Ikeharay030114  「現代政治の理論と実際」レポート

「北朝鮮と日本の国交正常化は果たしうるか」 001401 池原 佳子

                         

 現在、日本をはじめ、世界各国で北朝鮮問題について大きく取り扱われている。わが国もその例外ではない。むしろ拉致問題が大きく関係して、世界中で一番関わりのある国であろう。今、日本のメディアは、ほとんど拉致問題について取り上げていて、他のニュースを見る機会が少ない。だが、拉致問題についてのニュースが大幅に占めていて、対北朝鮮外交についてはその居場所を追われている。確かに拉致問題は大変重要であり、その対応いかんによっては、今後の外交に大きく影響してくる。だが目の前の問題にばかり捕われすぎではないかと少し思う。小泉首相は、「拉致問題と国交正常化については切り離して考えなければならない」と言っているが、本当にこの二つは切り離して考えられるものなのであろうか。この二つの問題は平行して解決できるものなのだろうか。今回のレポートでは、北朝鮮と日本の国交正常化について考察してみたいと思う。

 

 

1、国交を結ぶとは 

 国交とは、「国家と国家の正式な付き合い」(日本語大辞典 講談社)とされている。活発な貿易関係があり、両国の国民の盛んな出入りがある状態である。そして国交を結んでいればその国の大使館が相手国に置かれることとなる。国交は主に隣国を主にして結ばれ、そこからどんどん世界中に広がっていく。

国交を結ぶには、その国に対して好意をもっているか、その国と国交を結ぶことによって、自国に何らかの利益が出るということを前提としているところがある。北朝鮮は、韓国についで日本に近い国であるのにもかかわらず、国交が結ばれていない。その背景には、北朝鮮が社会主義国であるということと、歴史的背景の原因があると思われる。

朝鮮戦争時代、北朝鮮はロシア側の陣営であって、社会主義国であった。現在でも社会主義国であり、同じ社会主義国の中国や、今は崩壊してしまったが、ロシア(旧ソ連)の影響力は大きい。日本はというと、直接参戦はしていないものの、対するアメリカ側の陣営であった。社会主義国と資本主義国、その違いが国交を結ぶのに障害となって立ちふさがっている。

もう一つの理由、歴史的背景によるものはとても大きいと思う。戦時中、日本は朝鮮に対して独裁的な対応をとった。現在でも、朝鮮の年寄りの人達は日本語を話せるという。日本が朝鮮に残した傷跡は大きい。日本が朝鮮にした仕打ちは忘れることはできないし、忘れてはいけない。

だが、国交を結ぶことによって、新たなる発展がお互いの国に与えられるのではないだろうか。つまり、国交を結ぶとは、お互いの国に利益を与える付き合いをするということではないかと考える。

 

 

2、日朝関係の主な出来事と報道 (朝日新聞20021227日朝刊)

 65年 6月22日 日韓基本条約調印  

 70年 3月31日 「よど号」乗っ取り事件

 73年 8月 8日 金大中氏拉致事件

 74年 8月15日 朴正 大統領暗殺未遂(文世光事件)

 77年 9月19日 久米裕さん拉致(宇出井事件)

       11月10日 朝日新聞が宇出井事件を報道

       15日 横田めぐみさん拉致    

 78年 6月29日 田口八重子さんが北朝鮮に連れ去られる※ 

     7月 7日 地村保志さん、富貴恵さん拉致

       31日 蓮池薫さん、祐木子さん拉致

     8月12日 曽我ひとみさん・母ミヨシさん、市川修一さん、増元るみ子さん拉致

    12月 9日 読売新聞が福井、鹿児島のアベック不明事件などについで報道

 80年 1月 7日 産経新聞が3組6人の行方不明事件を報道

     6月 7日 松木薫さんと石岡と亨さんが北朝鮮に連れ去られる※

       17日 原  さん拉致

 83年 7月15日 有本恵子さんが北朝鮮に連れ去られる※

 85年 6月28日 韓国当局が辛光 容疑者の逮捕を発表

 87年11月29日 大韓航空機爆破事件

 88年 1月15日 大韓機事件で逮捕された金賢姫・元死刑囚の証言から「李恩恵」の存在が判明

     3月26日 梶山静六国家公安委員長が参院予算委で「アベック拉致は北朝鮮による拉致の疑い」と答弁

     9月 6日 石岡亨さんの実家に平壌から手紙が届く

 89年11月 9日 ベルリンの壁崩壊

 90年 9月28日 自民、社会両党と朝鮮労働党が国交正常化に向けた三党共同宣言に調印

 91年 1月30日 日朝国交正常化交渉開始

     5月15日 李恩恵は田口八重子さんであると埼玉県警特定

 92年11月 5日 李恩恵問題で日朝交渉決裂

 93年 5月    北朝鮮が能登沖に向けノドンミサイル試射

 94年 7月 8日 金日成主席死去

97年 2月 3日 横田めぐみさんが北朝鮮に拉致された疑いが、報道と国会質問で表面化

     3月25日 拉致被害家族が連絡会結成

     5月 1日 警察庁が北朝鮮による拉致容疑事件を7件10人であると発表

     9月 3日 産経新聞東京本社(阿部雅美編集局次長兼社会部長)と朝日放送(石高健次東京支社報道部長)が日本人拉致報道で日本新聞協会賞受賞

 98年 6月 5日 朝鮮赤十字会が「行方不明者は存在しない」と発表

     8月31日 北朝鮮がテポドン発射

 99年12月 1日 村山富市元首相らが超党派で訪朝。正常化交渉の再開で合意

 00年 6月13日 初の南北首脳会談

 01年12月17日 朝鮮赤十字病院が日本人行方不明者の調査を中止すると発表

       22日 奄美沖に北朝鮮工作戦(銃撃の末、沈没)

 02年 3月11日 警察庁が八尾恵・元スナック店主の証言などから有本恵子さんを拉致被害者と認定、8件11人に

     9月17日 日朝首脳会談。北朝鮮が拉致被害者について「8人死亡、5人生存」と伝える

    10月15日 拉致被害者5人が帰国

※北朝鮮の説明による

 

 

3、拉致問題について 

 日本が北朝鮮と国交を結ぶにあたって、どんな形であろうと、一番障害になっているのはやはり、今回大きく問題になっている日本人拉致問題であろう。拉致問題によって多くの日本人が北朝鮮に対して悪感情を持ってしまったことは明白である。マスメディアも、拉致問題に関して多く取り上げている。だが、拉致問題が解決するような兆しはいまだに見られないのではないか。

 拉致問題が解決しない一因として、北朝鮮と日本の、拉致問題に関する考え方の違いがあるのではないか。日本は、拉致問題は国際的犯罪だとして、北朝鮮に謝罪と早期的な解決を求めている。だが一方で北朝鮮は、拉致問題はすでに解決済みだと主張している。当事者国同士の意見がかみ合わず平行線状態なのだ。

先にも述べたが、小泉首相は「拉致問題と国交正常化問題は切り離して考えるべきだ。」と意見したことを書いたが、拉致問題と国交正常化は平行して行うことができるのだろうか。

拉致問題の解決策はどこにあるのか。拉致された人々は、もちろん自分達から進んで北朝鮮に行ったわけではない。本来ならば日本で暮らしていたのだ。ならば、日本に戻り、また以前のように暮らすのが通常である。もちろん、拉致被害者の配偶者、子どもなども含まれる。さらに、彼らが受けた精神的及び肉体的苦痛への慰謝料の支払いと、国際的犯罪に対して、国として謝罪すべきである。

だが、日本がこのような条件を北朝鮮に突きつけたとしたら、北朝鮮はどのように反応するであろうか。日本が犯した強制連行の話を持ち出してくるのではないだろうか。内容を見れば、今回の拉致事件と同じことである。日本はまだこの事件の清算をし終えていない。

では、これら二つの事件をあわせてプラスマイナスゼロにすればよいのだろうか。そういことではないだろう。個別の解決が必要だ。とはいっても、両者の事件を完全に個別化し、北朝鮮にばかり責任を押し付けていては解決しないであろう。誠意を求めるためには、こちらからも誠意を見せなければならない。

では、拉致事件が解決すれば、国交正常化は成るのであろうか。例え国交を結んだとしても、そこに互いの国への疑念があるならば、それは国交を結んだ意味があるのであろうか。

 

 

4、核開発問題について

 核開発問題についても、北朝鮮との国交を結ぶ上での障害になっている。日本は核開発に反対の国であり、自らも核開発を行っていない。だが、その相違だけで国交が結べないのではない。問題は北朝鮮の核開発が世界に及ぼしている影響であろう。

今まで世界は、経済大国であり同時に武力大国でもあるアメリカを中心に動いてきた。アメリカが世界に及ぼす影響力はとても大きい。陰の独裁者とも言えるかもしれない。日本は、戦後からアメリカの影響をとても色濃く受け、今でもアメリカの影響力は大きい。

北朝鮮は1994年のKEDO設立によって、核開発計画を放棄し、最終的には解体すると言うことを、アメリカとの間に合意した。だが、北朝鮮に核開発計画放棄の色が全く見受けられないことから、琴湖にて建設中であった軽水炉型原発も中断してしまった。北朝鮮が軍事力として核を保有すると言うのならば、その様な国と国交を結ぶのは難しいのではないだろうか。日本は仮にも核不拡散を求めている。北朝鮮は考えと行動が相反する国になってしまっている。拳銃を突きつけている相手と、果たして握手ができるであろうか。

 

 

5、アメリカの存在について

 アメリカの北朝鮮に対する対応も国交正常化をスムーズにいかせない原因の一つである。アメリカの対北朝鮮の対応は非常に強硬なものであって、特に核問題があるため、「北朝鮮が核開発を放棄しない限り交渉の余地は無い」とまで言っている。そんなアメリカの強硬姿勢が大きく影響して、日本をはじめ北朝鮮周辺諸国は北朝鮮に対する対応を困難にさせているのではないだろうか。

 日本を含むアジア諸地域の国々は、ASEAN会議にて対北朝鮮問題には、平和的解決の方法をとっていきたいと表明した。やはり、アジア諸国としては、これから先、大きく関係を持つことになるかもしれない北朝鮮に対して柔軟に対応していきたいと言うことだろう。何より、平和的解決ができるのならばいうことはない。

 現在アメリカは対イラク問題で、かかりっきりである。変な言い方、北朝鮮のことはあまり大きく触れていない。現在のアメリカには北朝鮮問題よりも、対イラク問題のほうが重要な位置を占めているのであろう。対北朝鮮問題にアメリカが大きく関与してくると、アメリカの力が大きすぎて、アメリカ独自の対応が全てになってしまう恐れがある。アメリカがあまり関与してこない今、日本や中国を初めとするアジア諸地域の国で、平和的解決の方向で進めていくべきではないだろうか。

アメリカのイラク攻撃を認めるというわけではないが、アメリカがイラクに目を向けているうちにアジア諸国で北朝鮮イ対する対応策を模索し、実施していくべきではないだろうか。平和的解決を望む日本にとってもそれが良いのではないだろうか。アメリカがイラクに目を向けている今は、日本にとっても、北朝鮮にとっても好機である。

一方で、北朝鮮はアメリカの存在についてどのように考えているのであろうか。北朝鮮とアメリカの力の差は、武力においても経済力においても明らかである。にも関わらず、今の北朝鮮の行動はアメリカを敵に回す行為である。北朝鮮は核開発をえさにアメリカの援助を得ようとしたのではないだろうか。その兆しが見られるのが、KEDO設立時に決められた軽水炉の建設である。

アメリカは最近になって、北朝鮮の頑固な態度と他国の意見もあって、以前よりは北朝鮮に対する態度を緩めると表明した。これら一連の動きが、北朝鮮が国を建て直すために援助を得ようとした外交政策ならば、見事である。各国は、どのように、そしてどこまで北朝鮮に援助をするであろうか。

 

 

6.国交正常化は果たしうるか

 北朝鮮の国内の現状、国際社会における位置を見ると、果たして北朝鮮はこの先も国としてあり続けることができるのであろうか。得られる情報を見てみると、今の北朝鮮は戦前戦中の日本のようである。他国からの援助、国民の奮闘によって国として存続することはできるかもしれない。かつての日本がそうであったように。しかし、援助を得るためには、今の体制を変えていく必要がある。北朝鮮の国としての存続の有無は北朝鮮自身の政策が影響してくるだろう。

 あらためて、日本と北朝鮮との国交について考えてみたい。日本は、今の北朝鮮と国交を結ぶことができるだろうか。現状のままで国交を結ぶことは不可能であると思う。日本が北朝鮮と国交を結ぶには、実に多くの障害がある。例え今の状態で国交が結ばれたとしても、それは名前だけの国交であって、中身は何もないだろう。国交とは、首相同士が結ぶものではない。国と国が、国民と国民が結ぶものなのである。

 北朝鮮と日本が国交を結べるためには、拉致問題の解決、各開発問題への北朝鮮の態度が大きく関係してくるであろう。特に拉致問題に関しては、日本が被害国であるので、この問題のかかわりは大きいだろう。拉致問題と国交正常化は切り離して考えることはできない。しかし、国交正常化が成らないのを拉致問題のせいばかりにしていては、いつまでたっても国交は結べないだろう。国交正常化が果たしうるかどうかは、両国の、相手国に対する態度次第である。

 

<参照サイト>

http://organization.tripod.co.jp/kedo/kedo.htm  KEDOについて

http://www.geocities.co.jp/WallStreet/3277/  北朝鮮の憲法

http://www.worldtimes.co.jp/w/korea/news/021116-070142.html

 

<参考文献>

「崩壊する北朝鮮」  佐藤 勝巳