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安保理と国際社会

 

松波清美(宇都宮大学国際学部国際文化学科2年)

 

はじめに

日頃よくニュースなどで耳にする機会の多い『安保理』と言う単語。イラク戦争の時には国連無能論がメディアなどで取り上げられ、最近は特に常任理事国追加の話題が世間を賑わせているが、そもそも『国連』や『安保理』とは一体どういうものなのだろうか。なんとなく知っているけれどはっきりとは分からない。国際社会にとっても日本にとっても重要な意味を持つ『安保理』についてさまざまな角度から考えてみようと思う。

1.安保理とは

 まずは『国連』や『安保理』というものがどのように位置付けられ、定義されているのか調べてみた。

国連のホームページによると、国連とは、世界の平和と経済・社会の発展のために協力することを誓った独立国が集まって出来た機関である。1945年10月24日に正式に発足し、その当時51カ国だった加盟国の数は、現在191ヶ国にもなる。さらに国連には、全世界の平和を守ること・各国の間に友好関係を作り上げること・貧しい人々の生活条件を向上させ、飢えと病気と読み書きのできない状態を克服し、お互いの権利と自由の尊重を働きかけるように、共同で努力すること ・各国がこれらの目的を達成するのを助けるための話し合いの場となること、という4つの重要な目的が挙げられていた。

また安保理とは、世界平和を守る主役として設置され、総会が世界的な問題全てを討できるのに対し、安保理は平和と安全保障の問題だけを取り扱う機関である。国連の全加盟国は、安全保障理事会の決定を承認し、これを実施することに同意している。安全保障理事会は、15の理事国からなっており、中国・フランス・ロシア連邦・英国・米国の5ヶ国は、常任理事国で、その他の非常任理事国は、地理的代表の原則に基づいて、総会が2年の任期で選ばれる。また、国連の加盟国であるかどうかに関係なく、いかなる国も、事務総長も、紛争あるいは平和への脅威について、安全保障の注意を促すことができる。安全保障理事会の議長は、理事国が交代で1ヶ月ずつ担当し、その順番は、英語表記の国名のアルファベット順で決められる。安全保障理事会での投票は、決議を通過させるためには、9ヶ国の理事国の賛成の投票が必要だが、5つの常任理事国のうち1ヶ国でも反対票を投じた場合、これは拒否権と呼ばれ決議は通過することが出来ない、と明記されていた。

 

2.イラク戦争にみる安保理

上記のことから、安保理の定義は理解できたが、安保理がどのような状況になったときに活動するのかという正確な定義は書かれていない。これは逆にいえば安保理が実はとても抽象的で曖昧な存在なのではないかということである。それゆえに、国連の中で最も重要な機関の一つであるにも関わらず、国連が紛争や戦争の解決において上手く機能することが出来ず、無能論がささやかれる原因の一つなのではないだろうか。また安保理が無能と言われる原因はほかにどんなことがあるのだろうか。そこでイラク戦争において安保理がどうであったのか見ていこうと思う。

2003年1月1日、この新年の一日目にアメリカはイラクを空爆した。イラク戦争の始まる二ヶ月以上も前のことだ。この三日後、国連査察団がバグダッドの北375キロのモスルに常設事務所設置した。9日、ブリクス委員長が安保理に、大量破壊兵器の決定的証拠はないが、申告書は世界の疑念に答えるものではないとし、なお時間が必要との見解を査察の中間報告として述べた。27日にも、エルバラダイ事務局長が核兵器開発再開の証拠はないが、数カ月の査察延長を要求。しかしその間にも米英はイラクへの攻撃を進めていた。これに対しローマ法王を始めとして仏・独などがイラク攻撃を批判。さらに国連安保理は非公式会合でイラク査察の当面継続方針を確認し、米・英・ブルガリア・スペインを除く11カ国が査察継続を支持した。2月に入るとブッシュ大統領がイラク攻撃を容認する新たな国連決議を要求したが、アナン事務総長は国連の枠組みから逸脱した武力行使はあってはならないと米国に警告。それにも関わらず24日米・英・西の3か国は安保理非公開協議で対イラク武力行使の容認に向けた新議案提出した。一方イラクでは3月に入ってすぐ国連監視下でミサイル4基の廃棄を完了し、ブリクス委員長は「意義深い」と評価。しかし、ライシャー米報道官は新決議不採択なら国連の枠外で単独攻撃する方針を明言。アナン事務総長は安保理承認ない攻撃は国際法への侮辱であり、国連憲章に合致しないと警告した。そして17日にブッシュ大統領は全米向けTV演説で最後通告として、フセイン大統領と息子に48時間以内の亡命要求。拒否すれば開戦すると宣言した。フセイン大統領はこれを拒否し、ついに3月20日、この日、仏独ロは3国共同声明に沿い査察継続要求を出し、ブリクス委員長もまた大量破壊兵器の保有を理由にした武力行使には根拠がないと表明したにも関わらず、米英軍は「イラクの自由作戦」と銘打った対イラク軍事作戦を開始した。こうしてアナン事務総長や仏・独・露・中国などの反対を無視するような形でイラク戦争は始まったのである。この戦争に対してアナン事務総長は「平和的解決は可能だ」と強い遺憾の意を表明した。こうして始まった戦争は約一ヵ月半で終わりを迎えたのにも関わらず、米英が主張していた大量破壊兵器は見つからず、いまもまだ泥沼から抜け出せていない。

安保理が上手く機能しない原因の中の一つはまさにこのアメリカの振る舞いにあると思う。そしてそれを止める力が安保理には足りないのである。

しかし、今回アメリカの単独主義的な行動に対して他の常任理事国、非常任理事国、そして国連事務総長がきっぱりとこれを否定し、わずかでも抑えることが出来たことは、これまでとは違い安保理が機能した証拠であるという見解もあります。でも安保理内で意見が分かれたときに足踏み状態になってしまうのを防ぎ、国際法などに従わない国の単独行動を阻止する何かが必要なことは確かだと思う。

 

3.これからの安保理改革・考察

 今国連改革の一つとして安保理の構成を国際社会の現状を反映したものにするため、常任理事国・非常任理事国を増やそうという改革を検討している。その中で日本も常任理事国入りを目指しており、ドイツ・インド・ブラジルとG4を結成し、常任理事国を4カ国、安保理理事国を25カ国に拡大する草案をまとめた。これに対しアメリカは安保理の拡大について、拒否権のない常任理事国を2カ国程度、非常任理事国は2、3カ国増やし、新しい常任理事国の1つは日本だ、と明言。しかし日本の常任理事国入りに反対するアジア諸国も多く、またアメリカも実のところあまり乗り気ではないようだ。またG4内部でも、拒否権を主張するかどうかで、インドが抜けるかもしれないという懸念も出ている。さらにアフリカでも、AUがアフリカに常任理事国を2カ国以上割り当てることなどを求める方針を決めていたが、G4の動きにともなって南アフリカなど5カ国が常任理事国を目指すなど、改革はなかなか容易ではない。また「コーヒークラブ」と呼ばれる韓国・イタリア・パキスタン・アルゼンチンなどでつくられた非公式な組織が存在し、G4に対抗している。この改革は、各国の思惑が複雑に絡み合っているために、長期戦になってしまいそうだ。しかし逆にいえば多くの同盟国が安保理に対し何らかの期待と利益を見出しているからではないだろうか。ようやく安保理が変わろうとしているが、安保理の構成を変えてきちんと力の均等が保てるのか、今までのように単独行動を取る国に対して的確な対応が出来るのか、国際情勢の変化が起きた時にきちんと機能できるのか、権限はより強いものになるのかならないのか、拒否権はどうなるのか、など問題はまだまだ山積みだ。しかし安保理はどんなに時間がかかったとしても必ず変わるだろう。少しずつでも変わっていくことが出来れば、国際社会がより早く、長く、平和でいられるようになることを願っている。

 

 

 

 

 

 

参照サイト 

   朝日新聞:http://www.asahi.com/

   公安調査庁:http://www.moj.go.jp/KOUAN/index.html

   NHKラジオ「新聞を読んで」

      http://www.bunkyo.ac.jp/faculty/kokusai/dateline/kiji2003-5.html

爆弾はいらない子どもたちに明日を

http://homepage2.nifty.com/mekkie/peace/iraq/history10.html

   フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

         http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%A9%E3%82%AF%E6%88%A6%E4%BA%89