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高根集子「年金制度の意義と求められる改革」

 

<はじめに>

 これまで私は、年金についてほとんど理解していないのに、「年金制度は現在破綻してしまった制度で、現役世代と私たちは保険料を納めても、給付されない」という不信感のみを持っていました。20歳になって自宅に「国民年金納付についてのお知らせ」が届いているのを見て、なにかしらの不安感を抱いた人も少なくないはずです。私は今回、年金は問題が多いものかもしれないが、今年で20歳になった自分にも関わってきているものとして、理解するためにこのテーマを選びました。なぜ「年金制度破綻」という考えがこのように普及してしまっているのか、これが最初の問いでした。これにはさまざまな理由があることがわかりました。しかし、それらすべてに共通している一番大きな原因は、私自身がそうであったように、「理解不足」であると考えます。理解不足から、さまざまな憶測、不安や不信が生まれています。それを解消するために必要な基礎的な知識、年金改革への視点をまとめたいと思います。

 

<年金制度の意義>

 現在の公的年金の種類は3つに分かれていて、20歳以上60歳未満のすべての国民が加入する義務を持つ@国民年金。その上で、さらに職業によって別々の年金加入があります。民間サラリーマンになった人が入るのはA厚生年金、公務員などはB共済年金です。

 収入が減少する、またはなくなってしまう老後の生活の支えとなるのは次の3つであると言えます。もちろん@個人の貯蓄、A退職金…しかしすべての人々がこの2つを十分に持っているとは限りません。それらの補填として、国が法律によって強制的に「保険料」を徴収しておき、年齢や障害などの一定の条件を満した時に「給付」する、B年金です。年金制度とは、「世代間の助け合い」のしくみであるということができます。現在働いている「現役世代」が納めている「保険料」が、老齢、障害、遺族などで所得を失った人々の「年金」として彼らを支えます。そして「現役世代」が「年金世代」に移行すれば、次の若い世代が彼らを支えます。前の世代を支えることは負担であると感じやすいですが、自分達も必ず老齢になり、支えてもらわなければ生きられないことを考えると、この制度が有効であることがわかります。また、年金の出所は主にそれぞれが納めた「保険料」であるが、その他に3分の1が国庫負担として捻出されています。そして、私的年金は受け取れる期間が決まっている有期年金が主ですが、公的年金は終身年金です。さらに、「なぜ年金制度が生まれたか」ということを考えれば、年金制度は今後も重要なものであることがわかります。

 年金制度の大きな核である「高齢者の扶養」。日本は昔、大半が自営業や農家であったため、3世代が一緒に暮らし、高齢者の扶養も個々人でできていました。しかし、現在まで産業化、都市化は進み、多くの世帯が「核家族化」してきました。それらによって現在の地域社会と家族は「高齢者の扶養」ができなくなっているのです。家族の代わりに、社会が高齢者の扶養をしていると言えます。今後も核家族化の傾向は変化せず、その上高齢化の進展は明らかです。だから、「年金制度など廃止してしまえばよい」といった意見は現実的ではなく、今現在も「年金改革」へ向けて話し合いがされているのです。

 

<年金制度はなぜ危惧されている?>

 きちんと考えてみると、このように利点が多くある年金制度ですが、なぜ国民に大きな不信感を持たれているのでしょう。一番大きな理由は「少子高齢化」の傾向であると言えます。合計特殊出生率(1人の女性が一生に産む子どもの数の平均)の減少は今後も止まることがなく、それによって人口が減少し、高齢化率が高まると予測されています。つまり、支える人々が少なくなるにもかかわらず、支えられる人々が増加し続けるということです。少数の支える人々は「保険料」が上がることで負担が大きくなり、制度が成り立たなくなるのでは、と危惧されています。先に確認したように、基礎年金の3分の1は国庫負担です。今後予想される大きな負担を緩和するために、この国庫負担を、2004年の年金改正で2分の1まで引き上げる、ということが自民党のマニフェストでも書かれています。しかし、日本の経済低迷、巨額の財政赤字をみると、誰の目から見てもこれは大きな課題です。なぜなら、基礎年金の国庫負担は年に5.5兆円の予算が必要でした。2分の1まで引き上げると、さらに2.5兆円の予算を必要とします。

 以上のような、年金制度を支える外の枠組みが危惧されるのと、内側の問題には「国民年金の空洞化」があります。つまり、保険料を支払わない人や国民年金に加入しない人が増えているということです。なぜかというと、収入が減っているため「保険料」が高く、払えないということはもちろんですが、「保険料」が定額であるということも理由です。同じ額を毎月負担するということは、月収が少ない人のほうが大きな負担です。そこが「不平等」と感じられてしまうことも、未加入者が増えてしまう原因の一つではないかと私は考えます。

 

<可能性のある「年金改革」はあるのか?>

 厚生労働省は、これらの様々な課題を受け、2004年の年金改正で現行の制度をなんとかよい方向に改正していこうとしています。これまでのように「保険料を引き上げ」、そして「給付金の引き下げ」という改正では若い世代からさらなる不信感を生むという反省をもとに、「保険料固定方式」が検討されています。この方式は、毎年0.354%ずつ保険料率を上げていき、2022年以降は年収の20%以上に保険料率が上がらないように固定するというものです。こうすることで「どこまでも保険料が大きくなるのでは」という不安がなくなります。しかし、一方給付金の方まではどこまで下がるかということは見定められません。例え給付金がこれまでより大きく下がってしまうものであったとしても、はっきりと給付金の下限までも同時に提示しなければ、信頼回復はできないのではないかと私は思います。

 

<おわりに>

 年金改革についての提案は、ほんの一部のものに過ぎません。勉強すればするほど、様々な、しかも複雑な改正案、意見があることに驚きました。年金問題は財政問題等、いろいろなことにリンクしていて出口が見えにくいものです。議論はまだこれからであるという印象を受けました。私たちがしなければならないことは、その議論に興味を持ち続けることだと思います。理解せずに不信の目で見ているのでは、本当にその通りの、年金制度破綻を招くと思いました。興味を持てれば年金の重要性を理解でき、「年金制度を支える側」になれます。悲観しているばかりが正しいわけではなく、財政再建の面など、回復の望みが残っていることも事実であると思います。

 

 

<参考>

竹本善次 「年金はどう変わるか」 講談社現代新書

坂本重雄 「社会保障改革〜高齢社会の年金・医療・介護〜 勁草書房

 

厚生労働省ホームページ http://www.mhlw.go.jp/

社会保険庁 http://www.sia.go.jp/index.htm