Suinam010704 余暇政策論レポート 「エコツーリズムについて」

000535 推名真弓

 

はじめに

 「エコツーリズム」、「エコツアー」といった言葉を一度は耳にしたことがあるという人は、少なからずいるのではないだろうか。私も近年、エコツーリズムという言葉をよく耳にし、関心を寄せていた。しかし曖昧な知識とイメージのため、その意味を理解しているとは言い難い。「エコツーリズム」とは一体どのようなものなのか、エコツーリズムの意義とその可能性、懸念されている問題点などを明らかにしていくことによって、エコツーリズムの理解を試みたいと思う。

 

1.エコツーリズムとは

 (1)エコツーリズムの定義

今や世界的な流れとなっている「エコツアー」、「エコツーリズム」という言葉は1970年代から使われ始めたが、一言でエコツーリズムと言っても、あらゆる要素を含んでいるため、その定義は明らかではない。簡単に言うと、エコツアー(ecotour)は、エコロジー(生態学)の概念と、ツアー(旅行)の概念とを兼ね合わせたものであり、環境と観光が調和を保ちながら発展していくことを推進していくものである。エコツーリズム推進協議会(http://www.ecotourism.gr.jp)によると、これは単なるネーチャーツアーではなくて、自然保護を旅行の目的に加える点で以前の旅行とは異なっているとある。エコツーリズム推進協議会の定める定義は以下の通りである。

エコツーリズムとは、

〇自然・歴史・文化など地域固有の資源を生かした観光を成立させること

〇観光によってそれらの資源が損なわれることがないよう、適切な管理に基づく保護・保全をはかること

〇地域資源の健全な存続による地域経済への波及効果が実現することをねらいとする、資源の保護+観光業の成立+地域振興の融合をめざす観光の考え方である。それにより、旅行者に魅力的な地域資源とのふれあいの機会が永続的に提供され、地域の暮らしが安定し、資源が守られていくことを目的とする。

*付記

<上記エコツーリズムの概念を定義付けするにあたっての考え方>

@エコツアーとは、こういったエコツーリズムの考え方に基づいて実践されるツアーの一形態である。

Aエコツーリズムの健全な推進を図るためには旅行者、地域住民、観光業者、研究者、行政の5つの立場の人々の協力がバランス良く保たれることが不可欠である。

B環境の保全を図りながら観光資源としての魅力を享受し、地域への関心を深め理解を高めてもらう手段としてのプログラムがつくられるべきであり、地域・自然・文化と旅行者の仲介者(インタープリテーションの能力を持ったガイド)が存在することが望ましい。

 このように、エコツーリズムは自然環境に配慮したものであり、さらにツーリストに環境への配慮を明示し、自然環境に対する意識を喚起させるという役割を担っている。

 (2)エコツアーの実例

 人々のエコツーリズムに対する関心が高まるにつれ、日本を含めた世界各地で様々なツアープログラムが催されている。NPO SHINRA知床ナチユラリスト協会(http://www.shinra.or.jp/index.html)で実施しているエコツアープログラムの例をいくか挙げてみようと思う。

 まずは、知床を代表する景勝地である知床五湖の原生林をインタープリター(自然案内人)とともに歩いて回る『北海道知床五湖インタープリテーション・ウォーク』。エゾシカやヒグマの痕跡を探したり、目を閉じてしばし森のざわめきに耳を傾けてみたりしながら自然を満喫するプログラムである。

 または、産卵のために川を溯り産卵直後は力尽きてその一生を終えてしまうサケのドラマを観察する『サケの湖上ウォッチング』などもある。9月から11月限定のプログラムで、およそ1時間の貴重な体験ができるものである。

 冬には、アイスダイビング用のドライスーツを改良したものを着用して流氷を歩く『流氷ウォーク』などがある。このドライスーツは浮力があるので、万が一海に落ちても溺れる心配がない安心のプログラムである。

 この他にも、キャンプ体験やフライフィッシング、ハイキングやバードウォッチングなどバラエティに富んだ様々なプログラムが実施され、エコツアーの人気も高まってきている。

 

2.多方面から見るエコツーリズム

 (1)環境保全としてのエコツアー

 やはりエコツアーの最大の特徴は、自然と人間の共存という理念の下に環境保全を目的とした旅行であるという点であろう。エコツーリズムは、地域の文化的特色やそこで見ることのできる景観や野生の動植物の観察、学習、楽しむことを目的として自然に触れることによって自然の良さを知ると同時に、地球環境をより身近に感じ、人々が問題意識を持つようにという発想から生まれた。そのためエコツアーでは、環境教育を推進し、それと関連付けたプログラムを実施しているところが多い。例えばボランティア体験を企画したり、環境教育の講演を行ったりするのである。これによって単なる観光を楽しむだけでなく、資源の重要性と保護を考える場を提供することができるのだ。

(2)レジャーとしてのエコツアー

 先にも述べたが、エコツアーは種類豊富に数多く催されており、それはまた家族と一緒に体験できるものが多い。家族とのふれあいが減少し、コミュニケーションがうまくとれていない家族が増えてきている今日に、そのようなエコツアーは大きな意味をもたらすのではないかと思われる。

また、立教大学稲垣研究室ホームページ(http://tourism.rikkyo.ac.jp/inagaki/B-ecotourism.html)では、「エコツーリズムにおける各種のレジャー活動は従来の観光形態におけるレジャー活動と、内容的にも観光全体に占める位置付けも大きく異なり、こうしたエコツーリズムにおけるレジャー活動を他の観光形態と区別して、特にエコロジカルアクティビティと呼ぶことがある。」と言っている。日常生活では体験できないような貴重な体験ができるため、遊園地やテーマパークなどのレジャー施設と同様に余暇を楽しむ機会が得られるが、その上内容も充実しているために、名所を巡るばかりの観光旅行とは一味違う経験ができるといったところがレジャーとしてのエコツアーの意義なのではないかと思う。

(3)観光事業から見るエコツーリズム

 リゾートについては時代の要請により近年リゾート法が制定され、各地でリゾートブームが起こった。バブル経済の崩壊により、そのブームも下火にはなったものの、余暇の増大や、高齢化の時代を迎え、実需要に基づいたニーズは根強いものがある。このように単体のホテルから複合リゾート(スキー場、ゴルフ場、等を含む大規模開発)までの幅広い設備整備が要求され、機能の複合化を求められてきた。しかしエコロジングにとっては必ずしもアメニティ水準の向上が商品性の改善とは結びつかない。立教大学稲垣研究室ホームページによると、「アメリカ人を主な対象としたエコロジングでは、アメニティ水準や利便性を意図的に低下させ、文明生活を拒絶することで、環境と親和的であるという感覚をつくり出そうという施設があらわれているが、その一方、オーストラリアやベリーズなどのエコツーリズム先進地域では、アメニティ水準とエコロジー感覚の両立を図る施設も多い」という。こうした施設では、自然環境に対する衝撃を最小限に抑えながらアメニティ水準の確保を目指している。

観光計画研究所ホームページ(http://www.gol.com/irp/jpirp.htm)では、開発事業とリゾートについて、以下のように言っている。「特定の地域を事業展開の基礎とするリゾート事業においては、地域住民、コミュニティ、公共団体との協調、及び、自然環境との共存が不可欠の要素であることは、周知の通りである。したがって、顧客の満足、事業主体の満足に加え、地域のファンの増加、地域振興への貢献、自然環境への負荷の低減といった、地域の満足をも高める必要がある。」

観光事業の内容、アメニティ水準等は、地方・地域によって様々であるが、スキー場、ゴルフ場などを含む大規模なリゾート開発は、自然環境を意識し、環境と観光の調和、自然と人間の兼ね合いを考えていく必要があるといえるだろう。

 

3.エコツーリズムの背景

(1)   エコツーリズムの問題点

 80年代半ばに国連などが提唱し始めたエコツーリズムは、地域の資源や文化を守ることが長期的な観光の発展につながるという考え方である。旅行者は専門ガイドの案内で自然への理解を深め、同時に地域経済には波及効果がもたらされる。環境問題への関心の高まりなどを背景に観光業界期待の市場に成長した。しかし、こういった考えに批判的な意見もある。私たちは、エコツーリズムにおける倫理を見出さなくてはいけないというのである。それは、エコツアーの観光客が多く通るために動物の通り道が分断されたり、ブームとなって観光客がいっぺんに増え、それによってもたらされる汚水が生態系に影響を与えるようになったりしたためである。多くのアフリカ諸国では動物の病気やストレス、4WD車の騒音などの問題が表面化してきている。この背後には、当面のところ地域の経済的発展が自然保護に優先するという認識があるだろう。

 他に、外部からきた人が観光関連の仕事を奪っているなどの問題点も挙がっている。多くのインタープリターは現地の住民ではなく、外部のものが多いという事実が原住民を苦しめているのである。

 『記者のインターネット探訪』(http://osaka.yomiuri.co.jp/int/in00710.htm)というホームページでは「重油を使った簡易発電の不自由な時間給電しかない地域に、水力発電のための小さなダムを作る計画が持ち上がると、水系が破壊されるからと反対する。普段の生活では浴びるようにエネルギーを消費しながら、旅行先の人々に『不自由こそが価値だ』と押しつける権利は、だれにもない」と言っている。また、立教大学稲垣研究室ホームページには、「文明生活を享受する先進国のツーリストが、レジャーとして途上国の自然環境や『未開』を楽しみ、そのため自然環境の保持が求められるということは、先進国と途上国の関係を固定化することに他ならない。」とある。旅行者を文明の側、現地を野生・自然の側に置き、その関係を固定化する傾向に危険性を感じ、警鐘を鳴らしているのである。私たちがエコツーリズムを続けるためにはそういった自己中心的で偽善的な考え方を改めなくてはならない。主役はあくまで地元民であるという意識を持ち、地元民が求めているものと、ツーリストの求めるものがうまく調整され、開発もそれを前提に行われなければならないのである。

 同ホームページによると、今後の問題点として懸念されていることは、「エコツアー」というブームが一過性に終わってしまわないかという点、専門ガイドが観念的なエコロジー志向の傾向を持ちすぎるという点である。つまり自然を過度に美化して語っては、エコツーリズムが広く一般性を持つことは難しいというばかりか、人間と自然の共存という課題を解決する糸口は見つけられないということである。

(2)今後の可能性

 エコツーリズムの今後の可能性として最も重要なことは、人々に自然環境保護を訴える役割を担うということであると思う。エコツアーにおいて自然と触れ合う機会をもうけたり、環境に配慮した施設を建設したりすることで、利用者に対し自然環境保護の重要性を喚起することが可能になると思われる。また、観光客を誘致し利益をあげることで自然保護活動の資金源を作り出し、環境保護運動をボランティア行為から事業へと転換していくことも可能になるのではないだろうか。その場合、環境保護の活動はより強化され、人々の意識もより高まっていくだろう。さらに自然を保護し破壊されないように監視する、現地における拠点として機能することも考えられる。このように、今後エコツーリズムは環境保護に対して強固な体制がとられると思われる。しかし前もって複雑な生態系への影響を完全には予測できないので、慎重に前進していくことが望ましいと私は思う。

 

おわりに

 今や環境問題は全世界の、全人類の大きな課題となっている。そのため机上の空論ではなく、あらゆる方向からその問題解決を考慮し、積極的に行動に出なければならないのである。今回、エコツーリズムというものを通して改めて自然保護を見直すことによって、今まで気にも留めていなかった観光というものの裏側、つまり自然と人間の共存のために取り組むべきことというものを考えることとなった。そしてこのエコツーリズムという分野は今後も大いに発展の余地があると感じた。この分野にはますます興味が湧いたので、今後のエコツーリズムというものにも注目して行きたいと思う。

 

<参照サイト>

http://www.ecotourism.gr.jp

エコツーリズム推進協議会のページ。エコツーリズムのイベント情報やエコツアー体験記などが満載で興味深い。

http://www.shinra.or.jp/index.html

NPO SHINRA 知床ナチユラリスト協会のページ。自然環境を考えながらエコツアーを推進するページである。

 

http://osaka.yomiuri.co.jp/int/in00710.htm

記者のインターネット探訪のページ。環境と観光を考え、興味深い情報を載せているページ。

 

http://tourism.rikkyo.ac.jp/inagaki/B-ecotourism.html

立教大学稲垣研究室のページ。エコツーリズムについてあらゆる方面から分析しているページである。