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三瓶恵「選挙における投票率低下傾向の理由とその改善策について」

 

 近年では選挙が行われるたびに投票率の低下(特に若者)が叫ばれている。自分は以前から選挙時の出口調査のアルバイトをしていたためもあり、その現状を肌で感じ取れる機会が度々あった。例えば、有権者のみで構成されている家族四人が全員投票所にやってきても、実際に投票所の中に入っていくのは二人だけで、残りの二人は車の中で待っていたり、とある投票所に投票にやってくる年齢層はほとんど高齢者のみで青年層が少ない等、その減少は顕著に表れていた。

 

 今回、この投票率低下について、自らの上記のような体験を軸にして、なぜそのような現象が起こるのかというメカニズムを明らかにし、同時にその改善策として今後日本政府が、そして地方自治体が採用するべき対策を検討していきたい。 

 

一般に、投票率低下の理由については1.政治への無関心、2.政治への不満や不信、3.支持対象がない(=支持政党なし層の増加)、4.レジャー等の優先、5.投票しても無駄だという一種のあきらめ、6.選挙の宣伝・PR不足等の事柄が考えることが出来る。1.政治への無関心については特に若者(20代)の間では深刻な問題であり、あまりの関心のなさゆえに投票には当たり前のように行かない者もいる。3.支持対象がない(=支持政党なし層の増加)に関しては、有権者の政党に関する知識不足が原因と考えられる。高等教育や、大学の講義等で、学生のうちから政党に関する知識、各政党の違いなどを教育するカリキュラムをとりいれれば、各個人が支持政党をもつ確率もぐっと広まり、それによっての投票率アップも期待できるであろう。4.レジャー等の優先は、投票日が国民の大半が休みの日でもある日曜日であるということが要因だろう。貴重な休日に家族サービスしたり、遊びに出かけたりとするのは当然で、逆に休日だから投票に行くだろうと読んだ政府は、少し考え直さなければならないのかもしれない。

 

 これは全国規模の単位で考えた場合の理由である。これを都道府県等の小さな規模にしぼって考えた場合、はたして上記に挙げられた理由とは別にその地域にしかないような理由、つまり地域的要因などは挙げられるのだろうか。

 

 今回、栃木県民の投票行動等の調査結果をまとめたサイトがあったので、そちらの方を参考に話を進めていきたいと思う。(http://www.tochinavi.net/yr/pdf/0407senkyo.pdf

 

その調査結果のひとつでもある、投票率が低下傾向の理由に対する考えを栃木県在住の20〜40代の男女に問うと、「政治や政治家に対する不信感を持つ人が多い」が76%と最も高く、ついで「政治に対して関心や興味を持つ人が減った」60%、「魅力ある候補者が少なかった」54%、「選挙制度が複雑でわかりにくい」15%、「投票の場所や時間など、投票しやすい環境が整っていない」12%などなど、全国規模で考えるよりも、より具体的な理由が挙げられていることがわかった。

 

「政治や政治家に対する不信感を持つ人が多い」「政治に対して関心や興味を持つ人が減った」の理由は前記で挙げた1.政治への無関心、2.政治への不満や不信といった項目に通ずるところがある。他の「魅力ある候補者が少なかった」「選挙制度が複雑でわかりにくい」「投票の場所や時間など、投票しやすい環境が整っていない」という理由については、地域色のある理由と考えることができるだろう。

 

「魅力ある候補者が少なかった」という点に関して、自分も少し思い当たる点がある。地方の町長選や議会議員選等では候補者が大概決まっていて、選択の幅が狭くなってしまっている。その小さな選択幅のなかから自分の理想とする代表者を選ぶことはとても困難なことで、そういった意味で魅力ある候補者が少ないというのだろう。

 

「投票の場所や時間など、投票しやすい環境が整っていない」は、自分も出口調査のアルバイトから感じ取ったことでもあるのだが、投票所に来る人はたいてい自家用車でやってくる。自転車や徒歩でやってくるといった人はほとんど見当たらなく、投票所には必ずといっていいほど駐車場が完備されていた。投票所の設置は各地区ごとに設置されているにも関わらずこのような状況がおこるということは、つまり栃木県が「車社会」と呼ばれるほど、自動車に依存した生活を浮き彫りにしているのではないだろうか。その点、時間に関しては全国規模で考えなければならないことなのだが、日本の場合投票時間が最近引き伸ばされて午後8時までとなっているが、イギリスでは午後10時までと非常に長く、まだまだ利便性に富んではいない。もっと改善の余地はあるだろう。

 

選挙制度については、投票率の低下を最小限に抑えるために、政府はいくつかの対策としてさまざまな制度を設けているのだが、それらは実際有権者に幅広く知られているわけではないと自分は思う。選挙に対する意識が高い人や、その方面に関する知識が豊富な人ならば、それらの制度を理解し、自分のライフスタイルに合わせた活用をしているのだろうが、高齢者などは制度自体を理解するのにも一苦労だろうし、どのような制度があるのかを知る方法も限られてきてしまうのではないだろうか。地区の選挙管理委員会はそういったことを考慮し、様々な制度があることを広く有権者に知ってもらうよう努力すべきだろう。たとえば、地方紙や地域の広報誌に選挙制度に関する特集を組むとか、選挙投票日の告知とともに、このような制度もあるので活用してくださいよと、紹介程度に一緒に知らせるだけでも、たくさんの理解が得られるのではないだろうか。

 

ちなみに、投票率の低下を最小限に抑えるために設けられた選挙制度の一つとして、一般に良く知られているのは不在者投票制度だろう。これは投票日当日に投票所に行って投票できない人が投票日前に投票できる制度のことで、当日何らかの理由で投票区域外にいる人や仕事をしている人、妊娠や身体障害で歩行困難な人などが行うことができる。また、身体に重度の障害があり投票所にいけない人が郵送によって投票できる在宅投票も不在者投票の一種である。他に、外国にいても国政選挙に参加できる在外投票、日本を離れた船の上から投票できる洋上投票、身体の故障などで自書できない人のための代理投票、その他例外的な投票方法である繰上投票、繰延投票、再投票、仮投票などもある。在外投票、洋上投票等について、自分は今回このレポートを書くに当たって初めて知った。いかなる状況にある人であっても、少しでも多くの人を投票所に向かわせるような制度がせっかくあるのだから、もっと有効に使うべきだ。

 

 では、これほど騒がれている投票率の低下は、どのような状況を引き起こすのだろうか。

 

たとえば多くの後援会を持っている候補者や、宗教団体などの強力な組織を持っている候補者がいるとする。するとその講演会や宗教団体等に所属している有権者は必ず投票に出かけるので、投票率が下がると必然的に後援会・宗教団体等の強力な組織の後ろ盾を持つ人の当選の確率が上がってくる。つまりこれは、この候補者の支持者以外の有権者の民意というものが、政治に反映されにくくなるということを意味する。また、ある政治家が有権者に不利益になるような政策を行っていたとしても、上記のような経緯でその政治家が再選される可能性もあり、すると彼の政策は有権者によって承認されたことに等しく、新たな政策を期待することは出来ない。事実、スキャンダルがあっても当選を続ける政治家も多く存在する。

 

だが、実際にデータを見てみると投票率低下は否めない。平成10年以降は不在者投票要件の緩和、投票時間の延長によって投票率は上昇したが低水準からは脱していない。はたして他に有権者を効率的に投票所に向かわせる方法はあるのだろうか。世界の選挙制度を参考に見てみよう。

 

アルゼンチンでは投票を棄権すると約20ドル(日本円にして約2000円)の罰金および3年の公職・公務就任の禁止、ギリシアでは70歳以下の者は一ヶ月から一年の自由刑(自由の剥奪を内容とする刑罰)、シンガポールは氏名が選挙人名簿から抹消されたりなど、強制投票制を採用している国は多い。実際このような国では投票率は日本よりは高く、アルゼンチンで2003年4月に行われた大統領選挙では投票率77・61%という、高い数字を出している。

 

一方イタリアのように憲法で投票を市民の義務としている国もあるが、国民投票が投票率50%をきったために無効になるということもあったようで、こちらのほうはいまいち効力がない。

 

 先進国の選挙では異例の低さである日本の選挙における投票率は、上記の各国の取り組みを参考にして改善していくべきである。改善策として考えられるのが、複数投票日の設定(日曜日と月曜日といったように二日や三日、連続して投票日を設定する)、電子投票システムの導入(インターネット投票)、投票所の増設、強制投票制(上記のような諸外国の例を参考に)の実施などである。これらの制度を程よく取り入れて、投票率を上げ、より市民の意見が反映されるような選挙の実現ができることを望む。