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石田奈津美「市町村地域福祉計画が果たす役割〜茨城県東海村の事例から〜」

 

1、市町村地域福祉計画の概要と必要性

市町村地域福祉計画とは、平成126月の社会福祉法改正に伴って新たに規定され、平成154月から施行された事項である。その内容は、市町村が、地域福祉推進の主体である地域住民等の参加を得て、地域住民の抱える生活課題やそれに対応する福祉サービスの内容・量を明らかにし、さらにその福祉サービスを確保・提供していくための体制を計画的に整備したものである。計画策定には、住民が主体的に参加することが求められ、市町村の特色や住民の意見が取り入れられなければならないため、計画は非常に地域性が反映した計画となる。計画策定は、各市町村が主体的に取り組むことになっており、法的強制力はない。

改正された社会福祉法の第4条に、新たに「地域福祉の推進」という言葉が盛り込まれたが、市町村地域福祉計画は、この「地域福祉の推進」を図るための方策として位置づけられている。

平成141月に社会保障審議会福祉部会が報告した「市町村地域福祉計画及び都道府県地域福祉支援計画策定の在り方について」によると、変容しつつある地域社会というものが、「地域福祉の推進」が社会福祉法に盛り込まれた背景にある。具体的に言うと、地域における相互扶助機能の弱体化、これに追い打ちをかける少子高齢化や近年の経済不況、ストレスや生活不安からくる自殺・家庭内暴力・ひきこもり等の新たな社会問題等。その一方で、市町村の福祉施策は盛んになり、社会福祉を通じて活動するボランティア団体やNPO等の新たなアクターが次々に生まれてきている。こうした相矛盾する社会状況の中で、地域住民の地域福祉への積極的な参加、それを促進する地方自治体の役割(地域福祉の推進)が極めて重要になってきたのだ。

また、「地域福祉の推進」の目的は、「地域住民、社会福祉を目的とする事業を経営する者及び社会福祉に関する活動を行う者(以下住民等)が、相互に協力し、福祉サービスを必要とする地域住民が地域社会を構成する一員として日常生活を営み、社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が与えられるように」(社会福祉法第4条)することである。

こういった背景、目的を持った「地域福祉の推進」を住民等が実際に行うにあたって、誰もが自身のすべきことを明確に理解できるようにするためには、やはり具体的な指針というものが必要になってくる。その指針として掲げられたのが、市町村地域福祉計画なのである。

 

2、東海村の概要

  <基礎データ>

     位置:県庁所在地水戸市の北東役15km。東は太平洋に面し、西は那珂町、南はひたちなか市、北は日立市と接している。総面積37.48ku。

    人口:男17,843

            17,541

            35,384

      世帯数12,892     (平成1610月)

   <福祉面での特性・現状>

     東海村には現在13を数える原子力事業所が存在し、このことが東海村の福祉に様々な影響を与えている。まず1つ目は、この原子力事業所から入る固定資産税が村の財政を潤しているということである。しばしば福祉関係者からも「東海村は原子力事業所があるから金持ちの自治体だ」ということを耳にする。実際に、村内の6つの小学校区ごとに体育館、図書室、和室等を備えたコミュニティセンターが建設されており、また、平成164月には6500uの面積を持つ大規模総合福祉センター「絆」がオープンするなど、他市町村に比べ福祉施設が充実していると言える。そして2つ目は、原子力事業所の完成により外からの転入者が増え、もともと村に住んでいた村民との間に距離が発生し、地域の連帯感が薄くなってきているということである。村内には32の行政区があり、その下に町内会が組織されているが、この行政区への未加入率はアパート住まいの新しい世代の村民を中心に35%にまで低下しているという(平成1610月)。

     また、高度成長期に造成した団地等の住民が現在定年を迎えようとしており、高齢化の波も急速に忍び寄りつつある。

    

3、東海村の市町村地域福祉計画

    先に述べたような村の現状を受け、東海村は、約1年の期間を経て平成163月、市町村地域福祉計画を策定した。

   <計画の策定手法>

   (東海村地域福祉計画より)

    @住民参加が基本

     公募や学生を含めた多くの住民参加を実現した。

    A地域福祉計画策定委員会・地域福祉計画策定ワーキング委員会を組織

     両組織はそれぞれ、計画の方向付け・個別具体的な計画策定を行い、公募を含む住民、学識経験者、ボランティア団体代表者、地域・高齢・障がい・児童等各分野の福祉関係者、民生委員、児童委員、社会福祉協議会職員、行政職員など、幅広い層の住民で構成した。

    B地域福祉コミュニティづくり村民運動との連携

     省略

    C福祉懇談会の開催

     福祉について住民に考えてもらうことを目的として、小学校区ごとに、行政が行う福祉分野の事業内容を各担当者から住民に周知するともに、住民からの意見や要望を吸い上げた。

    D民生委員・児童委員協議会との連携

     日頃から住民の立場に立ったきめ細やかな活動を展開し、住民の生の声を把握している民生委員・児童委員が策定委員・ワーキング委員に就任した。各人が担当地区内において計画の案内人として住民への広報・広聴活動を行った。協議会では、勉強会を開催したり、地域福祉に関するアンケート調査に協力したりした。

    E社会福祉協議会との連携

     計画策定において、平成14年に「地域福祉活動計画」を策定した社協の全面的な支援を受けた。

 

      以上6項目の策定手法を見てみると、公募住民、民生委員・児童委員を策定委員・ワーキング委員に就任したことや、福祉懇談会を開催したことで、より多くの住民の意見、様々な立場に即したニーズや生活課題を計画に反映することが可能になったと考えられる。また、行政職員と住民が同じ立場に立って計画策定に携わったことは、住民の地域福祉に対する意識を、行政から一方的に与えられるものではなく、自ら参加して作り上げていくもの、というように変えていったのではないだろうか。

<計画の内容>

      計画は、住民によって策定され進行管理される住民施策と、行政によって策定され進行管理される行政施策に分かれているが、ここでは、住民施策についてのみ見ていきたいと思う。

住民施策は、地域福祉計画策定ワーキング委員会によって挙げられた生活課題によって成り立っている。内容は、高齢者問題、障がい者問題、児童問題等狭い意味での福祉にとどまらず、「地域の力を取り戻すために」といったような地域の問題、環境問題、交通問題、農業・商業問題など広範囲に及んでいる。生活課題は大分類、中分類、小分類に分けられており、それに対して、@施策A誰が解決するかB主な活動場所Cお金の問題の有無Dすぐできるか、といった解決方法が掲げられている。 

     例)大分類:地域の力を取り戻すために

      中分類:世代間格差が大きい

      小分類:三世代の交流が必要だ

      @地域で三世代交流会を開催する

      A子ども、親、高齢者

      Bコミュニティセンター、集会所

      C有(参加費)

      Dはい

      生活課題が、抽象的な言葉を用いた大分類から、具体的な言葉を用いた小分類まで分析されているのが印象的である。また、こうした現実的な施策があることで、生活課題を抱えた人が、自分自身がするべきこと、できることの方向性を見出し行動に移しやすくなってくるのではないだろうか。

    <計画が果たす役割〜まとめに変えて>

     策定された地域福祉計画が実際に東海村においてどのように用いられているのかを知るべく、東海村役場福祉部の方に電話でお話を伺った。お話によると、計画には全く拘束力がなく、その達成度を測る物差しというものはないそうだ。従って、計画の中に挙がっている生活課題の一つ一つが取り組まれているか否かは分からないことになる。あくまでも、この計画は地域住民が自ら行動するための教本となるものなのである。取り組める人が取り組める部分から始める。大切なことは、計画そのものよりも、計画を作る過程にあり、そこにどれだけ地域住民が関わるかということだ。地域福祉計画とは、その策定過程において、住民に、自分の住む地域に潜む問題を探す姿勢、そして地域福祉は自らの手で作り上げていくという意識の高揚をもたらすのである。

 

参考:地域福祉計画ホームページ 

   http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/syakai/c-fukushi/

   東海村地域福祉計画