2005年度初期セミナー―国際社会を見る眼を養おう―
担当教員(中村祐司)によるコメント
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氏 名 |
テ ー マ |
1 |
加藤 沙織 |
NPTの欠陥をアメリカの核戦略の視点から明らかにしている。「標的の変更」という指摘が興味深い。例えば、NPT未締結国とアメリカとの摩擦の背景を調べて、そこから何らかの知見を引き出す手もあったのでは。 |
2 |
松波 清美 |
「安保理と国際社会」 「世界平和を守る主役」であるはずの安保理が、実は「曖昧な存在」ではないかと指摘する。記述から安保理の機能不全を克服する難しさが窺われる。改革には構成国の再編プラスα(この部分の考察に踏み込んでもよかった)の何かが必要なのであろう。 |
3 |
片山 緑 |
フランスでは「グローバル化の勝者」がEU憲法に賛成し、「敗者」が反対したという。まさにEU憲法の成立をめぐる問題もその成否はともかく今後、「壮大で複雑なプロセス」を辿るのであろう。EU憲法が成立した場合の構成国への影響について、農業などの特定分野に絞った記述があってもよかった。 |
4 |
大野 文也 |
食糧援助の受け入れをめぐる、誤った政府のスタンス・基本姿勢が、農村部の深刻な食糧不足を引き起こす元凶であると指摘する。食糧自給率を高めるべきだという結論に至る論理の展開が歯切れよく分かりやすい。願わくば、自給率を上げる「工夫」の中身に言及してほしかった。 |
5 |
鈴木 貴子 |
環境難民が大国の都合で、結果として人為的に生み出されてきたことが分かる。そして、希薄な加害者意識を変えるべきであるという主張がなされる。情報源を丁寧にまとめていることが、論旨の一貫性を際立たせているだけに、具体的な解決策を一つでも二つでも提示できればよかった。 |
6 |
長瀬 優佳 |
アメリカ兵は政府の「犠牲者」であり「捨て駒」ではないかと指摘する。PTSD対策に決め手はなく、その一方で兵士不足を補うための徴兵制復活の懸念やSSSなど、戦争がもたらすところの病んだ社会の一面について記述される。個別事例への言及があれば、課題の重さが読み手にさらに深く伝わったのではないか。 |
7 |
加藤 博香 |
条約を批准しない国の理由や各国が足並みを揃えることの難しさに注目している。結局は地球上に住む一人一人の意識と取り組みが大切だと説く。今後、削減努力に応じた見返りの部分での誘因政策を打ち出すことができるのであろうか。排出権の売買や取引のシステムについて詳しく知りたいと思った。 |
8 |
Battsagaan Erdenechimeg |
“Do Muslims maintain Terrorism” 以前、立花隆氏が雑誌「文藝春秋」で、自爆テロの起源は戦時中の日本の特攻隊にあると指摘していたのを思い出した。自爆テロは今やイラクにおけるテロ行為の中心要素となってしまった感がある。こうした行為は「聖戦」の枠内なのか枠外なのか。イラク問題を理念レベルからのみ眺めるのはもはや空しいのではないか。 |
9 |
粕谷 直洋 |
「常に誰かが自分を狙っているかのような」状況に身を置いた経験をもとに、五感をフルに使った情報の把握と現地での真摯な考察が伝わってくる。「小さいことからやっていくしかない」というのは実践につながる貴重な発見であり、文献・資料の読み込みや数字データの分析と同時に、私たちが常に念頭に置いておかなければいけないことかもしれない。 |
10 |
田中 日香理 |
集団的自衛権を認めるべきであるという論者は、イラクへの自衛隊派遣をどう位置づけているのだろうか。日本と「密接な関係にある」国とはアメリカだけなのだろうか。最後に出てくる「国民の政治的批判」とは具体的にどのようなことをいうのだろうか。 |
11 |
中野 良美 |
「政治は常にリアリズムを利用して動く」に注目すれば、この問題を他の二国間特有の政治課題とも絡めて考えたい。例えば、先月6日のThe Japan Times Weeklyで紹介されたタイ紙バンコク・ポストは、「日本の安保常任理事国入り拒否」「アジア地域の主導権争い」、そして内政問題を指摘している。 |
12 |
真玉橋 知香 |
「SACO合意からみる普天間基地返還―日米政府と県政の動向―」 合意の政治的背景と地元の対応、その後の複雑な経緯をよく咀嚼しつつ、簡潔にまとめている。丁寧な検討作業をもとに、基地返還と海上ヘリポート建設との交換関係論を疑問視するに至る。実質的には「返還」ではなく「新設」ではないか、合意は破たんしているのではないか、使用期限をめぐり米軍・自治体・県民の間での認識に乖離があるのではないか、といった指摘は鋭い。こうした問題意識が基地依存脱却論につながっていく。受講生にはぜひ模範としてほしいレポートである。 |
13 |
須田 麻衣子 |
陸軍省管轄であったことや、戦後の戦犯釈放運動なども認識し、感情論に走らずに歴史を丁寧に辿る姿勢が大切なのであろう。そして、例えば、日中平和友好条約にしてもその成立過程を15年戦争との関連性で調べ、そこでなされた論議の中身を批判的に考察する定点的な検証も不可欠であるように思われる。 |
14 |
佐山 秀子 |
償い金か国家補償か、あるいは両者かで見解が分かれるが、その根は深いことが分かる。各国政府によって対応が異なる面と、当事者感情や国民の受け止め方の違いもある。未来志向という言葉を発すればそれで済む問題でもない。答えを見出せなくても、また、たとえ迂遠であっても国民レベルでの対話を重ねていくしかないのだろうか。 |
15 |
松原 情雅 |
私たちの多くが国籍に無頓着になりがちなのは島国特有の現象かもしれない。「世界最強のパスポート」を持つ日本人は、二重国籍の非容認が「自分というものが半分に減るような不安」を与えることや、「先天的に決められる」国籍の縛りに対してもっと敏感にならなければいけないのであろう。 |
16 |
小島 久直 |
フェアトレード製品の証拠性の乏しさや品質管理レベルの低さ、さらには生産者に対する消費者の関心のなさを克服するにはどうすればいいのだろうか。市場原理そのものを覆す発想の転換が必要かもしれない。情報源の提示がなく、全般的に何かの啓発書をなぞったような記述内容となってしまった。 |
17 |
佐藤 みちる |
興味深くかつ絞られたテーマに関する良質なインターネット情報をうまくまとめている。水源をめぐるマレーシアとの摩擦やその背景、国内での水の再利用をめぐる国家プロジェクトの実践など、情報がぎっしりと詰まっている感じだ。読み進めていくと海水淡水化の技術内容などについてもっと知りたくなってくる。結論でもう少し持論を展開してほしかったという思いは残るものの、受講生にはぜひ模範としてほしいレポートである。 |
18 |
宇嶋 美帆 |
少子化に歯止めをかけるには、保育事業の改善だけでなく、女性偏重の子育てを変え、労働時間の短縮や教育費の削減を図るべきだという。少子化対策という複合的要因が絡む困難な問題を直視し意欲的に関連の情報源に当たっているだけに、例えば、男性を対象とした育児支援方策などのサブテーマに絞った情報収集や考察を行っても面白かったのではないか。 |
19 |
大嶋 香澄 |
「普通の状態を得るために覚醒剤を使用する」に至るのは実に恐い。強烈な問題意識が随所に感じられる。例えば「第五回汚染期」のところで、「若者を連日連夜購買あおっている」大人への批判にはどきりとさせられる。それだけに、例えば薬物をめぐる検挙・補導などに関するデータを提示し、対策に取り組む実践活動のケースを取り上げてもよかったのではないか。 |
20 |
小玉 麻衣子 |
前半は処理の仕方、後半は普及率を取り扱っている。一口に下水道とはいっても、法制度的な側面や国と地方との関係、予算の取り扱いなど課題は山積している。地方自治体における取り組み事例を提示し、学校教育や住民との接点に焦点を当てれば、別の課題状況も見えてくるのであろう。 |
21 |
粂川 春樹 |
農業の「国際分業」をめぐるあるべき姿は何であろうか。自給率の向上にこだわらず、国際競争力を増していこうという結論に至る。自給率やWTO活動の波及課題について非常に良くまとめてはいるものの、テーマにこだわった論理展開を貫いてほしいという思いが残った。 |
22 |
中村祐司(担当教員) |