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なぜ国籍を1つにしなければならないのか?

松原情雅(宇都宮大学国際学部国際社会学科1年)

 

 このタイトルは、今の私の心中にある疑問である。おそらくみなさんにはなじみのない話題だと考え、取り上げた。私は現在韓国と日本の二重国籍を持っている。当たり前のようにパスポートを2つ持っており、2つの名前をもっている。中学生の時から母に「大人になったら、国籍をどちらか1つにしなければならないよ。」といわれてきた。私は,そのたび「なぜ選ばなければならないのか」という疑問を抱き、「自分のアイデンティティーがどちらに傾いているか」を、真剣に考えてきた。しかし結局、周りに私と同じ悩みを持った。そこで‘二重国籍’とインターネットで調べたところ、予想以上に情報がたくさんあって驚くと同時に戸惑った。なぜなら私と同じ境遇の人が世界中にたくさんいたことと、重国籍者ではない人も関心を持ち意見を提供してことを知ったからだ。そしてとても参考なる知識や意見を得ることができた。

 まず、日本は1985年国籍法を国籍取得の父系主義から父母両系主義に改正した。韓国は,1997年に同じく改正した。欧米は‘生地主義’で、親の国籍にかかわらず生まれた地の国籍を取得するという方法をとっている。そして1985年前に重国籍を持ったひとはそのまま永続的に重国籍を取得できる。しかし私は、1986年生まれなので22歳までにどちらか1つに選択しなければならない。もっと早く生まれていたらなあと思う。重国籍を永続的に認めているのは、欧州各国,アメリカ、オーストラリア、カナダ、南米である。世界的傾向なのである。国籍の単一主義は、日本,韓国とごく限られたくにだけである。不幸にもその2つの二重国籍の私は、選ばなければならないのだ。私の希望は、永久的な二重国籍を獲得することなのに、数年後には決断をせまられる。そこで日本国籍のメリットとデメリットに焦点をあてた。

  

 日本国籍のメリット、デメリット

まず、メリットは、兵役がないことである。そして‘世界最強のパスポート’と称されるほど多くの国で短期滞在するのにビザが必要ない。だから 旅行者には便利な権利である。最後に海外在住者は、免税される。ちなみにアメリカでは、ある一定の金額を超えると、納税しなければならない。

 一方デメリットは、外国人に選挙権を与えていない。EU諸国では,与えている国もあり、老人介護面も良い。もし日本国籍を持っていないと、外国人ということで住宅購入のための住宅金融公庫からの融資が受けられない。だからわざわざ日本の永住資格をとらなければならないのだ。元々日本人で外国に国籍を移した後、日本の大学に呼ばれた教授も大学教員としての任期のため3年ごとに更新が必要だという。また、出国の際再入国許可証をいちいちとらなければならならない。もしうっかり忘れてしまったら、日本に戻った時に永住権が無効になってしまう。子供の場合、日本で生活していても予防接種の知らせが来ないので、そのたび近所の人から聞いて市役所に問い合わせなければならない。また、小学校入学時期になっても、市の教育委員会へ就学願いを出さなければ就学通知は、届かないので日本の学校には入学できない。

 

二重国籍のメリット、デメリット

 まずメリットは,ビザがなくても自由に居住できる。そして二カ国のアイデンティティーを保持する象徴にもなり、日本ともう一方の国との絆を深める掛け橋になることができ、つまらない戦争も起きなくなるだろう。また朝日新聞に「日本に活力をもたらす二重国籍」と題する論文が掲載され、アイルランド経済成長を例に挙げた。それは移民供給国であったアイルランドが、もともと二重国籍を容認しているため、海外に移住し、さまざまな分野で活躍していた同国人が、近年次々と帰国した。そのことがマンパワーをアップさせ、経済好況の要因のひとつになったという。

 一方デメリットは、2つの法律に縛られ、二重課税になる恐れがある。しかし日本は、海外在住者には税金を課さないので海外に住む人にとっては、ラッキーな話である。そして名前の変更が認められない国もある。そして兵役の義務の問題で該当する双方の国が自国民に兵役の義務を課している場合、どちらの国で義務に服するかという問題が生じる。また双方で戦争になった場合、どうなるかという議論もある。欧州では、1つの国で兵役をクリアすれば、もう1つの国では免除される取り決めがすでに実行されている。外交保護権の問題も、第三国で起こる場合は,より密接な方の国に保護を求めればすむ。

 

このようにそれぞれに良い点と悪い点があり、すんなり決めることは困難である。そして国際結婚の両親から生まれた子供が、両親の国籍を保持することはごく自然なことである。逆にどちらか1つに選択しなければならない状況は、本人にとっては酷なことである。なぜなら自分というものが半分に減るような不安に駆られるからである。しかし各国の国籍法の違いなどから,重国籍者は、必然的に生まれる。現在物の移動の自由化に伴い、人の移動の自由化で二重国籍者増える。国際交流も盛んになり、世界はますますボーダーレス化すると同時に狭くなるであろう。国際結婚するカップルは、倍増しており、今のままの国籍法では対処しきれなくなるだろう。だから多国籍の永久的認定を,国籍は「忠誠のあかし」「運命共同体」などと主張し反対している一部の保守系議員たちに、この現状を直視して欲しいものだ。多民族化の進んだ欧米では、重国者はすでに常態化している。極端にいえば、3つ以上国籍を持つことも不思議なことではない。その点、日本人の意識は、世界とは明らかに異なる。在日外国籍のひとが、市役所の外国人登録の窓口で手続きをしているところを近所の人に見られた。その後「あの人は日本人じゃないのよ」と噂され、子供が学校でいじめられ登校拒否になったという。大人の意識から変え、子供に正しい知識と考え方を教えていかなければ日本はどんどん世界から孤立していくと考えられる。情報化社会が進む中、世界はどんどん狭くなり国籍が果たす役割は,残念ながら減っていくであろう。多重国籍だから個人の同一性判断が難しいといって、国際スパイ、工作員、国際犯罪者なのではないかと疑うことから始まらない、世界的な流れになって欲しい。そして私のような重国籍の問題で悩んでいる人が相談してきたら、「自分は、同じ境遇ではないからわからない。ごめんなさい。」ではなくて、「どっちを選んでも変わることは肩書きだけだよ。」など話を親身になってきいてあげて欲しい。私は、実際この言葉でどれだけ安心と励みを得たかわからない。そもそも自分自身のアイデンティティーは、自分一人だけでは作り上げることはできない。周りの環境の影響が大きく占めていると思う。だからこそ私たち一人一人が国際人であることを常日頃から意識し、国籍の形態にかかわらず、平等に接すれば一人で悩み、傷つく人は減っていくだろう。もはや国籍は、先天的に決められるものではなく、後天的に自分自身の意思で選ぶ時代がもう突き進んでいるのかもしれない。

 

 

参考文献

http://www.hatena.ne.jp

http://www.kouenkai.org/ist/docf/yanagihara.html