ドラッグと現代社会

                 大嶋香澄(国際学部国際社会学科一年)

@     目的と理由

初期セミナーで好きなことを調べてレポートとしてよい、と言われた時「ドラッグ」が一番初めに頭に浮かんだ。それは私が、いつも常に「ドラッグ」というものに脅威、というか、いつか自分がやってしまうのではないか、という恐怖感があったからだ。知る機会に調度良いと考えた。また皆に読んでもらえるレポートなので、同世代の人々とともにドラッグを知れる機会とも考えた。

 

A     ドラッグの種類と効能

抑制系薬物・・・脳や体の働きを低下させラリッた状態にさせる薬物。ヘロイン、モルヒネ(ケシの実から抽出)。市販役に含まれるコデイン、リン酸コデイン。ヘロインは一回の使用でも禁断症状が発生。禁断症状としては、鳥肌がたち、冷や汗をかいて、ものすごい苦痛が襲い、異常に気持ち悪くなり、耐えられなくなって叫び声をあげだす。ストローに入れて売っていることが多い。その禁断症状の反面最高の快楽が手に入るため、世界で最も乱用され、最も多く人を殺している薬である。

        中高生に最も乱用者の多いシンナーもこの薬物に分類される。シンナーは大脳皮質(知識や経験、判断を司る)を溶かす。今回調べた例で、シンナー3ヶ月、覚醒剤5回を使用した女子高生の大脳の8パーセントが水になってしまったケースがあった。70歳代の脳ということである。

        抑制系薬物は身近にはアルコールがある。アルコールの分解酵素がない人は(パッチテストで試験)一週間ごとに飲めば二ヶ月でアルコール依存になる。禁断症状としては、手が震え、目がショボショボにおなり、幻覚が見えてくる。回復不可能なアルコール依存例も存在する。また何より、タバコやアルコールは薬物への入門薬の役割をする。

また抑制系薬物はどんな人間にも、乱用初期には多幸感や陶酔感を与えるために、現実に辛い事がある人々が中毒者になりやすい薬物である。

興奮系薬物・・・脳の働きや体の働きを上昇させて、興奮させる薬物。使用するとすっきりとした感じを与え、高揚感、万能感、不眠状態をもたらす。覚醒剤(スピード、エス、アイス、クリスタルとも呼ばれる)コカイン、タバコ、LSD。覚醒剤は最初の34回の使用は、身体能力や記憶力をアップさせる。しかし使用がなれるうちに、最初の快感がなくなってきてしだいに覚醒剤を使用していないと普通の状態でいられなくなる。快感を得るためではなく、普通の状態を得るために覚醒剤を使用する。さらに乱用が進めば、幻覚が見え始める。まず鏡は見られない。顔から虫などが這い出てきて、それをはらおうとして殴ったり、たたいたり、かみそりで切ったりする。そのため覚醒剤長期乱用者には顔がぼこぼこの人が多い。また覚醒剤はやせ薬といわれるが、そのやせ方というのは、頬がおち、手足がほそくなり、胸がビローンとたれ、腹がぷっくりと出る、アフリカなどで飢えに苦しむ子供たちのような痩せ方をする。

        興奮系薬物には身体的依存はほとんどないが、精神的依存が非常に強い。

幻覚系薬物・・・サイケデリックとよばれる。脳の働き、神経系の働きをめちゃくちゃにして、幻覚を見せたり時間間隔を奪う薬物。脳の一部の機能を麻痺させ、感覚を鋭敏化させ、幻覚を生じさせる。幻覚系薬物は脳への影響が強いため長期使用で精神異常を引き起こす。マリファナ(大麻)、シンナー、LSD。特に近年中高生に広がりを見せるマリファナ。タバコよりもタールが少ないために、タバコよりも害は少ないという専門家もいる。しかしその精神的依存は比べ物にならない。3ヶ月ほどの依存で無気力障害という人格障害がおこる。またマリファナは品種改良を経て、70年代のものよりも麻薬成分が10倍以上になっている。

 

B     薬物乱用の歴史と社会

(1)   日本の薬物乱用期は5回そのなかで特に覚醒剤の乱用期は3回と言われている。90年代から現在までも乱用期といわれ1つの時期である。第1回汚染期はヒロポン(メタンフェタミン)を中心とし、戦争中、兵士の士気高揚のため用いられ、戦後の混乱期に乱用者が増加した。第二回汚染期は、戦後出現し、成長をした暴力団の資金源として薬物が出回った。第三回汚染期は60年代ごろから始まる。三回目の汚染期の特徴は、有機溶剤(シンナー)の使用の高まりである。このころの日本は、高度経済成長を迎え、安保闘争に多くの若者が傷ついた。第四回汚染期には、一度息を潜めた暴力団が関わった。夜間の職種の人々や、主婦層に広がりを見せた。

(2)   第1回汚染期〜第4回汚染期までを見ると、みな、それぞれ社会の変革期に当てはまっていると思う。第1回〜第2回までは戦中から戦後の社会混乱。第3回〜第4回までは、安保闘争、高度経済成長、バブル崩壊など、戦後から急成長を迎えた日本には、大きな社会変革がなかったときのほうが少ないかもしれないが、私は薬物の乱用と社会状態は非常に密接に関わりあっていると感じた。ならば第五回汚染期である現在、若年層に薬物が広がった理由はなんであろうか。

 

C     なぜ今第五回汚染期か

薬物を乱用するタイプの若者に2タイプある。現実になにか辛い事がありそれを忘れるために薬物を乱用するケースと、好奇心や仲間意識、ファッション感覚で薬物乱用にはしるケースである。前者は戦後からずっと存在する。後者こそが第5回汚染期の特徴といえる。

(1)   社会1

社会が、若者を消費者として労働力としてみていることにも一因がある。メディア1つを取ってみても、半分以上が若者を対象としたテレビ番組やコマーシャルであり、若者を連日連夜購買にあおっている。アルバイトをして、自分の遊ぶ金を持つ若者は、バブルが崩壊した日本社会では、格好の消費者であり、保証の要らない簡単に解雇できる安価な労働者となった。その風潮はバブル崩壊から助長し、テレクラ、援助交際など風俗産業までがそれに目を付け出した。簡単に快楽が欲しいと思ったとき、金があれば、麻薬に手を出すことはたやすい。果たして今の大人が、麻薬を乱用する若者を安易に責められるだろうか。

社会2

高度経済成長の中、利益第一主義の社会が生まれ、その過程で失ったもののために、現代社会に生きる多くの人々は必ずどこかにむなしさを感じている。金、合理性第一で、人間は生きていけないからだと思う。人間には、合理性や機能性からみれば、取るに足らないゴミのようなものがなくては、満足して生きられない。そして若者には寂しさを受け入れる強さも、受け流す狡猾さも持っていない。そして、その寂しさやむなしさを埋めるために、仲間意識をもとめる。しかし深く繋がるのは大きな労力を要するため、浅く、楽しい付き合いを求める。そこにドラッグに手を出す土台ができてしまう。昔では暴走族、今では、学生の友達関係がその土台となってしまうことがある。

社会3

社会のゆがみが若者に与える影響として、最後に、特にメディアをあげたい。テレビ、雑誌、漫画、テレビゲーム、などである。ゲームや漫画などは、なかには一部であるが暴力をあおる内容や低レベルなものもある。テレビや雑誌は残酷な表現や無意味な情報を垂れ流している。テレビのニュースももはや娯楽と化している。被害者や加害者や関係者が現実にいる、現実の問題を娯楽にしてしまっている点では、最も悪かもしれない。その中で、一部の若者は現実をリアルとして受け止められなくなっているのではないだろうか。またテレビやゲームや漫画は、本などのように「行間を読む」必要がない。つまり熟考知る機会がない。秒単位で情報を押し込まれ、創作者の安易かもしれない意図をそのまま受け止める。そうすることで自分で考える力は衰え、現代の社会不安や今頑張っても未来がどうなるかはわからない、という不安相まって、今の若者を、享楽的に、刹那的に、そして常にいつもどこか諦めた風にしているのではないだろうか。そして、一部の若者は、そんな思いからよく考えることなく、薬物に手を出してしまうのではないかと思う。

 

(2)  教育

若者がアルバイトをし、遊ぶお金を手に入れたことで、学生が学生ではなくなった。高校、大学は単なる資格試験を得る場所や受験のための勉強スキルを身に付ける場所となった。中学校は、少しでも良い高校への進学のための場で、高校においては、義務教育ではないためか、生徒はもはや学校のネームヴァリューを上げるコマではないかと思うことがある。高校が薬物乱用した生徒をあぶり出し、退学に追い込むという事態を見たり聞いたりすると特にその思いは強まる。本来学校は、そのような生徒を救う立場にたつべきだ。

  (3)家庭

親を親として考えない若者が生まれた理由は、親がきちんと子供と向き合わなかったためだと思う。戦前日本の家庭構造は大黒柱の父親を頂点としたピラミッド型をしていた。父親にはけして逆らわない、という封建社会だった。封建社会では、子供は親の所有物にすぎなかった。しかし、戦後、アメリカによる民主主義思想の流入によって日本的考えは暴力的に否定され、それに続く次世代の親たちは、新しい形での家庭や親の姿というものを形成できなかった。そのような社会では、子供は親の姿を見ている。親の行為や考え方や生き方をみて、そこに尊敬の気持ちを持ったり、矛盾を感じたりして親に敬服したり、反抗したりする。だとすれば親は、子供に親として認めてもらいたい思えば、常に子供に対して、後ろめたいことがないようにしなければならない。子供もまた、親に対して認めてもらいたい、という気持ちを持たなくてはならない。民主主義社会での家庭とは、互いに認め合うことがその基本になければならない。親は親だからといってその権威の上にあぐらをかいていてはならない。そこをよく理解しなければ、家庭はいずれ不幸をまねくだろう。そして、そのような家庭では、子供は社会のごく基本的なありかたを学ぶことが出来ない。また親をどうでもいいと、子供が考える家庭は薬物乱用の抑制にならなくなってしまう。

 

D     薬物乱用を減らすためには

     法規制では薬物には対応できない。薬物乱用が進行した物にとって、命よりも大切なものが薬物だからだ。またかつてアメリカやヨーロッパでは、薬物の蔓延のため、重い法規制を用い、若者や、社会復帰可能なものの将来性をつぶしてしまう、という批判が高まったために現在のアメリカやヨーロッパでは、薬物所持だけでは取り締まられない州や地域もある。(取り締まり対象は薬物密売者のみ)もともと薬物乱用は加害者のいない犯罪であるから、法規制の適応が難しいのであり、法規制による対応では問題のある者を社会から排除するだけで、根本的な解決には至らない。そこでまず、教育機関は生徒の恐怖心を煽るような薬物教育をするのではなく、薬物の実態をよく教えることである。また教育機関は、子供を育てることが一番の目的だということを失念してはならない。つぎに、かつて、世間がさまざまな非行の抑制に役立ってきていた。しかし現在世間は弱体化している。教育機関は、地域との二人三脚の教育をするべきである。そして家庭は、親が子供に尊敬される努力を怠らず「良い人間」であることを、目指すべきである。またそのような親を援助する相談機関の充実も必要だと思う。そのような様々なしがらみが、現代の若者を薬物から守るだろう。

最後に日本には若年薬物乱用者のケア施設はないに等しい状況で、精神保健福祉センターで専門家を置き状況に対応できるようにしいる場合はごく一部で、保健所も対応できる場所は少ない。医療機関も精神ケアやいわゆる「立ちなおさせる」プログラムがある病院は数えるほどしかない。更生施設においては公的なものはなく、民間のDARCAPARIも資金難にあえいでいる状況だ。政府は日本も、ドラッグが社会問題化してしまわないように、このような施設を作り、専門家を育成すべきだと思う。

参考

ドラッグ世代(水谷修)

現代社会の病理1

感染症の時代

「良い子」が危ない(竹村登茂子)

大久保クリニックhttp://www.o-clinic.com/o-htm

「ドラッグについてきちんと話そう」小森法律事務所

http://www2u.biglobe.ne.jp/~skomori/