水粉孝慎 「水島広子氏が小選挙区で敗れた理由」

 

昨年の119日に衆議院総選挙が行われたのは記憶に新しい。「栃木一区」は船田対水島対決によりTVなどにも良く取り上げられ、全国的に注目されている選挙区である。保守王国栃木にて三代に亘って強固な地盤を作ってきた船田一族に、精神科の医師であり、女性・母親としての地位向上を目指す水島氏が挑むという構図は一般的にわかりやすくまた面白いものであった。今回の選挙では船田氏が小選挙区でリベンジ、水島氏が比例代表で復活するという結果であったが、その結果にいたる経緯を、前回平成12年に行われた選挙結果からも考察して探っていきたい。

また今回、水島氏の夫である長谷川氏とお話をする機会があったので、経緯とその内容にも触れていきたい。

 

船田・水島両氏の対決は平成12月の衆議院総選挙から始まる。最年少39歳で経済企画庁長官にもなり政界のプリンスとまで言われた船田元氏は、宇都宮にある有名私立作新学院の理事長でもある、非常に地元に根付いた人物である。また、元氏を含め三代に亘って国会議員を輩出するなどその船田一族の強さはゆるぎないものとされてきた。しかし、元氏自身に関するスキャンダル、いわゆる政界失楽園とまで揶揄された不倫劇をきっかけとして無党派層や、女性層に非常に悪影響を持たれ、クリーンさ、若さを前面に出したイメージが大幅ダウンしてしまった。

そこで対抗馬として登場したのが、水島広子氏である。水島氏は民主党の一般公募候補の新人として栃木一区で立候補した、いわば落下傘候補である。当時一児の母として、また女性ということもあり、彼女は船田氏が取りこぼした女性層や、いままで消極的に船田氏に投票してきた無党派層、さらに船田選挙事務所が騒動のさなか分裂してしまったため、船田氏応援者からも多数の票を獲得することなった。そしてその結果水島氏は船田氏を15000票も差を放し、見事初当選し、また船田氏は惜敗率でもおよばず自身八回目の選挙にて初落選、浪人生活を送ることとなった。

 

今回の衆議院総選挙はそうした背景の中行なわれた。結果は最初に書いたとおりであるが、どうしてそのような結果になったのか。

注目点は初当選を果たした水島氏が国会や地元宇都宮のためにしてきた実績がどう有権者に判断されたか、またリベンジを図る船田氏がどう選挙戦を繰り広げてくるのか、である。

 

水島氏の敗北した原因から考えると、まず一点に二期目ということもあり目新しさがなかったということが挙げられる。前回初当選したときは船田ショックとも言える敵陣営の混乱の中、新鮮さ、クリーンさを十分に生かした選挙運動を展開し、女性層や反保守主義者を中心に栃木一区にある種の水島ブームが生まれた。それに乗じて半ば不利とまで言われた選挙戦を見事にひっくり返した。今回の選挙ではそのようなブームは起きず、実力、組織力がものを言う旧態依然の選挙戦となり、強固な支持者を持たない水島氏にとって非常に不利な選挙であった。

二点目に、水島氏が国会内での活動が分かりにくく、また水島が当選したことによる地元に対する還元が具体的に見えなかったことがある。彼女は自分の活動や成果などを発表するために、水島氏のサイトや新聞、また毎週月曜日には宇都宮の街頭に出ての報告会、執筆活動、TVなどを通じて報告するということを定期的、また頻繁に行ってきた。しかし実際には関心を持って読む人は少なく、TV活動においてもフェミニストの急先鋒として田嶋陽子氏らと同列に扱われることも多く、全国的知名度はあるものの、元来保守的な栃木の人々にはそれをよく思わなかった、ということもある。

三点目に、前に少し触れたが、信頼できる支持者が少ないということだ。水島氏の所属している民主党の第一支持団体である連合にはいまだに水島氏に対して懐疑的な意見を持つものも少なくなかった。それは水島氏が福祉・女性問題をあまりにも中心的に取り上げるために、連合にとってのメリットが少なく、支持に回る必要がないと判断したからだ。また勝手連やボランティアが多数活動する水島陣営には、有力な支持者(旧来の名家・権力者)があまりいなく、団結力、組織力で非常に弱かった、という点も挙げられる。

 

一方、浪人生活をしていた船田氏は、その十分な期間を選挙運動に費やすことで、逃がしていた支持層を取り返した。たとえば、彼はさまざまな地域で、前回失うこととなった女性層を中心に数人〜数十人規模の会合を多数行い、草の根的な運動をしてきた。いままでの船田氏には見られない、いわばプライドを捨てた戦いであった。こうしたひたむきな活動が、次第に共感を呼び支持層拡大につながった。また、今回の選挙戦において、悪いイメージを払拭すべく、夫人の恵氏を決して人前に立たせないようにしてきた。女性スキャンダルに敏感な女性層取り戻すための消極的な方法であったが、選挙争点としての女性スキャンダルを払拭することができたといえる。事実、彼女が選挙戦中に姿を現したのは当選が決定してからである。

また組織面から見ても船田陣営の建て直しがうまくいっていたといえる。前回の衆議院選挙(平成12年)では現宇都宮市長福田富一氏の応援問題や女性問題で選挙事務所が分裂してしまうということが起きていた。船田氏と福田氏は昔からの親友なのではあるが、平成11年に行われた市長選において、市民派の応援する福田氏と、自民党公認の梶克行氏が争ってしまい、船田氏がどちらの応援に付くのかということで大きな混乱を起こした。また女性問題で、船田陣営には船田氏の前妻を根強く応援する者も多かったため分裂してしまい、統一した選挙戦を戦うことができなかった。今回はそれらを正常化させるための十分な時間があったため、また強力な支持者を呼び戻すことができた。

 

小選挙区で落選した水島氏は比例代表で復活当選した。それは今回のマニフェスト選挙における民主党の大躍進が影にあるが、やはり彼女の主張・公約が比例代表向きであることもあるだろう。それに対して船田氏のそれが小選挙区向きでということも言える。各立候補者の公約は省略するが、地元有利な公約を言い続けた船田氏に選挙の優があったことは否めない。

 

ここで、水島氏の夫である長谷川聡氏とお話する機会があったのでその内容を紹介したい。それほど込み入った話はしていないのではあるが、貴重な体験ができた。

また、水島氏と長谷川氏の苗字が夫婦なのにどうして違うのかというと、独自の「夫婦別姓」を実践しているからだそうだ。直接はお聞きしていないが、戸籍上はどちらも「水島」姓だが、通常夫の聡氏は旧姓の「長谷川」を用いているようだ。そのためここでも「長谷川氏」と呼ぶこととする。

お会いしたきっかけは、私が開票のときに水島選挙事務所へ遊びに行ったときである。遊びといっても直接水島氏と面識があるわけではないが、いい社会勉強に成るだろうと思い行ったのだった。そこには水島氏がTVの前、中央最前列に座り、会場はTVカメラや報道陣や地元の住民が駆けつけ賑わいを見せていた。私は、水島氏の後ろの離れたところで立ち、全体を眺めていたのだが、そのときある男性が「応援者の方ですが」と話しかけてくれた。そのときは「はい、遊びに来ちゃいました」と軽く通り一遍のあいさつをしたのだが、ぞくぞくとその男性に挨拶をする人が多く、只者ではないと感じていた。実はその男性こそが長谷川氏であったのだが、みなが「長谷川さん」と言っていたので当然気づくはずもなかった。そして長谷川氏と小選挙区の結果が出揃う夜の11時半ごろまで、開票状況が書き換えられるたびにその票についていろいろ教えてくださった。

選挙の大勢というのは投票が終わった時点でほぼ判明している。それは出口調査の結果で大方わかるものなのだが、その結果を私は当落が決まる前に長谷川氏から教えてもらっていた。「7%離されているので厳しいですね」や、「あの票は南河内が開いたからこうなるんですよ」など説明してくださった。

今回の選挙での水島氏と船田氏の得票差は20,000票。栃木一区の有権者数は約40万人、投票率は約59%、つまり投票者数は約23万人。よってそれの5%は16100人となる。その誤差はわずかに4,000票。当落を予測するには十分なデータであると思える。

私は長谷川氏に連れられ普通入ることのできない選挙対策本部へも行くことができた、といっても事務所の二階ではあるのだが。そこはいわば選挙戦の頭脳とも言うべき場所であるのだが、意外とさっぱりしていた。選対本部長など数名が机ひとつ、パソコンとにらめっこしていたのだが、ここにすべての情報が集まってくる重要な場所である。そこにいた人はみな本当に疲れた様子をしていた。

私は小選挙区の結果が判明したときに帰宅したのだが、それまでほとんど長谷川氏と話していた。「学生なんですか」とか「将来はどうするの」とか気さくに話しかけてくださった。あまりの気さくさに水島氏の夫と言うこと最後まで気づかず、気づいたのは帰り間際に応援者の一人が「ずいぶん長谷川さんと話されていましたけど、どのようなご関係ですか」と尋ねられたときだった。

 

今回の衆議院選挙はマニフェスト選挙と言われ、非常にマスコミも取り上げた選挙戦だった。栃木一区も全国的に注目される、また非常に面白い選挙戦であった。しかし栃木県での投票率は60%を切ってしまい、それまで散々盛り上がっていたために、その低さに落胆した人も多い。私もその一人ではあるが、それ以上に落胆したのは学生の選挙離れだ。私は投票日に用事があったため、不在者投票をしてその権利を果たした。だが、私の友人で選挙権を持っていて票を投じたという人はわずか3人だった。この地方自治論を受けている方たちが一人でも多く投票をしていることを望む。

選挙はとても面白いものである。私はこのレポートを通じて選挙戦をどう見れば面白くなるかを少しでもお伝えしたつもりだ。

もう一度言う、栃木一区は全国的に注目されている選挙区である。それはそこに住む人々に対する注目に他ならない。そして我々はそこに住む学生の代表として注目されるにふさわしい行動をするべきなのではないだろうか。