070115saitok 

齊藤香織 「大館樹海ドームは必要であったか?」

 

 現在日本全国には7つのドームが存在する。私の故郷である秋田県大館市にも平成981日にオープンした「大館樹海ドーム」(以下ドーム)がある。このドームは現在木造ドームとしては世界最大規模の空間を持ち、使用木材には秋田杉が使われていることで注目を浴びた。しかし田んぼの真ん中にひとつ大きなドームがそびえ立つ景観は少し違和感をおぼえるところもある。現在日本にあるドームのほとんどは東京、名古屋、大阪などの大都市に建設されており秋田県のような過疎化が進む地方にドームがあるという状況を私は少し不可解に思ってきた。そこでドームは本当に必要で、そこにはどんな可能性が隠れているのかをドーム建設の流れとともに調べていきたいと思う。

 

 それではドームはどのような経緯で建設されるに至ったのだろうか。ドーム建設当時、大館市役所の都市開発化に勤めていた父の話を交えながら整理していきたい。ドーム建設の話が出てきたのは平成3年のことで、秋田県の県営事業として展開されてきた。その大きな目的のひとつが県内の文化的施設の均衡であった。秋田県は大きく分けて秋田市周辺の中央地区、大館市周辺の県北地区、湯沢市横手市周辺の県南地区、3つの地域に分けることが出来る。その中で、もともと秋田県中央部には文化的施設は揃っており、県南には「あきたふるさと村」という郷土を知るテーマパークがあった。そのため当時の大館市長、小畑一氏が県北である大館に文化的施設を建設し県内の文化施設の均衡を図るという口約を市長選挙の際に発言した。そして住民のニーズの高まりに対応し、多様な活発化やスポーツ競技力の向上を図るために、天候に左右されずに冬季間も利用できる大空間施設として大館樹海ドームが建設されることに県との交渉の結果決定し、平成981日のオープンに至った。

 

しかしドーム建設に当たっては問題も多かった。まずは施設の活用についてである。確かにドームが建設されれば雨天時や降雪期のスポーツは可能である。だが、使用形態からすればドームよりも大型体育館の建設が望まれていたことも事実である。というのはドーム内で出来るスポーツの種類は限られているからだ。樹海ドームの大きさでは野球の公式戦は出来ない。この件については以前から多目的大型体育館の方がよいという大館市体育協会からの意見が多かった。次に立地場所についてである。樹海ドームは土地の問題から市内の文化施設のある中心部から遠く離れてしまった。文化的施設が一定の範囲内にあるほうが多面的に使用でき、大きな大会があるときなどは有利である。しかし、既存の施設からドームは遠く離れてしまったため、市の中心部からドームまでの交通整備が必要とされ、それにも多大な事業費がかかった。これらの問題は何かを建設する場面において必ず浮上してくるものであると思う。ドームが出来た今では、大館市民はドームを自分たちの財産として活用している。また、今年秋田県では「あきた若杉国体」が開催されるのであるが、そこでもドームは大会会場として、交流の場として大きな役割を果たしてくれるであろうし、そのためにドームの隣に新たに建設された大型体育館も市民にとって大会後も大いに活用できる施設になりつつある。現在ドームは各ミュージシャンのコンサート、相撲の巡業、プロ野球イースタンリーグ、産業祭、地元の野球大会など年間を通して様々なイベント・スポーツの場として市民に活用されている。

 

 これまで述べてきたようにドームができたことによる最大のメリットは地域の活性化である。ドームができたことで大規模なイベントが行える環境が整い、大勢の観客を呼び込むことが出来るようになったため、ドームだけに限らない地域の活性化につながっている。コンサートの開催を例にとって見ると、コンサートが開かれると大館市に市外県外からたくさんの観客が集まってくる。飛行機、バス、電車などの公共機関で往来し、食事の際は外食をし、ドーム近辺のホテル、旅館に宿泊する。帰る際にはお土産も買って行く。このように大きなイベントが開催されると、ドームだけではなく大館市の他の産業、商業、交通にも影響を及ぼし結果的に大館市全体で大きな収益を上げることが可能となる。実際に他の施設とあわせてイベントが増えたことにより地元の産業が潤い、市の税収増に至った。

 

一方、それにともない生じたデメリットとして公共被害が挙げられる。それまで水田地帯であった土地にドームが出来たことで、狭い道路での激しい交通の往来が渋滞を引き起こしている。大型施設であるが故に駐車場に車が入りきらず周辺地域での迷惑駐車も増加した。また、交通渋滞に伴う騒音、排気ガスの問題も起こっている。コンサート時にはドームから大音量の音が漏れ、騒音の苦情も相次いだ。この騒音は私も感じたことがあり、ドームから2キロ近く離れた我が家にもコンサート時にはその音が聞こえてきた。それを考えると周辺地域への騒音の被害がどれほどだったのかが想像できよう。その他にもゴミの増加、ドームが水田地帯の景観を乱しているなどの公共被害が露呈しだしてきた。

 

 メリットの面を見ていくと、ドームが出来たことで大きなイベントが開催できるようになり地域活性化に大きく貢献している。しかし、デメリットの面を見ていく限りでは全てドームが出来たことで引き起こされている問題であった。では極端な話、このデメリットを改善していく方法としてドームをなくすという解決策は果たして妥当なのであろうか?私はその方法は適切ではないと私は思うし、それこそ無理な解決策であると思う。ドーム建設の目的にもあるように、文化的施設の均衡として樹海ドームは建設された。ドームがなければ大型体育館などの他の大型施設が出来ていたと考えられる。つまりこのデメリットはドームでなくとも出てくる問題であって、これらの問題は最初から想定されうる問題であったのではないかと考えることが出来る。そしてそれを改善していくには、多少の支出と時間が生じても道路やゴミ環境の整備、ドームの防音工事等のメンテナンスなど使用者と周辺住民に配慮した対策を講じることが重要であると思う。しかし、第一に考え、実行して欲しいのはこの樹海ドームでなければ味わえないコンサートの醍醐味や大規模な大会の開催、地域交流の場所というドーム特有の持ち味をもっと我々は生かすことである。ドームという巨大な文化施設を有効に使わない手はないし、もっとドームを身近に感じることによって私たち大館市民のドームへの関心は高まり、ドームを効率的に使用することが可能になるのではないだろうか。

 

 これまで述べてきたようにドームにはデメリット以上に重要な要素があるメリットが存在している。では、市民は本当にドームを必要としているのだろうか。ひとつの資料として、2006年3月31日に大館市役所で行われた「あなたが採点する行政の通信簿」中の樹海ドーム部門の結果を見てみる。この世論調査の内容は「大館樹海ドームに関する市民評価」であった。調査の結果を見てみると、市民にとってドームの存在は「おおむね重要である」と言うことができるようだ。年齢別に見ると50代以上の市民から特に評価を得ており、また天候に左右されない大空間でスポーツ活動が出来る貴重な施設だということも認識されている。満足度と重要度を比較した表から自治体は、今後ドームの存在がますます大きくなってくる可能性があると示しており、総合評価としてこの施設は幅広い年代から評価を得ているとしている。また、回答の中にはドームをもっと推し進める施策を立案、実行して欲しいという意見もあった。これはあくまで自治体側のまとめた世論調査の結果であり、あまり問題点もないような記述の仕方ではあるが、市民にとってドームが必要とされているということを感じることが出来る。しかし私はドームの使用形態については現状維持のままは良くないとも思っている。莫大な費用をかけて作った割には、現在のドームの使用のされ方や市民への普及度はその利用の仕方も考えると十分な活用内容とは思われない。ドームは市民にとって重要な施設だと言うことは言うまでもないが、それを最大限活用できるようなイベントの立案、実施においてはさらに努力する必要があると思う。また、その際にはもっと市民にドームの使用を呼びかけ、みんなにとって身近な存在になることで今後もっとドームの必要性は上がってくるのではないだろうか。公共被害というデメリットも大館市民、周辺住民にドームが目指すべきビジョン、それに向けた対策を提案しそれに向けて共に協力し合っていくという姿勢を見せることが出来れば改善の方向に向かうのではないかと思う。あるものは有効に活用しなければならない。既存の使用方法だけに限らず新しい活用の方法を模索することによって大館市の資産であるドームがもっと注目される可能性が見出されるのではないか。

 

参考・引用サイト

http://www.jukaidome.com/a%20course/a%20course.html 大館樹海ドーム公式ホームページ〜あゆみ〜

 

http://www.iimachi-akita.jp/pro/nipponiti/doom.html 大館樹海ドーム〜世界最大級の木造ドーム〜

 

http://ww2.city.odate.akita.jp/dcity/sitemanager.nsf/image/209B211997C03F9C4925714100047665/$FILE/zyukaidome.pdf 大館市役所ホームページ〜あなたが採点する行政の通信簿〜

 

父へのインタビュー