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中村祐司「足銀破たんと繰り延べ税金資産」

 

 031129日の「金融危機対応会議」において決定した足利銀行破たん(一時国有化。日本で初めての「特別危機管理銀行」)の経緯をめぐる新聞報道等に接すると、「繰り延べ税金資産」という言葉が、破たんを決定づけたキーワードとしてしばしば登場してくることが分かる。銀行は、不良債権の前倒し処理、すなわち、融資の焦げ付けに備えて利益の中から貸倒引当金を計上する。その際、引当金を差し引く前の利益(課税所得)を基に税金を納めておき、貸出先の倒産などで損失が確定したときに、払いすぎた税金が銀行に返される仕組みになっている。この「払いすぎ」分の還付分をあらかじめ銀行の自己資本として計上するのが繰り延べ税金資産である。

 

 足銀の033月期末の総資産は52677億円。従業員数は2966人。県内に66店、県外に35店の本支店を持ち、県と県内49市町村すべての指定金融機関となっている。預金残高は49417億円、貸出金残高は4148億円である。039月の金融庁検査で、足銀は繰り延べ税金資産の全額取り崩しを求められた。足銀の自己資本に占める繰り延べ税金資産(1200億円)の割合は184(帝国データバンク調べ)に達し、全国64の地方銀行の中で最上位であった。中央青山監査法人がこの資産の計上を全く認めなかったことで自己資本比率はマイナス3.7%となった。

 

自己資本比率というのは、貸出債権や株式などの資産を分母に、資本金や剰余金などの中核的自己資本を分子にして計算し、「銀行経営の健全性」を示す指標とされている。国際業務も行う銀行は8%以上、国内業務だけを行う銀行は4%以上の維持が義務付けられている。ちなみに大手銀行の繰り延べ税金資産は総額82000億円に及び、中核的自己資本の47.29%を占める(023月期)。この資産にはもともと「税効果会計」としてバブル崩壊後の不良債権の早期処理を促す狙いがあった。

 

 「金融再生プログラム」(竹中プラン。0210月策定)が最も重視したのが、繰り延べ税金資産の自己資本への参入を厳格化することであった。竹中プランの原案では、「自己資本のかさ上げ」という批判もある繰り延べ税金資産の参入を、中核的自己資本の10%までに制限するという米国並の基準を導入することが想定されていた。

 

 要するに繰り延べ税金資産については、多かれ少なかれ全国の大手銀行、地方銀行に共通の銀行財務上の問題現象であったといえる。やはり足銀の自己資本に占める比率の突出した高さが、監査法人へのコントロールを強化しつつある金融庁(竹中プラン)のターゲットになり、足銀破たんの格好の理由説明として用いられたように思われる。

 

 もちろん、バブル期のレジャー関連産業等への過剰融資、不動産融資の焦げ付き、観光不振や県内経済の停滞、県や県内自治体および企業と足銀とのもたれあい、さらには個人株主が本来果たすべきチェック機能の甘さ、ひいては預金者の「おまかせ主義」など、破たんに至った諸要因はいろいろと挙げられるだろう。

 

 そうだとしても、足銀はなぜ、同じく繰り延べ税金資産の問題を監査法人に突かれた「りそな銀行」の教訓に学ぶことをしなかったのであろうか。預金保険法10213号の適用はよもやあるまいと考えたとしても、同1号適用の可能性に対処するために、繰り延べ税金資産の取り扱いをめぐる課題解決にどれだけエネルギーを割いたのか疑問である。