070115tanakam

田中芽衣子 「世田谷区の保育ママ制度〜女性を支える地方自治〜」

 

保育所に入ることを希望し、実際に入る資格を有するにもかかわらず、さまざまな理由で入ることができない状態にある児童を入所待機児童と呼ぶ。児童福祉法第24条では、市町村は保護者から申し出があった場合、その児童を保育所で保育しなければならないと定めている。しかし待機児童は、女性の社会進出と共に増加傾向にあり、保育所の増設がその流れに追いついていないのが事実である。昨年4月の厚生労働省の集計よれば、全国の待機児童は約33千人以上、無認可保育所への待機を含めると10万人とも20万人とも言われている。では、待機児童が発生する原因とはどこにあるのだろうか。

     単純に保育所の数的な不足、保育所の定員を入所希望児童が上回る

     親の勤務形態の多様化に伴って、11時間の保育を基本とする認可・公立保育所では対応できない長時間・夜間保育を希望するケース

     勤務に都合のいい保育所への入所が果たせないために断念するケース

(経済的・地理的要因)

つまり、保育需要と供給のミスマッチが大きく関係しているように思う。子どもを預けるにはさまざまな理由があるが、女性の社会進出を後押しする意味でも、少子化を食い止める意味でも、この待機児童問題の解決のために早急に手立てを講じなければならないだろう。

 

現在、行政の取り組みとして平成13年7月6日に閣議決定された「仕事と子育ての両立支援策の方針」等に基づき「保育待機児童ゼロ作戦」を進めている。これは仕事と子育ての両立を目的とし、保育所受け入れ児童数を約5万人増加させることや保育所の創設・増築・分園の設置等の措置を図ること等を掲げている。この中で特に、保育の資格・技能・経験を持つ家庭福祉員が家庭で児童(特に乳幼児)を預かる制度「保育ママ」について注目する。

 

「保育ママ制度」を調べていて感じたことは、「保育ママ」に関する資料が少ないことだ。どこの自治体を見ても、保育ママ制度があるとは言っても調べ進めると名ばかりだったり、かなり小規模であったりした。そんな中でひときわ「保育ママ」に関する資料や制度が充実していたのが東京都世田谷区である。

 

世田谷区の「保育ママ制度」は保護者が子どもを家庭で保育できないとき、毎日一定の時間、 区が認定した保育ママが、自宅で家族の一員として子どもを預かるもので、2〜5名までの少人数の家庭的な雰囲気の中で、一人ひとりの個性を尊重しながらのびのびと保育していくのを目的としている。対象児童は、世田谷区内在住で生後36日から3歳未満の健康な乳幼児、また区が定める「家庭で保育できない事情」を一定の基準により認定された場合である。「家庭で保育できない事情」とは以下の通りである。

     日中、保護者が就労している場合

     保護者が出産・病気または心身に障害がある場合

     常時、保護者が同居の親族を介護している場合

     災害の復旧にあたっている場合

     その他、保育できない事情がある場合

 

保育ママ申し込みの流れについては、まず<情報提供及び案内>各保健福祉センター生活支援課子ども家庭支援担当または子ども部保育課保育サービで説明や案内を受け、<話合い・申込み>保育内容・保育日・保育時間・食事・子どもの体質などについて保育ママと十分に話し合いの上、直接保育ママに申し込む。<契約>保護者と保育ママとで契約をし、その後、保育開始となる。

 

保育料についてみると、保育園は前年の所得税課税額によって月額保育料が決まるのに対し、保育ママは基本的に月額25千円で、それとは別に食事・おやつ・おむつなどは保護者が持ち込むか別途代金がかかる。しかし、世田谷区の保育ママ制度には「保育料補助制度」がある。これは保育ママや保育室を利用した世帯の保育料の負担を軽減するためのもので、所得税課税額に応じた援助金が与えられる。例えば第一子の場合、所得税課税額が21万円未満の世帯には税額区分ごと定まった援助金が与えられ、同一世帯から2人以上の児童が認可保育園・保育ママ・保育室を利用している場合の第二子からは50%負担、第三子については全額免除となっている。

 

国税庁の統計(平成12年調べ)によると国民の平均所得567万円の所得税は68万円であり、これを保育園と保育ママの第一子の保育料で比較してみると、保育ママの対象である3歳未満の乳幼児では保育ママの方が保育園よりも約半額の保育料であり、3歳になるとほぼ同額、4歳以上で保育園の方が安いという事実が分かった。つまり、保育料に関して言えることは3歳未満の乳幼児の場合は、保育ママの方が経済的には良いということ、また保育ママの保育料補助制度は子どもの養育費もばかにならない現代には嬉しい制度であるし、少子化対策にも一役買っているように感じた。

 

保育時間についてみると、基本的に午前8時30分から午後5時までの間の8時間であり、午前8時30分以前・午後5時以降の保育は時間外保育となり、別途時間外保育料(保育料補助対象外)がかかる。1日8時間を超える場合は、基本時間内であっても時間外保育料の対象になる。基本時間を超える場合でも、保育時間は極力、開始は午前7時30分以降、終了は午後7時を過ぎないように心がける。保育ママが保育する日は、日曜日、国民の祝日に関する法律に定める休日・年末年始(12月29日から1月4日まで)・年次休業(年20日間)・夏期休業(7月1日から9月30日までの間の5日間)を除く毎日である。年次休業・夏期休業は特定された日ではなく、保育ママから事前に連絡することになっているのだが、保護者との話し合いの上、計画的に取得するという点からも、保護者と保育ママとの信頼関係や相互の理解、協力が非常に大切であると思った。

 

世田谷区のホームページは非常に充実していて、私が一番感動したところは世田谷区保育園・保育室・保育ママ・認証保育所の施設情報を検索できる「保育施設情報検索システム」があったことだ。地域や施設を選び、子どもの年齢などから適切な施設情報を表示してくれる。もちろん保育ママの情報も充実していて、所在地・連絡先・定員と空き情報・保育方針・一日の流れ・年間スケジュールなど事細かに知ることができ、忙しい働くお母さんなどからしてみれば、これほど詳しい情報が家に居ながらにしてインターネットで検索できるのは嬉しい限りであるに違いない。

 

また区では、保育ママに対し運営費等の補助をおこなうほか、研修会を実施したり、抜き打ちで巡回指導相談員が訪問し、子どもの健康管理について助言や指導をしており、つまり「保育ママ制度」は自治体と保育ママと保護者の連携によって可能になっているもので、そこに相互の信頼関係が築けてこその制度だと強く感じた。

 

待機児童の問題は都市部で顕著であるので、世田谷区でこれほど「保育ママ制度」が充実しているという事実は、これからのこの制度の有用性を暗示しているようにも思うし、また子育てなどで一度職を離れた人が「保育ママ」として再び活躍できることや、女性の社会進出や仕事と子育ての両立を促し、少子化が少しでも解消されればと、この制度に期待したい。

 

 

<資料>

Wikipedia待機児童」

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BE%85%E6%A9%9F%E5%85%90%E7%AB%A5

厚生労働省H.P.

「保育所の入所待機児童数等について」

  http://www1.mhlw.go.jp/houdou/1111/h1118-1_18.html

「保育対策等について」

  http://www.mhlw.go.jp/topics/2003/bukyoku/koyou/r6.html

世田谷区H.P. 

http://www.city.setagaya.tokyo.jp/index.shtml

国税庁H.P. 「平均所得統計情報」

  http://www.nta.go.jp/category/toukei/tokei/menu/hyouhon/h12/06.htm

保育ママ情報比較 

http://www.geocities.jp/nhk_wm/jichitai/hoikumama.htm