050616      環境難民の実態を踏まえた考察

 

                         k050130  鈴木貴子

 

1・はじめに

世界のグローバル化が進行し強者が利益を求めて肥大化する中で、様々な問題が生じている。私は最初、強者と弱者の格差に伴う問題を調べていたが、その途中に環境問題があったことから環境難民に興味を持ち、テーマを変えることにした。まず、ほんの一部分であると思うが、環境難民の実態を調べてみた。ここにはその中の3つの例を挙げたいと思う。

その前に、まず言葉の定義について触れておきたい。環境難民とは環境の悪化により、それまで住んでいた土地を離れなければならなくなった人々を指す。1998年には2500万人に上り、その数は戦争難民を超えた。2025年までには1億人の環境難民が生じると予想されている。(UNEPの報告による) 環境悪化を招く原因は、温暖化・砂漠化・干ばつなどが挙げられるが、そればかりではない。戦争で使用される兵器や、身近にある原子力発電もその引き金を引いている。実は私たち日本人もいつ環境難民になってもおかしくはない立場にあるのだ。

私たちは環境難民の発生を防ぐために、また自分たちが環境難民にならないために何を為すべきなのか、環境難民の実態を踏まえて日本の立場で言及してみたいと思う。

 

2・環境難民の実態

a,ツバルの例 

  人口1万1000人の「楽園」と呼ばれるこの島国は今、「世界で最初に沈む島」とも言われている。平均海抜が1.5メートルしかないため、温暖化の影響で生じる海面上昇に伴い、21世紀中に海に飲み込まれてしまうだろうと予測されているからだ。(1989国連報告)現在、既に目に見えて海面上昇は進行し、被害が生じている。地下水や土中への海水流出により飲料水や食糧が不足し、その結果、人々は近隣の国へ出稼ぎに行かざるを得ない状況にある。

 ところで、このツバルの沈水、ひいては温暖化の責任はだれにあるのだろうか?先進国にその責任があることはだれの目から見ても明らかであるが、ツバルに対する国際法上の法律はまだ確立されていない。またツバル近隣のニュージーランドやオーストラリアは、温暖化とツバル沈水の因果関係を認めようとしない。ニュージーランドが近年ようやく移民受け入れを開始したものの、その形式は難民受け入れとしてではなく、労働ビザの発給という形であり、数は年間わずか75人と人口の1%でしかない。残りの住民は不安を抱えながら生活している。(http://www.interq.or.jp/tokyo/ystation/tu.html - 5k参考)

 現在、沈没の危機にあるのはツバルだけではない。世界の温室効果ガスの0.001%しか排出していないモルジブ、先進国のオランダなども含まれている。日本は先進国の一員としてツバルの環境難民移住に対する支援を行うことや、国際法の整備を急ぐことが求めらるだろう。

 

b,アフガニスタンの例

 同時多発テロ以降に行われた、アメリカによる攻撃によって今、アフガンでは戦争による環境破壊が深刻である。このとき使用された、FAE(デイジーカッター)は化学汚染を引き起こすにも関わらず、それが認められずに化学兵器として使用された。その結果、現在も不発弾や劣化ウラン弾などと共に、人体のみに留まらず水や土壌などに影響を与えている。

 水や土壌が汚染されることで農業を行うことが難しくなった結果、飢餓が生じ、多くの人々が亡くなっている。不発弾が投下された地域では、危険性から民間人の居住地区の立ち入り制限を行い、土地を失った人々は移住せざるを得ない状況にある。(http://wwws.hum.ibaraki.ac.jp/~zemi31/kankyoseigi11.html)この飢餓や環境悪化によって移住をやむなくさせられている人々は戦争の被害者とは見なされておらず、注目度も低いため対策が遅いと言えるだろう。

 

 

c,ベラルーシの例

 1986年に生じたチェルノブイリ原子力発電事故では広島の830倍の放射能が放出され、その70%がベラルーシへと降り注いだ。事故に伴い、現場30km圏内は高濃度放射汚染地域として封鎖され、13万5000人が移住を余儀なくされたが、中には強制移住による心的ストレスによって亡くなる人もいたようである。

 さらに付け加えると、低・中濃度放射汚染地域では行き場のない人々がまだ住み続けている。彼らは現在も放射能を含んだ食糧を口にしており、甲状腺がんや白血病を発症する患者は年々、増加している。(原子力市民年間2004、http://www.bund.org/opinion/1085-2.htm#1 参照)

 

 現在、日本では東海地震に伴う、浜岡原発事故の危険性が大きく注目されている。この事故によって現場半径300km位(神戸付近)が居住不可となり、数千万人が環境難民になると予測されている。その数は国内で補うことができずにアジアへの流出の可能性も否定はできない(http://www.bund.org/opinion/1085-2.htm#1)

 

3・考察

 

 背景がそれぞれ異なる3つ例を挙げたが、ひとつずつ考えてみたい。ツバルの例は温暖化に伴う環境難民発生についてだが、これは先進国の自己中心的なふるまいを改善する必要がある。特にアメリカは大量の温室効果ガスを放出しているにも関わらず、その解決に消極的である。もしも温暖化がこのまま進行したら海面上昇に伴い、多くの国が国土を失うことになるだろう。島国である日本も例外ではない。性急な温暖化対策とアメリカの説得が急務である。

 次に戦争を背景とする環境難民についてである。戦争難民という言葉はしばしば耳にするが、戦争に伴う環境難民という言葉は耳慣れないかもしれないし、区別が難しい。しかし、ここで重要なのは、戦争は環境に多大な負荷を与えている、ということだ。ベトナム戦争やイラク戦争で使用された化学兵器について考えたとき、それらが人体や環境に及ぼした影響は計り知れない。戦争が環境に及ぼす影響を考えたとき、ひとつの惑星に共に住む以上、それは戦争がもたらす国益の比ではないと言える。独走しがちなアメリカに対して、日本はストップをかけられる国になりたいものだ。

 最後に原発を背景とした環境難民発生についてであるが、これは原子力発電が大きな割合を占めている日本にとって最も関心が大きいだろう。もし実際に東海地震に伴う原発事故が生じた時の想定と対策はまだない。地震が本当に起きてからでは遅すぎる。一刻も早く安全性が確保されなければならないだろう。

 

 環境難民が生じる背景は様々だが、いずれにも共通して言えることは、環境難民救済に対する対策が不完全である、という事だ。中でも現在、環境難民発生の最も大きな原因になっている環境問題の解決は急務であり、日本がその対策のためにできることはたくさんあるはずだ。環境難民という言葉は認知度が低いが、先進国の富のために犠牲になっている人々がいる、という現実と、私たちもいつそのような立場に立ってもおかしくはない、という事実を広めることで、国民の間にも問題意識が備わるだろう。そのことが解決への一歩だと私は考える。日本は今後、その上で政策や技術面において他国との強調を図るべきであろう。 

 グローバル化の進行につれて、自国の利益のみを追求する時代は終わり、地球の国民の利益全体を追求する考え方が広がり始めている。環境難民の存在は私たち一人、一人が考えなければならない問題の一つである。