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小池あやの「ユニバーサルデザイン条例に基づくまちづくり〜静岡県浜松市を例に〜」

 

 私は、静岡県の西部に位置する浜松市の出身である。先日帰省したときに私はまちのさまざまなものを目にした。しゃれたタイルで平面移動のしやすい地面が増えたり、まちのイルミネーションが著しかったり、浮浪者のたまり場だった所がその影も見せないような近代的な建物になり、市民の集う場に変わっていたりと、まちの発展には目を見張るものがあった。そこで、浜松市の目指すまちに焦点を当てることにした。

 

 三位一体の改革が進む現代社会において、地方分権化が進むとともに、各地域における特色あるまちづくりが推進されている。そのような状況の中で、浜松市は、「技術と文化の世界都市・浜松」をビジョンとして掲げ、市民・民間と協働で、思いやりのあるまちをめざし、ユニバーサルデザイン(UD)を市政の柱として捉えまちづくりに取り組んでいる。“ユニバーサルデザイン”とは、1980年代にアメリカ人建築家のロナルド・メイス氏によって提唱された考え方で、あらゆる体格、年齢、障害等の度合いに関わらず、誰もが利用できる製品や環境の創造のことである。また、経費が安い、デザインが美しいということも重要視されている。この理念を市政に取り入れているのである。

 

 浜松市は現在総人口が60万人を超え、今後行われる合併によって増加のピークを迎えるといわれている。その中で高齢化が着実に進行し、平成22年には高齢化率が20%に達すると予想されていて、市民の5人に一人が高齢者という時代が間近にせまっている。また、外国人労働者の流入も年々増加し、現在総人口の約4%が外国人という国際色豊かなまちになっている。このような状況の中で、今までは「バリアフリー」という考え方で対応してきていた。これは、すでにある施設やサービスを特別な設備や方法を用いて、高齢者や外国人、障害者といった、特定の人が生活するうえで支障となる不便をとり除いていくという考え方である。これに基づく取り組みによって、多くの人々がくらしやすくなってきているのは事実であるが、いわゆるバリアフリーの対象にならない人々にとっては、関係のない設備やシステムがあるというのも事実である。これはバリアフリーが「特定の人のため」のものだからである。そのため、ほかの人には不便になったり、利用する必要がないがゆえに理解されず、利用したい人がうまく利用できない状態になったりと、問題が生じている。

 

このことに対して浜松市は、社会的に弱い立場の人々はもちろんのこと、すべての市民が快適で暮らしやすいまち、すべての市民のニーズに応えられるようなまちを作り上げるために、全国でも数少ない「ユニバーサルデザイン条例」を平成14年12月に制定し、平成15年4月に施行することとなった。ユニバーサルデザインは、すべての人が共有するということ、すべての人がなんの違和感もなく使えるということ、すべての人に対等であるというところに良さがある。これこそが本当の意味での心のバリアフリーにもつながると思う。この条例は都市計画部にユニバーサルデザイン室を設置することによって進められてきた。これは、福祉に偏ることなく目に見える形で、実践的な取り組みを行うためである。

 

 この条例のもとになっているのが「U・優プラン(浜松市ユニバーサルデザイン計画)」であるが、これはソフトな面からみる心の優しさと、ハードな面からみる機能の優秀さに基づいたプランである。「思いやりの心が結ぶ優しいまち」ということを基本理念においていて、@やさしい人づくりA市民が自立できる社会づくりB歩きたくなる安心・安全なまちづくりC利用したくなるものづくりD使ってみたくなるものづくりの5つを目標に掲げている。すべての市民を対象にしているだけでなく、浜松市に通勤通学する人や観光で訪れる人、インターネットなどによりまちのホームページにアクセスする人も対象としており、浜松に少しでも関わるありとあらゆる人々に、対等に配慮するシステムとなっている。

 

 この計画に基づく取り組みの具体例として、浜松市のバスについて取り上げることにする。市内を循環するバスは、オムニバスとよばれ、人・まち・環境に大変やさしいものになっている。たとえば、オムニバスはアイドリングストップバスで、信号待ちなどで停車した時には自動的にエンジンが止まる。公共交通であるバス自身も、空気を汚さない努力をしている。そして、ほぼすべてのバスが超低床ノンステップバスであり、体が不自由な人がバスをスムーズに乗り降りできるようになり、バスの中は床の低いところと高いところをうまく利用することによって、多くの人が乗れるようなデザインになっている。さらにバス乗車の時間を少しでも快適なものにするために、文字放送設備を整備し、ニュース、うらない、ランキングなど老若男女が楽しめる情報を提供している。バス停もハイグレードバス停とよばれ、屋根や風防、ベンチ、バスロケーションシステムが装備されている。バス停の近くには駐車場を整備し、渋滞緩和をするなど、サイクル&バスライドも推進されている。すべてのバスが機能性に満ちていて、外観も内装もすべてきれいである。このことは市民がバスを利用しようという気持ちをかきたてるのである。これは浜松が誇れるひとつの成功例だと思う。

 

 ユニバーサルデザインの普及につとめ、市民一人ひとりの中に自然とこの理念が備わるようになれば、もっと多くの意見もでるようになり、多くの人のニーズに応えられるようになる。少しのアイディアがみんなの努力で多くの人のためになる。浜松市にはユニバーサルデザインの研究・実践を行う市民団体がある。シンポジウムの開催、福祉マップの作成、UD製品の開発、ワークショップの開催や学校への出前講座も行っている。さまざまな障害を持つ人びとや健常者がネットワークを持ち不便さの理解やユニバーサルの考えの普及など、活発な活動を展開している。市は市民団体の活動に参加するなど積極的なかかわりを持つとともに、公共施設の計画時にはさまざまな立場を総合し、市民団体との意見交換を通じ、計画や設計に生かしている。また、歩道空間の整備後のまち歩きをして、歩きやすいまちづくりを進めるなど、市民自らが暮らしやすい環境づくりの担い手となっている。たとえば、マクドナルドの店内には、英語表示のみならず、ポルトガル語の表示までもがある。これは、浜松市に多くいるブラジル人労働者に大変役立っている。ほかにも、企業が商品開発の中でユニバーサルデザインを取り入れた事例を発表し、民間団体がファッションショーを開催するなど、行政の手から離れたところでも、着実に浸透していることを感じる。


 
逆に今後の課題も多く考えられる。市民の啓発に関しては、能力や年齢に応じたものでなければならないと思うし、それが継続されなければなんの意味もないと思う。市民の社会参加の機会を増やしているといっても、外国人労働者の社会参加はまだまだ充実しているとはいえない。外国人労働者が浜松市の産業に大きく貢献しているということをもっと考慮しなければならないと思う。そして、発達してきているとはいえ、まだその範囲は狭いのも事実である。最近では、郊外型の巨大ショッピングセンターの建設が目立っているが、そこにもユニバーサルデザイン化がなされている。郊外型の大きな特徴といえる巨大駐車場だが、そこにも車椅子専用のスペースなどが大きくとられていて、店内も人の行き来がしやすいように通路が広くなっている。このことから、多くの人が郊外に流れている。人々は常に便利さを求めているのである。そのため、中心街の空洞化も問題となっている。新たな取り組みによる新たな問題というのは何にしても起こることである。それにどのように対応していくかが、良いまちを作れるか否か分かれ道であると思う。より多くの人がユニバーサルデザインについて考えそれに対してアイディアを出すことは必要不可欠である。だが、このことに関して無知な者は多い。ずっと同じまちに住んでいると、微妙な変化には気づきにくいものだが、変わってきているのは確かである。その良さをもっともっと市民が自覚してほしいと思う。

 

 都会に人口が集中し、地方が衰退する傾向が強まる中、私自身もそうだが、私のまわりで今浜松から離れている者の多くは、このまちに戻ってきたいといっている。その理由は、市が、市民や事業者とともに努力して、市民参画の親しみやすいまちをつくりあげていて、私たち自身もこのまちが心地よいと感じるからであると思う。まだまだ発展段階であるし、さまざまな案が模索されているが、ユニバーサルデザインにより、美しいまちがつくりあげられている。浜松のよさを残しながらも、いろいろな特性をもった市民がお互いを理解しあい、意見を出し合う「思いやりが結ぶ優しいまち」を作り上げていけたらいいと思う。ユニバーサルデザイン条例に基づくまちづくりにより、まちが活性化され、全国にももっとこの良さが広まっていったらいいと思う。

 

参考

浜松市ホームページ       http://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp

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