疑問の提示は、仮に、その後の展開で作成者が見解の訂正を余儀なくされたとしても、非常に大切なことである。課題を調べていくという行為の起点は、素朴な疑問点ないしは勘のようなものだからである。金融庁の政策意図を浮き彫りにするためには、別の角度からの検討が質的にも量的にも不可欠ではあるものの、現時点での作成者の考えを臆することなく提示した好レポート。

24

水粉 孝慎

「水島広子氏が小選挙区で敗れた理由」

水島氏が小選挙区で船田氏に及ばなかった利用として挙げられている3点は、いずれももっともなことであろう。二人の主張を「比例代表向き」と「小選挙区向き」と位置づけている点なども興味深い。選挙対策本部で関係者と直に接触した経験は貴重だし、「学生の選挙離れ」に対する憤りに近いもどしかさも伝わってくる。しかし、今回の選挙が「組織力がものを言う旧態依然の選挙戦」だとか、水島陣営に「信頼できる支持者が少ない」と決めてかかる根拠はどこにあるのか。たとえ背伸びでもいいから、マニフェストをめぐる論戦が展開されるがゆえに「選挙はとても面白い」という主張に接したかった。

25

高根 集子

年金制度の意義と求められる改革

年金の仕組みと問題点を理解することは、若い世代にとって必要不可欠である。しかし、そのことと、作成者独自の考えが盛り込まれるべきレポートとはそもそも次元が異なるはずである。年金制度のどこに焦点を当てるのかを判断した上で、テーマを絞り込まなければいけない。年金問題の一般論はそのテーマに入っていくための準備作業でなければならない。

26

阿部 真理子

若者に生じる公的年金制度への不信感

とくに若者にとって、「納税の義務に押しつぶされてしまいそうな」という表現は、決して大げさではないのであろう。年休給付額の世代間格差を理解した上で、年金制度に敢えて背を向ける主張と、高齢者待遇に対する批判には、実際の金額の提示と相俟って読み手に説得力を感じさせる。しかし、実際のところ、若者の大多数は現行システムの矛盾の理解に立って、いわば一定の筋の通った形で年金を支払わない抗議行動や小さな反乱行動に出ているのであろうか。本当のところは、(この授業の受講者は別として)自分たちの将来や年金負担のあり方に、そもそも関心すらないのではないだろうか。

27

豊田 浩司

秋田県能代市の中心市街地活性化計画の現実〜歴史的な『木都能代』の商店街復興はなるか?〜

「木都」にいたる能代の歴史の記述がきっちりとなされ、1970年代後半以降の中心市街地衰退の諸要因など、地元に対する愛着ゆえの強い懸念が伝わってくる。市の対応策の効果についても、「状況を前進させる動きが感じ取ることができなかった」とみなすのは、作成者自身が現場に身を置いて、五感をフルに使って洞察しているからだ。記述は東京都における板橋区と青梅市の商店街活性化策にも及ぶ。そして、「木都」と「バスケット」を核とした商店街の復興に期待を寄せる。クリアしなければならない諸課題は産業構造的な側面も絡んでいて、いずれも難題ばかりである。しかし、作成者自身が近い将来、地元の再復興策立案の担い手になるのではないかとも思わせる好レポートである。

28

高田 幸太

秋田県、大曲の花火大会から見る町づくり

花火大会にともなう渋滞やトイレ・ゴミ問題を指摘し、その解決策を探っている。「常に60万人の都市ではない」ことと、「観覧者の立場に立って考える」ことを両立させる方策の立案は至難の業である。後者にかかるコストや、大規模イベントを町の活性化につなげている他の自治体の事例にも当たれば、より具体的な提言ができたかもしれない。

29

高橋

日本のふるさと再生特区遠野市がデザインするふるさとの未来

特区によって、消防法、酒税法、農地法の特例が適用され、そのことがグリーン・ツーリズムを後押しする構図になっていることが分かる。「どぶろく特区」は魅力的であるものの、規制が残存するなど、すんなりとは進めない事情が説明される。そして、「地域資源」活用の成否は、都市住民(=「外部の力」)を呼び寄せることができるかにかかっているという結論に至る。丁寧に資料に当たり、最後に作成者の見解を集約させた好レポートである。しかし、結局は当該のまちの活力源を大都市住民に依存せざるを得ない構図には、一面で何ともいえない無力感を感じてしまうことも確かである。

30

新沢 奈津子

高萩市における高齢化対策

確かに高萩市が抱える課題の全体像が要領よくまとめられてはいる。しかし、問題は「雇用の機会」や「各種施設同士の連携」を達成するための具体策である。「人々をひきつける魅力」を醸成するために全国津々浦々の自治体がもがいているというのが実情ではないか。行政にその役割を依存することに限界があるなら、たとえ試行錯誤の連続となっても、自ら打開策を考えるしかない。

31

許田 真里子

長寿県沖縄の危機への懸念と健康福祉立県を目指した行政の取り組み

「沖縄の長寿危機の原因及び県の対策」を取り扱う。食生活をめぐる「本土化の影響」と「米国の食文化の流入」、そして車中心社会による運動不足などが挙げられる。県民の脂肪摂取量など数字の紹介もある。しかし、果たして県の取り組みが一定の実績をあげているのかなど、読む限りでは分からない。県内市町村の対応策が抜けているからであろうか。ひとくちに長寿振興策といってもその内実には医療のあり方、運動の実践、食文化、健康に対する自覚など、多様な諸要素が絡んでいるのであろう。

32

琳琳

改革開放がもたらす官民関係の変化

経済改革は政治改革と切り離して考えられるのか、国有企業に代表される経済改革が従来の中国の官民関係を根底から覆してしまうのではないか、といった一国規模での大変動を冷静に見つめている。「全民皆商」にしても、その国土と人口がもたらすダイナミックさには想像を絶するものがあるに違いない。テーマに沿った事例を一つでも紹介してほしかった。

33

デイーコフ・パーウエル(大学院研究生)

ロシア地方自治体の市所有管理の権限

34

中村 祐司(担当教員)

県民銀行構想と日本振興銀行との共通項

 

 

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