harigaim030114 「現代政治の理論と実際」レポート

「北朝鮮国内・国外から見る北朝鮮の偽造と真実」  022362A 針谷真人

 

現代社会では色々な情報が山のように存在する。情報を得るためには新聞・テレビ・ラジオ・雑誌などを初め、ここ数年ではインターネットが急激に普及したため全世界・いつ・どこから・どのような情報でも手に入れることが可能になった。しかし、このような状況の中でも北朝鮮はまったくそれに当てはまらない。北朝鮮国内にもインターネットが利用できる環境はあることはあるのだが、実際にそれを利用できるのは一部の特権階級や外交官などだけだ。それ以外の一般市民は北朝鮮政府から一方的に与えられる情報しか得ることは出来ない。

北朝鮮という国は、未だに謎に包まれている部分がたくさんある。このレポートの中で北朝鮮についての北朝鮮国内と国外の情報が、どれほど食い違っているものなのかを書いていきたいと思っているのだが、その前にいくつか注意しなくてはいけないことがある。一つ目は、このような言い方をしては失礼かもしれないが、北朝鮮国内で流されている情報は、私たちのような北朝鮮国民以外の者にとっては、正直言ってばかばかしいと思うこともあるかもしれない。しかし、北朝鮮国民にとってはそれがすべてなのだ。北朝鮮政府がどんなに間違っていることを言っていようとも、北朝鮮市民にとって政府が言うことは、黒と言われれば黒で、さらにそれが白であっても黒と言われればやはりそれは黒なのだ。二つ目は北朝鮮国内での情報は政府が発表しているものだが、逆に北朝鮮国外での情報は北朝鮮政府が発表したものではない。では、それの発信源はどこなのかというと、ほとんどがジャーナリストなどによる北朝鮮国内への潜入取材であったり、北朝鮮からの亡命者などの証言だ。なので、私たちが普段からニュースや雑誌などから得る北朝鮮国内のほとんどの情報は推測の域を超えることは出来ない。しかし、実際そのような証言によって、北朝鮮による日本人拉致が真実であったという事も証明された。もし私たちが北朝鮮に対するすべてを知ることが出来た時は、それは、金王朝による北朝鮮が終わりを迎える時だろう。

そして、私はこのレポートを作るにあたって雑誌やインターネットなどを使って情報を集めたのだが、それを進めていくにつれてあることに気づいた。それは、北朝鮮を批判する記事は次から次へと出てくるのだが、それに比べて北朝鮮を賛美するものの数が極端に少ないのだ。時期が時期だけに仕方がないことなのかもしれない。さらに追い討ちをかけるように、「北朝鮮、朝鮮民主主義人民共和国へようこそ」(http://www.dpr-korea.com/)という北朝鮮の登竜門的サイトがあるのだが、2003113日現在はなぜか繋がらない。このサイトは北朝鮮国内の音楽や写真などが豊富で非常に充実したものだったのだが。北朝鮮国外で言われている情報ばかり目にしていると、どうしても北朝鮮国外よりで見てしまう。このようなことから、どうしても北朝鮮国外からの情報が多めになってしまうが、別に北朝鮮批判をしようとかそのような考えは毛頭ないのであしからず。

 

そろそろ本題に入るとする。皆さんは次のような疑問を持った事はないだろうか。それは、北朝鮮の正式名称は朝鮮民主主義人民共和国だが本当に民主主義なのだろうか、国名がすでに偽造しているのではないか、ということだ。一言書いておくが、次に書くことは北朝鮮国外での情報だ。日本のマスコミなどの報道によると、麻薬生産、偽札に偽収入印紙に偽高速券の印刷、偽パスポート製造と国家挙げての一大犯罪組織に他ならないなどと言われている。政治体制は、国民の選挙による最高人民会議、内閣、国防委員会から構成されるが、それらは国民の総意によって委託され運営されているというのが建前だ。ただしその実態は金正日総書記が率いる朝鮮労働党の完全なる独裁であり、真の民主主義とは程遠いものだ。例えば最高人民会議の議員選挙においては、労働党の公認候補以外が立候補することはできず、事実上の信任投票となる。また選挙は秘密警察の監視下で行われ、棄権や反対票を投じることが出来ないような仕組みになっており、形式上はほぼ100%の信任を得た形となっている。これは民主主義と言えるのだろうか。ではなぜ国名に民主主義の文字が入っているのか。それは幾つかの説がある。

l         実態はともかく、建前として民主主義をうたっているから。

l         北朝鮮の憲法の「第1章 政治」のなかの「第5条」に「朝鮮民主主義人民共和国においてすべての国家機関は、民主主義中央集権原則によって組織され、運営される」という条文があるから。

l         金日成が建国の祖であるが、彼が望んだあるべき国の姿は、「共産主義的民主主義国家」であったから。

l         北と南に分断されたが、「大韓民国」と名乗ることで、どこかしら昔の伝統を生かそうとする南の側のネーミングに反発をし、我こそは20世紀にふさわしい新進の科学的にして合理的な国、ということで世界に宣言する意味も込めたかったから。

l         北朝鮮の独立には、ソ連の助けが大きかったので、北朝鮮側はそれを認めたくなかった(自力で独立したと強弁したい)。それで、ソ連の社会主義とは一線を隔している事を主張したくて、民主主義という文字を国名に入れたから。

これらもあくまで推測に過ぎないが、出来れば3番目であって欲しい。

そして、その3番目に出てくる金日成についても北朝鮮国内と国外ではまったく違ったエピソードがある。金日成については北朝鮮建国時の事から、北朝鮮国内と国外ではまったく異なる情報がある。北朝鮮では金王朝は国民から絶大な支持を得ている。ほんの少しでも悪口を言おうものなら、すぐに逮捕されてしまう。そこまで金王朝に支持を集めるためには、金王朝の神格化が絶対条件だったのだろう。まるで昔の日本や何かの宗教を見ているようだ。なぜ北朝鮮があそこまでの徹底した情報操作を行うのかと聞かれたら、それは金王朝を神格化し、民衆から絶対的な支持を得るためには、余計な情報を与えたくないからというのも、一つとして入ってくるだろう。そして、その金王朝を神格化するために作られた、北朝鮮国内で言われている金日成に対する一説が次だ。「大会議事の順序にしたがって、人々が待ちこがれていた金日成将軍がりりしくも活気に満ちた英姿を演壇にあらわした。その一瞬、歓喜の声が熱風のように満場を吹きぬけ、それはやがて熱狂的な歓声と変わり、天地をどよめかした。万歳を叫び、喜びに舞い、抱き合って飛び上がる大群衆、それはまるで春の風に波打つ大海原を思わせた。」これは金日成公式自伝に載っているもので、朝鮮半島の北部がソ連軍によって解放されて、初めての大規模な集会が平壌の公設運動場で開催され、朝鮮の最も偉大な抗日闘士であるキム・イルソンだと民衆に紹介した時の様子だ。まさに伝説だ。前にも書いたが、私達にとってはただの過大表現だと思うだろう。しかし、北朝鮮国内ではこれがすべてなのだ。一方、北朝鮮国外での同じ時の情報はまったく違ったものだ。20021130日に小学館から発行された「SAPIO別冊 危険な隣国 まるごと一冊北朝鮮」によると、確かに運動場での集会は開催されてキム・イルソンも紹介されたらしいのだが、その時の民衆は様子が違ったようだ。公式自伝が伝えるほど大袈裟ではなかったが、平壌グラウンドに集まっていた大群衆は、初めて見る噂のキム・イルソン将軍の出現に興奮した。しかし、登壇したキム・イルソン将軍は予想に反して、30代の背広姿の青年で、多くの人は裏切られた気持ちになった。というのもキム・イルソンとうい伝説的英雄の名前は1920年代から朝鮮民衆の間で囁かれており、市民たちは白髪の老将と思い込んでいたからだ。これはあくまで北朝鮮国外の情報なのだが、非常に信憑性がある。なぜかというと、この情報は旧ソ連から出てきたものだからだ。北朝鮮と旧ソ連は切っても切れない関係にある。「1945年朝鮮半島に進駐したソ連軍は、日本統治下で抗日ゲリラ闘争で勇名を馳せていた、伝説的英雄キム・イルソン将軍の名声を利用することにした。そこで主役に抜擢されたのが、抗日戦線とは遠く離れたハバロフスクのソ連軍にいた、33歳と若い金日成青年をキム・イルソン将軍に変身させ、最高権力者に仕立て上げた」という情報がソ連からもたらされた。これまでの金日成政権誕生の内幕は憶測の域を出ず、戦後アジア史の最大の謎、といっても過言ではなかった。しかし、ゴルバチョフ前大統領が推進した情報公開によって、ソ連でも北朝鮮の実情がありのまま伝えられるようになったのだ。北朝鮮を作った国がこのように言っているのだから、ほぼ間違いないのではないだろうか。さらにこのSAPIOという雑誌には、「抗日英雄金日成は私が作り上げた」という旧ソ連軍の将校であった老人が、若かりし頃の金日成といっしょに撮った写真やエピソードなどと共に、インタビューに答えている記事などもあった。

現在の北朝鮮の象徴的存在である金正日についても同じようなものである。金正日の生誕についても次のような伝説が北朝鮮国内では言われている。「世界大戦の砲煙が地球を覆い、抗日解放の銃声が白頭の地軸を揺るがす中で、1942年2月16日の陽光が眩しく輝いた。そして天池(白頭山頂上の池)の厚い氷が割れはじめ、その音が谷間に響き渡った。長い間天池の水底にはらまれていた朝鮮の大通運(大幸運)が噴出するかのように、そう快なその響きは白頭の峰々にこだましていった。つづいて正日峰のふもとに建つ丸木小屋からは、まるで千古の静寂を破って巨人が誕生するかのように、力強い呱々の声が響き渡った。民族の太陽であり祖国解放の救世主である金日成将軍と、抗日の女性英雄である金正淑(キムジョンスク)女史の長男として、金正日書記が誕生したのである。この歴史の日を待ちこがれたのか、冬の間も凍らずに耐え抜いた白頭水の流れが、清らかな息吹を含んで白く美しい霜の花畑をつくっていた。そして正日峰の頂上では白銀に輝く花吹雪が舞っていた。それはまさしく大自然の祝福であった。またそれは、偉大な民族の息子の誕生を迎える白頭山の歓喜でもあった。金正日書記はその誕生からして、このように祝福され、歓喜に彩られたものであった。まさに彼は白頭山の荘厳な気象と天池の清らかな精気を受けた祖宗の山、白頭山の息子なのである。」(http://jongil.3nopage.com/legend/)この他にも金正日についての伝説はたくさんある。例えば、幼稚園時代から数学の才能にめぐまれ、3ケタの算術問題ならいとも簡単に解いたとか、深夜、金日成主席が執務していると、それまでうるさく鳴いていたコオロギの声が静かになった。不思議に思って外を見ると、そこには夜つゆにぬれながら懸命にコオロギを追い払っている金正日少年がいたとかだ。やはりと言っては何だが、日本などの北朝鮮国外ではまったく違う情報が流れている。金正日は白頭山で生まれたことになっているが、実はハバロフスクで生まれ「ユーロ」というロシア名だったらしい。これもロシアの情報公開によって明らかになったものだ。

最近の日本でのニュースなどでは、金正日は気分次第で人を殺すとまで言われているが、北朝鮮国内では神のように扱われている。北朝鮮市民が「我が偉大なる同士、金正日将軍様、万歳」と大声で叫びながら祝福している様子が、連日、テレビなどで放送されているが、ここまでの権力を完全な情報操作だけで出来るものなのだろうか。私は基本的に北朝鮮を支えているのは情報操作と恐怖政治だと思っている。そして、その恐怖政治の象徴として存在するものが政治犯収容所だ。世間では基本的人権の尊重なんていう言葉があるが、収容所の中ではその言葉はまったく当てはまらない。この収容所は生きて出られればそれだけで幸運だなどと言われている。収容所の中では毎日の生活も想像に絶する。収容所出身の亡命者によると、「114時間の生産を目的とした労働ではなく、苦痛を与えるための労働に加え、その後の政治学習で疲労困憊にも関わらず、食事は僅かなとうもろこしと塩だけ。飢えをしのぐために草や鼠も食べた。あまりの空腹に毒キノコを食べて死んだ家族もいた。一番辛いのは処刑場面を見なくてはいけないこと。絞首刑の時は死体に向けて石を投げるように命令された。」などと証言している。このような強制収容所は国土の各地に設けられ、国民の恐怖のまととなっている。「お山に送る」と脅かされただけで人々は従わざるを得ない。ひとつの強制収容所に5万人が入れられていることもある。こうした長期かつ広大な恐怖の支配は、政権中枢にも嫌悪と動揺をもたらし、亡命に踏み切らせている。では、どのような犯罪を起こすとこのような悲惨な収容所に収監されてしまうのだろうか。前にも書いたと思うのだが、政府や金王朝を批判しただけでも、収容所送りになる。他にも、亡命に失敗したり政治犯の家族であったりしても収容所に送られてしまうようだ。家族も収容所に送られるということは、もちろん小さな子供も連れて行かれる。収容所の中では子供だからといって容赦はなく、教官から殴る蹴るの暴行を受けたという証言もある。このような情報とは逆に北朝鮮の収容所はすばらしいという人もいるようだが、本当の真実はどうなのだろうか。こればかりは、私たちが得られる情報は収容所から出所した者の証言しかないので何とも言えないのが現実だ。

私がこのレポートを書いている2003113日現在も北朝鮮国内ではとんでもない情報が北朝鮮国民に流されている。北朝鮮の朝鮮中央通信は11日、同日付の労働党機関紙「労働新聞」が「日本の右翼反動勢力は最近、米国による(北朝鮮の)『核脅威』騒動に便乗し謀略と策動に気勢を上げている」と指摘、「拉致問題で各国に協力要請をしたり、被害者支援法を制定し、問題を国際的にしようとしている」と非難したと伝えた。さらに「米国が『(北朝鮮とは)交渉しない』とするのは、敵視圧殺策動の一環であり、交戦関係を核戦争の勃発へと導く危険な動きだ」と非難し、「米国は(朝鮮半島の)支配権とアジアの統制権を狙っており、(北朝鮮)脅威説を広めて情勢を激化させ、任意の時に戦争の火を放とうとしている」と指摘した。まさに我々にとっては目を疑いたくなるような記事だ。しかし、これもやはり北朝鮮国民にとっては、これが真実だとしか思っていないのだろう。一体、金正日は何が目的なのだかがわからない。核を持ち出してまで自分だけの国を守りたいのだろうか。私たちは北朝鮮の貧しく飢えた一般市民を見て、助けてあげたいと思うのが普通だ。それは、北朝鮮の中にいる少数もおもっていることなのだ。実際、クーデターも何度か計画されたようだが、すべて失敗に終わり、それに関係した人のほとんどが処刑されたようだ。悲しいことだが、今私たちが北朝鮮に向けて何を叫ぼうとも、それは北朝鮮政府によって遮断され、貧しい北朝鮮の一般市民には届かないだろう。平和的解決が何をするにも一番良いことなのだが、現実を見るとそうも言っていられないのかもしれない。