2002年度「現代時政治の理論と実際」

レポート一・コメント覧

(各タイトルをクリックすると各レポートが提示されます。)

 

(黒文字が担当教員によるコメントです。)

 

 

 

  氏 名

テ ー マ

1

渡部 慎

北朝鮮における食糧事情の推移とその要因

 

1990年代後半の北朝鮮の深刻な食糧危機の要因は、天災に加えてとうもろこし生産や山間部の棚田化といった農業政策の失敗にあることをFAOの推計統計から明らかにしている。穀物、食肉、飼料などを供給と消費の側面から推計した表の読み取り作業から例えば、1999年段階で、「北朝鮮の一人当たり食糧消費量は、韓国に比して、穀物が89%となっており、さらに食肉については20%の低水準に留まっている」といった興味深い指摘がなされる。その他、「勤労者の月平均賃金(100ウォン)で2キロのコメしか買えない現実」への言及などがあるものの、全体としてレポート作成者独自のデータの読み取りや推測、論理展開や実態把握への踏み込みという点で課題が残ってしまった。

 

2

飯富 裕

北朝鮮の難民の現状と今後

 

「北朝鮮の内部はいまだ謎につつまれて」いることを前提としつつも、やみ市場における食糧確保の難しさや配給の不徹底、さらには国境を越えて食糧を求める難民・脱北者の存在から、「北朝鮮の上流階層を何よりも重要視する政治体系」を問題視する。「難民に食糧配分を十分に行うことが先決だ」という主張には説得力がある。「緊張と不安を抱えている」北朝鮮は、そのために「難民について考えることができないのではないか」と推察し、解決の一歩としてKEDOによる軽水炉の工事を敢えて続けてはどうかと提案する。中国は脱北者を保護すべきであるという指摘も、レポート作成者に人間としての生存に不可欠な食糧配給を最優先すべきだという問題意識があるからである。このように終始一貫して自分の問題意識を核にして文章を作成している姿勢に大変好感が持てる。文章中に用いた情報源である「北朝鮮の人権と難民問題に関する第三回国際会議」「安哲(アンチョル)最新映像による北朝鮮内部報告!」「朝鮮民主主義研究センター」「北朝鮮難民救援基金」を、この問題に関心を持つ者は参照すべきであろう。

 

3

針谷 真人

北朝鮮国内・国外から見る北朝鮮の偽造と真実

 

「北朝鮮国内と国外の情報が、どれほど食い違っているものなのか」という問題意識に立って、また、「北朝鮮を批判する記事は次から次へと出てくるのだが、それに比べて北朝鮮を賛美するものの数が極端に少ない」という前提で、まずは国名に含まれる「民主主義」についての考察を行う。そして、金日成の登場や金正日の誕生に関するエピソードの国内と国外の捉え方の差異に注目し、後者の見解に信憑性を置く。また、実情は分からないとしつつも、「情報操作と恐怖政治」が北朝鮮を支えているのではないかと推測する。一読して北朝鮮国民と国外の人々が受ける情報が量のみならず質や理解の面でも全く異なるということが実感をもって伝わってくる。国内外の情報格差という最初の問題設定の枠組みがあるがゆえにレポートにおける論旨の一貫性も保たれているし、作成にあたって多くの情報に接したことも窺える。惜しむらくは、敢えて「平和的解決」の処方箋の提示を試みてもよかったのではないか。

 

4

増保 智久

金正日の後継者候補・金正男と北朝鮮の関係について

 

ミクロな切り口を起点に金正男の実像を浮かび上がらせようとしている。正男の幼少時代に関する記述や、日本に入った目的として「北朝鮮がイラクに輸出したミサイルの輸出代金を集金するため」であったとする記述を紹介している。後半では金正日の側近の亡命に注目し、ミサイルの開発や輸出の「橋渡し役」であったエジプトを通じて北朝鮮の「外貨稼ぎ」に関する情報なども提示する。相次いだ側近の亡命が「現金」と「軍部」に関して、金正日をして金正男への信頼を厚くした要因ではないかといった諸説の紹介は興味深い。また、全体として丁寧に各々の情報源に当たっていることが分かるし、このようなユニークな切り口から北朝鮮問題を考えようとする姿勢は大切であろう。確かにレポートで紹介された諸事情が金正日の「判断力を鈍らせ」る可能性があることは否定できないであろう。しかし、できれば、それが具体的にどのような判断の場面で問われるのか、いくつかの事例を挙げてレポート作成者独自の視点から論じてほしかった。

 

5

中村 祐司

(担当教員)

北朝鮮問題における関係国の交渉戦略と政治的背景の特質

 

(担当教員作成のためコメント省略)

 

6

池原 佳子

北朝鮮と日本の国交正常化は果たしうるか

 

レポート後半の小題目には「拉致問題」「核開発問題」「アメリカの存在」「国交正常化」というキーワードが入っていて、敢えてまとめると、拉致問題については日本から「誠意」も見せるべきであり、核開発問題では北朝鮮が核開発計画を放棄すべきであり、国交正常化は互いの態度次第であるという結論に至っているように思われる。イラク問題との絡みで、「アメリカがあまり関与していない今、日本や中国を初めとするアジア諸地域の国で、平和的解決の方向で進めていくべきではないか」「アメリカがイラクに目を向けている今は、日本にとっても、北朝鮮にとっても好機である」といった個別的課題をめぐる解決の提案は大変興味深い。しかし、レポートのテーマを、国交正常化という極めて大切ではあるものの、困難かつ複合的な問題に置いたために、真正面から取り組んだ意味こそ否定できないものの、最後まで結論がぼやかされてしまった。

 

 

 

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