2004年度「地方自治論」

レポート・担当教員によるコメント

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氏 名

テ ー マ

1

小松史郁

フランスの地方自治制度

テーマが大き過ぎるのでは。「フランスの地方分権の実態」を1982年法の内容を切り口に検討しようとする姿勢は分かる。しかし、州と県の代表者構成を市町村のそれに近づけたことで生じる課題の指摘がいずれも一般論レベルに止まっている。フランスでは国、州、県、市町村が提供する行政サービスの役割分担がどのようになっているのか、といった説明がほしい。そして、例えばEUに接近する地方自治体の現状とこれをめぐる議論を取り上げれば面白かったのではないか。また、最後のセクションはテーマとどうつながってくるのか。

2

川端さやか

日本における地域通貨の可能性 〜国内外の事例を通して〜

地域通貨誕生の背景が丁寧に説明されている。「互いのスキルを交換し合う」という考え方が面白い。働いた時間を通貨の単位とする発想も興味深い。まさに「地元に根ざした経済循環」の実現である。社会が人間同士の関わりから成り立っている以上、足元の地域を「大家族」と見なし、「外部に何かを求めない」でアイデアを出し合い実践に結び付けていくことの価値と可能性を感じさせてくれる好レポートである。

3

軍司陽一

日本版PPPの実践について

「新たな公益の実現」手段としてのPPPに注目している。その意義やPPP論誕生の背景、さらに自治体総務業務のアウトソーシングなどの事例も紹介される。ただし、行政サービスの市場化に対する批判とはまでいかないにしても、「日本には行政サービスを担う民間事業者が未発達である」など、PPPを手放しで礼賛しているわけではない。いわば「PPP総論」ともいうべきレポート内容となっている。従来の私的セクター活動領域と公的セクター活動領域との境界がボランタリーセクターも巻き込んで融解化しつつある現代社会において、PPP論は行政や企業関係者のみならず、住民間でも議論の俎上に載るべき重要課題なのであろう。

4

三瓶恵

選挙における投票率低下傾向の理由とその改善策について

取り上げたテーマは難問である。「支持政党なし層」は「政党に関する知識不足」のみが原因であろうか。投票率の低さと地域固有の課題を述べたレポート後半に注目したが、「魅力ある候補者が少なかった」などは低投票率をめぐる「地域色のある理由」といえるのであろうか。午後10時まで投票時間を延長することが投票率の上昇につながるのであろうか。地方紙や広報誌を通じた選挙制度の紹介や有権者への呼びかけが不十分だから低投票となるのか。棄権に対する罰則については、それがどの程度実際に適用されているのかなど、さまざまな疑問が湧く。自発的な問題意識がレポート作成の起点となったことは伝わってきたものの、政治教育の中身など具体的に言及してほしかった。

5

鵜口さくら

地方における三位一体の影響 −島根県を事例に−

現状では中途半端な三位一体改革が県に及ぼす負の影響について、財源と公共事業の側面から考察している。限られたパイをどう切り分けるか、優先順位の高い高速道路整備の先行きが分からなくなってきた状況を不安視する。仮に高速道路や他のインフラがさらに整備されたとして、それだけで万事がうまく行くとも思われない(例えば、栃木県では観光地への道路網の整備により温泉地の宿泊客が激減したという声も聞く)。そうはいっても地元から見れば、交通アクセスをめぐる大都市中心主義は極めて不公平な政策と映るのであろう。たとえ「交通の利便の面で阻害」されたとしても、それを逆手にとって「スローな生活」といった文化的価値を高める妙案はないものか。切実な問題意識が読み手に伝わり、地元の発展とは何かを考えさせる好レポートである。

6

松岡かおり

グリーンコンシューマーかがわの働き

日常生活はある意味で「ごみ生産活動」であり、買い物を行う消費者と販売業者、製造者との相互協力によって、ごみ減量を達成しようとする試みが紹介される。消費者が常に環境に対する負荷を軽減するような買い物行動をとれば、販売業者や製造業者も変わらざるを得ない。考えられ得るあらゆる方策を実行しようとしている団体の活動事例がよくまとめられた形で提示される。そこまでしても買い物袋持参率を飛躍的に上昇させることは難しいという。人々の意識の問題、目に見えるメリットの提示、リサイクルやリユースを循環させる工夫、自発性と義務的側面との調和、地域コミュニティのあり方など、取り上げたテーマには地域社会のいろいろな課題が内在しているように思われる。

匿名

「地域単位でのICTの活用」

教育分野においてIT利用をどのようにおこなっていくかは、好むと好まざるとにかかわらず、先進諸国が抱える時代的趨勢であろう。レポートでは日本の現状と比較しつつ、イギリスのICT活用の先進事例などが紹介されている。大きな枠組みとしては、「電子政府」社会における教育活動の中身がどのようになっていくかであろう。LANの接続率や生徒1人当たりのコンピュータ台数以上に問われるのは、教える側(教員)と教えられる側(生徒)の電子媒体への向き合い方であろう。インターネット情報社会では既に情報の収集や分析をめぐる環境条件に教員と生徒との境界はなくなっており、むしろ、後者による活用が事象をめぐる知見や観察の新領域を生み出しつつあるのではないか。一方で、現実から遊離していると錯覚させるバーチャル空間や活字軽視が生み出す特有の危うさにも注意を払わなければならない。

8

宇居槙子

構造改革特区について -群馬県太田市「英語特区」を事例に-

構造改革特区推進の背景には国の財政軽減の意図もあるとした上で、「英語特区」に注目する。教科書代の高さなど、実際に直面する課題が紹介されていて興味深い内容となっている好レポート。著作権使用料や翻訳料などまさに「言うは易く行うは難し」である。難しいのは、指摘されているように外国人児童居住者を対象とする「教育特区」との兼ね合いであろう。考えようによっては、外国人児童も積極的に「英語特区」で学べば、国際コミュニティやコミュニケーション社会のモデルとなる可能性もありそうだ。とはいっても、母国語習得のための環境の醸成も不可欠であろう。サービス産業化した行政の支援がどんなに整っても、結局は当該地域の住民の力量にかかってくるようにも思われる。

9

磯谷萌

八戸市+南郷村=新八戸市 -その経緯を探る-

合併をめぐる市町村の離合集散を垣間見ることができる。合併の破たんにせよ成立にせよ、実質的な影響力となった諸要因がインターネット情報から読み取れるケースは少ないかもしれない。しかし、とくに合併がもたらすメリット論などは、実際の合併交渉においては当てにならないことが分かる。指摘されている水道施設の改修経費の問題がそれであり、このあたりもう少し詳しく言及してほしかった。議会の力量不足や対応の硬直性も明確になるはずである。住民は一連の合併論議にどのような反応を示したのであろうか。7市町村の各々が抱えている固有の事情にはどのようなものがあったのか。「はやて」の開通を7市町村はどのように受け止めたのか、などいろいろな切り口があるように思われる。

10

金沢絵理子

福島県における原子力発電

「原子力安全グループ」「原子力センター」「原子力防災センター」に絞って記述し、活動内容の概要が要領よくまとめられている。原子力の安全対策に国や県が神経を使って制度を整備していることがよく分かる。しかし、例えば、発電所がある4町独自の住民への対応はあるのだろうか。また、原発に関する情報資源の点で政府が圧倒的に優位にあるとしても、発信情報や対応サービスについて批判的な見解もあるはずで、こうした批判勢力の考えも掲載すべきであろう。危険性の完全な除去が不可能な中で、かつ他地域への電力供給地であるにもかかわらず、立地が認められるのはなぜか。立地に付随する様々なアメの部分の提供を具体的に提示・整理してほしかった。政府が発信する情報やサービスの提供をすべて否定する姿勢には同調できないものの、逆にすべてを鵜呑みにしてしまう恐さもあるのではないだろうか。

11

中澤浩子

福島県における障害者スポーツの発展とスポーツ指導員

障害者スポーツ振興の器(うつわ)は整備されつつも、課題はそれを実際の活動の中でどう生かしていくかであろう。指導者養成のしくみにも厳格性と柔軟性の両方が求められる難しさがある。ボランティアという狭い枠組みではなく、社会において障害者が当たり前のように溶け込める仕組みづくりと、意識面での人々の受容が不可欠である。行政によるサポートへの全面依存ではなく、財源の面でも就業・職場確保という形で自ら資金を回していけるような生活・経済環境がなければならない。スポーツ活動には、事故を防ぐ最善策を常に心掛ける必要があるものの、障害者・健常者という分け隔てられた壁を崩すための格好の素材が埋まっているに違いない。

12

仲田圭吾

国際通り活性化への取り組み

郊外の大規模店舗が老舗の中心市街地を衰退化させる傾向は、全国津々浦々で生じている深刻な問題だ。歴史的な重みや人間の情といった側面を除けば、ハード面や利便性で中心市街地は郊外大型店に太刀打ちできないであろう。宇都宮も含め、ショッピングモール化やアミューズメント施設化は、人々の思考様式そのものまで画一化していくのではないだろうか。那覇市が取り組む硬軟織り交ぜた事業は果たして成功するのであろうか。歩行者専用道路の導入がポイントになるようにも思われる。観光客の落とす金が活性化のための重要なリソースである一方、無責任で一過性かつ二次的な観光客よりも、生活の基盤を置く県内・地元の人々が何かを求めて日常的にやってくるような街づくりがまずは問われているのかもしれない。

13

石田奈津美

市町村地域福祉計画が果たす役割 〜茨城県東海村の事例から〜

市町村地域福祉計画策定にあたって、行政としては考えられる限りの住民参加の受け皿を用意したと思わせるような事例が紹介されている。原子力事業所との関連で法律の効力が一地域に浸透した典型的な事例かもしれない。記述によれば財源面でも財政難とは無縁の特異な自治体のようである。老いはそこに至る道のりの違いはあるものの、誰もがいずれは直面する不可避の現象であり、その意味で「住民施策」は利害が対立するというよりは共感の得やすい領域なのであろう。しかし、最後に指摘されているように、実際の施行となるとそれを妨げる大小様々な阻害要因が噴出してくるのかもしれない。克服の中心的な担い手は行政ではなく、やはり住民なのであろう。地域福祉計画の実施には策定内容の華やかさとは裏腹の、地道で根気のいる日常的な実践の積み重ねが最も求められるのであろう。

14

高橋伸嘉

宇都宮市における保育行政の現状 〜課題と問題点〜

現段階では首長の発言に具体性がないことを指摘した上で、認可保育園と民間託児所の違いに注目する。入園・入所の資格申請の違いとサービス内容の違いを明らかにし、アンケートから窺われる子育てをめぐる市民の切実な思いを指摘している。全体的に検討対象とした情報データから見出される問題点を自分の言葉で咀嚼し考察している好レポートである。民営化が徹底されたからといって、「安かろう悪かろう」のサービスが充満するとは言い切れない。しかし、この領域のサービスが市場の論理で貫徹された場合の危うさもあろう。やはり、ボランタリーセクターの参入も含め、公と民の協力関係を個々の地域社会が築いていくしかないのであろう。今後、他のサービス領域を犠牲にしても保育行政を手厚くする自治体が登場してくるかもしれない。

15

小池あやの

ユニバーサルデザイン条例に基づくまちづくり 〜静岡県浜松市を例に〜

バリアフリーの延長上に「ユニバーサルデザイン」の考えが出現したことが分かる。とくに「歩きたくなる」というのは重要なコンセプトだし、「オムニバス」の実施もパス停のデザイン設定にまで及んでいて興味深い。しかし、指摘されるように本当の意味でのユニバーサルを達成するのは並大抵のことではない。「新たな取り組みによる新たな問題」という指摘はその通りであろう。例えばユニバーサルデザインはその理念からいえばホームレスを排除するものではないはずだ。いずれにせよ、若者が戻ってきたい街となりつつあることに今後の大きな可能性を感じさせる好レポートである。また、ユニバーサルデザインの個性化という点では、一定の人口や産業の集積規模に関わらず、あらゆる自治体が追求すべきであろう。

16

中村幸恵 

平泉文化遺産を世界遺産へ

世界遺産登録の手続き過程が明らかにされる。登録件数など基本的なデータが要領よく提示されていて読み手にとってありがたい好レポートである。暫定リスト、推薦準備、評価調査依頼などの段階が示される。おそらく遺産の価値についての微妙なニュアンスも伝えなければならない英語への翻訳作業だけでも大変であろう。どれだけの財源が必要とされるのであろうか。登録をめぐり平泉町が抱える4つの課題の克服そのものが住民を巻き込んだまちづくりの実践となりそうである。「コアゾーン」「バッファゾーン」という捉え方も興味深い。世界遺産登録は当該地域のブランドを飛躍的に高めることになるのであろう。一方で登録後の地道な取り組みが継続できるかどうかも問われているように思われる。

17

金城李枝

PFI事業に関する考察 -福岡市臨海工場余熱利用施設「タラソ福岡」を事例に-

Value for Money “の考え方が日本でも多くの領域で浸透し始めている。第3セクター方式が批判され、これに代わる切り札として景気回復への期待も受けつつPFI事業を捉える視点は「いいことずくめ」の好意的なものが多いようである。興味深いのは失敗の事例を取り上げたことである。PFI事業として進出するにふさわしくない分野だったからであろうか。経営努力に問題があったのか。運営を支える本体の企業経営の悪化がそのまま閉鎖につながったのだとしたら3セクの失敗を繰り返しただけともいえる。破たんの責任を行政はどの程度負うのであろうか。失敗事例の検証から学ぶことはたくさんあるように思われる。PFIの考え方がソフト面にも拡大してくれば、将来的には大学経営などの教育サービス領域も独立行政法人に取って代わるものとなるかもしれない。

18

中村祐司(担当教員)

アメリカ電子政府戦略の枠組みと課題

 

 

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