Takeia010704 余暇政策論レポート 「フリーター問題の真相と課題」

K000539 武井敦子

 

はじめに

 フリーター:15歳〜34歳でパートやアルバイトで働く者。男性は継続就業年数が1〜5年未満、女性は未婚者、現在は無業だがパート、アルバイトを希望している者。(労働白書)

現在フリーターの増加は社会問題となっている。マスコミから生まれた、この「フリーター」というカタカナ言葉には、「目的もなくふらふらとやりたいことだけやっていて、職を転々としている無責任な若者たち」というイメージができているように感じられる。しかしフリーターにおける本当の問題は、無責任な若者が増えているということにあるのだろうか。実際どのようなフリーター対策が行われているのか、世間の人々が思うフリーターへの意見、フリーター自身の意見、フリーターの実態より、フリーター問題の真相を探ってみたいと思う。

 

1、フリーターの実態

 97年のフリーターの数は151万人であり、男性は61万人、女性は90万人。92年の101万人から5年間で50万人増加した。2024歳が82万人と最多であり、次いで2529歳が35万人、1519歳が20万人、3034歳が14万人。学歴別では、高卒が35.4%、大学・大学院卒が17.5%、高専・短大卒で12.7%だった。仕事はコンビニやスーパー店員などサービス業が6割強。平均月収は1014万円の人が最も多く、3割強を占めている。経済的な自立が難しいため、家族と同居するパラサイト・フリーターと呼ばれるフリーターが8割弱を占めている。

 フリーターと一口に言っても、さまざまなタイプがあり、フリーターとなった契機もそれぞれ違い、決して一括りにすることはできない。日本労働研究機構主任研究員、上西充子氏は調査により、フリーターを大きく三つに、細かく七つに分類し、その割合を調べている。『モラトリアム型』として、@離学モラトリアム型―進学も就職も選ばずに高校を卒業し、フリーターとなる者。その他に、浪人生活に入ったが、結局大学進学をあきらめてフリーターとなった者や、受験に失敗した時点で浪人生活よりもフリーターを選んだ者、専門学校・短大・大学などに進学したが、自分に合わないと思って中退した者、就職活動をせずにフリーターになった者などが含まれている。A離職モラトリアム型―離職時に当初の見通しがはっきりしないままフリーターとなったタイプ。『夢追求型』としてB芸能志向型―バンドや演劇、俳優など、芸能関係を志向してフリーターとなったタイプ。C職人・フリーランス志向型―若者のあこがれる職業は「職人・フリーランス」タイプのものが多い。それらの職業にこだわり、関連したアルバイトを積むか、自己研鑽した結果をフリーランスの形で積極的に売り込むか、という試行錯誤のプロセスを通して、参入の機会をうかがっているタイプ。『やむを得ず型』としてD正規雇用志向型―学卒時に正社員としての就職を希望して就職活動を行ったがうまくいかなかったケース、離職後正社員としての再就職を希望したがうまくいかなかったケース、特定の職業への参入機会を待っているケース、および比較的正社員に近い派遣という働き方を志向したケースが含まれている。E期間限定型―学費稼ぎのため、または次の入学時期や就職時期までといった期間限定の見通しを持ってフリーターとなったタイプ。Fプライベート・トラブル型―本人や家族の病気、事業の倒産、異性関係などのトラブル契機となってフリーターとなったタイプ。

 フリーターのうち男性の4割、女性の4割が『モラトリアム型』、男性2割、女性3割が『夢追求型』、男性4割、女性3割が『やむを得ず型』である。

 このようにフリーターとなる契機はさまざまであり、自ら選んだ結果としてフリーターになるケースだけではなく、中退、受験失敗、進学断念、離職など、フリーターとなる分岐点は随所に存在する。にもかかわらず、一般的にフリーターといって思い浮かべられるのは、@離学モラトリアム型のフリーターのイメージであるように思われる。また、D正規雇用志向型については、企業の採用活動がもっと積極的に行われていれば、あるいは、特定の職業に関する労働市場の需要状況がもう少し緩んでいれば、このタイプのフリーターは減らすことができるのではないだろうか。

 

 

2、フリーター対策

(1)   国が行うフリーター対策

  フリーターのうち安定的な雇用を希望している10代、20代の若者への就職支援を行うため、52千万円の事業費が、坂口力厚生・労働相と宮沢喜一蔵相の復活折衝で認められた。フリーターが特に多い東京、大阪、神奈川、兵庫の4府県の職業安定所を指定し、個別指導を行う指導員を配置する。安定した雇用を求めて職業安定所を訪れた若者に対して、就職できるまでトータルに支援する。

  具体的には若者に求職登録をしてもらったあと、職業適性診断や、個々の状況に応じた職業指導を実施するほか、パソコン講習など能力開発も行う。さらには求人の開拓や求人情報の提供、企業への働きかけも行い、雇用につなげる。

 

(2)   大学が行うフリーター対策

     帝京大―20014月、新入生ガイダンスの一環で、リクルート社の石川純一・前「就職ジャーナル」編集長を招いて講演会を開いた。約3500人の学生を前に、企業が実力本位で人材を選ぶようになったことを挙げ、自分の得意分野を早く見つけて磨くようにアドバイスした。

     立教大―就職部の提案で、昨年から「仕事と人生」という科目名の授業がスタートした。働く意味や就職の実態、仕事と家庭のかかわりなど職業選択に役立つ内容で、1、2年生が受講者の中心である。計13回の授業を受け、試験に通れば2単位が与えられる。

     専修大学―「人間力養成」をうたい、1、2年生むけの連続講座を開いている。商社の元人事部長らが「人生の基本」「組織と個人」「マナーと品格」などのテーマで語る。「いざ就職活動を始める時に自分の意見をはっきりいえる学生を増やしたい。講座はその他ならし。」と同大就職課は述べている。

 

学生に将来の道筋を考えさせるために適性検査を行う大学が増えてきた。松山大(愛媛県)、聖学院(埼玉県)、阪南(大阪府)、宮崎産業経営の各大学なども、1年生対象の適性検査を設け、進路指導に結び付けている。早めの進路指導は私立大学が熱心だが、最近は国立大学にも動きがでてきた。

  

3、フリーターに対する意見

 政府や大学が、次々とフリーター対策を立てている中で、人々はフリーターに対しどのような意見をもっているのだろうか。

〈インターネット世論調査、第99回調査「フリーターの増加は社会的に問題、あり?なし?」http://www.watch.impress.co.jp/jijinews/main/result/99th/〉に寄せられた意見より。

 

 (1)「フリーターは問題である」という意見

     税制度/年金制度/社会福祉制度上で問題が生じる。フリーターの増加により税収や社会保険負担者が減り、その制度自体の崩壊が加速してしまう。

     経済力が低下する。労働力の質的低下を招き、ひいては経済力の低下を招く。労働意欲の衰えは国力の低下である。

     無責任な人間が増える。社会的責任、他人や家族に対する責任、自分自身の将来に対する責任を考えていない。

     フリーターの将来が心配である。低賃金で不安定な職では、将来結婚し子供が生まれ、また、親が亡くなれば、その状態をつづけていくことは困難である。

 (2)「フリーターは問題ない」という意見

     個人の責任で生活できれば問題はない。

     本人の自由である。どのような職業を選択しようと本人の自由であり、職業選択の自由は守られるべきである。

     フリーターも貴重な労働力である。契約、派遣などの雇用形態と同じく需要に適合しているだけであり、職種の一形態である。

     いろんな経験ができていい。多種多様な職種の経験をつむことができることを考えれば、かならずしもマイナスではない。

(3)   現在フリーター、将来フリーター希望の人たちの意見

  「フリーターに魅力を感じる」と答えた高校生が29.0%、大学生が26.1%いる。

  その理由は、「いろいろな職種を経験できる」「正社員より仕事が楽そう」「正社員よ

  自分の時間が多そう」などである。

   しかし一方実際にフリーターをしている人々の意見では、「将来は定職に就きたい」と思っている人が64.7%もおり、「つづけたい」と思っている人は7%であった。

 

   (3)に「いろいろな職種を経験できる」とあったが実際には接客・販売・仕分け・配送などの一定の限られた職種に限定されるのではないだろうか。また、若いうちはフリーターとしていろいろなことに挑戦するのも良いが、いざ25歳ぐらいになって定職につこうと思っても、今度は年齢により採用に問題が生じるということも考えられる。

 

 

4、フリーター増加の原因

  フリーター増加の原因はさまざまだが、大きく分けて二つのことが考えられる。雇用問題が関わる社会的原因、若者自身の就職への意識の変化である。

(1)   社会的原因

     労働人口が高齢化し、これまで若者がしていた仕事を高齢者が奪っている。

     不況や合理化を理由に新卒者の採用抑制や派遣、パートなど非正規労働者への切り代えが進み、若い層の雇用機会が大幅に減っている。

     高賃金、長期雇用を前提としている大企業が不況や組織改革で求人を減らしており、若者がこだわりを持てる仕事に出会う可能性が低下している。

(2)   若者の就業意識の多様化

  一つの会社で我慢するよりは、独立を目指して経験を積んだり、私生活を楽しんだりしたいという傾向が若者の中に現れている。すぐに就職できないのなら、フリーターをやればいい、という未就職ということに対して深刻さを感じていない傾向も見られる。

 

まとめ

 「フリーター=目的もなくふらふらとやりたいことだけをやっていて、職を転々としている無責任な若者たち、というイメージができあがってしまっている」と述べたが、この考え方は、日本の雇用問題の深刻さに気づいていなかった、過去の古い考え方であると思った。もちろん、現在フリーターをしている人、将来フリーターを希望している人たちの中には、フリーターが楽だから、働くよりも遊びたいから、という共感できない理由で、定職につかない者もいる。しかし、先ほど述べたように現在フリーターである人の64.7%という多くのフリーターが、定職になかなか就けないためにフリーターをしており、定職に就きたいと思っているのである。定職に就けない若者がたくさんいれば当然フリーターが増えてくる。フリーターがたくさんいればいるほど、定職に就けないことへの危機感は薄れていくであろう。それによってまたフリーターが増加する。この悪循環が若者の就職意識の薄さを招いているのであり、フリーターの増加=無責任な若者の増加、と結び付けてしまうのは全くの本末転倒なのである。無責任な若者が増えたからフリーターが増えたのではなく、一番の根本的な理由は日本の雇用問題にあると私は思うのだ。フリーターは税金や社会保障を含め、社会あるいは国に貢献していないという意見もあるが、うらを返せば企業がそのコストを負担していないのである。労働力の流動化にあったシステムづくり、フリーターを安価でいつでも首が切れる労働力ではなく、提供した労働力に見合った報酬、社会保障(税金を含めた社会貢献と一体)が保証された労働力として確立していく必要がある。フリーターの労働力は一見企業に有利と見えるが、このままの状態で流動化が進むと、マーケットを含めた社会そのものが収縮し、それがやがて企業の首をしめることになるだろう。

 また、フリーターへのアドバイス機関の充実が必要だと思う。国がフリーター対策として、4府県を対象とした就職支援がなされることが決まっているが、そのようなアドバイス機関をもっと増やしていかなくてはならないと思う。いったんフリーターとなった者は、学校の指導に頼ることはできない。フリーターからの脱出を図るには、アルバイト情報誌のようなものではなく、より個別的で具体的なアドバイスが必要だろう。

  

<参照サイト>

http://www.nhk.or.jp/debate/th/j/01/j01deblist.htm

NHK BS1 インターネット・ディベート。フリーターに対する意見がさまざまな人から寄せられている。有名作家と一般人の討論なども掲載されており、興味深い。