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「核軍縮の実現は可能か」

宇都宮大学国際学部国際社会学科1年 加藤沙織

 

1、核問題の現状

 

現在世界には、約3万発の核兵器が存在する。これは核保有国であるアメリカ・ロシア・イギリス・フランス・中国の5ヶ国と、事実上核兵器を保有していると考えられる、インド・パキスタン・イスラエルの核保有数を合計したものである。そんなにも多くの核が残っているのかと驚いたが、これでも核兵器の数がピークだった1980年代半ばに比べると、およそ2分の1に減少している。冷戦後、核兵器の数を競い合う時代は終わったが、核拡散の進行や核軍縮の停滞など核をめぐる新たな問題が浮上している。

 

先月の27日、国連で開かれた核不拡散条約(NPT)の再検討会議は最終文書をまとめられないまま全日程を終了した。この会議を通じて、核不拡散体制の信頼性、その締結国の責任、運用プロセスなどについてさまざまな問題点が明らかになった。さらに、会議が失敗に終わった責任をアメリカに問う声が多く聞かれた。アメリカは、NPTの中で最も重要な要素の一つである核軍縮について議論することに非常に消極的であった。もちろん、アメリカだけがこのような態度をとったのではない。しかし、世界最大の核兵器国であるアメリカが軍縮への態度を示さないのは、問題がある。実際に、アメリカは核軍縮の義務を十分には果たしておらず、核兵器を新たな目的で使おうと考えている。

 

世界中で核軍縮を求める声が盛んにある中、なぜ核軍縮は進まないのか。NPT体制の目的を確認すると共に、アメリカの核戦略について考察していこうと思う。

 

 

2、核不拡散条約(NPT

 

(1)概要

・署名開放 1968年7月1日

・発効   1970年3月5日

 (日本は、1970年2月署名、1976年6月批准)

・締結国は189ヶ国。未締結国はインド、パキスタン、イスラエル。(現在、北朝鮮が脱退)

 

(2)目的

・核不拡散

 アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の5ヶ国を「核兵器国」と定め、「核兵器

国」以外への核兵器の拡散を防止。

 

・核軍縮

各締結国による誠実に核軍縮交渉を行う義務を規定(第6条)。

 

・原子力の平和的利用

 締結国の「奪い得ない権利」と規定するとともに(第4条1)、原子力の平和的利用の

軍事技術への転用を防止するため、非核兵器国が国際原子力機関(IAEA)の保障措

置を受諾する義務を規定(第3条)。

  

<参照サイト>外務省ホームページ  http://www.mofa.go.jp/mofaj/index.html

 

 

NPTは、数ある軍備管理・軍縮条約の中でも最も多数の国が加盟している条約である。NPTの基本的条約の中で最も強調されているのは、核兵器が非核兵器国の手に渡ったり、非核兵器国が核兵器を開発したりすることを禁止することである。

 

第3条には、非核兵器国は核兵器開発を行っていないことを国際的に明らかにするために自らの原子力活動を国際原子力機関(IAEA)による査察体制の下に置かなくてはならないことを規定している。また、核兵器国に対しても、第6条で核軍縮交渉の義務を課している。つまり、ここで言う核拡散とは、核兵器国の外に核兵器が広がるのを防ぐというだけでなく、核兵器国が保有核兵器の量を増やし、質を高めるというのを防止するという目的も含まれている。

 

第4条では、「すべての締結国の、原子力の平和利用のために、設備、資材および情報の交換を安易にすることを約束し、その交換に参加する権利を有する。」と明記している。NPTは、核兵器廃絶を理念として掲げていると同時に、原子力の平和的利用を推進する条約でもある。

 

 

3、アメリカの核戦略

 

 現在アメリカが保有しているとされる核兵器の数は、戦略核兵器、非戦略核兵器、予備核弾頭合わせて、1万発以上と言われている。アメリカがこれだけの核兵器を保有しているのは、冷戦時代にロシアとの間で繰り広げられた核競争の結果である。冷戦後、ロシアとの間でSTARTプロセスやABM条約によって、核削減の対策はとられて来た。2003年の戦略的攻撃戦力削減条約(モスクワ条約)の署名にあたっては、ブッシュ大統領とプーチン大統領は、米ロ両国が「お互いを敵とみなしていた時代は終わった」と宣言した。アメリカとロシアが敵ではない今、なぜ、アメリカの核兵器は実質的に減る見通しがないのか。

 

その理由は、標的の変更である。9.11から4ヶ月あまりが経った20002年1月29日、ブッシュ大統領は一般教書演説の中で、イラン、イラク、北朝鮮を名指しし、大量破壊兵器を開発、保有する「悪の枢軸」と呼んだ。これらの「ならず者国家」が21世紀のアメリカの主なる脅威であると、世界に向けて宣言した。9.11事件は、21世紀になってもアメリカが大量の核兵器を保持し続ける理由があるのだということを世界にアピールするのに絶好の機会となったのである。こうして、新たな標的を設定したアメリカは、さらにこの標的に適した核戦力を開発しようとしている。例えば、地中貫通型の核兵器(上空から打ち込むと地下深くの標的にまでたどり着き、地下で核爆発を起こして標的を破壊するが、地上および周囲への放射線などによる被害は少ないもの)、低威力の核兵器(ミニ・ニュークと呼ばれる)である。アメリカ政府は新型核兵器の開発を公式には否定している。だが、新たな役割を持つ核兵器が追求されていることは紛れもない事実である。

 

 

3、軍縮は実現するのか

 

 以上のように、NPT体制とアメリカの態度をとってみても、軍縮とは程遠いことが明らかである。どうしたら核廃絶への道は開けるのだろうか。

 

第1に、揺らぎ始めている国際規約を立て直すことである。NPTは核兵器国が保有している核兵器の数を増やしたり、質を高めたりすることを禁止しているのだから、アメリカの行動は明らかにNPT違反の行為と考えるべきである。しかし、現実には核兵器国が条約に違反していても、それを検証する制度もなければ罰則規定もない。これではいつまで経っても核軍縮は進まない。それどころか、おそらく核は増えていく一方なのではないか。条約を根本的に見直す必要がある。

 

第2に、非核兵器国が、アメリカを筆頭とする核兵器国に廃絶を求める努力を怠らないことである。その1つとして、自国日本のあり方について考えてみる。日本は世界で唯一の被爆国として、政府側から国際社会にもっと核廃絶を訴えていくべきである。毎年広島、長崎では「原水爆禁止世界大会」というものが開かれている。平和運動代表や、NGO、各国政府や自治体の代表が参加し、核兵器廃絶・核戦争阻止・被爆者援護・世界平和などを訴えている。市民の関心や運動が広まることは望ましい。それが世界に注目されればさらに良い。しかし、やはり1番効果的なのは、国家全体としてその代表者が訴えていくことである。今の日本は、「非核3原則」を掲げておく一方で、アメリカの「核の傘」に依存している。この矛盾を断ち切ることが、今日本が世界に示すべき態度なのではないだろうか。

 

「核抑止力論」というものが存在するが、核兵器が世界の平和を保ち続けることなどあり得ない。核廃絶という新たな平和秩序の実現に向けて、今、国際社会全体が足並みをそろえる時ある。

 

 

<参考文献>

岩波新書 川崎 哲著 「核拡散−軍縮の風は起こせるか−」