2003年度「現代政治の理論と実際」
各レポートに対する担当教員中村祐司のコメント(以下の青字)
(各タイトルをクリックすると各レポートが提示されます)
レポート一覧はここ
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氏 名 |
テ ー マ |
1 |
高藤 梨沙 |
「日本のイラク派遣がもたらすテロの可能性と日本人の危機意識」 アルカイダの指導者と推測される人物による東京へのテロ攻撃声明に見られるように、自衛隊派遣が日本に対するテロの危険性を招くと指摘。しかし、それに対する世論の危機意識が薄いとし、「欧米の情報組織との連携」や「断固とした」テロ対策が不可欠だとしている。確かにテロ攻撃声明を盛り込んだことで論旨に迫力が出たものの、現状の具体的なテロ対策についても掘り下げれば、バランスがとれたのではないか。 |
2 |
小針 寛史 |
イラクにおける日本の石油産出権を手に入れるためにも、「アメリカの意見についていく」「アメリカの言いなりになっておく」のが得策だという立場。一方、そのアメリカも自国の利益を追求するため、有事の際、日本を本当に守ってくれるかどうかはあやしい。そこで、日本は自衛隊を強い軍隊にしなければいけない、というある意味素朴で分かりやすい流れとなっている。しかし、自衛隊による兵力行使の範囲やそれがアメリカ以外の諸国に及ぼす影響などについての考察がないし、「日本の独立と発展」の中身も提示されていない。 |
3 |
佐々木 優 |
果たして北朝鮮に「実践運用可能な核兵器」があるのかどうかという疑問を基軸に、アメリカの対北朝鮮戦略の検討を、英文資料の読み込みも含めて行い、緻密な検討を積み重ねた好レポートである。米朝間の虚虚実実な駆け引きが読む者にも伝わってくる。弾道ミサイルの日米共同開発といった表向きのメディア報道から読み取れるものは何か。このレポートでは国際情報を自分で解釈・構築しようとする姿勢が首尾一貫している。 |
4 |
鈴木 沙紀 |
若者世代にとって、日朝国交正常化交渉がなぜもっと早くから行われていなかったのかという疑問が生じるのは、もっともなことかもしれない。概観した戦後の日朝関係史をもっと掘り下げて、朝鮮半島とこれを取り巻くアジア諸国や旧ソ連、アメリカなどの利害関係の錯綜状況を歴史過程のなかで押さえておく必要があるであろう。また、インターネット上の北朝鮮関連の情報を多面的に把握するには現状では難しいのではないかという思いもする。 |
5 |
関 広志 |
憲法改正の立場から、集団的自衛権の行使を認める条文を盛り込むべきだと述べている。論点整理は明確で考察の提示もスムーズになされてはいる。しかし、問題はこの先ではないか。例えば、集団的自衛権と専守防衛との棲み分けが果たして可能なのか、「集団」の枠は簡単に線引きできるものなのか。過去の事例やサマワで想定されるケースにどう対応するのか、政府批判だけではなく、一人一人が熟考しなければいけないのであろう。 |
6 |
南條 辰徳 |
日本の「正しい判断」とは何なのか、作成者も揺れているものの、結論としては派遣を是としている。アメリカなどは別としても、他国から見れば日本は既に軍事大国という言い方もできよう。自衛隊が「最高の結果」を残すということの具体論がほしかった。「日本の経済に有利なる」についても同様である。犯罪や治安の悪化は別として、戦争がないという意味では、日本の「平和が永遠に続くこと」に対する人々の強い思いが政府を動かす最も大切な原動力かもしれない。 |
7 |
三角 光弘 |
「フランスの移民問題〜統合と排斥のプロセスをどう進めるか〜」 フランスにおける犯罪発生件数と失業率の増加を起点に、とくに「移民2世」と「生粋」のフランス人との間で摩擦が顕在化した事件を挙げ、その社会的背景を探る中で、異文化間の「統合」と「排斥」という根底課題に行き着く。作成者の見解も「労働目的で手ぶらの移民を入国させるべきでない」「(移民を)生活者で自分の隣に住む人間」と捉えるべき、といったように揺れている。問題意識には目を見張るものがあるものの、例えば、フランスの移民問題と日本における外国人労働者の流入問題における共通性と異質性を具体的に明らかにした上で、後者についての解決策が示されなければならない。 |
8 |
寺方 優 |
日本は「世界でトップクラスのエネルギー効率社会」であると位置づけた上で、「温室効果ガス排出権」に注目する。しかし、作成者はこのユニークな政策に批判的である。課題は山積しているものの、日常生活レベルでも「環境に気を配る政策」が徐々に人々の間に浸透しつつあることも事実である。取り扱っている内容が、排出権を他国から買うという大変興味深い事項なのであるから、これについてもう少し詳しい説明があってもよかった。 |
9 |
吉武 孝将 |
「年金資金運用基金」の大幅な赤字に注目し、まず、その運営主体のあり方に疑問の目を向ける。「年金の資金不足をすべて少子化のせいにしている」「払えないものは払えない」「国会議員や官僚も当然痛みをおうべき」という指摘には、理不尽なものは受け入れられないという若者世代の憤りが滲み出ている。政策を論じる上で不可欠な原動力の一つに若者の「怒り」があるとすれば、これが出発点になって、迂遠なようでもこの国の制度とその運用、さらには具体的な機能障害を迂遠なようでも一つ一つ明らかにし、現実の解決方策の提示につなげていかなければいけないのであろう。 |
10 |
加藤 大輔 |
竹島問題が生じた歴史的経緯をよくまとめてはいる。領有権・経済水域問題など、現時点では分からないとはっきりことわった上で、「日韓で竹島問題がどのように扱われているか」に焦点を絞っていく。そして、日韓の捉え方に差異があると指摘し、前者の説明責任を問うに至っている。それだけに最後の2つの段落における記述が、一転して粗雑で緩くなってしまった点が惜しい。 |
11 |
土田 恵理子 |
「『グローバル・コンパクト』の基本理念または理解のされ方の落とし穴」 グローバル・コンパクトは「企業の社会的責任」を世界規模で拡大させることにつながる。しかし、これに関する国連の記述には「巧妙な論点のすり替え」があり、「偽善」性があるという。そして根底には民間企業戦略の貫徹のための方針転換があると推察する。「理念や解釈のされ方に建前のような論理」が見えるという批判には迫力がある。その後も舌鋒鋭い指摘が続く好レポートである。特定の情報源をもとにこれだけ言い切っていいのかという思いをしないわけではないものの、ここで展開される問題意識は、他領域の検証・分析の際にも必ず役立つに違いない。ただし、組織論レベルでいえば、国連は類を見ない「建前」の組織であろうし、それは国レベル、地方レベル、ひいては日常の組織の基礎単位でも多かれ少なかれ同様であろう。「建前」が生み出す力もまた侮れないのである。 |
12 |
宮田 巨樹 |
テーマ名からも推測されるように、日本の対米依存に批判的な立場から、その理由を探っている。過剰な防衛依存と貿易依存を指摘するのだが、具体的データが何も出てこないので、読み手にはどうしても表面的な印象しか残らない。「アメリカと敵対した瞬間から防衛力は無いに等しい」など、問題意識を凝縮した表現は散見されるものの、ここで展開されている主張に何か新しいものがあるのだろうか。 |
13 |
中村 祐司(担当教員) |