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「少子化対策の今後について」
宇嶋美帆 (宇都宮大学国際学部国際社会学科1年)
1.少子化の問題点
近年、少子化が深刻化していることは新聞などでもよく取り上げられ、話題になることが多くなっている。しかし現在私たちが生活している上で、日常的に少子化の問題に直面する機会はほとんどないのではないだろうか。そもそも今言われている少子化の影響が出始めるのは、現在最も大きな労働力を担っている団魂世代が企業を退職し、高齢者として年金を受け取るようになり、少子化の世代が社会に出るようになってからだろう。しかし問題はすでに始まっていて、これから起こるであろう問題を今から即時に解決することは難しく、これから私たちにできることはこれ以上事態が進まないようにくい止める事、少子高齢化による経済的不安などを解消するための対策をたてることなどである。
では、少子化がもたらす事態とは何なのだろうか。それは大きく4つに分けられる。第一に、労働力の不足による経済成長の鈍化、次に、高齢者など非労働者の割合増加による税や社会保障における負担の増大、そして、若年層減少や人口減少による地域社会の活力低下、最後に子供同士が触れ合う機会の減少である。これらの問題が深刻化すると、経済面や育児環境などに対する配慮から更なる少子化現象を促すと思われる。このような事態を防ぐためこれから私たちはどのような対策を立てていく必要があるのか。ここでは少子化を食い止めるための対策に注目していきたい。
2.少子化対策の現状
今の少子化の現状に着目すると、厚生労働省がまとめた人口統計で2004年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子供の数)が昨年と同じ1.29であることが、今月1日にわかった。しかし、細かく見ると1.28代後半で、昨年の1.29台前半よりさらに少子化傾向は進み、昨年に引き続き過去最低の記録である。政府が2002年1月に公表した人口推計(中位推計)で、将来の合計特殊出生率について「2007年に1.306で底を打ちその後は1.387まで回復する」と予測しており、2004年についても中位推計を1.317、低位推計を1.245と想定していたのをみれば、問題が深刻であることは明らかである。では、これまでの少子化対策では何をやってきたのか。少子化対策は1990年に前年(1989年)の合計特殊出生率1.57を記録したこと(1.57ショック)から始まる。
1991年には児童手当法の一部改正や育児休業法が成立した。1995年には育児・介護法が施行された。具体的な政策については、1994年に「今後の子育て支援のための施策の基本的方向について(エンゼルプラン)」が策定され、この反省点を生かして1999年には「重点的に推進すべき少子化対策の具体的計画(新エンゼルプラン)」が策定された。そして現在、これまでの経過とこれからの課題を考慮した新新エンゼルプラン(仮称)を策定するための話し合いが進められている。
1994年のエンゼルプラン(平成7年度〜11年度)では、低年齢児受け入れ枠の拡大や延長保育の促進、放課後児童クラブの推進など保育関係事業のみが行われ、成果を上げている。※低年齢児受け入れ枠 45万(6‘)→56.4万人(11’)、延長保育 2,230か所(6‘)→5,125か所(11’)、放課後児童クラブ 4,520か所(6‘)→8,392か所(11’)
1999年の新エンゼルプランではエンゼルプランに引き続き保育関係事業に加えて、地域子育て支援センター(育児相談や育児サークル支援などを行うセンター)の整備やファミリーサポートセンター(地域において子育ての相互援助活動を行う会員制の組織)などの在宅児の子育て支援や労働・教育関係の事業も一部加えられ成果を上げた。これには平成14年度からの完全週休二日制の実施や学習指導要領の改訂も含まれている。※低年齢児受け入れ枠 56.4万人(11’)→67.1万人(15’)、延長保育 5,125か所(11‘)→11,702か所(15’)、地域子育て支援センター 997か所(11’)→2,499か所(15‘)、ファミリーサポートセンター 62か所(11’)→301か所(15‘)、家庭教育24時間電話相談 16府県(11’)→47都道府県(15‘)
このように、政策が目標通りに進められ成果を上げているにもかかわらず、少子化傾向に歯止めがかかっていない。これに対して、総務省は「仕事と子育ての両立に係る負担感は緩和されている」としながらも、「子育てそのものの負担感が緩和・除去されているとはいえない。その主な原因は経済的な負担感の増大であると判断される。」と述べている。さらに、そもそも人々が持ちたいと思う子供の数が減少しており、内閣府の調査では、子供を欲しい理由として「子供がかわいいから」など愛情の対象として欲しいという傾向が増えているのに対し、「社会的に一人前になる」や「人間として自然」など社会的規範意識は減少しているということである。この傾向を踏まえながら、今後どのように少子化対策を進めていくべきなのか考えてみたい。
3.海外の対策の事例
少子化対策で成果を挙げているフランスの対策に目を向けたい。フランスでは第二次世界大戦前に導入された育児支援制度が定着しており、多岐にわたる一貫した対策が採られている。
例えば、家族手当や保育サービス、出産後の就労などだ。家族手当は、2人以上の子供がいる場合、所得制限なしで20歳まで受け取ることができる。金額も2人だと月額約1万5千円、3人だと月額約3万5千円というように数が多くなるに従って手当てが大きくなり、さらに子供が成長するにつれて支給額が増大する。それ以外にも、所得に応じて、出産手当(約109,000円)や3歳未満を対象にした乳幼児基礎手当(約22,000円)、新学期手当(約35,000円)など充実した手当が存在する。女性も男性と同じように終日労働が多いフランスでは、「保育ママ」と呼ばれる家庭でベビーシッターを雇う制度の普及や保育所をはじめとするさまざまな保育サービス(幼稚園は義務教育)の充実によって、女性の負担を減らしている。また、男女問わず労働時間が35時間前後と他の国より短く、家庭で過ごす時間が多い。婚外出生割合は44.3%(2002年)と大変高いが、婚外子に対する差別はなく2人親家族で育つ子供が多いため、自由に子供を生み育てやすい環境である。これらの対策のため、フランスの合計特殊出生率は1994年に最低記録を出してから2003年には1.89に回復をし、20年前の1985年の1.83からほぼ横ばいに推移している。
一方、同じヨーロッパのドイツでは充実した家族手当のほか、充実した出産休暇や育児休暇か存在する。というのも、ドイツでは学校が午前で終了し、子供たちは食事を取りに午後には帰宅してしまうため、早い時間から親は子供の世話をしなければならない。また、ドイツでは子供は家庭で養育されることが望ましいとされていて、親が働きに出ることが難しい。そのため、保育施設の充実よりも出産休暇や育児休暇など家庭で十分に育児ができるような対策が採られ、出生率の低下に歯止めがかかった。少子化対策には生活様式にあわせた対策を考える必要があることは言うまでもない。
4.これからの対策
これから日本はどのような少子化対策をして行けばいいのだろうか。現在、これまでのエンゼルプランの実績で保育関係事業はかなり改善されたが、少子化は進む一方だ。これまでのように保育施設などを充実させるだけでは、根本的な解決にはならず、問題を解決することにはつながらないと思われる。
今の日本では出産や育児のために退職した女性が、以前と同じようにフルタイム労働することが難しく、働く人のほとんどがパートタイム労働である。育児休業についても、2003年度の厚生労働省の調査によると取得率は女性が73.1%、男性が0.4%と、男性の取得率の低さに驚く。この結果は日本では男性が外で働き家計を支え、育児は女性がするものという認識があり女性に育児の負担が集中することが多いことを示している。そのため、女性の再就職支援を充実させ、女性が自分のやりたい仕事を自由に選択できる環境を作ること、国民全体に家族のあり方、子育てのあり方を呼びかけることで、私たちの子育てに対する意識改革を促し、男性も加わり家族全体で子育てをできるようにすることが必要である。このための対策として労働時間を短縮することが有効であると考える。というのも、産後や育児の後、女性が進んで社会に進出し男性と同等に働く人が増加すれば、全体の労働人口が増えるので、多少労働時間を削減しても経済的影響は少ないだろう。また、遅くに帰宅し、家にはほとんど寝に帰るだけというサラリーマンなども労働時間の削減は家族と過ごしたり、自分の自由な時間ができたり、ゆとりのある生活が送れるようになるはずだ。家族が早い時間に帰宅することで、保育施設に預けられている子供も毎日家族と過ごし、コミュニケーションをとることができる。そのため、家族全体で育児を進めていくには有効な手段だと考える。
子供1人にかかる教育費が高いことも、子供を産み育てる上で大きな壁になっている。例えば教育費だけですべて公立の学校でも大学を卒業するまでには1千万円以上、私立の学校では2千万円以上の費用がかかり、その他にも塾に行かせたり、習い事をさせたりすると本当に高額な費用がかかる。少子化対策の進んだヨーロッパ諸国にならって教育費を無料または無料にしないまでも誰もが負担にならない程度の金額に見直しが必要だろう。そして公立の学校でも、制度や環境などそれぞれの学校の特色によって学区を越えて子供に合う学校を自由に選択することができるようになれば、公立の学校でも私立の学校に負けない高いレベルの教育を構築、維持することができるようになるのではないだろうか。
子供のいる家庭に補助金を出すだけでは、少子化に歯止めがかからないという声も多く聞くが、児童手当でもらうことができるのは9歳までの児童で、月額5千円、第3子以降でも月額1万円と他の少子化対策を行っている国に比べてだいたい2分の1〜3分の1程度で、支給を受けられる年数も少ない。経済力の低い若い家庭でも余裕を持って子供を育てられるくらいの支給をする必要があるのではないだろうか。そしてもうひとつここで問題なのは、これらの助成金について、情報を自ら探し、申請しないと支給を受けられないこと、所得制限などの制限が多いことだろう。情報を多く提供すること、制限を減らしたり、低くしたりすることで、より多くの人が支給を受けられるように改善していくべきだ。
子供を産むか産まないかは個人の選択に委ねられている。人々が子供を必要としていないのなら、それもひとつの選択であるが、「20〜30歳代の女性の約80%が出産を望んでいる」というアンケート結果が出でいる中、労働面や経済面、育児の負担などの理由で子供を持つことを断念しなければならないという人がたくさんいる現状はあまりいいとは言えない。これからの少子化対策では、そのような人たちのニーズにあった対策を立てること、そして私たちの育児に対する意識改革が不可欠なものになるだろう。
<参考サイト>
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20050601it03.htm
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/seisaku/syousika/event/041026/1.html
http://www.soumu.go.jp/s-news/2004/040720_3_y.html
http://www.esri.go.jp/jp/archive/hou/hou020/hou12a.pdf