余暇政策論(2001年度前期)レポート―担当教員によるコメント―

青の文章が中村祐司によるコメントです。各々のテーマをクリックするとレポート内容が表示されます。)

 

レポート作成者  テ ー マ

1.  鎌田 美穂子「宝くじと日常生活の関わり

 

消費者側が宝くじ収益金の使途には無関心である点を切り口に、公共事業を実施する「地方自治体にとって

は非常に重要な資金源」となっていること、日本からも購入できるオーストラリアの「ボーイズタウン宝く

じ」などを紹介している。行政の資金源という側面から住民へのわかりやすい形での情報公開の必要性にも

言及する。億単位に達する一等賞金の上昇傾向の指摘や、仮説と実態との乖離をめぐる考察、最後の「苦悩

なき税金」という性格付けが興味深い。

2.三宅 由佳理「スポーツ振興くじtotoについて

 

いわゆる「サッカーくじ」についての丁寧な説明が展開されている。最初のスポーツに対する自分の実践・観戦面で

の愛着が、レポート作成の原動力になっていることが分かる。サッカーくじの問題点として配当金の不安定さを挙げ

た箇所で、「最低配当金額の設定や売上を上げる策」を具体的に提言するとすればどのようになるのだろうか。また、

コンビニでの販売が認められない理由や背景には何があるのだろうか。

3. 清水 文香「スポーツ施設の問題とスポーツの二次的産物

 

「個人的にスポーツが好きだから」というのはこのテーマを追いかけていく上でとても立派な動機だと思う。

スポーツが「人々の交流」と「地域社会の構築」の一助となるという視点から、「スポーツ・健康都市宣言」やスポ

ーツ施設をめぐるPFIの導入を提案している。「スポーツの二次的産物」という着眼点もいい。しかし、例えば、

第三セクター方式をめぐる課題を指摘してもよかったのでは。

4. 関谷 恵梨子「WORLD GAMES 2001 AKITA

 

「ワールドゲームズ」についての概要をよくまとめて説明している。「既存の施設を使用して」の開催や「個

人の自主参加」の趣旨などについて、自分の見解を交ぜながらの興味深い展開となっている。大会の知名度を

高めるための国威発揚的な傾向への変容に対する自分なりの考え、秋田県開催の理由についての考察など、イ

ンターネット情報のまとめに終始していないのがいい。情報を丁寧に検討したことによって、ワールドゲーム

ズを「新しいスポーツ大会の形を示す大会」と位置づけることができた。ただし、例えば、ボランティア活動

活性化のための具体策にも言及してほしかった。

5. 中村 祐司(担当教員) イギリススポーツ政策の新展開と諸課題

    本人であるためコメント省略。

6. 宮澤 由紀「子育て

 

子育てをめぐる公的情報を収集し生かしたいという切実な思いはレポート全体から伝わってきた。しかし、例

えば「多様な保育サービスの提供や雇用環境の整備」の具体的中身を検討してもよかったのではないか。また、

「延長保育促進事業」から「休日保育事業」のうち、どれかに絞って情報を調べ考察するやり方もあったので

は。「2.おでかけ」は参考サイトとして最後に紹介し、「3.子育て支援事業」についても追求する項目を限定

した方がよかった。

7. 田面木 千香「児童虐待問題について

 

「児童相談所における児童虐待相談処理件数」の急激な増加には驚いた。4.5.の記述がまさに自分なりの受

け止め方を全面に出した迫力のある内容だけに、これとの繋がりも考え、「3.防止施策」のところは何とか文

章化した上で、いくつかの施策に絞って国と地方自治体、関係機関の情報を検討してもよかったのでは。この

問題の深刻さと同時にネット上での悩みの共有という新しい局面にも目を向け、多元的な諸問題との絡み合い

を指摘するなど、興味深い内容となっている。

8. 武井 敦子「フリーター問題の真相と課題

 

フリーターの実像を意欲的に浮かび上がらせようとしている。情報を丁寧にまとめているし、目次設定もしっ

かりしている。フリーターに対する従来のイメージを覆すためには、全体的な把握と同時に個人のケースを取

り上げて、多少スペースをとってでも生の声などを紹介する手もあったのではないか。実際の仕事が「接客、

販売、仕分け、配送などの一定の限られた職種に限定されているのではないだろうか」という指摘を企業側の

戦略とも結びつけながら、「まとめ」での鋭い問題意識の提示につなげれば、より一層読み応えが増したよう

に思われる。

9. 佐藤 理恵「これからの日本の教育―ゆとり政策から考えて―

 

週5日制・授業数削減・教科書内容簡素化が学力低下をもたらすという懸念に対して、成績重視でなく「人の

価値を計るような社会」にする必要性を強調する。しかし、高学歴志向とはまさに世の多くの親にとっては総

論賛成・各論反対の典型ではないだろうか。授業を3つのレベルに分けるという発想や中高一貫教育との関連

で高校入試廃止論にも言及するなど、この難問に対して正面から取り組んでいるだけに、以前の「ゆとりの教

育」がもたらした負の側面にも敢えて触れてほしかった。

10. 山本 弘子「余暇政策としての生涯学習―横浜市の場合―

 

「学びがいの充足」「生きがいの充足」「働きがいの充足」「創りがいの充足」を掲げる横浜市の生涯学習行

政は興味深いし、生涯学習支援センターやIT講習会についての概要も把握されている。生涯学習が社会を

「生きぬくためのひとつの道しるべ」という視点には新鮮さを感じた。だからこそ、例えば、他の自治体も含

めて、市民からみたこの領域における行政サービスの受け止め方や、地域レベルでのボランタリー団体による

生涯学習活動の取り組みなどにも言及してほしかった。

11. RINAサマーボランティア

 

ボランティア活動全般ではなく、サマーボランティアを取り上げた着眼点はよかった。しかし、いずれの事例も

もっと詳しく具体的に紹介してほしかった。「ボランティア活動は我慢してするのではなく、我慢できないから

する」というのであれば、やはりこうした事例の提示は不可欠であるように思われる。

12. 椎名 真弓「エコツーリズムについて

 

「資源の保護+観光業の成立+地域振興の融合」を目指すエコツーリズムを達成することは容易でないことが

分かる。現地の人々に不自由を押し付ける構図は、先進国と途上国の固定化にもつながるとも指摘されている。

エコツーリズムを通じて自然環境保護を訴える重要性は分かるが、これ以外に何か独自の視点を提供してもよ

かったのでは。

13. 梅村 理恵子「参加型開発

 

主体的参加型農村調査法について、その意義と手法について概略的に説明している。「地域の多様な特性と組

織作りをいかに融合させ、組織のメンバーの公平性を確保するかが問題である」という指摘はもっともである。

反面、まさに「言うのは容易」で「貧しい人々を主体としていく」ことが参加の押し付けにつながる懸念も否

定できないであろう。

14. 佐々木 哲夫「政治に影響される観光地

 

インドネシア政局についての3つのシナリオが提示され、まずはこの国の基本的な政治制度や政治的現状につい

てうまく整理している。インドネシア随一の「外貨獲得地」である観光地バリ島への影響など興味深い。政治が

観光地に及ぼす具体的な影響についてよく分かる内容となっている。観光地サイドに立った取り組みや活性化案

が紹介されればレポートの幅が広がったのでは。

15. 岩佐 真樹「21世紀型ディスコ・ユニオン

 

「生成と移動を繰り返す場」としての「レイヴ」に注目し、クラブやディスコとの違いを明らかにしつつ、その特質を

説明している。驚くべきことにレイヴには共同体意識、アイデンティティ、ナショナリズムといった「呪縛」を解き放

す力があるという。レイヴと対極にある「見る―見られる」という関係性は、市民―政治の構図に適用できるのではな

いかという問題提起や、レイヴを通じた個の集まりが一定の主張を生み出す側面があるという指摘は面白い。その他に

もイギリスの「レイヴ禁止法」の紹介や警察の取り締まり、レイヴの脅威、ドイツのラヴパレードなど興味の尽きない

内容となっている。

16. 赤井 里美「福島県における地元密着型テレビ局

 

「伊達ケーブルテレビ」を中心とした自社制作番組の内容紹介。小中学校の卒業式を中継するなど、地域に

密着していることが分かる。定例議会の生中継なども興味深い。ケーブルテレビの今後の普及拡大の可能性

を感じさせる内容となっている。ただ、運営上の課題やスポンサーとの関係などについても知りたいという

思いは残った。

17. 常盤 良美「映画館の普及と発展

 

前半における先進的映画館の技術面重視の説明と、後半の映画館の経緯、さらには映画館の現状とがレポー

トの流れとしてどのようにつながっているのだろうか。映画館が「現実の世界から離れ、リアルな夢を見せ

てくれる場所」であると捉えるならば、読んだ者が納得するような事例を一つでも二つでも取り上げる必要

があったのでは。

18.

 

「茨城県立近代美術館」を取り上げ、活発なインターネット利用について紹介している。他の公立美術館のホ

ームページも丹念に検討した上で、自分の考えを簡潔に伝える文章が続き、説得力がある。「美術館に入らず

して、その中が十分に覗けるようになっている」この美術館をヴァーチャル美術館とは峻別した上で、架空美

術館としての大きな価値があると位置づけている。地域住民との連携を念頭に置いた上での徹底した情報公開

の模様が紹介される。メールでの質問も大変良い試みだ。その他、ユニークで独創的なサービス提供のネット

ワーク化と、ITを利用した新しい「インタラクティヴ」美術館とを見事に活写・評価した秀逸なレポートで

ある。

19. 熊本 真一「コラボレ―ションの変遷

 

音楽業界の「フィーチャリング」とファッション業界の「Wネーム」が意味するところについて説明。コラボ

レイト商品の起源は文化的繋がりだとして、異業種統合ブランド(「Will」と「マツダトリビュート・リン

ク」)にも言及する。前者を「烏合の衆」、後者を「経済的保証」なしとして、コラボレーションの範囲外に

当たるとした。しかし、業界の論理では経済―文化のバランスを標榜しつつも、前者優位は揺らがないのでな

いかという思いもした。

20. RIZAラカン.ムダ.RAKAN MUDA―マレーシアの最大若者のための活動―

 

A New Vision For the Youth”の内容紹介。個々の具体的な施策の説明ではなく、豊富な写真を提示しイ

メージや雰囲気を伝える内容となっている。国家の発展にとって、若い世代への教育・啓蒙が政策の柱に位置

づけられていることが分かる。しかし、何とか自分なりの課題提示等に取り組んでほしかった。