タウンモビリティ

 

*タウンモビリティとは

高齢者や障害者など、移動に不安を持つ人に電動スクーターや車椅子を貸し出して、商店街や街中を自由に楽しんでもらおうという外出支援プログラム。

1996年、イギリスの先進例「ショップモビリティ」を日本に導入するにあたり、買い物だけにとらわれず、幅広い活用の可能性を考え、この名称がつけられた。

 

*イギリスにおけるショップモビリティの特徴と可能性

     電動スクーターなど補助的移動手段を提供し、人々の生活を変革している。

     まちの中心部に新たな顧客層を呼び込み、賑わいと売上増を実現している。

     まちのバリアフリー化が促進されている。

     地方自治体は、少ない費用で大きな効果を得ている。

     福祉、医療関連費の節約に貢献する。

     世代間交流のボランティア・プログラムとしても高い成果を挙げている。

このような実績の上に、新しいサービスの開発や関連分野への挑戦などの実態はショッピングの域を越えて実践的社会変革プログラムへと変貌しつつある。

EUの高齢対策はHealthy Aging(健康に年を重ねること)が重点である。その具体策として「社会から孤立させない」ことが挙げられる。

「孤立させない」ためには、人が自由に移動できる環境が不可欠。EUでは、「やさしいまちづくり」や「公共交通機関や利用環境の整備、機器開発」に力を注いでいる。特にまちづくりに関し、まち中心部の歩行者空間の拡大が顕著になってきている。

 

いかなる事業も経済的な裏づけなしには、発展はありえない。ショップモビリティを支えているのは自治体・企業・市民の三本柱である。

@     自治体−自治体は責任者の費用を持つことが多い。単一のプログラムではなく総合施策の一環として位置付けている。電動スクーター、車椅子など事業開始の必需品を援助することが多い。しかし、管理運営費用は企業・市民の協力があるためその負担はむしろ軽いといってよい。

A     企業 −企業はコーポレート・シチズン(企業市民)としての役割を果たす。筆頭に挙げられるのは電動スクーターの寄贈。企業名がスクーターにつけられるから“動く広告塔”となる。小さなプレートだから露出効果は大きくない。現物による寄付(FAX、机、ファイリングシステム、玄関の自動ドアなど)も多い。お金だけ出せばよいというのではなく、ショップモビリティの現状を理解し、企業としての援助の選択肢をふやそうという姿勢。また、多くのショップモビリティはチャリティの認可を受けているから、寄付を経費計上できるので税制上のプラスもある。

B     市民 −市民協力の最たるものはボランティア活動。エスコート、事務、募金、機器の整備など日常業務の大部分はボランティアがこなす。特に福祉関連学校の学生はショップモビリティでの活動が単位取得になる場合もある。学生たちは高齢者を、利用者は若者を理解する世代間交流の得がたい機会となっている。

豊かな市民意識と企業のコーポレート・シチズンシップ、そして先見性のある行政という土壌の上にショップモビリティが成り立つ。

 

*日本におけるタウンモビリティ普及の動き

1996年11月、建設省や地方公共団体、NPOなどの共催で、広島市、武蔵野市、柏市の3市でタウンモビリティのデモンストレーション実験が行われた。建設省・厚生省などの協賛で進められていた「福祉のまちづくりシンポジウム」を契機として行われたものである。実験のねらいは、福祉のまちづくりと地域の活性化を目指し、タウンモビリティの導入方策の検討を行うことにある。実験では体験者がボランティアの人と一緒に街中を自由に移動して買い物などを体験して、段差などの移動に不自由な場所の点検、商店街などへのアンケート調査が行われた。

 

広島市での実験:

アジア初の「タウンモビリティ実験」開催概要

日時:199611月6日(水)7日(木) 雨天中止

午前の部 10:0012:00(2時間)

午後の部 13:0016:00(3時間)

場所:中央公園(広島市中区基町) 自由広場の臨時駐車場にテントを出します

利用は無料です。

応募:中国・地域づくり交流会事務局まで �.082-221-8505

主催:中国・地域づくり交流会/建設省

協力:生活協同組合ひろしま/JA広島中央会/三浦工業株式会社/広島県/広島市/財団法人広島市公園協会

 

広島市中区に位置する中央公園に貸し出し事務所を構え,公園内で開催中の「秋のグリーンフェア」会場や500m以内に位置する美術館,デパート,ショッピングセンター,官公庁などを巡って楽しんでもらおうという企画でした。

10台の電動スクーターを無料で貸していただき,2日間の午前,午後あわせて40人の方々に利用してもらおうというものです。

なんせアジア初の取り組みということにくわえ,準備期間の短さもあってたいへんだったのですが,交流会会員や関係機関の方々による実行委員会の皆さんに多大な協力をいただき,交流会にはめずらしく万全の準備で当日を迎えることができました。

 

結果は?

35人が利用,のべ42人がエスコート体験。

利用者の8割が「また利用したい」,半数が「有料でも利用する」との感想。

「うちの町でも実験してほしい。」「今日はいい体験をさせてもらった」「普及されるまでは生きていたい」賛同・共感の輪が広がる。

自転車にも乗った経験がないのに・・・と尻込みをしていたご婦人が,そごうを回ってニコニコ顔で到着。予定時間をはるかにオーバー。

5年ぶりに本通に出た,喫茶店に入った(中途障害の方)

広島福祉専門学校のフレッシュ・ボランティアさん25名が参加。

次回はどこでやるんじゃ?期待の声々・・・

公園に遊びに来て実験に飛び入り参加した方が3名,本部前でスクーターに試乗した方も多数。

前日までは雨,実験期間中はいい天気,2日目の実験,後かたづけ終了後に雨がふりはじめる。広島の熱意が天に届いたか?

http://www.c-haus.or.jp/townmobility/tm4.htmlより抜粋)』

 

実現に向けての課題

@     組織の設立と運営−最も望ましい姿は行政は介入せず、地元の商店街等が組織の設立し事業を運営することである。行政が介入する場合、公益性が前面に強く出ている必要があると思われ、また、それは公益事業とはいえ、存続させるためには一定のコスト負担はやむをえないものになる。地元行政にとって、タウンモビリティ事業を行う効果が商店街の売上向上のみならず、中心市街地の活性化、高齢者や福祉対策、鉄道や福祉バスなどの公共交通活用による環境対策などにつながり、ひいてはその都市全体の活力と魅力向上につながると位置付けられる場合、行政が介入できるだろう。行政が介入できる環境が整うと、体力と組織力のあまりない商店街にとってはありがたいことであり、地方中小都市等での実現可能性も高まると考えられる。ただし、やはり、重要なのは商店街のやる気である。

A     資金源(@)イニシャルコスト:内訳は事業所借用のための権利金、事業所開設のための造作費、事務用備品購入費、台所・冷蔵庫等の購入費、電動スクーター等の機材購入費などが通常想定される。国等からの助成を生かすことができればよい。タウンモビリティ事業への適用用件という点が問題となるが、タウンモビリティ事業を推進する団体が国に対して強い働きかけを行い国のほうでもよく考えてもらうように誘導することが重要。NPO等を介入して助成されるケースもありうる。(A)ランニングコスト:内訳は人件費、事業所や専用駐車場の賃借料、施設や機材の維持費などが通常想定される。イギリスの場合は基本的に寄付金によっている。わが国の場合は、タウンモビリティ利用者の範囲をあまり特定せず、自由に使っていただくとすれば、レンタサイクルのように貸し出し料金をもらうという考えもあってよい。最も高いシェアを占めるのが人件費であるが、このコストを下げることは難しい。ボランティアを多く導入する等の対応を図るしかない。(B)支援者に対しての特典:寄付等を行う支援者に対しては電動スクーターに広告を取り付ける、事業所内での支援社名の表示などの特典を与えるのがよい。

B     タウンモビリティ事業所までのアクセス手段の確保−想定される手段は自家用車、路線バス、タクシー、鉄道のほか、専用の福祉バスなどが挙げられる。タクシーの福祉向上や、鉄道駅の垂直移動問題等への対応など考えられるべきである。行政側のバックアップのもと、運輸事業者などの更なる努力に期待。

C     利用者の安全確保(@)公道での走行(A)移動能力の評価:利用者の移動介護の程度を十分に評価する方針がとられるべきである。(B)保険:日本では車椅子車両に対して保険がかけられる。義務付けはない。重要なことは、保険を使わなくてもすむように利用者の運転能力の水準を常に確保すること。

D     タウンモビリティ事業所の機能−将来タウンモビリティ事業所が運営されると、コミュニティセンター、まちづくりセンターのような機能も果たしていく可能性が高い。既存のコミュニティセンターの立地との兼ね合いも考えて計画を行う。利用者は高齢者や障害者など移動や生活に対して慎重で弱い人が多いと想定されるが、逆にまちづくりに対して厳しくてやさしい目をもっている。したがって、このような人がよく集まり、交流を行うタウンモビリティ事業所は、まちづくりのための細やかで、新鮮な情報源となりうる。

 

→私の地元の大型スーパーで、店内の通路がやけに広く作られていたのを思い出した。休日には店内は人であふれ返っているのでそのための通路幅なのかと考えていたのだが(もちろんそのためでもあるのだろうけど)、そのスーパーでは、近隣の老人ホームで入所者が外で買い物を楽しめるということを考えているということから、車椅子でも楽に通れるようなつくりの店内にしたと耳にはさんだことがあった。入所者たちには気晴らしになるととても好評らしい。

高齢者や体の不自由な人にとって、外出して買い物するということは非常に大きな問題であると思う。屋内にこもりっぱなしの生活で、人とのふれあいの機会もなくすということは、社会生活の危機につながるのではないか。工業化・都市化の中で公共事業は行政の役割とされ、相互扶助のコミュニティのつながりは希薄になっている。相互扶助の社会には、ボランタリーなシステムを構築することが考えられる。行政も市民もボランティア意識をもつ必要がある。タウンモビリティは誰もがその人の能力に応じて参加できる身近な地域システムのひとつである(たとえば、電動車椅子が登れるように段差に板をかけるなど)。ボランティアとして活躍する場が身近にあれば、多くの人の行動するようになり、地域コミュニティのつながりも広がることにつながる。行政の支援と民間の協力で実現し、運営していくタウンモビリティは「官民協調のボランタリーなまちづくり」システムとして機能すると思われる。

市民参加型まちづくりを行ううえで、重要なことは、地域市民一人一人がどれだけ自分たちの住んでいる地域に関心を持てるかということであると思う。

タウンモビリティは体の不自由な人が気軽に外出できるということを目指しているが,そのことは、決して健康な人たちにとっても無関係ではなく、互いにより住みよい環境をつくることにたいして協力するということに有効な事業となるのではないだろうか。

 

 

(参考)

タウンモビリティ推進研究会『タウンモビリティと賑わいまちづくり 高齢社会のバリアフリー・ショッピング』,1999,学芸出版社