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白出 愛【仙台市営地下鉄東西線の必要性】

 

 

宮城県仙台市では、ラッシュ時の渋滞が激しい仙台市東南部および西南部(八木山地区)から仙台市中心街へのアクセス向上を目的とし、2015年までに太白区の動物公園駅(仮称)から仙台市若林区の荒井駅(仮称)の約13.9kmを結ぶ、市営地下鉄東西線を計画している。正式名称は仙台市高速鉄道東西線。この計画については、現在様々な議論がなされている。はじめに述べておくが、私は地下鉄東西線は必要ないと考える。これからその理由を述べていこうと思う。

 

まず、資金面において様々な問題がある。現在仙台市内には富谷駅と泉駅間に地下鉄南北線が開通している。しかしその南北線は年に約20億円の赤字を算出している。さらにその赤字を賄うために仙台市の一般会計からの13億円の補助金が出されており、計33億円の赤字が算出されている。累積の欠損金は1090億円にも上っている。仙台市には昭和51年から法人関係の税金の一定部分を積み立てているあまり例を見ない独自の「高速鉄道建設基金」がある。平成14年度末現在の残高は約480億円。市は今後も毎年40億円程度を積み立てていくため、東西線の建設費用を充分まかなうことが出来るとしているが、この通り南北線は赤字経営のままである。ここから言えることは、仙台市は地下鉄南北線の失敗を学んでいないということだ。これほどの赤字があるにも関わらず、利便性だけを考えて新たに地下鉄を建設しようという市の意向が私にはなかなか理解し難いところである。

 

現在、東西には電車もバスも走っている。電車の本数を増やし、市営バスの値段を下げることと、地下鉄を新しく開設するのではどちらが低コストだろうか。団地と仙台駅間の料金は500円以上もかかる。仙台市民の知人に聞いたところ、高くて乗る気がしないと言う。また、地下鉄よりもLRT(軽量軌道交通)やモノレールを開設する方が低コストである。これらのことを駆使すれば地下鉄を作るまでの必要はないと私は考える。

 

工事費に着目してみると、動物公園駅周辺の八木山地区は昭和30年代まで亜炭の採掘が盛んであった地区であり地下が穴だらけの可能性があることや、東西線の卸町駅近辺以東は海抜が低く冠水し易い地区であることはこれまでの被害経験から明らかであることから、総工費が予測以上に増えることが容易に予測できる。

 

次に、需要予測の甘さが指摘出来るだろう。市は東西線の利用人口予測を132000人と算出しているが、200571日現在の推計人口は約1027000人。この112万人という数字は、例えば東西線予定の沿線に毎月大型のマンションが12棟建設されて完売・即入居という状況が開業までに継続されないと達成できない数字であるのだが、東西線が通る路線は南北線よりも住んでいる人が少ない上に、若林区では人口減少すら始まっているという状況からして、達成困難な数字であると言える。また、東西線HPに東北大学に通う学生に便利になると記載されていたので実際にそこの学生に聞いてみたところ、東北大は坂の上にあるからそこに駅を作ってくれれば良いかもしれないけど、坂の下に出来るのならバスと変わりがないから必要ないと言っていた。全体として仙台市はメリットを無理にこじ付けている、もしくは嘘で固めているのだとしか思えない。そんな曖昧なことをしていては確実に需要予測を下回って更に税金で穴埋めしていくことになるのではないだろうか。

 

それに関連して、市民の認知度・関心度の低さも気になるところである。東西線建設にあたっての財政難を先日放送されたテレビを見て知ったというケースも少なくないようだ。また、費用便益比について、国が鉄道を建設する際に比較検討するために用いるマニュアルを、仙台市が改変して使っていることが明らかになったことから、市民の不信感も強くある。自分等の税金が使われるのだから市民はもっと関心を持つべきだと思う。また、仙台市は「東西線は大丈夫です。10年目で単年度黒字化、19年目で累計黒字化できます。」と主張しているが、南北線も未だ赤字運営なのにも関わらず、なぜそう言い切れるのか不思議でならない。そこまで言うならば仙台市はテレビ放送を使うなどして、大々的に市民にきちんと説明する必要があると私は思う。

 

次に、環境的問題としてケヤキの移植が挙げられる。仙台市は「杜の都」と呼ばれるほど街に緑が多くあり、その中でも青葉通りのケヤキ並木という市のシンボル的並木道が在る。毎年冬には定禅寺通りと青葉通りのケヤキ並木に数十万に上る数の電球を取り付けて点灯する「光のページェント」というイルミネーションイベントが催される。これほど大きなツリーの光のアーチはやはり杜の都・仙台ならではであり、全国に誇る美しさとスケールだと言えるだろう。それほど仙台ではケヤキ並木が重要視されているのだが、今回の工事方法は建設費を抑えるために地上から掘っていく開削工法を使用する予定であるため、木々を一時移植する計画がされている。しかし、移植してしまうと枯死する可能性が出て来る。仙台の貴重な財産とも言える樹齢の長いケヤキ等が枯死したならば若木を植えれば良いという話でもない。シンボルを犠牲にしてまで利便性を追求する市に好感は持てない上に、「杜の都」の名が遠のくことが懸念される。

 

地下鉄は建設費のローンさえなければ非常に効率の良い乗り物だと言える。私自身も市営地下鉄を利用することが多々あったのだが、仙台は冬になると雪のために仙山線や東北本線などの電車が運転見合わせになることが日常茶飯事と言っても過言ではないほど多くあり、そのために何度も足止めに遭った経験がある。その点地下鉄だと雨風に晒されない為、時間の遅れもなく目的地に行ける。電車に比べて本数が多くて利用し易く、仙石線とは地下通路で連結されているため、仙石線利用者であった私には有難いものであった。(東西線計画ではJRとの相互乗り入れはない。)出来てしまえば地下鉄はこの上ない利便性を持っているのだ。しかしこの莫大な建築費が、その後何十年にもわたって地下鉄経営に重く圧し掛かってくることは言うまでもない。

 

東西線建設においてのメリットは利便性しかなく、デメリットは多くある上に深刻だ。こんな問題だらけの計画が既に開始されているということに私は驚きを隠せずにいるのだが、始まってしまったことは仕方がない。仙台市にとって、今後市民の不信感をどう取り除くのかということと、採算を取るというならば時間は多少かかってとしてもきちんととってみせるということが最重要課題となるだろう。今後も仙台市の対応に注目していきたいと思う。

 

【参考サイト】

・地下鉄東西線なんでもサイト

http://www.city.sendai.jp/toshi/touzaisenchousei/gaiyou/index.html

     再公開質問(H14.12.6)「美しい仙台を創る会」と仙台市の回答 第1点〜第4点

http://www.city.sendai.jp/toshi/touzaisenchousei/shitsumon/koukai02/index.html#q33

仙台市営地下鉄東西線

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%99%E5%8F%B0%E5%B8%82%E5%96%B6%E5%9C%B0%E4%B8%8B%E9%89%84%E6%9D%B1%E8%A5%BF%E7%B7%9A

・東西線を考える1

http://www.im-sendai.jp/archives/2005/07/post_145.html

2005仙台市民意識調査概要 4.交通概要

http://j-sendai.jp/katsudou/05_shimin/4_koutsu.htm

仙台市 goo-wikipedia

http://wpedia.search.goo.ne.jp/search/%C0%E7%C2%E6%BB%D4/detail.html?from=websearch#.B3.B5.CD.D7