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鵜口さくら「地方における三位一体の影響−島根県を事例に−」

 

国と地方を通じた税財政のあり方を見直す三位一体改革が現在進められている。国庫補助負担金の削減、国から地方への税源移譲、そして国が分配する地方交付税の削減、これら三つを同時に改革する取り組みのことを“三位一体改革”という。そしてこれらの改革を通じて、国が地方自治体に対してお金を配分するときに使い道などを細かく決めてきた今までの方式を見直し、自治体が自らの考えでお金を使い、個性豊かで活力に満ちた地域社会を作っていこうとする地方分権の推進がなされるという。しかし三位一体改革初年度とされた2004年度では、大幅に地方交付税が削減されたため、多くの地域で財源不足が生じた。では、様々な課題が残る三位一体改革が進むにつれ、地方自治体にはどのような影響が生じるのでろうか。私の出身地である島根県を例に取り、それらを考えていこうと思う。

 

 私の出身地である島根県は、全国で2番目に人口が少なく、また日本一高齢化の進む地域である。そして大規模産業の集積にも欠けるため、今回の三位一体改革により、地方分権が進むメリットよりも、財源不足のほうばかりが注目されているように思う。では具体的にはどのようなことが起きているのであろうか。

 

200514日付けの山陰中央新報のなかで、澄田島根県知事は、『2004年度における島根県の財政は、地方交付税の急減により、「地方財政ショック」が起こり、それにより予算編成が難航した。 県財政はこのままでは約450億円程度の構造的な財源不足が生じ、平成18年度には財政再建団体への転落が避けられない状況である。』と述べている。また20041213日には、(島根県知事、島根県市長会会長らで構成されている)島根県自治体代表者会議から政府に対して『平成17年度において、再び平成16年度のような大幅な地方交付税削減が行われるのならば、いかに経費削減に努めても予算編成は不可能になり、行政機能がストップする事態に陥る自治体が続出することは必至である。』と地方交付税の総額確保に向けた緊急アピールを行っている。島根県の政策企画監室のホームページの中では、三位一体改革の中で国庫補助金の廃止縮減とこれに見合う税源移譲が行われていても、地方交付税の財源調整機能が働くことにより、各地方団体間においても、財源の損得は発生しない、と書かれているが、実際は澄田知事らの発言を見る限り、理想通りにはいかないようである。

 

さらに大規模な産業が少ない島根県がもっとも恩恵を受けている公共事業に対しても、『現在島根県がおかれている危機的な財政状況の下では、今までどおり推進していくことは不可能である』、と200412月に行われた県議会の中で政策企画長は答えている。それらのことから平成17年度当初予算編成方針の概要の中では、平成20年度までに公共事業費半減を目途に、当面平成18年度までに平成16年度比で事業費30%程度削減を決定している。そのため今までどおり網羅的に公共事業を実施していくことは困難となり、公共事業に対して優先順位をつけ、優先順位に則して行政資源を集中することになるという。その優先順位において、私が最近最も関心があった高速道路整備は最優先事業とされている。今まで他県との交流において、人にしても物質にしても交通の利便の面で阻害されていたため、高速道路の建設により、島根県はより活性化すると予想される。またまずなにより最低限のインフラ整備のもとにおいて、三位一体改革後、他地域とよい意味で競争できるようになると思われる。そのため私はこの高速道路を最優先にする意見に賛成である。しかし欲を言えば、三位一体前のもっと早い段階において、高速道路は完成しておくべきであったとも思う。旅客輸送の機関分担率において、島根県は自動車以外の交通機関の整備も遅れているため、自動車が97.0%を占めており、全国平均の73.7%を上回っている。また全国でも1世帯あたりの保有車両数は上位であり、人々の足は自動車であることがわかる。しかしそれにもかかわらず、高速道路の供用率は全国平均の69%を下回る47%である。バブル崩壊以降、恒常的に県の財政不足は生じているとはいえ、現在のように県の財政が著しく圧迫される前に高速道路が建設されていたのならば、優先順位の低い他の公共事業にも予算が回されたことが予想される。

 

では財源不足が深刻である島根県は、今後どのような独自の政策を行おうとしているのだろうか。現在島根県は県の産業振興策として新産業プロジェクトを進めている。具体的には新機能材料開発プロジェクトや新エネルギー応用製品開発プロジェクト、健康食品産業創出プロジェクトなどをあげている。また新たな島根の米ビジネスの確立を目指し、プロジェクトを進めている。今まで効率性や採算性を追求する高度経済社会においてハンディキャップであっただろう島根独自のスローな生活を、自然や環境、安心を重視する世の中の流れを受け、島根にある農林水産、観光、自然など豊富な資源を生かし、独自の政策をしていこうという流れである。しかし、実際島根県に住んでいると、そのような政策のかけ声は聞こえるものの、普段の生活の中で政策を感じることはほとんどないという。また、昨年の夏に澄田県知事は、財源不足から生じる財政難のため、平成17年度は県職員の新採用を取らない、という政策を発表した。このようなことを行うことにより、働き口が少ない島根県から更に若者はいなくなり、一時的に財政に多少のプラスはあるかもしれないが、ますます人口は少なくなり、将来的に島根県はますます寂れていくのではないか、という懸念を私は抱いた。その後この政策は撤回され、代わりに県職員の給料を全体的に引き下げる政策に代わったというが、この政策により多くの県民がこれからの島根県について不安を覚えたと思う。

 

これらのことより、三位一体は地方、特に島根県のような財源の乏しい地域に対して多大な影響力をもたらすことがわかった。財源を移譲することにより、確かに地方は自由に使えるお金の割合が増え、地域にあった政策ができるようになるかもしれない。また国と地方にかかわる三位一体の諸課題について、国の意思決定の過程で地方が対等の立場で参画したことは、地方自治の歴史上、地方分権の実現、地方自治の確立の観点から、大きな成果であるかもしれない。しかし現在の三位一体の話し合いでは、主に具体的にお金の話ばかりがとりだたされ、上に述べるような三位一体のプラスの面の具体的な話し合いは乏しいと思われる。私はこのようなことから、今回の三位一体は、地方分権の推進よりも、国や地域の財政難を国や地域のみが担うのではなく、国民が多少なりとも担うために行われているのではないかと感じた。そのために三位一体改革は地方や国民に痛みはあるかもしれないが、必要なことであるように思う。これからますます地方は厳しい時代になるであろう。しかしそんな中、特に私は自分のふるさと島根に思い入れがあるのだが、地方が限られた予算の中、独自の政策を行うことで活性化していくことを願ってやまない。

             

参考:島根県総務部財政課「島根の財政」HP 

http://www.pref.shimane.jp/section/zaisei/

   島根県土木部高速道路推進課「島根の高速道路」HP

     http://www.pref.shimane.jp/section/highway/

   島根県政策企画監室HP

http://www2.pref.shimane.jp/seisaku/

山陰中央新報200511日付

             14日付