2000/09/16 産經新聞 「国家主権の侵害につながる重大な問題」 国の主権を脅かす法案が成立に向けて動き出している。日本永住の外国人に地方自治体の首長・議員選挙への選挙権を与える「永住外国人地方参政権付与法案」である。国籍のない外国人への参政権付与は、国家主権の侵害につながる重大な問題で、とうてい看過しえない。 日本永住の外国人は、韓国・朝鮮籍を中心に鳥取県の人口とほぼ同じ約六十二万人に上る。平成三年の特別永住者制度の導入で、参政権を除き、社会保障、行政サービスすべての面で日本人と同等の権利が保障されている。 もちろん地域でともに暮らす外国人の人権や生活権を守り、信頼関係を深めるためのよりいっそうの取り組みが必要なことはいうまでもない。永住外国人の要望を、地域の行政や国政に反映させる仕組みをつくることも急がれる。だが、こうした外国人の人権・生活権保障と、「参政権」はまったく次元の違う問題である。 ◆利用された最高裁判決 「公務員の選定・罷免は国民固有の権利」とする憲法一五条の規定を持ち出すまでもなく、国の舵とりを担う参政権は国籍をもつ国民の権利と義務である。参政権が国民のみに保障された権利であることは、司法判断でも明確にされているが、平成七年二月の最高裁判決が示した新解釈が、参政権運動にはずみをつける結果を招いた。 この判決は、本論では「憲法上、国籍のない外国人の参政権は保障していない」として参政権を求める在日韓国人らの訴えを棄却しながら、「法律で永住外国人に、自治体の長、議員の選挙権を付与することは、憲法上、禁止されていない」という考えを傍論で付記した。この傍論は明らかに本論の結論とは矛盾しており、判例としての効力は持たないとわれわれは考える。 法案には、ほかにも問題が多い。参政権とは本来、選挙権・被選挙権一体のものである。選挙権だけの付与は新たな問題を生むことになりかねない。いまのところ法案では被選挙権の付与は除外しているが、指紋押捺の廃止から公務員採用の国籍条項の撤廃、そして今回の地方参政権と続く権利拡大運動の経緯からみても、地方選の被選挙権から国政参加へと要求がエスカレートすることは想像に難くない。 日本永住韓国人の地方参政権を強く要請している韓国政府に対し、北朝鮮側は「日本への同化」として付与に反対している。韓国系・北朝鮮系の間で対立する問題に、あえて踏み込む必要があるのかどうか。投票のための選挙人名簿登録など、実際の選挙執行においても大きな混乱が予想される。 「納税義務を果たしている永住外国人に、地方参政権を与えるのは当然」とする意見もある。だが、納税はその国や地域での経済活動の対価であり、行政サービスを受けることの代償である。「参政権がないから税金を免除する」という国はどこにもない。 ◆「ノー」といえる自民たれ 「地方行政と国政は別」という主張も的外れだ。新たな「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)に基づく周辺事態法にも自治体の役割が明記されているように、自治体の判断が国の統治権や国民の安全に直接かかわってくる事例は数多い。 「永住外国人への参政権は、世界的な潮流」という指摘も当たらない。永住外国人に参政権のある国は北欧など二十カ国余りあるが、労働力確保のために積極的な移民策をとるなどの特殊事情が背景にある。互いの主権と主体性を尊重したうえで交流を深めることが、真の国際化である。 参政権で重要なのは、在日の人たちへの同情といった情緒的な論議ではない。国家や国民のあるべき姿を明確にすることだ。 参政権に不可欠の条件は民族的な違いではなく、国と運命を共有し、国の法律に全面的に服することができるかどうかにある。多くの国が憲法に国民の義務として「国家への忠誠と国防の義務」を明記しているのもこのためだ。「国籍と参政権は不可分」が世界の常識である。 二十一日召集の臨時国会に向けて、公明、保守両党が提案した「永住外国人地方参政権付与法案」は、自民党内の意見調整が成否のカギを握る状況にある。党内には「憲法違反」などを理由に反対の意見が根強い。だが、野中広務幹事長ら執行部は自公保の連立政権維持を最優先に、党議拘束をはずしてでも採決に持ち込む構えだ。 国家の根幹にかかわる重大問題を、十分な審議も国民的合意もないまま政権維持のための国会対策の次元で扱うことは許されない。いわんや、「外国人票」目当てや党の存在感アピールといった党利党略は論外だ。 自民党は歴史に禍根を残さぬよう、時流におもねらない毅然とした態度で、与党第一党としての重みを示すときである。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 2000/09/14 読売新聞 国会で判断するのは余りにも無責任 永住外国人への地方「参政権」付与問題の決着を急ぐ声が各党の間で強まっている。 自民党以外は参政権付与に賛成し、党内の反対論が強い自民党でも、実現を迫る公明党に配慮して法案成立を図る動きが執行部に出ている。公明党の神崎代表は、参政権付与の実現を求める金大中韓国大統領が来日する二十二日前の決着を主張している。 これは極めて疑問だ。この問題について十分に論議は尽くされていない。拙速で事を運び、禍根を残してはならない。 もちろん、地方行政に永住外国人の意向や希望を反映させる政策上の措置を最大限講じるべきであるのは当然だ。 だが、外国人への参政権付与となると話は別だ。国のあり方の基本にかかわる問題であるからだ。 永住外国人への参政権付与は、昨年十月の自自公連立政権発足の際に三党が合意した。公明党と保守党は七月の特別国会に法案を提出し、継続審議となっている。 公明、保守両党案は、永住外国人に選挙権を付与し、条例の制定、議会の解散、議員や首長の解職などについての請求権も認めている。韓国、朝鮮籍の永住外国人はいずれも選挙権を付与するとしている。 地方公共団体も国の機構の一部だ。国から全く独立した存在ではない。 条例には、国の政策との関連が問題になる事例もある。外国籍住民の参政権行使が、例えば、国の外交・安全保障政策を損なう恐れがないとは言い切れないだろう。 九五年の最高裁判決は、国民主権の原理に立って、憲法一五条の公務員を選定、罷免する権利は日本国籍を持つ「国民」にあると明示している。 それは世界の常識でもある。北欧諸国など一部を除き、主要国は外国人に国政はもちろん地方参政権も認めていない。ドイツでは、九〇年に連邦憲法裁判所が地方自治体の選挙権付与を違憲としている。 確かに、最高裁判決は、地方公共団体の首長や議員に対する永住外国人の選挙権については、「憲法上禁止されているものではないと解するのが相当」としている。 だが、これは選挙権付与を保障したものではなく、拘束力があるわけではない。現に、判決は、選挙権付与の措置を講じるかどうかは、立法政策の問題として、政策判断にゆだねている。 政策判断という点で、とりわけ政権与党の第一党である自民党の責任は重い。 ところが、自民党執行部には、党内の意見がまとまらないため、採決の際に党議拘束を外すという考えがある。 生命観など個人の信条にかかわる臓器移植法のような場合とは異なり、地方参政権を付与するかどうかは、国の基本政策だ。それを国会議員各自の判断にゆだねるのでは、政権党として、あまりに無責任だ。 永住外国人への参政権付与には多様な問題がある。国会の衆参両院に設置されている憲法調査会でじっくり論議するのも一つの考え方だろう。 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ 2000/06/28 産經新聞 永住外国人の参政権問題に決着をつけたもの 十年前の平成二年に在日韓国人十一人が、選挙人名簿への登録を求める訴訟を起こして以来、憲法論争を巻き起こしてきた永住外国人の参政権問題に、改めて最高裁が判断を下した。 大阪府の在日韓国・朝鮮人三十一人が、憲法九三条で地方自治体の選挙権が与えられている「住民」には日本人と同様に納税者である定住外国人も含まれるとして、地方選挙権・被選挙権の立法措置をとらないことの違憲確認などを求めた訴訟の上告審判決で、最高裁は二審判決を支持して上告を棄却し、在日韓国人らの敗訴が確定した。過去の判例を踏襲し、「参政権を日本国民に限っている公職選挙法などの規定は憲法に違反するものではない」というのが判決理由である。 国会では旧連立与党の公明・自由両党が共同提案した「永住外国人地方参政権付与法案」が、衆院の解散・総選挙によって廃案となった。公明党は再提案の構えだが、国会も最高裁判決の示した「国籍」の重みを厳粛に受けとめ、国民主権の放棄につながる外国人参政権問題に終止符を打つべきだ。 永住外国人の地方参政権に対する最高裁判決としては、今年四月にも福井県内の在日韓国人らが国と四市町選管を相手に起こした選挙人名簿不登録の違法確認などの訴訟について、「憲法に違反しない」と上告を棄却した。 その前の平成七年の最高裁判決は、同様の訴訟に対して、「憲法上国籍のない外国人の参政権は保障していない」と訴えを棄却した上で、「法律で永住外国人に、自治体の長、議員の選挙権を付与することは憲法上禁止されていない」との新解釈を示した。 ただ、「この措置を講じるかどうかは、あくまで立法政策の問題であり、参政権を与えなくても違憲の問題は生じない」との考えを付記した。ところが、この新解釈の部分だけがクローズアップされ、参政権問題は司法の場から国会の場に移ったとして、自民党などを除く各党が地方参政権付与法案を提出した。共産党は地方選挙の被選挙権まで求めている。 今回の最高裁判決は、参政権を「国民固有の権利」とする憲法一五条の規定を明確に示し、永住外国人の参政権問題に決着をつけたものといえる。 今後、国会で取り組むべき課題は、地域で共に暮らす外国人の生活権や人権を守り、信頼関係を深めるための地道な施策であり、国籍の取得しやすい環境を整備することである。 「国際化」など時流迎合の安易な永住外国人への参政権付与は、主権国家の根幹を揺るがし、真の国際協調にも反することを重ねて指摘したい。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ |