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軍司陽一「日本版PPPの実践について」

 

PPPとは,Public Private Partnershipの頭文字をとったもので,民間の経営力を活用して,行政サービスのあらゆる分野を効率化・高度化・多様化する概念である。具体的な手法として,民営化・事業譲渡・PFI(民間資金を活用した社会資本整備)・公設民営・独立行政法人化・業務委託・経営委託などがあり,行政サービスの提供に民間の経営力を導入することにより,財政の効率化が進み,行政サービスに対する納税者・市民の満足度が向上し,同時に民間企業も「行政サービス供給業」という新たなビジネスを拡大できる。これにより,公共サービスを行政と民間が多様な形で連携して提供できるようになる。

 

PPPの生まれた背景は,1980年代半ば以降,東西冷戦の終結,産業構造の変化・財政ひっ迫などを受け,低経済成長化の先進諸国において行政部門の役割が大きく変化し,地域に適した行政サービスを最も効率的に提供する方策が検討されていた。そして,行政サービスの分野に市場原理を導入し,民間企業への事業開放を推進していった。開放が進むにつれ,イギリスでは「行政は事業を行うには必ずしもふさわしくない」という認識も広がった。アメリカは「建国以来PPP」といわれるくらい,国及び地方で公共サービス業務を民間主体で提供する歴史があり,「民間ができることは行政はやらない」という考え方が浸透している。

 

現在の日本の地方自治体を取り巻く環境は,地方分権が進む中,中央省庁を中心とした中央集権体制での画一的な縦割行政では対応困難な事例や,住民ニーズの多様化への対応が急務となり,地方自治体は地域の事情に合わせた独自の手法によるサービス提供を目指す必要性が生じてきた。また,三位一体の改革により,国から分配されていた財源が地方へ移譲されることにより,地方の裁量で財政の効率化を図られるようになってきた。しかし,税源が移譲されたことは実質,財源が増えたわけではなく,国の監視下にあった権限が地方に移行しただけであり,今後,地方自治体は強固な説明責任を伴い,財政規模の縮小が避けられない状況にある。地方自治体が市民生活の質的向上を図るには,時代と地域に即した新たな公益の実現を目指し,民間と連携した行政サービスを提供する必要がでてきた。

 

日本のPPPの先進地の例として,民間活力誘導型を実践する「大阪版PPP」がある。大阪府立健康化学センターは府民の健康づくりの観点から,コンビニ弁当商品化に参画し,がん死亡率の抑制を目指し,野菜たっぷりの食生活を推奨しようという行政課題に賛同してもらって実現し,平成16年11月末には第3弾の新商品が発売された。第1弾・第2弾は累計50万食を売り上げ,食育(健全な食生活のための教育)推進の新たなモデルとして注目されている。また今年度,国内公的機関としては初めての「総務サービスセンター」を設立し,人事・給与・福利厚生などの総務業務を包括的にアウトソーシングし,それを府が購入する仕組みを築き,総務業務を棚卸して意思決定の手順を見直し,ITの活用・業務の外部化によって400人の職員削減効果と年間35億円の市場を創造し,職員の利便性にも大きく貢献している。これまで行政と企業との協働は社会貢献面からとらえられ,企業や経営者の善意に頼るという意味で限界があったが,今後は,高い公共実現と同時に,企業にもビジネスチャンスを開くタイアップ型が浸透すると考えられる。

 

 日本でPPPが本格的に導入された場合の効果として,例えば多くの投資を伴う社会資本整備はPFIの積極的導入により,公共事業のスピードアップ・事業圧縮が図ることが可能になる。また,出資法人や公共施設運営・地方公営企業(水道局や競輪場)の業務について,聖域を設けず民間参入を可能にすることにより,自治体はサービスの供給者であると同時に需要者でもあり,制限のある予算を有効に活用することで,その調達行動の変化は有効な政策手段となる。また,ベンチャー調達の制度を確立し,有望な技術を持ちながら知名度が低く販売経路が乏しいベンチャー製品や技術を,テーマ設定をして公募・公平な審査を行って,それを行政が購入することで,行政が「お墨付き」を与えると同時に,ベンチャー企業の初期市場を形成し,既存の中小企業やベンチャー企業を中心とした地域経済を底上げさせ,活性化させる政策推進に役立てるようにもなる。このような積極的な民間活用は公務員の意識改革の起爆剤となり,民間の積極的な提案・要望を受けることで,公務員もこれまでのやり方に固執せず,創意工夫の幅を広げる必要に迫られ,公務員と民間の競争の激化は,行政が大きく進化する契機となる。上記のような新規市場の創造効果・行政部門の経費削減・公務員の意識改革の効果により,地域や市民に応じた行政サービスの提供が可能となり,市民の地方公共団体の行政サービスや事業や税金に対する捉え方にも変化が生まれ,経済波及効果や生活の豊かさ向上にも影響が大きくなることから,居住している地域の格差が明確になり,民間企業や市民が積極的に行政参加を促す効果も大きくなる。

 

今後,日本がPPPを導入していくためには多くの課題がある。日本における行財政制度は,「行政による行政サービスの提供を基本とする」という概念が依然として根強く,民間企業への制約がある。民間事業者選定は現在,基本的に行政が仕様を決め,これを入札により調達する考え方が基本となっており,民間の経営力が十分に活用するには適さず,行政と民間が対話を重ね,最も良い結論に達する手法はとられていない。また,日本には行政サービスを担う民間業者が未発達である。英国では行政サービス業を担う企業は社会的地位が高く100社以上が上場している。さらに行政部門の雇用はPPP導入により行政が行ってきた事業を民間企業が担う場合,当該部門の公務員の雇用が問題になる。公務員の雇用と行政サービスの効率化を両立させるようなシステムを検討し,構築していく必要がある。行政がPPPを推進するには,様々な要件を十分に検討し,より納税者や住民の最大厚生を実現できるように変えていくように努力する必要がある。また,PPPを導入するためには,公共=行政となっている既存の行政制度・法律が大きな障害になることが多いことから,柔軟な対応が図れるような行政制度の改革や法整備の確立が急務となっている。

 

 地方自治体は,現在の地域行政システムの限界を見極め,予算の有効活用の基,地域の特性を生かし,行政サービスを行政・市民・民間企業と相互協力により,地域や市民の最大の厚生を得られるような政策を模索し,行政のサービスや事業の情報を広く周知し,協力や協同・参加を促し,地域や市民の十分な理解を得て,積極的な民間活用・市場化テストなどを行うことにより,行政と民間企業・市民との垣根を取り払わなければならない。

今後,民間企業や市民の参加なくしては,地方自治体が発展を遂げることは考えられない状況にあり,地方自治体の努力はもちろんのこと,国の積極的な対応も必要となり,日本型PPPの積極的推進,導入を行っていかなければならない。

 

参照 大阪府HP     http://www.pref.osaka.jp/ 

   PPP推進会議HP http://www.pppweb.jp/