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宇居槙子「構造改革特区について-群馬県太田市「英語特区」を事例に-」
構造改革特区という言葉を最近聞くようになり、興味はあったものの、私はよくわかっていなかった。そんなときに地元である群馬県太田市が、「英語特区」として認められたことを知り、より調べてみたいと思うようになった。また、英語教育にも関心があったので、今回レポートで取り上げることにした。
構造改革特区とは、地方公共団体や民間事業者の自発的な立案をもとに、地域の特性に応じた規制の特例を導入する特定の区域（構造改革特区）を設けることにより、地域経済さらには日本経済を活性化しようというものである。経済の活性化のためには、規制改革を行うことによって民間活力を最大限に引き出し、民業を拡大することが重要である。しかし、規制緩和を全国一律に実施するのは、実地調査にかかるコストと時間といった制約や自治体の抵抗が予想される。そこで、ある分野につき特定地域にまず「規制の特例措置」を実験的に試み、それが成功したら全国的に規制緩和に取り組むということにしたのである。これは、規制緩和を通じて「国から地方」「官から民」という構造改革を推進する小泉内閣が打ち出した経済活性化の目玉として注目されている。今までの地域振興政策との大きな違いとして、財政的援助が一切行われないということがある。主な特区としては、教育特区、国際物流特区、農村活性化特区、産学連携特区などが挙げられる。(構造改革特区応援サイトhttp://www.21ppi.org/mintoku/link/)。私は、財政的援助を一切行わないということを知り、国が財政負担から逃げるために市町村合併と同様に推進しているのではないかという疑いを持った。確かに、地方が自ら成長するために援助を行わないという考え方もあると思う。しかし、貧しくて新たな取り組みにも挑戦できないような場合に、援助を行うことは、地域活性化のために必要なことではないだろうか。21世紀政策研究所が、平成15年7月に、特区申請をした自治体に対して行ったアンケートで、財政措置排除が不満な点、改善すべき点で1位だったことに目を向けても、構造改革特区がより良いものになるよう、検討するべきだと思う。
次に、群馬県太田市で認められた「英語特区」とはどのようなものであるか見ていこうと思う。特区となることで、規制に関する特例措置が取られ、今までは不可能だった多様な教育カリキュラムが可能になる。このような措置により太田市では、英語に重点を置いた、ぐんま国際アカデミー(GKA)という、小中高校一貫教育学校が民間活力により設置可能となった。これは英語イマージョン教育カリキュラムを認められた、日本で初めての学校となる。イマージョン教育とは、第二言語を教える方法であり、学科目を教えるのに第二言語を使用することで、その言語の「聞く」、「話す」、「読む」、そして「書く」能力を自然に上達させるというものである。学力の習得には影響を与えないことが研究では示されている。簡単に言うと、ぐんま国際アカデミーでは国語以外の全ての授業を英語で行うということである。また、英語だけでなく、国際コミュニケーション能力、豊かな人間性、日本の伝統・文化理解、異文化理解なども教育目標として掲げている。ぐんま国際アカデミーは2005年4月に1年生と4年生の児童で開校し、学年は毎年増え、2013年に小・中・高の全学年が揃う予定である。また、ぐんま国際アカデミーでの学校生活に速やかに慣れるために、プレスクールでレッスンが行われている。プレスクールの児童は、原則として全員ぐんま国際アカデミーへ入学することが出来る。プレスクール相当の英語力を持っていれば、初等部入学試験（若干名募集）により入学する方法もある。
(ぐんま国際アカデミーhttp://www.city.ota.gunma.jp/gyosei/0020a/001/02/eigotokku.htm)
それでは次に、「英語特区」として認められた太田市はどのような市なのか、ということについて見ていこうと思う。太田市は、自動車や電気を中心とした製造業が数多く立地すると共に、海外に現地法人を設置している企業が多数存在している。市内の有力企業においては、外国人役員との会議は英語で行われるという状況である。また、大手製造業、下請け企業はコスト削減のため外国人労働者を雇用している。特にポルトガル語を母国語とするブラジル等からの日系2世3世の就労者が多く、その数は約3400名になる。このように市内に住む外国人も多く、太田市の外国人登録者数は63ヶ国8000人を数え、全市民に占める割合も5％を超え、今後も外国人市民の増加が予想されている。市役所にはポルトガル語の広報が置いてあり、外国人の多さを実感した。このような現状をふまえ、太田市では外国人相談窓口で、在日外国人の相談に応じるため、各種言語による相談窓口を開設している。相談内容は、税金関係、公営住宅の申し込等の住宅関係、出生届や婚姻届等の在留資格の相談が多くなっている。これは定住化傾向を反映しており、これからの外国人市民のさらなる増加を予想させる。他にも、「外国人市民の市政参加」と「共生に向けた地域社会の形成」をめざして、外国人市民の声を市政に届けると共に、市及び市民の思いを理解してもらうことを目的として外国人会議開催などを行っている。このような背景を基に、「英語特区」太田市が誕生したのである。(太田市ホームページ http://www.city.ota.gunma.jp/)
英語特区としての太田市に、私は期待しているが問題点もある。例えば、教科書が高額になってしまい、1冊8000円を越してしまうことである。文部科学省の検定済み教科書をそのまま英訳したテキストを、国語を除く全教科でつくろうとしたが、教科書会社の試算だと、小学校の4教科だけでも6年生までの1セットが21万5000円になった。検定済み教科書なら国から無償で配られるが、英訳版は対象外である。内訳は、印刷費などの製作料約１億円、挿絵や写真などの著作権使用料約5400万円、翻訳料約3200万円や人件費などになる。検定済み教科書とは別の出版物のため、著作権使用料を改めて支払わなければならず、少ない部数しか刷らないので、コストがかさむ。自分達で著作権の契約をし直したり、教員自ら翻訳したりしてコストを減らしたそうだが、1冊8000円が限度だった。(アサヒ・コムhttp://www.asahi.com/)こうなると、教育の機会均等ということが大きな問題点となる。確かに地域の特色に根付いた教育は素晴らしいが、平等との兼ね合いが難しいと改めて思う。
またそもそも、英語特区での国際的な日本人の育成も大切だが、それよりも先に在日外国人を取り巻く厳しい環境を改善すべきではないかということも疑問に思った。外国からの就労者の子ども達は、能力があるにも関わらず言葉の壁により、高校、大学への進学をあきらめなければならない状況であるのだ。こう思いながら調べていたら、さらに太田市が、「定住化に向けた外国人児童生徒の教育特区」として認定されたということを知った。これは、市内の小中学校を6ブロックに区分し、その中で指定した学校に外国人の子どもたちを集中させ、習熟度に応じた日本語指導教室を実施するというものである。その習熟度を小・中学校一貫で3段階に分け、独自のカリキュラムによる日本語と教科指導を行なう。また、市費負担のバイリンガルの教員を採用し、日本語と母国語とのバイリンガルでの日本語、及び教科指導を行なうことにより、外国人の子どもたちの日本語の習熟度と主要教科の理解度を向上させる。関連事業として、就学前の外国人の子どもたちや、途中来日者で日本語が解らない子どもたちを対象にプレスクールを開設し、就学時における言葉の障害を軽減し、定住化に向けた日本語学習の環境をつくるという。(太田市ホームページ http://www.city.ota.gunma.jp/)この情報を見つけたとき、私は素直にすばらしいと思った。外国人の方が人数は少ないため、多数派の日本人の利益ばかり尊重されているのではないかという思いがあったが、そのような面ばかりではないのだと安心した。けれど、日本人へのサービスと考えられる「英語特区」が「定住化に向けた外国人児童生徒の教育特区」よりも先に実現し、ニュースなどでも多く取り上げられていることなどから、多数派重視の面も感じる。
今回レポートを作成して1番感じたことは、役所も民間のようにサービスを競い合う時代になったということだった。日経や他の雑誌でも、住みたい街ランキングが掲載されている。(日本経済新聞社 http://www.nikkei.co.jp/news/retto/20041221c3b2103o21.html
)あの市はサービスがいいから引っ越すというように、人々が役所を選ぶ機会も増えるのではないかと思う。テレビでも、埼玉県から太田市へ、「英語教育特区」で子供に教育を受けさせるために、引っ越す親子が取り上げられていた(「とってもインサイト」TBS 11月4日（木）放送)。このような現状を見ると、太田市が多数派である日本人へのサービス、「英語教育特区」を先に実現したのも、そうしないと生き残っていけないという意識があるのかもしれない。太田市職員が『あの太田市の課長たち』という本の中で、「市役所はサービス産業である」と断言していることを見てもそう感じる。もちろん、こういった傾向は住民へのサービス向上のために良いと思うが、あまりにも民間のようになってしまったら、社会的弱者や少数派へのサービスがおろそかにされる不安も感じた。激しい時代の流れに乗りながらも、大切なことを見失い流されきってしまうことはないように、踏ん張ることも必要だと思う。私も住民として良いサービスを求めるだけでなく、他者の立場にたってサービスを考えるという視点を持てるようになりたい。