070115nakayamaya
生活保護費について
〜宇都宮市の生活保護の実態〜
国際社会学科4年
中山靖子
私はつい先日、ホームレスの男性が生活保護費を宇都宮市役所に申請するところに立ち会った。また、授業で元ホームレスや生活保護受給者の人たちにインタビューする機会があり、生活保護など社会福祉の充実と重要性を実感した。格差社会の広がりが指摘される中、目に見える形で儲かるところではバブル期のように金が集まり、一方住むところさえ失って、路頭に迷う人がいる。このレポートでは、宇都宮の生活保護の現状を調査するとともに、現在の日本の社会福祉、特に生活保護に関する動向を考察する。
長引く不況から脱却して戦後最長の好況にある日本経済だが、企業の業績は回復しても、国民の間では格差が生じている。「補助金の削減、税源の移譲、地方交付税の見直し」を柱にした三位一体改革を含む分権改革が進められる中、団塊の世代などの一斉退職を控えて年金などの福祉関連の歳出は増える一方でありながら、少子化のためそれを支える財源確保が難しい状態である。政府は社会福祉関連の国家負担を削減するために、国費ベースで約2兆円ある生活保護費を来年度予算で400億円削減、社会保障費を総額2200億円削減する方向で最終調整した(2006年11月30日現在)[1]。
その一方、生活保護法が適応される世帯数は増え続けている。生活保護に関する厚生労働省のデータによると、被保護実世帯数は、平成7年の60万1925世帯から、平成16年には99万8887世帯へと約40万世帯も増加している。また、現に保護を受けた世帯は、平成7年の段階では、高齢者世帯が全体の42%であったのに対して、平成16年では46,7%と、高齢者の被生活保護者が増加していることを示す。増加をたどる被生活保護世帯であるが、生活保護に関する水準は、各都道府県、市町村で異なっている。東京都の高齢者単身世帯(68歳)の場合、生活扶助基準は、8万820円である。一方、地方郡部等は6万2640円である。これは、健康で文化的な生活水準を維持することができる最低限度の生活を保障[2]している額で、扶助の基準は厚生労働大臣が設定する。生活保護には生活・教育・住宅・医療・介護・出産・生業・葬祭の8種類の扶助と、一時的な需要に応じるための各種の一時扶助がある。厚生労働省が定める基準で測定される最低生活費と収入を比較して、収入が最低生活費[3]に満たない場合に生活保護を適用し、最低生活費から収入を差し引いた差額を保護費として支給する。
宇都宮市の生活保護被保護人員は、2003年では3939人であったが、市役所に問い合わせたところ、2006年10月末現在で4893人、世帯数は3468世帯である。たった3年で約1000人も増加しているのは驚くべき数字である。被保護人員と被保護世帯数との差は1425しかなく、世帯でなく個人で、つまりは一人世帯で受給される多いことが伺える。家族による扶助などが見込めないことから、生活保護を受けるのは家庭環境が大きな要因であるといえる。
生活保護の実施機関は、各都道府県知事および市町村長により設置される福祉事務所の長である。まず相談員に相談して申請を行うのだが、そのときに現在の所持金や通帳記帳、などのかなりプライベートな質問も受ける(もちろん同意を得てだが)。宇都宮の場合、単身男性の冬場の平均供与額は光熱費が上乗せされるので8万円くらいになる(ホームレス支援基金共同責任者 原田芳子氏談)。保護ができるかどうかの決定は、14日以内通達され、仮に14日以上かかっても、30日以内には決定する。保護要件を満たさず、あるいは、世帯の総収入が最低生活費を上回る場合は却下される。このような手続きを経て保護費が支給され、年2〜12回の自治体職員による訪問調査が行われる。
しかし、ここで忘れてはならないのは、生活保護を受けられる人は「住所」がある人のみで、住所不定者であるホームレスの人は、生活保護受給対象にならない。現在ホームレスなどの住所不定者に対しては「ホームレス自立支援法[4]」が適用され、一度施設に保護され、生活保護か自立支援を受ける仕組みになっている。現在宇都宮市のホームレスの保護施設は天神町にあり、使用料は約3万8千円である。ホームレスの人は建設現場を渡り歩いてき高齢になり職場から追い出され、ホームレスになることがパターンとして多い。また、養護施設出身者であったり、家庭内暴力、家庭が貧しかったりした人が、生活保護被保護者になったり、ホームレスになる傾向があると、支援団体の人が述べていた。ホームレスの多くは高齢であるため再就職をするのが非常に難しく、そのため施設から出てアパート暮らしをする費用を貯めることは困難である場合が多い。
生活保護受給者の数字から見ても、日本の格差、特に下層と呼ばれる人たちが多くなっていることがわかる。宇都宮市内でも、生活保護受給者は年々増えつつある。ホームレス自立支援法により、ホームレス状態の人が「住居がない」とか「働ける」という稼働能力のため支援が受けられないことは防げるようになったが、そもそも「自立」とは何であるのかという問題も残る。少子高齢化を迎える日本で、いかにして政府の仕事を民間に委託し、財源を確保していくかは死活問題である。しかし、公共サービスが弱者に対して厳しいものになればなるほど、格差はさらに広がっていくといえる。ホームレス経験のある人にインタビューしたとき、政府が提供しようとしている福祉サービスを受けるためには、結局金なければ無理な話で、本当に助けが必要な人には手が差し伸べられないという話が印象的だった。実情を省みないで数字だけを追い求めた効率主義や成果主義は、さらに格差を広げていくように思われる。
参考資料 宇都宮市生活保護のしおり〜相談用〜
インタビュー協力 ホームレス支援基金共同代表者 原口芳子さん
引用ホームページ
「ホームレス自立支援法と野宿者の人権」笹沼弘志(静岡大学)
http://www.jca.apc.org/~kenpoweb/articles/sasanuma020103.html
(アクセス日 2006年12月16日)
「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」
http://www.bekkoame.ne.jp/i/ga3129/ysiennhou.htm
(アクセス日 2006年12月16日)
厚生労働省ホームページより(すべてのアクセス日 2006年12月16日)
厚生労働省要覧:第3編社会福祉 第1章生活保護
第3−4表 被保護実世帯数,保護の種類×年度別
http://wwwdbtk.mhlw.go.jp/toukei/youran/data17k/3-04.xls
第3−1表 被保護世帯人員の保護率,年齢階級×年次別
http://wwwdbtk.mhlw.go.jp/toukei/youran/data17k/3-01.xls
第3−3表 現に保護を受けた世帯・一般世帯の世帯類型別、割合;世帯保護率,年次 http://wwwdbtk.mhlw.go.jp/toukei/youran/data17k/3-03.xls
生活保護制度の概要(厚生労働省HPより)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/seikatsuhogo/seikatuhogo.html
宇都宮市統計データバンク 生活保護被保護人員
http://www2.city.utsunomiya.tochigi.jp/DataBank/main_9.htm
宇都宮市統計データバンク 扶助の種類別生活保護状況
http://www2.city.utsunomiya.tochigi.jp/DataBank/main_9.htm
東京新聞 http://www.tokyo-np.co.jp/flash/2006113001000343.html
[1] その内容は、ひとり親家庭に一律に給付されている母子加算(15歳以下の子どもがいるひとり親の場合、子ども一人につき移住地により月額23,650円〜20,020円を支給する制度) を来年度から3年以内で段階的に廃止、自宅を担保に生活資金を貸し付けるリバースモーゲージ制度(資産価値が500万円以上の自宅を持つ65歳以上の世帯に、自宅を担保に生活資金を貸付、受給者本人が死亡後処分して清算する制度) を導入、生活保護を受けている障害者の医療費なども、より国家負担費の少ない障害者自立支援法による医療費負担を優先させるといった「自立」を支援する一方で、旧来の援助を削減していく飴と鞭を使い分けていくものである。
[2]生活保護法は憲法25条の生存権から派生しているもので、生活に現に困窮している国民に対して程度に
応じ必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立の助長を図ることを目的としている。
[3]最低生活費は八種類ある扶助を合計した金額になり、出産扶助、生業扶助、葬祭扶助は臨時的に適用されるものである。基本的には生活扶助、住宅扶助、教育扶助、医療扶助、介護扶助の合計が最低生活費となる。
[4] 2002 年
7 月 31 日に成立した「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」。すべての人が地域の中で幸せに生きていく権利を憲法、生活保護法により保障されているはずだが、国や地方公共団体が住居を含む最低生活保障義務を果たしていないため、公園や路上など人が住むのにふさわしくない場所で寝起きすることを余儀なくされているホームレスの人々がいることを反省し、ホームレスの人々の自立の支援や、ホームレス状態に陥りそうな状態にある人への生活上の支援を行うことを目的としたもの。