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金城李枝「PFI事業に関する考察―福岡市臨海工場余熱利用施設「タラソ福岡」を事例に」

 

PFIとは何か

今回、地方自治論のレポート作成にあたり色々とインターネットで検索してみて、「PFI事業」というものに、興味を感じた。PFIとはPrivate Finance Initiativeの頭文字であり、直訳すると「民間資金主導」、分かりやすく言うと「民間資金の活用による社会資本の整備」という意味になる。1980年代後半、財政難に悩むイギリスにて、公共サービスを民間の資金や経営能力、技術的能力を活用して、効率的・効果的に建設、維持管理・運営を行おうと導入されたものである。PFIでは従来の公共事業とは違い、民間企業は単なる受託業者ではなく、施設の計画から、資金調達、建設、維持管理、運営まで全工程に関わることとなる。これにより民間企業の経営改善能力や市場原理を活かし、国民の税金の価値を最大にする(Value For Money)という考え方が、PFIの重要な理念の一つである。

 

(参考資料:PFIインフォメーション)

http://www.pfinet.jp/pfiinfo_0309/navimenu/pfiinfologo.jpg

 

日本のPFI

日本においては1999年に「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(いわゆるPFI法)」が制定されている。翌2000年には内閣総理大臣によって、PFIの理念と実現の為の方法を示す基本方針が公表され、PFI事業の枠組みが整えられた。その基本方針では5原則3主義が掲げられている。5原則とは「公共性原則(公共性のある事業に導入される)」、「民間経営資源活用原則(民間の資金・経営能力・技術力の活用)」、「効率性原則(民間事業者の自主性と創意工夫による効率的・効果的な事業運営)」、「公平性原則(選定手続の公平性)」、「透明性原則(事業計画から終了過程までの透明性の確保)」である。3主義は「客観主義(事業実施の各段階での評価に客観性を持つ)」、「契約主義(公共団体と民間事業者の役割や責任等を契約で明文化)」、「独立主義(PFI事業者の法人格の独立性)」となっている。また、2001年には「PFI事業実施プロセスに関するガイドライン」と、「PFI事業におけるリスク分担等に関するガイドライン」が、内閣府民間資金等活用事業推進室から公表されている。

 

(参考資料:21世紀ビジネス講座 拡大するPFI市場)

http://rmnavi.ms-ins.com/pfi/img/t_chuushou.jpg

 

PFIと第3セクター

日本でのPFI導入の背景としては、その先駆けであるイギリスと同じく、増大した国債費や長期の不況による財政難が挙げられ、また規制緩和の流れや景気対策、第3セクターの代替という意図もうかがえる。そこで第3セクターの問題点から、PFIとの違いを確認したい。もともと第3セクターとは、民間の活力を導入することにより、地域の活性化を目指す官民共同事業を指す。しかしながら、現在では多くの第3セクターが破綻し、多額の負債が残っている状況である。これはそもそも民間の活力を活かしていない、という点に問題がある。利益が上がるように活動する反面、成果の上がらないことからは手を引くという当然の市場原理が第3セクターには働かなかった。それには、公共機関からの資金の垂れ流しや国からの補助金、官民の癒着の構造が深く影響している。PFIにおいては、まず事業を民間が主導で行うこととなる。事業者選定においても、第3セクターでは公開性の無い官民の協議によって決められていたが、PFIでは公募を原則とし、透明性を原則としている。そして、第3セクターが陥った赤字経営の事業に公的資金を垂れ流すといった構造も、PFIでは「契約主義」によって歯止めがかけられている。

 

(参考資料:熊本日日新聞 2005年1月9日 射程「PFIはもう一段の精査が必要」)

http://www.kumanichi.co.jp/iken/iken20050109.html

(参考資料:山陰中央新報 2003年9月7日 広がるPFI/投資見直しの有効な手法)

http://www.sanin-chuo.co.jp/ronsetu/2003/09/07.html

(参考資料:第3セクター経営実態調査 帝国データバンク)

http://www.tdb.co.jp/watching/press/p010903.html

 

PFI事業例−福岡市臨海工場余熱利用施設「タラソ福岡」

 先述してきたところをまとめると、PFIは行政だけでは対応できなくなった公共サービスの新たな担い手として、そして第3セクターの問題点を改善した、期待できうる事業であるように思う。実際総務省によると2004年12月現在、全国で140ものPFI事業実施方針が公表されているという。建設費を行政の試算より3割低く抑え施設を作ったPFIの例もある(東京都金町浄水場常用発電PFIモデル事業)。しかし、本当にPFIはいいことずくめなのだろうか。全国初のPFI事業閉鎖となった、福岡市臨海工場余熱利用施設「タラソ福岡」の例から考えてみたい。

 

 「タラソ福岡」は、福岡市初のPFI事業として注目された。清掃工場「クリーンパーク・臨海」の余熱を利用した、海温水プール(タラソテラピー)をメインとする健康増進施設である。2002年4月1日にオープンした。施設には清掃工場の余熱でつくられた電気が無償提供され、土地も市からの無償貸与となっていた。「タラソ福岡」は、市にかわって施設の維持管理や、安価でのサービスを提供することとなっており、一定のサービス料を市から受け取っていた。医療機関と連携した健康セミナー等の開催、ジムスタジオの設置、会員制の導入、朝9時から夜12時までの営業時間など、民間企業らしいアイディアや工夫を行っていた。

 

しかし結局、「タラソ福岡」累積赤字2億4000万円を抱えて破産することとなった。この破産の原因として、以下の3点が挙げられるだろう。第1に「タラソ福岡」に出資していた大木建設の経営悪化である。大木建設は東証1部上場の中堅ゼネコンであったが、完工高の減少や大型工事の着工遅れなどから売り上げが低迷し、経営の合理化を進めていた。低迷している公共事業にかわり、PFI事業に力を注いだが、その「タラソ福岡」の経営も赤字となり自主再建を諦めた。出資者である大木建設の経営が安定していたなら、「タラソ福岡」の経営も改善することができたかもしれない。第2は800円という安価なビジター料金のため、会員が思うように集められなかったという、見通しの甘さである。「タラソ福岡」は、最高800円という市からのビジター料金指定を承知していながら、それに引けを取らない会員メニューを用意できなかったものと考えられる。第3に、施設を利用したいという客の実態調査、マーケット調査などは的確に行われていたのかという疑問がある。思うように集客ができなかったのは、「タラソ福岡」のような施設を必要としている人自体が少なかったからではないか。そんな推測もできる。また、市側も市民のニーズをきちんと把握していなかったのではないだろうか。

 

「タラソ福岡」は2004年11月に閉鎖し、福岡市に施設の買い取りを求めている。第3セクターのように、採算の取れない施設を抱えこむことにならないか、不安は残る。

 

(参考資料:竣工特集・福岡市臨海工場余熱利用施設「タラソ福岡」)

http://www.pfinet.jp/pfiinfo/doukou/kiji0204051.htm

(参考資料:倒産速報|大木建設() 東京商工リサーチ)

http://www.tsr-net.co.jp/topics/sokuho/level_4/name1011.html

 

まとめ−PFI事業に関する考察

 PFIの理念や特徴からすると、三位一体の改革が叫ばれ地方自治をとりまく状況が変化しつつある現在、PFIが必要とされる機会はより多くなっていると言える。PFIの5原則3主義等の仕組みは、かつての制度を補完するものとなっており、PFIの手法が有効に活かされれば、行政サービスの質も向上するものと思われる。しかし、実際のPFI事業の失敗例に着目すると、民間の側も行政の側も事業の見通しが甘かったのではないかという考えに至る。この見通しの甘さというのは、住民という公共サービスの受け手の視点が足りなかったからではないのかと、私は考える。PFIの第1の原則は「公共性原則」である。事業の特色のみから公共性を判断するのではなく、真に住民が望んでいることは何かを、理解しなければならないはずだ。今回このレポートを書く際、様々なPFI事業例を見たが、住民が参加したPFIというのはあまり見かけなかった。せっかく事業の透明性が確保されているのだから、サービスの受け手の声が反映されたものになればよりよいものになるであろう。