「アフリカのサハラ以南地域の食糧不足と食糧自給」

 

宇都宮大学農学部農業環境工学科一年 大野文也

 

1.サハラ以南地域の食糧不足の現状

 

現在アフリカ、特にサハラ以南の地域での食料事情はとても深刻である。その状況を見ていくと、慢性的な栄養不足に陥っている人口が約2億人で、3人に一人が栄養不足であり、国際社会に食糧援助等緊急支援を要請している国は23カ国(エリトリア、エチオピア、スーダン、ケニア、ウガンダ、ソマリア、タンザニア、ブルンジ、ジンバブエ、レソト、スワジランド、モザンビーク、マダガスカル、アンゴラ、モーリタニア、リベリア、ギニア、ケープベルデ、コートジボアール、シエラレオネ、コンゴ民主共和国、中央アフリカ)ある。また、それらの国で食料が極度に不足している人口は4000万人に達している(そのうちのほとんどを農村部に住んでいる貧しい人が占めている)。さらに人口増加率が依然として高いため、これからはますます厳しい状況になると予想できる。

 

しかしニュースや新聞ではこの深刻な問題をそこまで大きく取り上げていない。そこで、なぜこの地域で食糧不足がこんなにも深刻になってしまったのかを食糧の自給ということから考えていきたいと思う。

 

 

2.農業が発達しない原因

 

食糧の自給に関する考察の前に、まずサハラ以南地域の農業について見ていきたいと思う。この地域における農耕作業の障害として、乾燥して降雨量が少なく土壌が肥沃ではないから農業ができない、といったことを少し前まではよく耳にしていたが、現在の状況は必ずしもそのことだけが原因であるとは思えない。なぜなら水を引くことが可能で、農薬が存在し、農業技術が発達した今のこの時代に、農耕条件が悪いから作物が育たないというのは少しおかしな話だからである。実際にこの地域には、先進国からの技術援助や金額が減少しているとはいえODAによる資金援助、また旧宗主国であるヨーロッパの民間企業からの投資がなされている。ここまで支援を受けているにもかかわらずなぜ農業が発達しないのか。それはこの国々の政府に問題があるからである。そこでその問題点をいくつか挙げてみる。

 

まず一つは、先進国から受けた援助が隅々まで行き渡らないという問題である。これは、道路整備がなされていないために技術者の活動範囲が限られることや、政府が農業発達のために使うはずの援助金を他の事に使ってしまうということだ。

 

二つ目に、政府がこれまでコーヒー、紅茶、カカオなどの嗜好品の単一耕作を行ってきたということが挙げられる。これはアフリカの国々がヨーロッパの植民地であったときから外貨を獲得するために行われてきた耕作であるが、単一耕作は商品の値段の変化が激しくとてもリスクのある政策であった。そもそもこのような嗜好品では、国内の食糧不足が改善するわけではない。しかも一つの作物しか生産しなかったため、他の主食となる穀物を生産することが少なくなり発達が後れてしまった。

 

三つ目は、一つ目の問題とも関わってくるが、政府が都市市民への支援を重視する傾向にあるために、農村部の農業に対する投資が十分に行われていないということである。これは農業技術の改善よりも経済の回復に視点が向いているということの表れである。つまりサハラ以南地域の国々の政府は農業を、また、食糧不足を軽視しているのではないかと考える。

 

以上のようにこの地域における農業について見てきたが、次はこのことも踏まえて本題である食糧不足と食糧自給について考えていこうと思う。

 

 

3食糧不足と食糧自給

 

栄養不足人口の数がこれほど多く、そして、その数が将来さらに増えると分かっているにもかかわらず、なぜサハラ以南地域の国々の政府は食糧不足を軽視しているのか。

 

まず考えられるのは、政府が農村部の貧しい人のことを考慮して政策を行っていないから食糧不足を軽視しているという理由である。冒頭でも述べたように、現在、食糧が極端に不足している人のほとんどは貧しい農村部の人たちである。都市部の人々は食糧が不足しているとはいえ、ある程度の援助は受けている。だから都市部や政府の人間は、食糧不足がそこまで切迫した問題だと感じていないのである。また将来人口が増えたとしても、自分達は今までのように食糧を得ることができるだろうと思っているのかもしれない。

 

そしてこの国々の政府が食糧不足を軽視している最大の理由は、先進国からの食糧援助があるため、それに依存できるという状況が存在するからだ。これは都市部や政府の人間だけなら先進国からの食糧援助である程度まかなえてしまうために、政府がその援助に依存し続けてしまうということである。しかし食糧援助だけに頼っていると、現地の生産意欲の低下を引き起こす。そして自国の生産量が減少すると飢餓が発生する。飢餓を一時的にしのぐために食糧援助を求める。すると生産意欲がさらに低下する。このような具合で悪循環に陥ることで食糧不足が極限まで達し、国家が機能しなくなるということも考えられる。

 

このように見てくると食糧援助が有害なものに思えてくるが、必ずしもそうであるとは言い切れない。実際に食糧援助によって助かっている人が大勢いるからである。この人たちのことを考えると、闇雲に援助を止めることなどできない。だから援助を止めることを考える前に、食糧自給率を低下させないように工夫して援助をすることを考えるべきである。例えば、支援物資の受け渡しを国家レベルでするのではなく、国家対個人のレベルで行うことは有効である。そうすることで農村部の貧しい人にも援助物資を届けることができ、援助物資を国で管理できないので援助に依存するということもなくなるであろう。これから先進国にとっては、この国々を自立させるためにどう援助していくかということが重要な課題になるだろう。

 

 現在、ヨーロッパでは食糧の自給の大切さが盛んに叫ばれている。そんな中イギリスやドイツでは、食糧自給率を上昇させ、今では自国で100%自給できるほどまでになってきている。イギリスやドイツの土壌は、アフリカの乾燥地域ほどひどいものではないが肥沃度が低い。それにもかかわらず食糧自給率をここまで引き上げることができたのは、食糧の大切さに気づき、工夫して農業を行い、土壌の改善のために努力したからではないかと思う。アフリカのサハラ以南地域諸国もこれに習って農業を発展させ、食糧自給率を向上させ、食糧不足を解決するために努力をして欲しいと思う。