kamatam010704 余暇行政論レポート「宝くじと日常生活の関わり」

990521 鎌田美穂子 

 

はじめに

 町を歩いていると、宝くじ売り場に行列ができているのが目に付く。宝くじと聞けば、ギャンブルや娯楽というイメージが強いが、知っているようでよくわからないというのが実情なのではないだろうか。そこで、今回のレポートでは、宝くじが私たちの日常生活にどのような影響を与えているのかを問題と可能性を考慮に入れながら、インターネットから収集した資料をもとに考察してゆく。

                                                                                                               

1.宝くじのしくみ

 まず、宝くじとはどんなものであるのかということを簡単に説明しておきたい。宝くじの歴史は戦時中にさかのぼる。昭和207月、軍事費の調達を目的に政府が“勝札”を発売したが、抽選を待たずに終戦となった。同年10月には戦後の激しいインフレ防止のため「政府第一回宝くじ」を発売したのが今日の宝くじの直接的な始まりとなる。さらに翌年には、戦災からの復興資金を調達するため、都道府県が主体となって宝くじが発売できるようになった。政府宝くじは昭和29年に廃止され、その後は地方くじのみとなっている。(山梨県市町村振興協会ホームページhttp://www.ympa.or.jp/

 宝くじに関する法律、「当せん金付証票法」では、全国都道府県を発売元として定めており、事務は銀行に委託することとなっている。また、刑法第187条においても、一般の個人や会社などが宝くじを販売することは禁止されている。これらの法律のもとに現在実施されている宝くじは、発売元により@全国自治宝くじ(ジャンボ宝くじ、通常宝くじ、ナンバーズ、ミニロト)A東京都宝くじ、B関東・中部・東北自治宝くじ、C近畿宝くじ、D西日本宝くじ、E地域医療等振興宝くじの6種類に分けられている。(日本宝くじ協会http://www.takarakuji.nippon-net.ne.jp/

 ここで注目しておきたいのは、宝くじの誕生の理由である。一般の人々にはギャンブルの一つ、または娯楽の一つとして受け入れられている宝くじであるが、本来の目的はそこにはなく政府や自治体が必要とする資金を調達するために誕生したのである。消費者側では、阪神・淡路大震災復興宝くじを例とするような目的が明確にされているものを除けば、収益金のことにはほとんど無関心と言えるのではないだろうか。

 

2.収益金

 先に述べたように、宝くじをよく購入するいわゆる「宝くじファン」でも、収益金がどのように運用されているのかを知る人は少ないと推測される。では、どれだけの割合が収益金となり、何の目的で使われているのであろうか。

 日本宝くじ協会によると、発売総額のうち約40%が収益金として発売元である都道府県や指定都市へ発売実績に応じて納められ、公共事業等のために使用されている。その他の60%の内訳を見てみると、45.6%が当せん金として当せん者に支払われ、14.6%は経費、手数料、日本宝くじ協会普及宣伝費などに使われている。このようにして分配される宝くじの収益金は、全体で3千億円にも達しており、地方自治体にとっては非常に重要な資金源であることは言うまでもない。

 収益金を利用して行なわれる公共事業とは具体的にどのようなものであるのか、いくつかの例を挙げてみたい。平成9年度の資料を見ると、栃木県ではガンセンター拡充整備事業、群馬県では交通安全対策事業、千葉県では高等学校施設整備事業といったように、教育施設、道路、橋梁、公営住宅、社会福祉施設の建設改修費などに利用されている。(日本宝くじ協会)娯楽と夢を得るために購入した宝くじの資金をもとに地域住民の生活の安全や充実が図られているのである。

 そのほか、収益金の用途がよりはっきりと決められているものもある。地域医療等振興宝くじの収益金は地域医療費に割り当てられ、現在では、年々切実さを増してくる高齢化社会に対応するための事業を支える資金源ともなっている。また、平成7年には「阪神・淡路大震災復興宝くじ」が全国で発売され、その収益金は被災地の震災復興事業に利用された。

 もう一つチャリティの要素を持つものとして興味深いのは、ボーイズタウン宝くじというものである。ボーイズタウンとは1961年に設立されたオーストラリアの非営利団体で、恵まれない子供たちとその家族を支援している。現在ではスリランカ、インド、フィリピン、南アメリカにまで活動を拡大している。ボーイズタウン宝くじはオーストラリア最大のチャリティ宝くじで、クイーンズランド州政府の許可・監督のもとで運営されている。1等賞品はオーストラリア主要都市の高級不動産を中心に近海、海外旅行、車など併せて100万豪ドルに相当する。この大規模な宝くじの全収益金が、ボーイズタウンの運営する、恵まれない青少年のためのチャリティ活動に運用されている。(http://www.boystown.com.au/japanese/)このボーイズタウン宝くじはインターネットなどを通じて日本からも購入することができる。つまり、日本にいて億万長者への夢を見ながらも、世界中で苦しんでいる恵まれない青少年とその家族の支援をすることができるのである。

 日本における地方くじの収益金の問題点は用途の不明瞭さにある。もちろんホームページを開いて公共事業にまで追いかけてゆけば、都道府県ごとにどのような事業に収益金を運用したかが一覧表になって出てくる。しかし、どれだけの人がこんなに細かいデータまで見ているだろうか。例えば、各種メディアを通して行なわれているCMで収益金の用途を事前に発表したり、全快の情報を報告するなど、一般の消費者にも目にとまるような方法で情報を公開する必要があるのではないだろうか。宝くじのPRでは、ギャンブルとしての側面ばかりが強調されており、行政の資金源として重大な位置を占めているのにもかかわらず、そのことには一切触れられていない。また、ホームページでの情報も今回私が調べた中では平成910年のデータは多くあったが、近年の情報はほとんど得られなかった。情報を公開することで、地域住民の公共事業に対する関心も高まると考えられる。

 前述した「阪神・淡路大震災復興宝くじ」の収益金のうち実際に被害者のために使われたのは売り上げの10%強にすぎなかったそうである。(http://cobweb.tamacc.chuo-u.ac.jp/semi/itoh/sixth.htm)本来チャリティが目的であったこの宝くじの残りの収益金はいったい何のために使われたのであろうか。被害者の救済のためにこの宝くじを購入した人も少なくないことを考えると、やはり情報は明確に開示される必要がある。

 

3.宝くじの利用状況と経済的影響

まず、宝くじの購入状況から宝くじがどのような位置付けとなっているかを見てゆきたい。18歳以上の男女のうち宝くじ購入経験者は62%にまで達している。(宝くじに関する世論調査より)このデータからも宝くじが一般に普及していることがわかる。最近1年間に1回以上購入した人は43.4%であるのに対し、最近1年間につき1回以上購入した人は5.8%とやはり急激に減少する。このことから、利用頻度は年に数回というのが最も多く、お金を稼ぐために頻繁に購入するギャンブル的性格よりも、気晴らしや楽しみといった娯楽的性格がより強く受け入れられていると考えられる。

 次に、宝くじの利用について経済的側面から考察したい。近年、宝くじの当せん金がしばしば話題となっている。宝くじが誕生した昭和20年は10万円であった1等賞金も、昭和43年に1000万円、53年に2000万円、55年に3000万円、60年に5000万円、62年に6000万円というふうに時代とともに拡大されてきた。さらに平成8年には1等賞金1億円のものも誕生し、今年のドリームジャンボ宝くじでは12億円とさらに高額になり、ニュースでも取り上げられるほどの話題となった。これらの当せん金の劇的な増加は、物価の上昇などの経済的要因とともに、消費者の宝くじへの期待という心理的要因の関係していると思われる。長びく不況を背景に、競馬や競輪、競艇など他の公営ギャンブルの実績は伸び悩んでいる一方、宝くじが、過去最高の実績をあげた平成7年からはやや減少はしているものの、ほぼ一貫して売り上げを伸ばしてきているのは、賞金の引き上げによって消費者の購買意欲を刺激しているためであると考えられる。

宝くじはあくまで娯楽の一つであり、日常生活に不可欠なものとは言えない。そのため、私は宝くじを購入するのは娯楽にお金を費やすことができるほど生活に余裕がある人々であると考え、売り上げ実績はその時代の経営状況に大きく左右され、変動しやすいのではないかという仮説を立てた。しかし、実態はそれほど単純ではないようである。実際にいわゆる平成不況が始まった平成3年以降も売り上げは伸び続けており、平成7年には8284億円を実績として残しているのである。むしろ私の仮説とは全く逆に、景気が低迷しているほど売り上げが高くなるといえそうである。宝くじ購入者の心理が、経済と実績との関係を裏付けている。宝くじに投資する人の心理は、スリルと興奮を求めるものであったり、気分転換であったり、高額の当せん金が手に入るかもしれないという夢であったりする。この心理は宝くじに関する世論調査(平成104月実施 日本宝くじ協会調査)の宝くじの購買理由の項目を見ても明らかで、「賞金目当て」(55.5%)「大きな夢を求めて」(48.4%)が二大理由となっている。つまり、不況で不満を抱いている日常から一歩足を踏み出して、普段は味わうことのできない刺激と一攫千金の夢を見ることができるのである。宝くじは一口100円から300円であるから、得るものだ大きい一方、損失は少なくてすむ。そのため宝くじの購買額は低所得者層ほど多くなっており、これは統計によっても証明されている。(http://www1.sphere.ne.jp/curio/economic/loto.htm)これらのことから、宝くじの売り上げには経済の動向と購入者の心理が絡み合っていることがわかる。

 

4.まとめ 宝くじの可能性

 これまで、宝くじとはどのようのもので、その収益金は何に運用されているのか、また宝くじは私たちの生活の中でどのような位置にあるのかということを述べてきた。宝くじは単に生活を精神的に豊かにする娯楽であるばかりではなく、その収益金は地域社会を物質的に豊かにするため、苦しむ人々を助けるために役立っているのである。先にも述べたが、収益金の運用方法などの情報をより広く公開することで、住民の行政に対する関心は高まり、積極的な参加を促すことにつながる。今回紹介した阪神・淡路大震災復興宝くじやボーイズタウン宝くじのようなチャリティを目的とした宝くじも今後増えていくのではないだろうか。宝くじの場合購入者にとってもメリットが多いため、募金を行なうよりも資金を集めやすいと考えられるためである。今年から開始されたスポーツ振興くじ「toto」が今大変人気を集めている。これはサッカーJリーグの試合の勝敗を予想するものであるが、既にJリーグの観客動員数が増加するなどの影響が出はじめている。totoのオフィシャルサイトによるとその目的を「誰もが身近にスポーツに親しめる環境整備や、国際競技力向                   上のための環境整備など、新たなスポーツ振興政策を実施するため」(http://www.kuji.ntgk.go.jp/what.html)としているが、収益の分配についてはまだ具体的に決定しておらず、今後の動向が注目される。

 今回宝くじについて調べていく中で「苦悩なき税金」という言葉と出会った。(http://www2.dokkyo.ac.jp/~msemi005/sotsuron19/nobue/five.html)同じ地方自治体の収入でも地方税は強制的に支払わなければならないのに対して、宝くじの場合、消費者は娯楽のひとつとして楽しむことができるとともに、行政は、経済的に余裕のある人々から収入を得ることができるという意味で宝くじは「苦悩なき税金」であるといえる。

 

〈参照サイト〉

日本宝くじ協会http://www.takarakuji.nippon-net.ne.jp/

ボーイズタウン宝くじhttp://www.boystown.com.au/japanese/

第一勧業銀行http://www.dkb.co.jp/takarakuji/