tamonokic010704  余暇政策論レポート 「児童虐待問題について」

k990139 田面木千香

 

1、はじめに

「子供は、どのような肉体的精神的な暴力や虐待、放任など不当な取り扱いをうけないよう保護されなければならないこと」

(子どもの権利に関する条約19条より)

近頃テレビや新聞のニュースを見ていると、親族の児童虐待による死亡事件が頻繁に報道されていることに気づく。私があまり意識していなかったせいかもしれないが、最近、この手の事件が急増しているように感じる。抵抗できない、しかも自分の子どもに対してなんてひどいことをするのだろう、信じられないと感じる人も少なくないはずである。ただでさえ感受性が豊かで物事に影響されやすい時期に子どもが虐待によって負った身体的、精神的な傷を癒すことは非常に難しいことだと思う。しかし「子どもを虐待するなんて!」と批判したところでなんら問題は解決しない。なぜ虐待がおきてしまうのか。虐待する側にはそれなりの理由や事情があるのかもしれない。当事者である親子や家庭の問題の解決をみなければ何の問題解決にもならないだろう。ただしそこで子どもの人権が侵害されるようなことがあってはならないと思うし、悲劇が繰り返されないためにも、私は今回この児童虐待問題について調べてみようと思った。

 

2、児童虐待の現状

「児童虐待はあらゆる年齢の子供たちにくわえられるが、虐待の種類は年齢によってことなっている。幼児や就学期前の子供は概して、骨折、やけど、打撲傷をうけている。これは、乱打児童症候群として知られ、アメリカでこの症候群が最初に確認されたのは1960年代である。また以前から、性的な乱暴や近親相姦( インセスト・タブー)などで、主として就学期の女子児童や青年期の女性が性的虐待の犠牲者になってきたが、最近では就学期前の児童や男子が犠牲者になるケースがかなり増加していることが確認されている。

虐待の定義については、アメリカのある州では情緒的・精神的な痛手も虐待ととらえている。たとえば、継続的な両親の子供との断絶も子供の人格をゆがめるものとされ、虐待の事例としてとりあげている。

もっとも多い虐待は、子供の世話の放棄で、両親が適切な食事、衣類、寝場所、医療、教育、そしてしつけをあたえなかった結果生じる身体的・情緒的な危害である。若い親の場合によくみられるのは、十分な食事をあたえないことで、その結果、幼児は飢餓におちいり、死にいたることもある。」

http://hb5.seikyou.ne.jp/home/KAI-F/yougo.htmより

 

厚生労働省がだした平成11年度厚生省報告例年度報(児童福祉関係)の児童相談所における児童虐待相談処理件数という資料を見てみると、虐待に関する相談処理件数の推移の表からその相談処理件数が平成2年度では1,001件だったのが平成11年度では11,631件と実に10年で10倍以上に増えていることがわかる。同様に虐待の経路別相談件数の表を見てみると近隣・知人からの相談件数の割合が平成9年度では8%だったものが平成11年度では15%と倍近くになっていることから、潜在化していたものが顕在化するようになってきたであろう状況を考慮しても、児童虐待の急激な増加を実感せざるを得ず、問題に対する真剣な取り組みの必要性がうかがえる。

また、主たる被虐待者と被虐待児童の年齢構成の表から、虐待を受けているのは乳幼児から小学生までの幼い児童がほとんどで、その半数は母親から虐待を受けていることがわかる。

このような結果を受け厚生労働省は「児童虐待への対応が社会的な課題となっている。」との見解を示し、平成12年11月20日から「児童虐待の防止等に関する法律」(以下「児童虐待防止法」)を施行。平成13年度予算案において児童虐待防止対策の推進に必要な費用を確保し「児童虐待の予防、早期発見・早期対応、被虐待児童への適切な保護等の総合的な対策の推進を目指す」とした。

 

3、児童虐待防止に向けて

「日本では、1991年に医師、保健婦、弁護士、福祉施設関係者などによる「子供の虐待防止センター」ができた。ここによせられる相談には、核家族化がすすみ、たった1人で不慣れな育児にとりくみ虐待におよんでしまう母親自身からのものが多い。厚生省も、95年度から、養護施設で常時通報をうけつけ、児童福祉アドボケーター(権利擁護者)を派遣する制度をつくるなど対策を講じはじめ、99年度からは、児童養護施設に心理療法士を配置して虐待によるトラウマに苦しむ子供の援助にあたらせ、また地域の連絡網をととのえて虐待の早期発見につとめるようになった。」

http://hb5.seikyou.ne.jp/home/KAI-F/yougo.htmより

 以下に、全国厚生労働関係部局長会議(厚生分科会)資料より厚生労働省の児童虐待防止施策について要約する。

 

児童虐待防止施策について

○「児童虐待」の定義

身体的虐待、性的虐待、保護の怠慢(ネグレクト)、心理的虐待                                                

○児童虐待を受けた児童の適切な保護
速やかな安全確認及び一時保護、立入調査、警察官の援助
・虐待を行った保護者に係るカウンセリングを受ける義務、面会・通信の制限

○児童相談体制の充実について                                                  *児童虐待防止市町村ネットワーク事業                                                        平成12年度より保健、医療、福祉、教育、警察、司法等の関係機関・団体等のネットワーク整備を目的に実施。                             平成13年度予算案においては、200か所(100か所増)を実施することとしている。                                    *児童家庭支援センター                                                                      児童相談所等の関係機関と連携しつつ、虐待や非行など複雑な問題を抱える児童及びその家庭に対し、地域に密着したきめ細かい相談支援を行う施設。             平成13年度予算案では、12年度の実績及び各県の計画等を勘案して10か所(計50か所)の増を図ることとしている。                         *児童相談所の体制整備                                                            保護者へのカウンセリングの充実                                                        児童虐待を引き起こす保護者は、心に問題(保護者自身の被虐待体験等)を抱えていることが多い。心理療法担当職員等のほか、精神科医の助言・指導を得て、効果的なカウンセリングを実施。                                                       *一時保護所への心理職(非常勤職)の配置                                                     被虐待児童は、夜驚、夜尿、べたつき、挑発行為などの問題行動の発現が多い。                                    生活場面において行動観察及び心のケアを実施。                                                 *一時保護所の施設整備                                                                   乳幼児が自由に過ごせる遊戯室や児童生徒が勉強する学習室、来訪する保護者のための面談室等を補助基準面積に追加。                          補助基準面積9.9平方メートル → 18.4平方メートル(1人当たり)                                      児童虐待への適切な対応の徹底                                                        相次ぐ保護者からの虐待による児童死亡等の事件の発生を受けて                                            >迅速な対応・・・虐待の発見や通告がなされたときは他の業務に先んじて対応を行う                                     >子どもの安全確保の優先・・・子どもにとっては安全確保こそが最優先課題                                                  >組織的な対応・・・発見や通告があれば、即刻受理会議を開いて調査やアプローチの方法、あるいは一定の評価を機関として行う。以降も情報の収集や機関連携、援助の方向などを組織的協議に則って進めていく。特に困難な保護者への対応、ポイントとなる調査や機関協議などは複数の職員で対応。                                              >機関連携による援助・・・日常的なネットワークの構築や多職種研究会の取り組み等にも積極的に努力。                                  >家族の構造的問題としての把握・・・積極的介入型の援助の展開。家族全体としての問題やメカニズムの把握の視点と、トータルな家族に対する援助が必要不可欠。                                                                   >専門性の向上、体制の整備・・・児童相談所に必要な人員、体制の整備。児童虐待防止対策に係る体制の強化。                          

○児童養護施設等の職員配置について                                                 *被虐待児個別対応職員の配置                          被虐待児について、集団の中ではできない個人的な受け止めの場を用意し、職員と児童との1対1の関係の中で安全感と安心感を確保し、その児童と職員との信頼感を形成していくことが重要。                                 *心理療法担当職員の配置                            虐待により心的外傷を受けた児童に対しては、遊戯療法や箱庭療法等の心理療法により心の傷を癒すことが必要。親子関係の再構築を図るためには、保護者へのカウンセリングや家族療法等の方法が重要。

     児童養護施設等の整備について                                                     〔平成12年度補正予算〕                                                          >児童養護施設の改築等や新たに情緒障害児短期治療施設、児童家庭支援センターを整備するための経費を計上するとともに、施設整備を行う社会福祉法人等の負担軽減のための特例措置を行うこととした。                                                     >上記した施設等の新設するための施設整備又は設備整備に係る費用を社会福祉・医療事業団から借り入れた場合について、借入金の無利子及び一定の条件に適合する場合の元本の一部を償還免除。(老朽民間社会福祉施設整備並び)                                         上記に係る児童養護施設及び児童家庭支援センターについて、社会福祉・医療事業団の融資率を80%に引き上げる。                           〔平成13年度予算(案)〕                                                             心理療法室の整備・・・                                                                    児童養護施設の不登校児童等治療室、情緒障害児短期治療施設の不登校児等治療室を心理療法室に名称変更して整備。                           親子訓練室の整備・・・                                                                      家庭復帰後の良好な親子関係を構築するための「親子生活訓練室」を平成13年度から整備。

全国厚生労働関係部局長会議(厚生分科会)資料、厚生労働省公式ホームページより

 

4、虐待に悩む母親の声

 「児童虐待をしている親の多くは、みずからも子供のとき虐待をうけていたことが研究の結果わかってきた。ある研究者によれば、虐待している親はおさない性格の持ち主であるとされる。また、他の研究者は、虐待をしている親は子供に自分たちの精神的な要求をみたすことを期待していて、それが裏切られると、おこりやすくなったり、虐待にはしるという。」

http://hb5.seikyou.ne.jp/home/KAI-F/yougo.htmより

実際に虐待に関わっている親の声が聞けないのだろうかと思っていたところ王様の耳はロバの耳という児童虐待、育児ノイローゼで悩む母親のための掲示板に出会った。このページを管理しているいかいかさんは自らも自分の子どもに対する虐待行為と育児ノイローゼに悩む母親であり、なぜ虐待にはまってしまったか、このままではいけないと思いいろいろ試してみたこと、それでもだめで自分がどうしたいのかわからなくなってしまったこと、ネットを始め自分なりの結論を見出すことができるようになったことなど、当然母親の経験などない私にとって当事者の本音に大きな衝撃を受けた。「いいおかさん」と呼ばれたい、子どもにとっていいママでありたいと思うあまり母乳が全く出ないことや長女の病気、年子の出産、それからひたすら育児に終われる毎日などで理想の母親像から自分がどんどん遠ざかっていると感じると同時に激しい自己嫌悪に陥り、どこまでも愛情を持って接するべき我が子を思いっきり叩いた時に自分の中での母親の理想像が壊れてしまったこと、それ以来子どもに対する暴力がどんどんエスカレートしていったこと。正直、これほど母親が大変なものとは思っていなかった。虐待に悩む母親がこれほどまでの辛さを味わっていることを考えたこともなかった。このホームページをあたって実際、私のように感じる人は少なくないと思う。以前マロニエリビングという宇都宮市内に無料で配布されている生活情報誌の読者投稿欄に、してはいけないとわかっているけれど自分の子どもを虐待してしまうというような内容の母親の投稿があった。これに対して他の読者から寄せられた意見というのは「虐待なんて信じられない」「子どもがかわいそう」「自分の子どもになんでそんなひどいことができるの」というような内容のものばかりであった。(かなり前のことなので思い違いをしているところがあるかもしれないがご了承願いたい)確かにそのように思う気持ちはわかるが、責めたところでこの母親の虐待はなくなるのだろうか。これらの投稿を読んで、母親はありがたいアドバイスだと感じるだろうか。この母親はますます自分自身を責め、よりいっそう苦しむことになるだろうと私は思う。王様の耳はロバの耳のいかいかさんもそうであるが、なにも虐待したくて虐待しているわけではなくてできることならそんな状況から抜け出したい、抜け出せるのならどんなことでもしたいと思って自分の行動に悩んでいる母親もいるのだ。こうしたことも踏まえ、児童虐待問題に対する効果的な解決策をなんとか見出すことができないものであろうか。

 

5、考察

 今回児童虐待問題について調べてきて感じたことは、児童虐待問題に限ったことではないと思うが、問題の解決を図っていこうとする場合、その問題が呈するいくつもの側面について様々な分野、様々な方面からの見方や取り組みが必要であるのだなと感じた。今後の児童相談所のあり方、対応の仕方はもちろん、親子間、家庭内での問題にどういったタイミングでどこまで介入すべきかという問題や保育所、幼稚園の問題に対する関わり方、あまりに差し迫った状況の場合になんとしても子どもの安全を確保するために警察介入の是非についての議論など、地域全体で問題に取り組んでいかなければならない状況であることがわかる。そのためには厚生労働省も提唱しているように関係機関の連携を強化し、手遅れになる前に組織的な対応による問題の早期解決が目指されるべきだと思う。

また、この児童虐待問題がそれだけではおさまらず様々な問題(例えば少年の非行や犯罪など)に発展していく、逆に元を正せばこの児童虐待問題に帰結するという事実に、問題の連関性と関わってくるどの問題も平行して解決へ向けての対策が講じられる必要性とを強く感じた。

 そして、私が今回最も気になった虐待に悩む親のことである。彼女たちが自分の気持ちを吐き出せる、その気持ちを受け止められる機関なりグループの発達や、関係ないからといって知らん顔していないでこの深刻な児童虐待問題に対する私たちの積極的な理解が今後ますます必要であると思う。

 

<参照サイト>

厚生労働省:厚生労働省の公式ホームページです。

王様の耳はロバの耳:児童虐待、育児ノイローゼで悩む母親のための本音のHP

http://www.iff.co.jp/jrnl/D20001/top.html

:「子どもの虐待とネグレクト」日本初の児童虐待に関する専門誌の内容紹介。

http://hb5.seikyou.ne.jp/home/KAI-F/yougo.htm

:子どもの権利条約、児童虐待など子どもを取り巻く問題についての説明。

http://www.city.nerima.tokyo.jp/ku/keikaku/kosodate/2-6.html

:練馬子ども家庭支援計画

児童福祉スクエアー:京都府宇治児童相談所心理判定課長柴田長生さんのHP。

子どもの虐待防止センター:子どもの虐待についての相談電話紹介、情報提供。

子どもの虐待ホットライン:児童虐待防止協会の運営する相談電話の紹介。