行政学演習レポート

栃木県内の合併状況

〜佐野市・田沼町・葛生町合併協議会と栃木市・小山市合併協議会の現況と宇都宮市周辺の動き〜

990123A

小島 周一郎

目次

1はじめに

2合併するためには

3佐野市・田沼町・葛生町の合併に関する動き

4小山市・栃木市の合併に関する動き

5宇都宮市周辺の合併に関する動き

6おわりに

用語解説

参考URL


1はじめに

 前回のレポートでは「栃木県市町村合併要綱」を分析し、県がどのように市町村合併に取り組んでいるのかが分かった。では今回は栃木県内で具体的に合併の動きが進んでいる(進んでいた)2地区の合併への取り組みについて具体的に何が進んでいるのかを調べ、現況はどのような状況なのかを調べていく。また、宇都宮市周辺では現在合併協議会は設置されてはいないが市町村合併の動きがあるのかもまた調べていきたい。
 
 

2合併するためには

 市町村が合併するためには以下の手続きを踏まなければならない。

1合併協議会設置請求、議案の議会での可決(住民側は有権者の50分の1以上の署名で請求できる)

2合併協議会設置

3合併協定書の調印

4関係市町村議会の議決(合併に関して賛成か)

5関係市町村の県への申請

6都道府県議会の議決

7都道府県知事による決定、総理大臣への届け出

8合併市町村の誕生
 
 

3佐野市・田沼町・葛生町の合併に関する動き

 この地域では現在合併協議会が設置され、合併の動きが進んでいる。この地域での合併協議会の現況を以下にまとめた。
日付 内容(カッコ内は会議内容)
1997.12 佐野市民、田沼町民、葛生町民がそれぞれの市長、町長に対し署名簿を添えて合併協議会設置請求書を提出
1998.3 佐野市議会、田沼町議会、葛生町議会それぞれが合併協議会設置議案を可決
1998.7 

 

第1回佐野市・田沼町・葛生町合併協議会

(会長、副会長選出、運営について)

1998.11 

 

第2回合併協議会

(各々の市町の行政内容などに関する調査を進める)

1999.7 

 

第3回合併協議会

(行政内容などに関する調査表の検討)

1999.10 

 

第4回合併協議会

(全体会議では合併を詰めるのが難しいとして合併に関する調査検討のための「小委員会」設置)

1999.12 

 

第1回佐野市・田沼町・葛生町合併協議会小委員会

(正副委員長選出、運営について)

2000.2 

 

第5回佐野市・田沼町・葛生町合併協議会

(小委員会へ「合併の是非を含めた合併の協議」の調査を付託)

2000.5 

 

第2回小委員会

(付託事項の確認、今後の進め方について)

2000.7 

 

第6回合併協議会

(小委員会の経過報告)

2000.11 

 

第3回小委員会

(委員長の互選、各市町の調査報告)

2001.3 

 

第4回小委員会

(協議事項の絞込み、小委員会では「合併するとしたら」という前提で、合併のメリット・デメリットの理由付けをし、出来るだけ早い時期に協議会へ案を提出する)

 

 現況はこのようになっている。ちなみに2001年3月議会では、それぞれの首長または担当者は合併問題について、このように発言している。

 

佐野市担当者「合併を想定し、メリットやデメリットを検討する」

田沼町長「私は合併推進派。時間はかかるが、地方分権型社会形成に向け、成功させたい」

葛生町長「反対する立場ではない」「協議会の検討結果を受けて進めたい」

 (下野新聞記事より)
 
 このように発言した理由は県が2001年1月に「栃木県市町村合併要綱」を作成したのを契機に議論が再燃しているからである。

 しかし、佐野市、田沼町で実施したアンケート調査ではこのような結果が出ている。(佐野市役所2000年8月実施20歳以上の1000人無作為抽出回答率40%/田沼町役場1999年7月実施20歳以上の男女3000人無作為抽出回答率41.5%)

 ちなみに葛生町で役場のホームページや新聞記事を探したがアンケートを行っているかどうかは分からなかった。

合併の賛否は?
  それぞれの住民の回答率(%)
  佐野市 田沼町
積極的に進めるべき 18.7 23.4
合併に賛成できない 10.4 13.2
ある程度時間をかけて進めるべき 22.6 30.2
もっと情報がほしい 23.1  
どちらとも言えない   27.0
その他 25.2 6.2
(注意)佐野市では「どちらとも言えない」、田沼町では「もっと情報がほしい」の質問項目は無い
 

 と、このような結果になっている。合併賛成派反対派より多いがわずかである。注意すべきは「ある程度時間をかけて進めるべき」や「もっと情報がほしい」のような合併消極派が賛成、反対派双方よりも多いことである。このことから合併について、もっと住民への情報提供や開かれた協議会を開催し、住民の目に見える合併を行なう必要がある。その上で住民の判断を仰がなければならないのではないかと思う。

 ちなみに田沼町・葛生町両町では医療、ゴミ処理、火葬場運営、介護保険における要介護認定審査にたいして一部事務組合(栃木県県南病院組合、安蘇衛生施設組合など)を作り、佐野市を含めた3町では佐野地区広域消防組合や佐野地区衛生施設組合、安佐地区視聴覚ライブラリー協議会などを設置し共同で市町村事務にたいして取り組んでいる。徐々にではあるが合併への連携は進んでいるのが現状であろう。
 
 

 (佐野市役所、田沼町役場実施アンケートをもとに筆者作成)

4小山市・栃木市の合併に関する動き

 この地域では現在合併協議会が無期限休止している。この地域での合併協議会の取り組みを以下にまとめた。
日付 内容(カッコ内は会議内容)
1997.7 小山市民が小山市長に対し署名簿を添えて合併協議会設置請求書を提出
1997.9 小山市長設置請求受理。栃木市長に対し議会付議するか意見紹介。栃木市は意見付議する旨を小山市に回答。1)
1998.3 小山市議会、栃木市議会それぞれが合併協議会設置議案を可決
1998.7 

 

第1回栃木市・小山市合併協議会

(経過報告と協議会の運営について。両市の合併の是非に関する協議及び調査研究を他に先行して推進することを決定)

1998.10 

 

第2回栃木市・小山市合併協議会

(意見交換。両市の現状比較と広域行政の取り組みなどを協議。)

1999.2 

 

第3回栃木市・小山市合併協議会

(全国の類似団体との比較と新しい市を想定しての類似団体との比較などを協議)

1999.6 

 

第4回栃木市・小山市合併協議会

(合併協議会の現状報告と両市の現状を広報誌に掲載。両市市民1500人を対象に合併に関するアンケート調査実施を決定)

1999.11 

 

第5回栃木市・小山市合併協議会

(市域別の研究会を作り、協議会の今後のあり方や方向性を協議することを決定)

2000.6 

 

第6回栃木市・小山市合併協議会

(それぞれの広域圏の合併を検討すべきとして広域合併の方向性が出るまでの当分の間、一時中断することを決定)

 

 と、このように現在栃木市と小山市の合併協議会は無期限休止状況となっており、合併の動きは頓挫した。この原因は合併協議会が1999年8月に実施した両市民に対するアンケート調査である。

 アンケートは20歳以上の両市民男女1500人を無作為抽出し、回答率はそれぞれ37.5%(562人)だった。そのアンケート結果は以下の通りである。

合併についてどう思うか?
  回答割合(両市の合計回答率)%
合併が望ましい 16.6
どちらかと言うと合併が望ましい 14.9
合併する事が望ましくない 14.9
どちらかと言うと合併が望ましくない 18.8
広域圏の市町村との問題処理が前提 15.7
分からない 16.9
その他・無回答 2.2

合併に賛成31.5%/合併に反対49.4%

 と、このような結果が出たのである。両市民が合併に関して反対を考えている現状では合併を行うことは出来ないと判断したのであろう。アンケート内容に「広域圏の市町村との問題処理が前提」があるが、実は「栃木県市町村合併要綱」によると、

栃木市は西方町、大平町、都賀町(栃木地区広域行政事務組合など)

小山市は南河内町、国分寺町、野木町(小山広域保健衛生組合、小山地区広域行政推進協議会など)

それぞれと、一部事務組合や事務の委託などでの結びつきが強い。この為、両市民の中でも栃木市・小山市と合併するよりもまず周辺の町との合併が先にすべきであると考えたのではないか。

(栃木市小山市合併協議会アンケートをもとに筆者作成)

5宇都宮市周辺の合併に関する動き

 この地域では現在市町村合併の動きは見られない。県が作成した「栃木県市町村合併要綱」では最大合併モデルとして宇都宮市、上三川町、上河内町、河内町、壬生町、石橋町、高根沢町の7市町で合併する事がのぞましいと書かれているが、現状は市町村合併に関する動きは無い。

 しかし、この中で高根沢町を除いた6市町では合併の直接的な動きとは関係ないが2000年10月から住民票・戸籍の広域交付が行なわれている。これは6市町民が本籍地・住民登録地以外の市役所や町役場の窓口で住民票・戸籍の交付を受ける事が出来る制度である。

 このように、徐々にではあるが市町村同士の連携が進んでいるのは事実である。

 ちなみに2001年5月に宇都宮の町づくりについて講演を聞きに行く機会があった。そこに出席していた宇都宮市長は近隣町との合併について、「近隣町との合併は賛成だが、宇都宮が自ら動けば吸収合併に受け取られてしまい反発が出る。近隣町が宇都宮と合併する意思があれば積極的に協力はする。今は近隣町側の推移を見守る。」と発言していた。

 

6おわりに

 今回県内で設置されている2地区の合併協議会と宇都宮市周辺の合併への動きを調べた結果、予想以上に栃木県内では市町村合併の動きはさほど進んでいないという事を改めて実感した。そこに住む住民が合併問題に関して積極的に考え、発言していかなければ合併を進めたとしても必ず失敗してしまう。現に栃木市と小山市の合併は現時点では立ち消えしている。それはアンケートをとった結果、住民は両市との合併よりも近隣町との合併の方が大事であるという結果と合併を進めてきた合併協議会とのギャップが浮き彫りとなったからである。また、佐野市・葛生町・田沼町の合併も思うようには進んでいない。これも住民のアンケート調査ではある程度時間が欲しいや情報が欲しいなどの消極的意見が多い。ここでは行政が住民に対し合併に対して情報が与える必要があるし、小山栃木同様まだまだ合併協議会と住民との合併に対してのギャップが大きいと言わざるをえない。宇都宮市周辺の具体的な合併の動きは今のところ皆無である。

 つまり、栃木県内では合併の動きが進んでいないのが現状である。

 そこで、次回のレポートでは実際に2001年5月1日浦和市、大宮市、与野市の3市により合併が行なわれた「埼玉県さいたま市」についてのどのように合併が進んでいったのかや現況、今後の課題を調べていきたい。

 


用語解説

1)合併協議会設置請求書について

1の佐野市・田沼町・葛生町の場合は合併協議会設置請求書が3市町で同時に出されたため問題はないが、この場合のように2市で合併を行なう場合に1市だけで設置請求書が出された場合提出された首長は関係する首長に意見照会を行い議会付議するか照会しなければならない。もし関係市町村長が議会付議しないと回答すればその時点で合併協議会設置請求は棄却される。

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参考URL

田沼町ホームページ http://village.infoweb.ne.jp/~tanuma/

下野新聞ホームページ http://www.shimotsuke.co.jp/