Kawabatas050117

川端さやか  「日本における地域通貨の可能性〜国内外の事例を通して〜」

 

 私は高校生のときにある講演会で、「LETS」というシステムについて初めて耳にした。LETSとはLocal Employment Trading System の略で、カナダで生まれたシステムだ。日本語で言う「地域通貨」というものを用いており、地域経済を活性化するために始まったものである。私はこの「地域通貨」というものが国内外でどのように行われているかをいくつかの事例を通して調べ、そして日本におけるそれの可能性について考えてみようと思う。

 

 まず、地域通貨とは何か。私たちが日ごろ使用している紙幣や貨幣は「法定通貨」と呼ばれるものである。それは国家が発行しており、その価値は国家によって保証され、誰でもどこでも使うことができる。それに対して地域通貨とは、ある特定の地域によってのみ流通し、互いの約束と合意によって成り立つものである。その取引の対象となるものは地域内の生産物や住民が行うサービスなどである。地域通貨は国にその価値が保証されているわけではないし、利用できる地域、サービスや商品も限られている。しかし、この地域通貨とは、地域の経済循環や市民の関わりあいを促すことなどに大きな役割を果たすものなのである。それが生まれた背景としては、大恐慌後の1930年代初頭、世界中が大不況にみまわれ、金融機関は破綻し失業者も急増し、多くの中小企業が倒産した。特に大きなダメージを受けたのが地方経済だった。そうした経済状況下で地域通貨が始まり、ドイツ、オーストリア、デンマーク、カナダなどで町の経済復興に効果があり、広く実践されるようになったのだ。

 

 1980年代初め、カナダは高金利、高失業率という不況の経済状況下で、地域経済も衰退していた。特に教育や翻訳、理髪店や建設関係などの個人経営者がそのあおりを受けていた。そこで、お金を使わず、互いのスキルを交換し合うという発想から、一定の地域内で流通し、かつ利子を生まない地域通貨「LETS」が生まれた。その仕組みは単純で、会員はそれぞれ残高0のLETSの口座を持ち、何らかのサービスや商品を提供されたら通貨を発行し、その残高はマイナスに、逆に提供した側の残高はプラスになる。対象となる商品は地域内の生産物で、サービスを行う主体も地域住民となれば、その通貨は地域内を潤し、循環することとなる。LETSはその後オーストラリア、ニュージーランド、イギリスでも普及し、現在ではタイ、メキシコ、南アフリカ、セネガルなどの発展途上国でも実験されている。LETSは全世界二千以上の地域で実践されている最もポピュラーな地域通貨だといえる。

 

 アメリカニューヨーク州、人口3万人のイサカ市では1991年から「イサカアワーズ」という地域通貨が流通し始めた。その名のとおり1時間の仕事に対し1HOUR支払われるのが目安である。93人が個人のスキルを交換し合う小規模なものから始まったが、そこに映画館、生協なども参加し、次第に大規模な実用性の高い地域通貨へと発展した。開始当時の発行額は382アワーズだったが、2002年には9000アワーズを超え、2003年時点ではカフェや生鮮食料品店、雑貨店や内装業、農家や地元病院にいたるまでおよそ470の事業所でアワーズが使用できるようにまでなった。さらに個人が提供するサービスや商品も含めると、1500種類以上の商品で使用できる。1アワーズは10ドルに相当するが、商店はどこかで米ドルと交換することはできず、商店もまた地域内でアワーズを利用する。アワーズに加盟している商店では商品に、30アワーズ/70米ドル、というように米ドルと併用した形での価格が示されている。地元の生産物を使ったものはアワーズの割合が多く、逆に輸入品など他地域の商品だと米ドルの割合が高くなる。商品でなく人が行うサービスの場合だと、その提供者が地元住民であれば全額アワーズで支払ってもかまわない。このように外部からではなく地域内の商品やサービスを利用するときに地域通貨を使えるようにすることで、より地元に根ざした経済循環を促すことができるのである。また、商店は商品の原価分は現金で、あとは地域通貨での支払いと指定することで、赤字にならないための最低限の現金を受け取ることができるので、無理なく加盟することができるのも地域通貨の特徴の一つである。アメリカ国内最大の地域通貨となった今では、アワーズを地域の団体に貸し出す試みも始まっている。

 

 あらゆる地域で普及しつつある地域通貨だが、ここ日本でも20041210日現在で508の地域通貨が実践されている。東京都練馬区のニュー北町商店街では「ガウ」という地域通貨が発行されている。平成12年にニュー北町商店街の近隣に大型量販店が出店し、商店街は危機感を持ち始めた。そこで新しい面で量販店と差をつけようということでNPO法人「北町大家族」が立ち上げられた。会員からの会費やフリーマーケットでの収益金を財源としている。北町大家族の主な事業としては、高齢者のデイケアサービスなどを行う「北町いこいの家」、こどもたちとの触れ合いの場を作る「かるがも親子の家」を柱としている。そこでボランティアスタッフへの謝礼がガウで支払われるのである。ガウには100ガウ札と500ガウ札があり、1ガウは1円に相当する。スタッフには300ガウ支払われ、スタッフ自身があと200ガウ買い足して500ガウ持つということになる。ここでスタッフが200ガウ買い足すのにはできるだけガウ通貨を流通させる意図があるのだと思う。また、このガウはコンビニエンスストアを含む35店舗で金券として利用することができる。そしてそれと連動して商店街では「かるがもカード」が発行されている。加盟店でガウもしくは現金で買い物をするとポイントがたまり、満点になれば500円または500ガウと交換でき、ガウで買うとポイントが2倍という特典もある。交換時にガウを選択し、そのまま北町大家族に寄付することもでき、また交換時には自動的に10円が寄付される仕組みになっており、それが北町大家族の貴重な現金収入になっている。開始当初から今までで発行額は250万ガウで、それほど大きな額ではなく、経済的な面というよりは社会的な面で地域の連帯を築く大きな役割を果たしているようである。

 

 私が今までにあげたのは国外、国内の事例一つずつだが、インターネットをはじめとする情報源から、多くの地域通貨について知ることができた。そこで感じたのは、日本で実践されている地域通貨は、地域の経済振興や経済循環を目的としていても、今回取り上げた北町大家族のように、まだ通貨としての実用性にはやや欠けているように感じた。イサカアワーズでは2002年、地元の信用金庫に3000アワーズ(3万ドル相当)を融資した。なぜアメリカでは法定通貨ではない地域通貨がここまで根付き、実用性をもったものになったのか。それはアメリカが住民主体の自治やボランティアの根付いた国だからではないだろうか。アメリカでは自治体は国の機関ではなく住民主体という観念があるし、ボランティア参加率も日本の約二倍である。まだアメリカに比べると市民自治もボランティアも活発でない日本では、地域通貨はまず実用的なものではなく、地域住民の絆を深めるためのシステムとして働いているのだと思う。

 

 一極集中の弊害により、日本の地方は衰退の一途をたどっている。これまで地方は、都心に本社のある大企業の工場を誘致したり、多額の借金をしてリゾート開発に力を注ぎ、なんとか観光業を立て直そうと努力したり、外部からの何かを期待して経済の復興を試みていた。それでも、復興は難しいのが現状である。これから地方に必要なのは、外部に何かを求めるのではなく、地域にある資源を有効に活用すること、今まで外部から調達していたものを地域内で生産、販売することによってその利益を循環させることなのではないだろうか。そしてそのために重要なのは住民同士の結びつきと信頼関係、そして自ら地元のために活動しようとする意識であり、それを構築する術としても、地域通貨は最適なシステムである。地方自治が叫ばれ、地方の活性化が必要な今の日本にこそ、地域通貨が必要であると考える。

 

 

参考文献  「地域通貨」 嵯峨生馬 日本放送出版協会出版

 

引用HP

NPO北町大家族 http://www.chala.jp/4set.html

   コミュニティーマネーわかやま http://www.chala.jp/4set.html

   地域通貨ポータルサイト http://npo.iki2.jp/localcurrency/index.html

   国民生活白書 http://www5.cao.go.jp/j-j/wp-pl/wp-pl00/hakusho-00-zuindex.html