2006年度「地方自治論」
レポートに対する担当教員(中村祐司)のコメント
(各タイトルをクリックすると各レポートが提示されます)
|
氏 名 |
テ ー マ |
1 |
市来優太 |
当初における1市8町の合併が結局は1市2町に落ち着いた背景に、ローカル・コミュニティの存在を指摘している点は興味深いものの、Web上に参加している一部の市民の考えや意見が合併をめぐる民意の反映だとは言い難い。合併をめぐる電子媒体上での意見のやり取りには多くの自治の可能性を秘めている。しかし、現状ではかえって感情的な対立の場と化すケースも多いのではないだろうか。 |
2 |
今泉桃佳 |
先日、新聞で過疎・高齢化の小規模自治体には悲観的要素よりも楽観的要素(住民一人当たりの生活の充実度)の方が多いと指摘する人物の紹介があって、なるほどと思った。住民と行政のやる気と元気が「合併しないと財政が行き詰る」という前提をひっくり返す。合併問題対応の帰趨を左右する鍵はこのあたりにあるのかもしれない。 |
3 |
加藤沙織 |
「休憩」「情報発信」「地域の連携」といった3機能が果たして地元ではどうなっているのか、情報内容を丁寧に整理している。「地域住民の連帯」のあり方を具体的に提示してほしかったものの、存続をめぐる課題を読み手にも考えさせる好レポート。 |
4 |
久保映矩 |
人口減少を逆手にとって、市場の側面も含めて地域を活性化していこうという意識は一貫しているものの、包括レベルの一般論に終始してしまった。「住民に愛される地域づくり」の立案や実践の担い手として若い世代をどう取り込んでいくかが問われている。 |
5 |
齊藤香織 |
背景には「県内の文化的施設の均衡」があったということ、アクセスのための交通整備や人々の来訪が活性化につながる反面で問題も山積している状況、「行政通信簿」に見られる住民の受け止め方、などが浮かび上がっている。単にドームの存続をめぐる是非ではなく、多様な活用方策や価値向上の必要性を明確に指摘している好レポートである。今後ぜひそのための具体的なアイデアを期待したい。 |
6 |
白出愛 |
大都市における交通システム、とくに地下鉄敷設をめぐる巨額な「総工費」や「需要予測の甘さ」、さらには「市民の認知度・関心度の低さ」をずばりと歯切れ良く批判する好レポート。ただし、行政との関係性はともかく、「創る会」とは対極にある推進アクターとして「○○会」なるものは存在しないのだろうか。その活動についての紹介もあれば記述内容の厚みが増したに違いない。 |
7 |
馬場久美子 |
合併の奔流とは一線を画す小規模自治体の存続をめぐる危機感が原動力となって、まさに一点突破主義的な産業(ゆず産業)の成長をもたらしている。また、長年にわたる試行錯誤の末の産物であることも分かる。読みやすく要点がまとめられており、たとえ紹介がレポート構成の中心ではあっても資料的価値のある好レポート。これを起爆剤に社会的起業など若い世代による新たな市場創出につながってほしい。 |
8 |
渡部恵 |
「自分と店とまちづくり」は最初の「自分」が効いていて大変魅力的なネーミングだ。主人公が「自分」であることが商店街活性化の要(かなめ)だと思われるからである。まずはやってみる。まずは一歩踏み出して動いてみる。そうすることで局面が開ける例証となっている。 |
9 |
渡辺南 |
新市計画における表現をめぐる字面の限界を突いている。財源の問題で追い込まれる小規模自治体が合併に向かわざるを得ない状況のなかで、財源のみで自治体の良し悪しや成否を判断することに違和感を持つケースもあるだろう。合併における具体的な諸問題の一つに焦点を当てた方がよかったのではないか。 |
10 |
黒岩直子 |
「長野県における『信州』」 (表示→エンコード→韓国語、にして日本語表示可) たかが名称されど名称である。都道府県の名称変更に特別法の制定が必要であることを初めて知った読み手も多かったのではないか。最後の方で観光・商業・県民意識をキーワードに「信州」の位置づけがなされていて興味深い結論となっている。もう一歩このあたりの記述を将来展望も含めて掘り下げてほしかった。 |
11 |
高橋優 |
「応能」と「応益」についての説明が添えられていて読み手にとってありがたい。福祉という非常にデリケートな領域だけに、意見表明には慎重さが必要であろうものの、最初から一方に与しない論の進め方もあったように思われる。それはともかく、事例を論の展開における非常に良いタイミングで取り上げている。自らお金を支出して仕事を続けなければならない状況を生み出したのは政策(法律)の矛盾点なのであろう。正論は譲らない大切さを読み手に再認識させる好レポートである。 |
12 |
倉重優倫 |
「リストラから見る開廃業率の推移〜ミクロからマクロへ、再びミクロへ〜」 読んでいて、起業は立ち上げよりも継続の方が難しいと指摘した新聞記事や、だいぶ以前タクシーの運転手がタクシー業界は不景気の際にはその影響を真っ先に受け、好況時には最後になってようやくその恩恵を受けると話していたのを思い出した。景気や金融の動向を的確に読み取るのは至難の業なのであろう。たとえば、起業志願者が有する情報収集やその解釈力も決め手になるのであろう。 |
13 |
酒井綾子 |
いきなり「ネオリベラリズム」等の用語が出てきて驚いた。アメリカの事例は草の根デモクラシーの所産でもあるのだろうか。確かに日本における対セキュリー意識のここ数年の変容は、居住施設だけでなく学校教育や雇用に対する考え方にも反映し始めているのかもしれない。コミュニティと集団個人主義との類似性を指摘した箇所などなるほどとは思う。しかし、全体を通じていかんせん話のレベルが大き過ぎて(それ自体は悪いことではないが)、残念ながら参考文献で書かれている範囲以外の独自・ユニークな論の展開には至らなかった。 |
14 |
田中芽衣子 |
テーマと検索対象を絞り込んだために、貴重な情報源に出会ったという感じだ。 |
15 |
中野良美 |
広報・周知の難しさや説明における単純化の危険など、荒削りだが後半以降の指摘がなかなか面白い好レポート。確かに電子情報へのアクセスは積極性を要求するので、掲載すればそれで事足りるとはとてもいえないであろう。地域審議会を設置しない理由について行政は十分に説明していないようである。PIの実践活動例を紹介してほしかった。とくに合併などでは「民意」が割れるケースが多く、参加のために費やさなければいけない調整のエネルギーも膨大である。住民の力量イコール自治体の力量という側面もあるだろう。 |
16 |
常川久幸 |
「ひたちなか市における、湊鉄道対策協議会の活動状況について」 大詰めとなった鉄道存続問題の経緯を実に手堅くまとめている好レポートである。社会実験やアンケート調査など、切迫した状況における行政の対応策の積み上げが良く分かる。アンケート結果からはある種の公共財を失うことに対する高校生や住民の危機意識が浮かび上がっている。「市民を知ること」がいかに難しいかは、真摯な行政職員ほど身にしみていることであろう。それでもその志と取り組みを放棄してはいけないのであろう。同時にそこにこそ公益を追求するサービスに従事する職業者(行政職員)のやりがいと生きがいが存在するのであろう。 |
17 |
中山靖子 |
市の生活保護対象者がこれだけ急増しているとは迂闊にも知らなかった。制度や概要の説明はいっそのこと注釈に押し込め、最初の段落から一気に市内における状況説明に入り、行政の対応とインタビュ内容とを絡ませるような展開で記述してほしかった。世論も問題解決をめぐる責任の所在を社会環境や政策の失敗から、当人の個人責任に課す傾向がどんどん強まっているのであろうか。ホームレス政策においては、自立、共生、仕事、収入、生活といった人間の根源的な要素をどう価値評価するかも問われている。 |
18 |
中村祐司(担当教員) |