働く女性と行政 990127C 佐藤美佐子
仕事と育児の両立を行っていくためには、働いている間子どもを預けておける場が必要だ。女性の社会進出が進めば進むほど、保育サービスの充実は求められるようになる。しかし、必要とされる保育サービスの整備はまだまだ不十分であるのが現状で、このことも仕事と育児の両立がうまくいかない原因の一つとなっている。
待機児童問題
保育に関する問題で注目されているのが、「待機児童」問題だ。小泉首相が所信表明演説で触れたほど、保育所の待機児童問題は深刻なのもとなっている。
待機児童とは、「保育所入所申込書が市区町村に提出されており、入所要件に該当しているが、保育所に入所していない児童」(厚生労働省)のことをいう。平成12年4月時点で、待機児童は約3万3千人いた。統計には表れない部分を加えると、10万人を超えるとみられている。
少子化で子どもが減っているにもかかわらず待機児童が増えている背景には、働く女性が増えていることがあると考えられる。子どもを産んでも働き続けたいと希望する女性はますます増えている。また、不況で母親も働かなければならなくなっているという現実もある。核家族化が進み、共働きの夫婦が増えているため、家にいて育児をする人がいない。そうなると必然的に保育所などの保育サービスに頼らざるを得なくなる。しかし、保育所の総数、定員数が足りず、そして延長保育などの働く親のニーズに応えられるサービスが十分に整っていない。これにより、待機児童が急激に増える結果となった。特に大都市部での待機児童数は多く、東京、神奈川、埼玉、大阪、兵庫に全国の約6割が集中している。
それならば保育所を増やせばいいのではないか、と考えてしまう。だが、保育所を新設しようにも、財政的・制度的問題があるため、簡単にはいかないというのが現実のようだ。公立の認可保育所は、行政の指導・監督の下で運営されている。財政事情が悪化している中で、保育に対する公的支援は不足している。また、保育所の設置には主体制限や資産要件などの規制があり、保育所の新設を難しくしている。
保育所の現状
ここで、保育所の仕組みについて触れてみたい。
日本の保育所には、認可保育所と認可外(無認可)保育所がある。待機児童の問題で言われている保育所とは、認可保育所のことだ。
認可保育所:都道府県知事から認可された施設
公費が補助されている
最低基準を満たさなければならない
設備、職員の資格、保育時間、保育内容等についての「児童福祉施設最低基準」
公立と私立がある
認可外保育所:認可を受けないで保育をしている施設
公費が補助されているものといないものがある
認可保育所のような基準は適用されないが、安全確保のための必要最低限の基準 がある
事業所内保育施設、へき地保育所など
認可保育所の保育の質は、自治体や園長によって差が出てくる。よって認可されているからといって、良い保育サービスが提供されているとはいえない。また、多様な保育サービスの実施率が低い、民営の保育所よりも高いコストがかかっているという問題もある。
認可外保育所も保育の質はバラバラだが、利用者のニーズに応えるようなサービスを実施しているところも増えている。ただ、民間業者が運営を行うために、利潤追求に走ってしまい、環境が劣悪になってしまう場合もある。事故などが取り上げられるのは、こういう認可外保育所が多い。
日本保育協会 http://www.nippo.or.jp/
政府による対策
待機児童を解消することは、重要な課題だ。では、政府はどういう対策を行っているのだろうか。
これまでの対応
・エンゼルプランと新エンゼルプラン
エンゼルプラン(=今後の子育て支援の為の施策の基本方向について)
平成6年度に当時の文部・厚生・労働・建設の4大臣が合意
企業、職場、地域社会などの子育て支援の取り組みを推進することをねらいとしたもの
対策としては、結婚・出産・育児支援、地域活動への積極的共同参画、高齢者・女性の雇用促進など
より具体的にしていくために、「緊急保育対策等5ヵ年事業」の策定(平成7年度から平成11年度)
↓
新エンゼルプラン(=重点的に推進すべき少子化対策の具体的実施計画)
平成11年度に策定
平成6年から平成11年にかけて、エンゼルプランが実施されたのだが、実施によってどういう効果がでたのか、また、
目標を達成できたもの、できなかったものについては触れていない。そのため、新エンゼルプランにどう反映されたのか、新しい目標値の正当性が判断できない。
・少子化対策臨時特例交付金
平成11年度に実施
少子化対策の呼び水として、地域における少子化対策の一層の普及促進を図るとともに、雇用・就業機会の創出に資することが目的
申請事業の例
駅前保育所の設置
保育所に対する施設、設備整備
病後児の一時預かり場所の整備
要綱 http://www.mhlw.go.jp/search/mhlwj/mhw/other/topics/syousika/tp0816-1_b_18.html
・規制緩和
平成12年3月30日に実施
保育所を設置しやすくし、自治体が待機児童の解消等に柔軟に対応できるようにするため
@保育所設置に係る主体制限の撤廃
市町村・社会法人のみ→株式会社、NPO等も主体に
A定員規模要件の引き下げ
30人以上→20人以上
B資産要件の緩和
土地:国・地方自治体からの貸与
賃借権・地上権を登記した上での民間からの貸与→登記不要で民間からの貸与可能
建物:国・地方自治体からの貸与→民間からの貸与可能
効果:平成12年3月30日から平成13年4月1日までの間に、50件の保育所の認可が行われ、定員は1728人増加した。
http://www.mhlw.go.jp/search/mhlwj/mhlw/houdou/0105/h0521-2.html
では、待機児童は減ったのか?
保育施設を増やし、定員を増やすことによって、待機児童を減らそうという方法は間違ってはいない。しかし、待機児童の解消は簡単に成し遂げられることではない。それを示しているのが、厚生労働省が実施したヒアリングの結果だ。(「保育所入所待機児童数の多い市区からのヒアリング結果について」http://www.mhlw.go.jp/search/mhlwj/mhlw/houdou/0105/h0531-1.html)
実施月:13年4月
対象:待機児童150人以上の57市区(12年4月1日現在)
<入所児童数>
保育所の定員は、定員の弾力化、交付金を活用した施設整備の影響で、増加
<待機児童数、待機率>
わずかに減少しただけ。2年前につくった目標値をまったく達成できていない。入所児童数に対する待機児童数の割合を示す待機率も、目標には大きく及ばず。
待機児童数・待機率の推移
(注)速報値につき、計数の修正がありえる。
待機児童を解消するための対策は進められてはいる。それでも、2年前に策定された計画値をまったく達成できていないというのは大きな問題だ。この原因について厚生労働省は、景気低迷で、求職活動のために入所申し込みをする保護者が増えたため、とみている。しかし、「入所申し込みが増えた」ためという理由をあげて終わらせていいことではない。保育所への入所を待っている子どもはまだ2万人以上もいるのだ。政府は全国の保育所の受け入れ児童数を04年度までに10万人増やす方針を決めているが、今後具体的な施策を推進していかなければならない。