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常川久幸「ひたちなか市における、湊鉄道対策協議会の活動状況について」

国際学部国際社会学科3年

 

1、ひたちなか市と茨城交通

 現在、日本各地の自治体では厳しい財政難によって、窮地を凌いでいる現状が見受けられる。さらに平成17年には、今までに有り得なかったとされてきた、“自治体の破産”つまり企業でいう、“倒産”という状態まで起こってきている。それが北海道夕張市である。現在、市では財政赤字を市民などに公平に負担してもらおうと必死で検討しているが、やはり現在まで膨大な赤字を素通りしてきた行政への風当たりは厳しい。しかし、同時に厳しい現状に立たされているという面では、中小零細企業も同じかもしれない。特に中小のローカル鉄道に注目してみると、各地に倒産寸前の企業が多く見受けられる。破産に追い込まれている有名な私鉄として、千葉県内を走る「銚子鉄道」は各マスコミに注目されて、濡れせんべいや鉄道グッズ販売など一種の“地道な再建”ということを全国的にアピールした。

 

そのような再建計画を行政援助と協力して行っていこうとしている場所が茨城県ひたちなか市にある。行政支援を受けようとしているのは、地元企業の「活城交通」(本社:茨城県水戸市)である。その中でも極めて赤字が目立つとされているのが、ひたちなか市を横断するように走っている、那珂湊鉄道(湊鉄道)である。茨城交通では、かつてはJR水戸駅前やひたちなか市内にて数多くの鉄道を運行していたのだが、その数も減少し、今や湊線のみとなり、現在ではバス鉄道業務のほか、ゴルフや不動産業によって経営を成り立たせている。しかしながら平成17年、茨城交通は湊線事業の廃止を打診したことによって、本格的な地元であるひたちなか市による対策協議会が発足した。つまり、行政による一般民間企業への支援策を試みたのである。下記ではその経緯と協議の内容を具体的に記していきたい。なお、本内容についてはひたちなか市の全面的な関係資料提供などの協力を頂いた。

 

2、湊鉄道対策協議会の取り組み経過

大正2年の開業以来92年余り、ひたちなか市を走ってきた湊線(茨城交通那珂湊鉄道)も、マイカー利用や少子化の進展による利用者減少が続き、このままでは存続が危ぶまれる状況に直面している。このため、ひたちなか市では商工会議所、自治会協議会、湊線沿線高校、地元NPO、茨城県交通対策室などの面々をメンバーに、「湊鉄道対策協議会(会長:本間ひたちなか市長)」を平成18年年6月に立ち上げ、湊線の利用活性化対策について協議を重ねている。

 

最初の出だしとなった第1回湊鉄道対策協議会(630日)では、「湊鉄道対策協議会発足までの経過」、また「協議事項」として、協議会規約の制定についてや協議会の進め方についてなど、大まかな今後の協議内容についての枠組みについて話し合いが行われた。さらに、茨城交通・湊鉄道線の利用促進についても多少論議されたと思われる。第2回湊鉄道対策協議会(731日)においては、

さらに具体的な、「活性化イベント案の検討」、そして目線を地元住民に向ける一環として、市民や市内高等学校、勝田高専に通う生徒などに対する「アンケートの内容検討」がなされた。ちなみにこの時点ではアンケートを実際に実施したのではなく、あくまでも内容の検討のみまでに終わった。そして3回湊鉄道対策協議会(96日)では、具体的な茨城交通に対する支援策が盛り込まれ、実戦段階に突入した。内容は、市民に対して現状を報告するということで「市報掲載について」、アンケートを予告する「アンケートの実施について」、「湊鉄道活性化対策について」。市の方針としてはアンケートを最大限活用することとしているため、アンケート結果を後ほど詳しく考察したい。また他にも具体的な先進地における財政支援策と本市の取組についてを報告すると共に、社会実験として「バスとの(施設利用割引)乗り継ぎ乗車券発行による鉄道利用促進試行実験」を行った。社会実験の内容は次項に記したい。そして18年最後の協議となった、第4回湊鉄道対策協議会(1031日)では、結果報告とひたちなか市における支援予算の報告として、「 湊鉄道に関するアンケート(高校生対象)結果について」と「湊鉄道の収支予測について」を執り行った。

 

3、社会実験と茨城交通湊線の財政状況

ひたちなか市は社会実験として以下のことを実施した。ひたちなか市内の高校生、勝田高専生、市民に対するアンケートにより、「地魚干物作り体験と那珂湊史跡街並み巡り」、「海と歴史と新鮮海の幸!秋の港町ハイキング」などのイベント、阿字ヶ浦駅からひたちなか地区への臨時バス運行、市報や雑誌を通じた湊線のPRを実施し、利用者の意向把握や利用促進に取り組んできた。また、1126日には湊中学区コミュニティ組織で湊線を利用した「歩く会」が実施されている。さらに利用面からの湊鉄道に関するアンケートを実施し、湊線を通学に利用する高校生からは、「他に利用する交通手段がない」という回答が50.2%にのぼり、湊線から他の交通手段に切り替えられない生徒が多いことや、湊線を利用している市民の約3分の2が、湊線の維持・存続を望んでいることなどが分かった。また、湊線を存続させるために市民有志の「おらが鉄道応援団」も結成され、これからの利用者増進に向けた市民活動が大いに期待されている。

 

茨城交通の収支予測では、平成19年度から平成23年度の5ヵ年で、行政からの鉄道事業支援である“鉄道近代化補助制度”を受けない場合には、509,456千円の営業赤字と、597,760千円の設備投資、合計1,107,216千円の事業者負担が生じる見込みとなるため、何らかの財政支援を受けなければ、鉄道事業の続行は困難であるとしている。鉄道の安全運転を確保していくための設備更新計画の精査や、鉄道近代化補助制度の適用検討を行うとともに、さまざまな利用者増進策に取り組みながら湊線の存続を図る方策について、事業者、債権者、茨城県と調整を進めるとともに、他の地方鉄道の事例も調査した上で、18年度内に存続対策を決定していくとしている。

 

4、ひたちなか市内高等学校を対象とした湊線利用アンケート結果

現在、湊線を利用している高校生は、市内の高校(那珂湊一高、那珂湊二高、海洋高、勝田高、勝田工業、佐和高)の全生徒3,138人中257人である。また、那珂湊地区から水戸・日立市など市外の高校に通学している生徒456人中187人が利用している。両方合わせると、3,594人中444人(12.4%)にのぼる。このうち、市内6高校の生徒を対象に市では、学校への主な交通手段や通学時以外の湊線の利用目的や通学に利用する理由などについてアンケートを実施した。ちなみに配布数は3,138人、回収結果は2,817人で回収率は89.8%だった。以下がアンケート結果による湊線利用状況である。

 

 学校への主な交通手段は、「自転車」56.2%(1,582人)、「JR(常磐線・水郡線)」22.8%(643人)、「湊線」9.1%(257人),「その他の交通手段」11.9%(335人)となっている。那珂湊地区の高校3校へ通学している生徒に限ると、湊線を利用している生徒は24.5%(952人中233人)と、4人に1人が利用している。また通学時以外で湊線の利用は通学以外では、買い物(48.8%)や娯楽・レクリエーション(23.2%)での利用が多くなっている。さらに湊線を通学に利用する理由として、「他に利用する交通手段がない」と回答した生徒が50.2%と最も多く、湊線から他の交通手段に切り替えられない生徒が多いことが分かる。

 

上記が現状についての結果である。実際の廃止問題への対応はどうであろうか。「県や市の金銭的な支援で存続」37.2%、「事業者の更なる経営努力で存続」33.0%、「バス等へ代替」21.6%であり、他の交通への切り替えよりも、湊線の存続を望んでいることが分かる。さらに湊線の維持・存続に向けた取り組みについて、「生徒会が主体となり様々な存続運動に取り組む組織を立ち上げた場合に、参加しますか」との問いに対しては、市内高校の湊線利用者を上回る数の生徒が賛同していることから、活発な存続運動の展開が期待される。湊線が廃止となった場合、鉄道から他の交通手段への切り替えは難しく、高校生だけでも毎日約450人の足に影響が出てしまう。これらのことから、湊線を存続させていく必要性は極めて大きいものといえる。また、一般市民を対象にした湊線の利用の有無や利用目的、利用する理由などについて自治会を通じたアンケート【配布数は80自治会(400人)、回収結果は68自治会(320人)で回収率は80.0%】結果も同様となり、結果としては3人に2人の人が湊線の維持・存続を願ってる現状が見えた。さらに湊線の存続を望む人は実際に利用している人より27人ほど多いことから、今後高齢化が進むなかで、自動車の運転が困難となり、鉄道利用に転換する市民は増加していくと考えられる。これらの結果として湊線は、高齢化社会を支えていく交通弱者の足として、存続が必要な市民のための鉄道であることが受けて取れる。市ではこの結果を重視し、今後の支援策の検討を図っていくという。

 

5、考察

 今回の報告では現在進行中の行政支援ということで、試行錯誤の現状報告のみで本格的な結論まで導くことが出来なかったが、過程の中にも行政の積極的な支援が窺えたと思う。ここで注目したいのが、なぜ市がアンケートをここまで細かく重視し活用しようとしたのかである。銚子電鉄の事例を見てみたい。確かに銚子電鉄では、路線存続のために予算作りとして鉄道グッズや濡れせんべいの販売に積極的になっているが、大半は市外県外の人を対象とした試みでしか過ぎないと考える。これでは実際に利用している地元住民の存在を忘れているようにも感じられる。大切なことは存続することのみに重点を置くのではなく、存続の是非を現状把握することではないであろうか。実際に利用者はどう感じているのかを把握することで、利用者自身も積極的活動関与ができると考えている。行政と市民が現状を再確認するということで方向性はまとまり、初めてより良い行政支援を受け入れることができる。

 

行政支援とは、まずは“市民を知ること”であるということが今回の考察で理解できたと思う。まさに、“市民によるまちづくり”を考えさせられる事象だと感じた。