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「人口減少時代における自治体経営」

 

日本の人口は縄文時代からほぼ一貫して増加してきた。しかし200412月をピークに日本は長期的な人口減少時代を迎えることとなった。多くの専門家による予測を数年前倒す結果となったことからその進行の早さがうかがえる。日本の人口減少の原因は少子高齢化による人口構造の変化によるものである。特に高齢化のスピードは著しく例えば高齢化社会から高齢社会への移行はアメリカは70年、ドイツやイギリスが45年かかったのに対し、日本がそれに有した時間はわずか24年である。さらに日本が高齢社会となった年から11年後の2005年には高齢化率が21パーセントを超え、超高齢社会となると同時に世界最高の高齢化率を記録した。この急速な人口の変化は地方自治にどのような影響を与えるのだろうかという疑問を出発点に、主に財政に焦点を合わせつつ考察していく。

 

始めに日本において人口減少とはどのようなもので、どのような問題を含んでいるのか考えてみたい。人口減少を望ましいことだと指摘する専門家は意外と多い。その主な理由は、まず経済的にもっと豊かになれるというものである。人口が減れば当然生産年齢人口も減るが、しかし労働力の減少は労働生産性の向上に結びつき、失業率の低下が期待できるといったものである。イタリアやスウェーデン等、人口が減少しているほとんどの国においてこれらの傾向が見られ、その効果は実証済みといえる。二つ目の理由は一人当たりの生活空間の拡大である。日本は山がちな地形のために認識されにくいのだが、山間部を除いた地域におけるわが国の人口密度はある程度の国土面積を有す国としてはきわめて高い。逆を言えば、日本では面積と人口の割合が適当ではないということであり、都市部においては家が狭いからという理由で子供を生まない過程が一割にも上っているという調査結果が出ている。居住空間が拡大することで出生数の増加が見込める。そのほかの理由としては、消費者の絶対数が減ることでエネルギーの節約になるだとか、高齢者向け商品の巨大な市場がうまれるといったものが挙げられる。人口減少というと経済力の低下だとか年金の問題だとか悪いイメージが先行するが、これらの意見を見る限り歓迎されるべき現象のようにも思われる。

 

では次に人口減少が地方自治に与える悪影響について考えてみる。人口減少とはいってもすべての地域で人口が減っているわけではない。大都市圏の周縁部と沖縄県は今後も日本国内における人口移動などによって人口は増加すると見込まれている。日本全体で深刻な自然減の状況にも関わらず、これらの地域のように人口が増える地域があることで、それ以外の地域は自然減と社会減の二重の人口減少に苦しむことになり、一つの地域間格差として捉えることができる。人口が増える地域はこれまでと同様の税収が見込めるし、労働力も確保できるから新たな問題はこれといって見当たらないが、しかし人口が減る側にとっては深刻な問題である。

人口が減れば税収が減ることが予想される。たとえば青森県を例にとってみると2006年時点で47市町村中、31市町村が歳出の4割以上を地方交付税に頼り、それでも足りない分は地方債によってまかなわれているのが現状である。現在の交付金の給付額は大体人口に比例させているため、人口が減れば当然給付額は減る。しかし自治体は既にぎりぎりのところで自治体を運営しているから、交付税の削減は死活問題である。夕張市の財政破綻も交付税が削られたことが決定的だったようである。

 

税収減に加えて深刻なことは社会保障費である。人口減少社会は高齢社会でもある。となれば当然社会保障費はかさむ。北欧は高福祉高負担を取り入れ、福祉先進国として名高い。一方日本はというと、福祉の水準をこれまでのレベルで最低限維持するにしても負担増は免れない。北欧では重い負担を強いる代わりに手厚い保障があるために成功しているが、日本では重い負担をしておきながら、少しの保障しか受けられない低福祉高負担となってしまう。さらには公共サービスの低下やインフラ整備の遅れも十分考えられる。

 

夕張の現在の人口は13千人程度だが、炭鉱が盛んだった頃には12万人ほどだった。だが鉱山が閉鎖し、生産年齢人口が他へ流れ、高い高齢化率となり財政が困難になったことで破綻するに至った。団塊の世代が定年退職を迎えるということで地方は受け皿を作ろうと様々考えているようだが、例えば夕張に住みたいと思う人は果たしてどれくらいいるだろうか。いくら国の管理下におかれるとはいえ、高い税金を払わされるかもしれないし、公共サービスが不十分かもしれない。わざわざそういうところに住む人はなかなかいないだろう。しかし財政が安定しており、福祉等のサービスが非常に安定しているなど住民にとって暮らしやすいところであれば、住みたい人は多いであろう。地方自治体は人口をめぐって競争せざるをえない状況である。住む人がいれば財政は潤うし、いなければ財政は苦しい。そのため今後、夕張のような自治体が増えることは大いに予想される。自治体は住民をひきつけるために、他地域と差別化を図らなければならない。だが先に述べたように自治体には財政的にあまり余裕が無い。そこで活躍するのがいわゆる自治体ではなくそれを担う住民である。

 

例えば最近ではコミュニティビジネスが注目されている。コミュニティビジネスとはNPO等の住民が主体となって、地域の課題や問題の解決を事業として行っていこうとするものである。ボランティアではなく有償で、継続的なサービスの提供が可能である。高齢者介護や生活支援、環境保護、生涯学習等、行政でもできるが住民でもできる分野で活動範囲は多岐にわたっている。もちろん報酬は高くはなく行政が行うよりもずっと安いコストで済む。行政の領域を住民が担うことで経費の削減をより徹底し、浮いたお金で社会保障やインフラの整備に充てたりとサービスを充実させる。

 

大切なことは人口の流出を防ぐために住民に愛される地域づくりを心がけることである。自治体が人口を確保するもっとも手っ取り早く効率のいい方法は他地域への流出を防ぎ、子供を生みやすい環境を整えることだ。だから私は郷土を愛すことについての教育基本法改正には賛成の立場である。住民を定住化するために行政は高付加価値を生む産業等の育成に力を入れなければならない。魅力的な就職先がなければそこで暮らすことはできない。自分の育ったふるさとで暮らせば近くで、あるいは一緒に両親と生活することになる。そうなれば育児の負担は軽減される。特に若い世代においては早いうちに自立できる環境も必要だ。日本人の自立の遅れが欧米に比べて初婚年齢を下げている。結婚が遅いから出生率が低いとの見方もできる。

 

日本の人口減少は世界にさきがけてもっとも進行しており、また先例がないために未知の部分も多い。日本の動向が世界から注目されているが、かつての高度経済成長のような良いモデルケースになれることを願うばかりである。

 

参考文献

 

高木勝 実業之日本社 「人口減少 日本経済・金融・社会はこうなる」

山本肇 かんき出版 「少子亡国論」

www.mizuho-ri.co.jp/research/economics/pdf/report/report06-0330.pdf

(人口減少と地方財政)

http://www.stat.go.jp/

(総務省統計局)