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中村祐司「県民銀行構想と日本振興銀行との共通項」
足銀破たん処理の過程で県内を地盤とする自民党の国会議員や県会議員を中心に「県民銀行」を設立すべきだという声が挙がっている。県民銀行の創設に対しては県(知事)と民主党は反対しており、実質的には今日まで設立の気運は県民レベルにおいても生じていない。
いったい県民銀行とはどのような金融機関なのか。設立を主張する急先鋒である自民党衆議院議員の渡辺喜美は、「役人や県会議員が入る建物より、県民の血液が大事ではないか」「県が自助努力で受け皿のタネ銭を出し、共助(産業界やファンドの出資)と公助(予防注入新法による国の出資)を求めるべき」として、県庁舎建て替えを延期し、基金の350億円を資本金(1000億円)に振り向けるべきだと主張している(渡辺喜美「足利銀行の受け皿は県民銀行で」)。
同様に自民党衆議院議員の船田元も、受け皿銀行の選定には地域経済や地元企業についても判断材料にする「プロポーザル方式」を提案すると同時に、「受け皿として国内の主力銀行があるし、それと県民銀行の抱き合わせという方法もある」と述べている(船田元「地元配慮の選定を」)。
これに対して民主党参議院議員の簗瀬進は、@プロの人材集めと出資が困難であること、A足銀破たん時における総資産5兆3000億円のうち正常債権の金額がいくらになるかで出資金が確定するのに、それを見極める前の県民銀行論議は不見識であること、B出資がゼロになった県内の自治体や企業に新たな出資の意欲も余力もないという三点を理由に、「足銀は埼玉りそな銀との合併も念頭に、中小企業専門銀行として再生させるべき」だとして反対の立場をとっている(下野新聞2004年1月6日付)。
福田昭夫栃木県知事も「県民、企業のみなさんが失った財産は(1000-2000億円と)莫大」であり、「県民銀行をつくるからと言って出してくれるでしょうか。仮に県が税金を投入したとして、県民銀行はどこと競争することになるのか。栃木銀行だったり、信金、信組、農協などでしょ。そんなことが許されるのか、冷静に考えてほしい」と述べている(下野新聞2004年1月1日付)。
このように、県民銀行の設立はその具体的検討以前に頓挫した感があり、実現性には乏しいものの、筋論から言えば、県、県内における自治体や企業(とその団体)、個人株主、預金者の「共助」により自ら銀行を設立するという考え方に魅力があることも確かである。
ところで、2004年4月の営業開始を目指す「日本振興銀行」は、中小企業向け融資に特化しようとする新銀行である。東京青年会議所の有志や木村剛元金融庁顧問らが03年8月に構想を発表し、中小振興企業融資企画の落合伸治を社長に据える。資本金は20-30億円の予定で、「担保」よりも「事業」や「経営者」の質を重視し、無担保融資を掲げ、貸出金利は3-15%の範囲。商工ローンや消費者金融よりは低いが、銀行よりは高く設定する(ミドルリスク・ミドルリターン)。地方銀行か信用金庫・信用組合に借りられないときは、金利が20%台のノンバンクか30%台の商工ローンしかないという現状の打破をねらっている。東京周辺に開く本店のみで業務を行い、首都圏を中心に中小企業向け貸出を行うとしている。
振興銀行については、その実態はJC(日本青年会議所)会員から預金を集め、JC会員を中心に融資する「互助会組織」的な銀行になり、理念が収益に結び付くかは未知数だという指摘もある。資本金も大手地銀とは二桁違う。しかし、ここで注目したいのは、「共助」(県民銀行)と「互助」(振興銀行)という共通項が存在する点である。
書生論レベルであることを承知で敢えて言えば、銀行の出発点はこの「共助」「互助」にあるのではないか。そして、振興銀行の「拡大版」が県民銀行である性格も否定できない。借り手と貸し手とが対等かつ双方向的な関係の中で、互いのパフォーマンスを向上させていくという考えが金融行為の根底には常に存在していなければならない。
そうであるならば、銀行の本来的なパートナーは、質の高い「事業」と「経営者」を有する中小企業となるはずである。国内に存在する618万事業所のうち、中小事業所は99.3%の614万事業所を占め、就業者数では80.6%(事業所・企業統計調査1999年)に達している。中小企業が日本の経済を実質的に支えているのであり、近い将来、この領域における金融市場活性化の担い手は大手銀行ではなく、振興銀行のような発想を持った小規模金融機関となる時代が到来するかもしれない。
ただし、振興銀行と県民銀行とは公的資金投入の点では決定的に異なる。その意味では、県民銀行構想は東京都の新銀行構想の「縮小版」である。振興銀行は、公的性格を有する銀行運営を存続させるために国や自治体が莫大な公金支出(税金)を行うこの国の金融システムに風穴を開けるかもしれない。