2004年度「余暇政策論」

 

―担当教員によるコメント―

 

(各タイトルをクリックすると各レポートが提示されます)

 

  

氏 名

                     テ ー マ

 

1

水粉 孝慎

市町村合併によって観光地はどのような影響があるか―兵庫県城崎温泉―

有名な温泉地も「平成の大合併」の波をもろに被らざるをえない。町名消失の影響はイメージの後退と温泉観光予算の減少につながるおそれがあるという。このあたりについて、城埼町の基本的スタンスはどのようになっているのか、城埼町が抱えている固有の課題を取り上げてほしかった。また、この点で、合併が観光地に及ぶす肯定的側面について、当該地域ではどのようなことが言われているのであろうか。

 

2

伊藤 友紀

日光の魅力

二社一寺の説明が無駄なくなされ、自然美との調和についても言及している。飲食物産店や旅館業の努力と顧客の反応の様子など、本人が実際に日光で育ち、アルバイト等で身を置いた経験の蓄積が、レポートの内容を生き生きしたものにしている好レポート。日光と宇都宮との相対比較から前者の良さを強調する見方も興味深い。日光をめぐる課題ばかりをあげつらうより、このように肯定面を確信して突っ走ったようなレポートがあってもいい。

 

3

円田 真紀子

河童のまち―銚子・牛久・色麻・遠野―

たかが河童、されど河童で、これが持つ愛嬌・イメージを地域の活性化の切り札にしようとしている自治体を紹介する。日本人にとって、河童というのは文学や歌だけに限定されない、文化財な存在かもしれない。紹介パンフレット的な記述となってしまった点が残念。せっかく興味深い題材を取り上げたのだから、その着眼点をさらに拡大させて、例えば、河童によるまちづくりの試案を自ら提示してほしかった。

 

4

宇居 槙子

ユニバーサル・スタジオ・ジャパンから見る、第3セクターと市民のあり方

「大阪市の集客産業の中核」となることへの期待と、それに反する不祥事の数々。そして、運営成果をめぐる事業者側に都合のいい見方と、入園者が作成したホームページ内容との相反性などを浮き彫りにしている。途中から第三セクター論を展開。精力的に資料源にあたっている。ただ、三セク批判は一般論においては既に定番となっている。USJ独自の運営方式に焦点を絞った方がよかったのではないか。あるいはホームページ上のUSJ批判を自分なりの視点で分析してほしかった。

 

5

大橋 裕子

地域の国際化―青森県八戸市―

姉妹都市交流における対象事業の多様化と広がりがよく分かる。交流は高校野球や福祉分野、経済分野に及ぶなど、脱セレモニー化している点が興味深い。こうした交流を支えている市民が心から楽しんでいるからであろう。同時に、地元自治体の活性化を両市が真剣に追究しているからでもあろう。「本州において北米に一番近い港」といったように、当該自治体の魅力アップにつながるキーワードはいたるところに存在するのかもしれない。

 

6

佐藤 つかさ

宇都宮屋台横丁―余暇としての食とまちづくり―

娯楽や趣味としての「食」を最初にしっかりと位置づけている。推進機構の説明にしても、よくこなれているのは、まずは自分で資料源をかみ砕いて理解しようとする姿勢が一貫しているからであろう。全国の他の二事例やフードテーマパークとの違いも興味深い。第3セクターの新しい可能性も感じさせてくれる。さらに、食を楽しむことはエコ・リサイクルを楽しむことにつながる、というヒントも与えてくれる。市民運営を示唆した最後の指摘は重要。まずはテーマ設定に成功し、論の展開においても一本筋が通っていて、かつ読み手にいろいろと考えさせてくれる好レポートである。

 

7

瀧 純代

余暇施設として存在するスーパー銭湯とは

話の流れが非常に分かりやすい。最初に銭湯との違いをしっかり押さえたのがその後の展開をさらに明確なものにした。読み進めるに連れて実際に行ってみたいと思わせるような展開となっている(「ワイン風呂」や「お茶風呂」には驚き)。具体例を持ち出すタイミングもいい好レポート。ここまでやるのか、と思わせるほどの微に入り細を穿つサービス提供は、顧客の好みの高度化と事業者側の経営戦略が融合した所産なのかもしれない。

 

8

田上 真千子

りんごによる21世紀青森県促進政策

青森県のりんごを中核とした産業の活性化や創出について、行政が提供する資料の意味やその意図するところを納得できるまで理解しようとする。読み進めると、りんごも文化や芸術と決して無関係ではないと思えてくるし、その可能性に対する期待感も生じる。一つか二つの事例をさらに掘り下げしつつ、合わせて、りんご産業創出の試案のようなものを提示できなかったか。

 

9

長嶺 優子

地方テーマパークの生き残りをかけた戦略―レオマワールドの再生―

地方テーマパークをめぐる経営の難しさと閉塞状況が伝わってくる。対象としたテーマパークのネーミングの由来や「分割独立経営」の手法など、再生にかける企業の意気込みが興味深い。具体的な運営についてのしくみを複数の資料源からうまくまとめている。今後の経営展開の成否を大胆に予想するなど、考察部分の記述にもう一押しほしかった。

 

10

長田 智子

動物園改革にみる旭山動物園の挑戦

「動物園大国日本」において、対象とした動物園の経営をめぐる成功の秘訣は、「動物本位」の考え方、人間との距離感の縮小だという。事例や運営方法の海外への波及は興味深い。これからの動物園経営にはユニークな知恵と工夫が必要であることが伝わってくる。それだけに教育的機関としての側面や情報発信などについて、具体例を盛り込んだ丁寧な説明がほしかった。

 

11

豊田 浩司

地方競馬は中央競馬のように国民的娯楽となりえるのか?

地方競馬は娯楽性よりもギャンブル性の方が強いという。地方競馬が中央競馬に人気、賞金、馬の質で逆転され衰退していく経緯と原因をよくまとめている。それだけで終わらず、地方競馬復活の手法として、再び中央競馬と地方競馬の交流という今までの逆手をとるようなやり方や、馬の実力が血統によって固定化されない事例などが紹介され大変興味深い。娯楽としての競馬に対する愛着がレポート作成の原動力となった好レポート

 

12

三浦 陽子

『大曲の花火』大会とその実施に伴う問題点

「日本一格式高い」といわれる花火大会を取り上げた。人口4万人の市に60万人が訪れる。渋滞対策には市全職員が対応にあたり、人込みの凄さにゴミの持ち帰りも難しいという。花火に関連したNPO法人の活躍ぶりなど、やや総花的ではあるものの、丁寧に興味深い内容をうまくまとめた好レポート

 

13

和気 和子

宇都宮城復元は地域活性化の相乗効果をもたらすか

歴史公園、防災公園、回遊ロとして復元に向けた事業内容が紹介される。「瓦1枚運動」などが進められる一方で、反対の動きもある。コストバランスやこの事業の意義をどこに求めるかによって意見が分かれるのであろう。宇都宮城を拠点とした新しいまちづくりのあり方を、独自に提案してもよかったのではないか。

 

14

舘野 恵

フリーマーケットから環境を考える

フリーマーケットがごみ排出量の減少やリサイクル推進、さらには他者との交流に直結していることが分かる。このように肩肘張らない楽しさの追究こそが、実践の原動力になるのであろう。国内外の魅力的な事例が散見されるだけに、事例についてもう少し掘り下げてもよかった。

 

15

井上 有香

地域通貨―新しい貨幣は余暇につながるか―

副題の設定がいい。地域通貨設定の元々の目的に労働の機会提供があったという点や、絶えず循環させることの重要性など、一口に地域通貨といっても、そこには新しい地域社会の構築に向けた多様な可能性が広がっていることが分かる。一つの事例を掘り下げて紹介すれば、結論の説得力が増したのではないだろうか。

16

阿部 真弓

CD・ビデオ利用の移り変わり

CD・ビデオといった物理的な音楽・映像媒体について、インターネット上でやり取りすることが技術的に可能になったことで、著作権等の問題が複雑化してきた。愛好者の望む利便性の良さと売り手の販売戦略との均衡点を見出すことはなかなか難しいということだろうか。情報源には積極的にあたっているものの、レポート構成そのものに作成者の主導性が反映されていないのが残念だ。

 

17

武田 友里恵

大人のための音楽教室について

少子高齢社会や不況は音楽領域における経営戦略をも変えている。消音楽器の需要増大についても、日本の居住環境がそのまま反映されているようで興味深い。その他にもNPO活動や、ピアノによるリハビリ効果を紹介するなど、テーマ設定に成功したがゆえに内容全般が締まった。問題意識と情報源がうまくかみ合った好レポート

 

18

佐藤 夏美

エコミュージアム―21世紀のまちづくり―

エコミュージアムが何たるものか、その輪郭や理念を把握することができる。地域性に依って立つだけに、マニュアル的な運営モデルがないというのもよく分かる。「自分のルーツを知ることは、新しいものを生み出すための原点となりえる」というのは至言であろう。エコミュージアムは、世代間の垣根を取っ払い、かつまちづくりの実践を積み重ねる最良の対象の一つかもしれない。

 

19

百瀬 千恵

長野オリンピックにおける国際交流〜一校一国運動〜

「一校一国運動」が成し遂げたプラス効果の側面に注目し、子どもたちの心に与えた好影響を記述している。オリンピック等のビッグイベントの開催は、その利用の仕方によっては、このようなインパクトを地域社会に及ぼすことができる。大会終了後の交流の継続など、考えようによっては一過性の大会そのものよりも重要な価値がある。行政は押し付けではなく、支援に徹することが大切なのであろう。

 

20

渡辺 陽子

ベガルタ仙台とホームタウン制

プロスポーツチームを起点としたボランティアネットワーク等の活動、まちづくりへの関わりと広がり、さらにはその可能性が紹介される。Jリーグも課題は多く、試行錯誤が続いてはいるものの、その理念や実践をめぐるプロ野球運営との違いには驚く。スポーツは本来、最も地域社会に根付きやすい性格を持っているのかもしれない。VVNの活動についての記述をもっと読みたかった。

 

21

大川 哲志

見る余暇とする余暇―市民にとってのサッカー―

「実体験」にもとづき、グラウンドの利用をめぐってなど、「市民活動を締め付ける」かのような行政側のまずい対応を浮き彫りにしている。また、サッカーに限らず、日本のスポーツ環境はまだまだといった感じだ。一方、実力の世界が貫徹され、組織面でも運営面でも、世界のトップと国内の地域チームとが緩やかにつながっているところがサッカー界の魅力でもある。草の根レベルのサッカーチームが開設しているホームページをいくつか検討してもよかったのではないか。

 

22

鮎ヶ瀬 琢子

余暇とソフトバレー

テーマ設定の理由が明確である。また、本人が実際にプレーしているせいか、ソフトバレーの魅力がそのまま読み手に伝わってくる。親しい関係にある幅広い年齢層の仲間に対する率直な質問によって、興味深い回答を引き出すことに成功した。チームスポーツを楽しむことは、仲間との触れ合いを楽しむことにつながるのであろう。他の複数の情報源にもあたってほしかったという思いは残るものの、問題意識を明確にしつつ、足元の実践活動から知見をまとめた好レポート

 

23

熊谷 利恵

公共プール施設に必要な要素とは 

休止の原因を民間事業者が経営する大規模プールとの比較から探っている。その結果、老朽化した場合には屋内・温水プールへの転換が不可欠だという結論に達した。しかし、「公共」と「公営」の違いはどこにあるのだろうか。また、そもそも対象とした公共プールの料金設定は住民から見て妥当だったのか、あるいは運営管理にあたって民間委託はなされていたのかなど、もっと突っ込んだ説明がほしかった。

 

24

浜 秀人

パチンコ蔓延による損害

30兆円産業」といわれるパチンコの負の側面に注目した。投じる金額の累進的な上昇傾向を指摘した上で、これがスポーツ・文化産業、ひいては社会の活性化にマイナスの影響を及ぼしているという指摘は面白い。しかし、まさに本論はこれからという時にレポートが終わってしまった感じがする。具体例に踏み込めなかったか。

 

25

深田 裕一

フェアトレードというブランドの選択

「世界トップクラスのコーヒー愛好国」日本のコーヒー事情を糸口に、生産農家が置かれた理不尽な状況を解消する切り札としてフェアトレードを紹介する。現行の流通体系における問題事例が示されれば、フェアトレードの意義の説明にもっと説得力を持たせることができたのでは。無意識のうちに末端の価格表示や見た目を日常の消費行動の基準にしている限り、なかなか見えてこない世界はこの領域以外にもたくさんあるに違いない。

 

26

高橋 有希子

日帰り旅行―旅行に求めるものとは―

日帰りか宿泊かを左右するのは、余暇として確保可能な時間や日数だという。人を引き付けるための日帰り旅行のネーミングをめぐる工夫が興味深い。利用料金の可能な限りの圧縮と、当該サービスが利用者に与える満足感との均衡点に成否の鍵がありそうだ。あるいは日帰り旅行の魅力は、人間にもある「帰巣本能」と関係しているのかもしれない。

 

27

小林 令子

フライトアテンダントのこれからのあり方

言われてみれば、確かに「飛行機内のひと時も余暇のひとつ」である。例えば、乗務員スタッフとのたとえほんの少しの会話であっても、乗客にとっては旅行の楽しさが倍加する。マニュアルを超越したサービスのあり方の追究は奥が深いものなのであろう。マニュアルの内容を具体的に提示できれば、それを自分なりの視点で分析したらよかったのでは。

 

28

高橋 俊貴

情報化社会の発展と電子書籍の普及

電子書籍のメリットとデメリットの記述が興味深い。普段、漠然としたままですませがちな差異について、キーワードを最初に出し、自分の問題意識を絡ませながら、うまく整理していて読み応えのある好レポート。メリットとデメリットが表裏一体なのもよく分かる。パソコン上で電子書籍を実際に試しているのもいい。結論にあるように、将来的には紙媒体と電子媒体は並存しつつも、後者に比重が移っていくのであろう。

 

29

新井 諭

余暇をどう過ごすか

何もしないというのは、もしかしたら究極の余暇の過ごし方かもしれない。余暇の時間を何かで埋めなければいけないと頭から考えている人にとっては、はっとする問題設定だ。それだけに、何もしないことの充実感に浸っている人の事例を取り上げ、具体的な効果や関連のデータを提示してほしかった。

 

30

小川 房子

高齢者の余暇を考える

最初の問題設定にデータをうまく盛り込んでいる。確かに余暇を「消費行動」とばかり捉えるのではなく、「ライフワーク」や「生産型」の要素を取り込むことが大切なのであろう。課題として、例えば、余暇活動の原点は個人単位と考える人々が、社会参加とのバランスをどのように達成しているのかということが挙げられるだろう。

 

31

三浦 優子

退職後のロングステイにみる高齢者の余暇活動

ロングステイを「国際親善に寄与」させようとする中央省庁のねらいはともかく、「移住」や「永住」とは異なる点も含め、このテーマをめぐる社会的背景には老後を考える上で何か奥深いものがありそうだ。一方で、異国においてもそこに人々が住む限り、人間関係には直面せざるを得ない。その意味では、ロングステイは自国を見つめ直す絶好の機会を提供しているのかもしれない。

 

32

柴田 千明

週休2日制と子どもの余暇

「子どもの余暇は大人にとっての文句の対象でしかない場合がある」という最初の指摘は、大人の都合や自己満足から子どもに余暇を押し付けがちになることを、ずばりと指摘されたようで耳が痛い。国と自治体のデータを丁寧に追っているので、「子どもの余暇活動の選択肢は狭い」「子どもの消極的な余暇活動の実態」といった指摘には説得力がある。作成者の明確なメッセージ性に加えて、遊び場の少なさなどこのテーマの核心が、実は大人や行政の問題であることを浮かび上がらせた好レポートである。

 

33

栗山 有子

FOOT BALL DREAMが仕掛けた余暇政策カシマサッカースタジアムが近隣地域に与えた効果―

鹿嶋市における「フットボールドリーム」の息遣いがそのまま伝わってくるようだ。スタジアム建設や交通アクセスの整備の勢いがすごい。それは市議会議員の選出にも及んだ。まちづくりそのものの基盤に住民、行政、企業が支えるJリーグのサッカーチームが位置していることがわかる。波及効果はこの地域に住む人々に活気を与え、子どもたちを幸せにしているのではないかと思わせる。作成者の文章の勢いも卓越している好レポートである。

 

34

紺野 美奈子

子供たちよ、休んでいますか?―完全学校五日制でゆとりは得られたのか―

実際の経験と制度施行との乖離を書いている。週5日間の授業負担が増し、休みが塾通いに取って代わったことなど、子供にとってこの制度が良いとはいえないと指摘。それだけでなく、以前の土曜日の午前中授業こそが、午後の貴重な「ゆとり」感を子供たちに与えていたのだと説く。自らの経験を土台に反対論を一貫して展開した好レポート

 

35

中村 祐司(担当教員)

オーストラリアACT政府によるスポーツ振興政策の特徴

 

 

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