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佐藤菜穂美「広域連携−北東北3県における都道府県合併と国立大学再編・統合」

 

 都道府県の行政区域を広域的に再編し、地方分権を推進する「道州制」導入への動きが、全国的に起こり始めている。この中で、青森、秋田、岩手の北東北3県の若手職員による北東北広域政策研究会は、2010年までに3県合併を提唱した。そして、合併後、5年から10年で道州制に移行するという報告書をまとめた。3県はこれを受け、道州制も展望した北東北の在り方や将来像などをテーマに論議を重ねる北東北広域政策推進議会を平成122月に発足させた。こうした背景には、地方分権、市町村合併が進めば、都道府県も統合・再編が避けられないという都道府県役割低下論が根底にある。また、国からの財源、権限移譲が一向に進まない地方分権への不満もある。だが、道州制論が浮上したからといって、その組織、運営、行政事務や財源の配分、首長や議員をどう選ぶかなど検討課題は多い。そして、各県では、その前提の市町村合併が先決である。実現に向けては今後、幅広く論議していく姿勢が必要だろう。確かに今や、1県だけで政策を考え、それを実践して済む時代ではなくなった。隣接する県が、例えば産業面などで連携して他地域との競合や国際化対応を迫られている。隣接県に早急に求められているのは、互いに補完し合う関係の構築である。北東北3県は、この観点から北東北広域政策推進会議を立ち上げた。検討事項として@広域連携の強化策、A北東北のグランドデザイン、B広域行政の新たな自治制度、C広域連携や今後の北東北の在り方に関する県民への情報提供、県民意識の醸成−を掲げている。北東北3県知事の方針は「具体的なメリットを出していく」で一致しており、3県の社会資本整備などを集約するグランドデザインをどう描くか注目していかなければならない。 都道府県合併は、行政・産業・文化基盤などが市町村合併以上に異なる中で、広大な地域ニーズを掌握し、各地域の特性を引き出すものでなければ意味がない。それだけに県民が理解しやすい方向性を示すことが必要である。

 

北東北3県における合併問題と同じように、北東北3県という規模で話し合われているのが、弘前大、秋田大・岩手大の北東北国立3大学の再編・統合問題である。20044月の国立大学法人化を前に、各大学間の連携を模索する動きが見え始めた。なぜ今、国立大学間においても再編・統合が必要とされているのか。21世紀において、国立大学が「競争的環境の中で個性輝く大学」として、その使命や機能をより一層果たしていくためには、広い視野と長期的展望に立って、従来の各大学や学部等の枠にとらわれず、人的・物的資源を最大限に活用し、教育研究等の充実や特色の強化、基盤の整備を図ることが必要とされるからである。また、国立大学の法人化を控え、全学的視点で限られた資源を活用した戦略的な経営を進める上で、ある程度のスケールメリットを確保することも有効である。このため、将来の発展を見通した再編・統合を幅広く積極的に検討していくことが必要であることを踏まえ、文部科学省においては、20016月に「国立大学構造改革の方針」(遠山プラン)として表明するとともに、同年11月には「国立大学の再編・統合についての基本的な考え方」を示して各大学に具体的な検討を促した。このような考え方のもと、各大学において、再編・統合について、教育や研究上どのようなメリットがあるのかを中心に、各々の将来の発展という観点から幅広く検討がなされてきた。

20022月に3大学の学長らでつくる北東北国立3大学連携推進委員会議が発足し、副学長レベルの委員が出席する懇親会が検討組織として設置された。同5月に中間報告をまとめ、推進委員会に答申したほか、同10月には学部別の作業部会を設置し、議論を重ねていた。だが、各大学で策定を進める第T期(200409年度)の中期目標・中期計画の期間内での3大学の再編・統合は難しいと判断され、「再編・統合を視野に入れながら連携を強め、第1期前半の06年度までに結論を出す」との最終報告が提出されることとなった。しかし、09年度までの再編・統合は無理と判断せざるを得ないが、今後も再編・統合を視野に入れた検討を進め、06年度までに結論を示すことで一致した。統合の形態については現段階では、1法人1キャンパスは難しいが、現状の資源を活用した3つのキャンパスを生かすことが現実的であるのではないか。

 再編・統合の検討に際しては、国立大学が地域の知的文化拠点として、地域貢献の機能を充実強化する視点も重要である。このため、各大学においては、様々な機会をとらえて地域の関係者等の意見を聞き、その理解を得ながら検討することや、学生等に対しても適切な説明がなされることが望まれる。また、大学単位の再編・統合のみならず、人的・物的資源を最大限に活用し、教育研究基盤を強化して個性と特色ある大学づくりを進める観点から教育・研究面、管理・運営面での連携・協力も積極的に行われなければ、地方の国立大学は生き残ることは難しいのではないか。大学や学部、学科等の様々な単位・レベルでの再編・統合以外にも、複数大学が連合して組織的な連携・協力の枠組みを構築することは、教育研究内容の充実や資源の有効活用の観点から意義があるだろう。その具体的な例としては、単位互換・編入学のコース等の設定などの履修や進学に関する選択の幅の拡大、共同研究・学際的な研究領域での協力、図書館などの教育研究施設の共同利用などが挙げられるだろう。大学間の様々な連携は、国立大学の法人化を契機として、一層の推進が可能となると考えられる。このような中で、大学間の機能分担や学部等の再編成が更に進展し、将来的には大学の統合がより一層促進されるであろう。国立大学における再編・統合は、一律にではなく段階的に推進しており、引き続き大学間で検討・協議を進める必要がある。各国立大学においては、法人化後、各々の立場から教育研究の充実強化の観点にたって、再編・統合を含めた多様な組織改革を検討していくことになるだろう。

 

 都道府県合併にしても、国立大学再編・統合にしても共通して言えることは、『広域連携の必要性』である。北東北3県の、さまざまな主体による多様な交流・連携を通じて多様で複雑な課題を解決していくために、当地域が有する可能性をお互いに、かつ最大限に生かしながら、県内外を問わず隣接地域が協力・協調して、豊かで活力ある地域づくり、大学づくりを進める必要がある。また、地域をより活性化するために、自らの持つ風土や歴史に培われた独自性を再認識するとともに、各々の地域が相互に活発に交流することによって、常に新しい視点と活力を導入することが求められる。しかし、都道府県合併、国立大学再編・統合問題のどちらにおいても、抱える課題は未だ解決していない。これからも積極的な話し合い、協議の継続が必要である。単独では生き残ることの難しい時代を迎えた今、広域連携のあり方が問われている。