行政学演習レポート

「栃木県市町村合併推進要綱の分析」

2001521

小島 周一郎

1はじめに

県内において市町村レベルで具体的に市町村合併が動いているのは合併協議会が設置されている栃木市・小山市佐野市・田沼町・葛生町2地区である。しかし、栃木市・小山市の合併協議会は現在休止中でありもう一方もほとんど議論が進んでおらず合併の気運は高まっていないのが現状である。

県では、20011「県市町村合併推進要綱」を作成した。これは旧自治省(現総務省)が一昨年市町村合併の論議を活発化させるため都道府県に対して具体的な市町村の組み合わせ案を作るように各都道府県に要請したものである。この中では合併のケースとして5パターンの具体的な市町村合併のモデルを示している。市町村数は現在の49市町村から最も多いモデルで21、最も少ないモデルでは12となっている。最小モデルでは宇都宮市は壬生町等5町と合併し60万都市になる事が想定されている。今回はここで書かれている「栃木県市町村合併推進要綱」をじっくり読まなければ行政側が市町村合併をどのように進めているのか分からないので、これを読みまとめた。

 

2「栃木県市町村合併推進要綱」の内容

 この中で、県は地方分権の進展や近年の厳しい地方財政状況の下において少子高齢化への対応、広域的な町づくりの推進を行なうために市町村合併がそれらの問題を解決するための有効な方策の1つと考えている。ただ同時に、市町村合併は地域の将来や地域住民に多大な影響を与えるため十分な論議を行い、自主的・主体的な取り組みの下に推進する事が基本であるとも書かれている。

 以下は推進要綱の抜粋である。

T県内市町村の現況分析

・人口動態

現在人口約200万人

平成20年代後半をピークに減少予測

県東部・西部・北部を中心に少子高齢化

 

・財政状況

ほとんどの市町村が財政力指数1)1.0を下回っている

 

・広域行政の状況

一部事務組合2)33組合、その協議会は9設置(20004月現在)

事務の委託は15(20007月現在)

広域連合2)設置無し

 

・生活圏(通勤・通学・通院・購買動向)の状況

いくつかの市町村に集中する傾向

 

・分析手法

「県民生活の結びつき」(通勤・通学・通院・購買動向)と「市町村行政の結びつき」(一部事務組合・協議会・事務の委託)を客観的にクラスター分析し、市町村の一体性・類似性の検討

 

U県内市町村の変遷・今後の課題

変遷

明治の大合併(1257171市町村)

昭和の大合併(17054市町村)

現在49市町村〜他都道府県と比べると1市町村あたり人口、面積等は平均よりも大きくなっている

 

今後の課題

・人口の減少、少子高齢化への対応

・住民の生活圏の拡大への対応

・地域間競争の激化や地域経済の構造変化への対応

・厳しい財政状況、地方分権進展への対応

 

V広域行政及び市町村合併の効果と懸念される事項への対応

広域行政及び市町村合併

一部事務組合を中心とした広域行政に比べ行財政基盤の強化や意思決定の迅速化及び総合的地域振興が図られる市町村合併の方が効果的

 

市町村合併のメリット

・高度かつ多様な行政サービスの提供

・行財政の効率化が進み厳しい財政状況にも対応可能

・イメージアップ、地域間競争の激化への対応可能

・生活圏と一致した公共施設や窓口サービスの提供可能

・広域的な町づくりによる効果的な町づくりが可能に

・人口規模の拡大による効果的で安定的な行財政運営が可能

・都市的機能の集積で芸術、文化に接する機会の増加

 

市町村合併のデメリット(その対応)

・今までのサービスの細かさの喪失(地域審議会3)・公聴会の活用や専門性の高い行政組織の設置等による行政体制の充実)

・サービス水準の低下、使用料・手数料の住民負担の増加(合併協議会4)でサービス水準は高い方に、負担は低い方に調節)

・市町村役場が遠くになることでの不便(合併後もそれまでの市町村役場は新市町村役場の支所や出張所になる。情報化の進展で今まで以上に便利に)

・中心部のみ整備が進み周辺部との格差(合併協議会で合併後の町づくりを協議。周辺部は市町村建設計画5)を策定し、合併後は地域審議会等によりチェック)

・各地域の伝統が失われるのでは(合併協議会等において旧市町村の名称を残す等を検討)

・財政状況の良い市町村の合併は無駄では(広域的な視点から町づくりが行なえ、地域全体の充実。合併特例法で財政面の様々な支援)

 

W市町村合併に関する意向

県民5800(回収率約30)団体代表者100(67%)、市町村長・市町村議会議員1067(50)、県議会議員54(約52%)へのアンケート

現在の市町村の単位での各種行政活動への対応可能性

「対応困難な事も多い」「ほとんど対応出来なくなる」

県民・団体代表者約66%

市町村長・市町村議会議員約50%

 

市町村合併の検討が必要だと考える理由

団体代表者・市町村長・市町村議会議員→地方分権時代に対応した行政体制の確立、行財政体制効率化、広域的な町づくり推進

県民→都市機能充実や産業振興

 

市町村合併が必要ではない理由

団体代表者・市町村長・市町村議会議員→住民意見が反映されにくくなる、財政基盤が強化されるとは限らない

県民→合併するメリットが分からない

 

県内で自主的・主体的な市町村合併が進むことは

「消極的賛成」「積極的賛成」

県議会議員の90%

 

X栃木県における合併パターン

あくまで例示的に示すと前書きし3パターンを示した

Aパターン(総合分析型)さらに2パターン

Bパターン(客観分析型)さらに2パターン

Cパターン(アンケート調査等配慮型)

 

このパターンによると宇都宮市は以下のように示されている。

Aパターン

1人口48万人(上河内町、河内町と合併)

2人口44万人(宇都宮単独市)

Bパターン

1人口60万人(上三川町、上河内町、河内町、壬生町、石橋町、高根沢町)

2人口51万人(上河内町、河内町、高根沢町)

Cパターン

1人口48万人(上河内町、河内町)

 

Y市町村合併に関する取り組み

・市町村が果たすべき役割

情報提供し住民と共有すべき

隣接市町村と連携

 

・住民・各種団体が果たすべき役割

地域の現状や将来を積極的に考え行動すべき

自らの問題として市町村合併を考えるべき

 

・県が果たすべき役割

広域的な調整機関として様々な支援

体制整備、財政支援の実施

 

・国の施策

合併特例法の改正、様々な支援策(ex.特別交付税、合併移行経費の交付)

 

Zおわりに

住民や市町村が自主的・主体的に地域における歴史的経緯・生活実態をはじめ様々な視点から充分な論議・検討を行なう事が必要である

 

3まとめとこれからのレポートの進め方

「栃木県合併推進要綱」を読んで感じたことは合併のメリットやデメリットに対する反論を読んでいると合併の必要は確かにあるのではないかと思う。ただ、アンケート調査の県民の回収率(30%)から見ても合併に関する県民意識が低いのは事実である。要綱でも住民が自主的・主体的に地域における歴史的経緯・生活実態をはじめ様々な視点から充分な論議・検討を行なう事が必要であると書かれているが、それがまるっきり無いのが現状ではなかろうか?現に前述したように合併協議会が設置されている栃木市・小山市と佐野市・田沼町・葛生町の2地区もほとんど議論が進んでおらず合併の気運は高まっていない。行政側から強制的に合併を行なうことは住民の反発を買うのは目に見えている。やはり、行政側は合併への住民論議が高まるのを待つしかない。ただこのまま地道に待つのでは県民意識は向上しないだろう。また、住民はもっと真剣に合併について考えるべきである。要綱に書かれている合併効果を考えると十分合併について考える余地はある。どのように県民の合併に関する意識を向上できるのか?それが問題である。

今回は「栃木県合併推進要綱」を読み、県内における市町村同士の関係が分かった。そして、県はどうのように合併を進めようとしているのかが分かった。次回のレポートでは、

合併協議会が設置されている(されていた)2地域の現状

宇都宮周辺では合併の動きは進んでいるのか

について調べていきたいと思う。

 

 

用語解説

1)財政力指数

 地方公共団体の財政力を示す指数として用いられている。1に近くあるいは1を超えるほど財源に余裕がある。

 

2)一部事務組合広域連合の違い

現在、一部事務組合はゴミ処理や消防等を中心に一部事務組合が活用されている。広域連合は一部事務組合と比較し次のような特色がある。

・広域的な行政ニーズに柔軟かつ複合的に対応

・広域的な調整を実施しやすい

・権限委譲の受け皿に

・より民主的な仕組み

 

3)地域審議会

 1999年の合併特例法の改正により、合併後も地域住民の声を施策に反映させきめ細かな行政サービスを実現させるために、合併前の市町村の協議により、合併前の市町村の区域を単位として設置できるようになった審議会。新市町村における関係区域に関する事務に関し意見を述べる事が出来る。

 

4)合併協議会

地方自治法252条の2により設置される協議会で、合併を行なうこと自体の可否も含めて市町村建設計画の作成や合併に関する様々な事項の協議を行なう組織で、設置するためには、関係する市町村の議会の議決が必要。合併協議会の会長・委員については、関係市町村長、その他の職員、関係市町村議会議員または学識経験者の中から選任される。

 

5)市町村建設計画

住民に合併市町村の将来に関するビジョンを与え、これによって住民が合併の可否を判断する、いわゆる合併市町村のマスタープランのようのものである。合併市町村がハード・ソフト両面の施策を総合的・効果的に推進するため、合併市町村・都道府県が実施する事業内容等を内容とした計画。

 

参考URL

栃木県庁ホームページhttp://www.pref.tochigi.jp/

総務省ホームページhttp://www.soumu.go.jp/