JICAOECFによる「参加型開発」プロジェクトの事例
「ネパール村落振興・森林保全計画」

 1994年7月から、山間部のカスキ、バルバット郡において開始されたこのプロジェクト方式技術協力は、青年海外協力隊による「緑の推進協力計画プロジェクト」と連携して行われており、村落住民のニーズとイニシアティブに基づく村落振興活動を通じて、住民の生活水準向上を図りながら、森林資源の減少緩和、森林地域の拡大を目指すものである。
 「緑の推進協力計画」では、山間部に協力隊員とローカルボランティア各1名から成るモニター/プロモーター(M/P)チームを配置し、住民が自ら地域のニーズを掘り起こし、地域振興計画を立案、実施、管理していくことを支援している。チームは住民と一緒に生活をし、協力活動全体の枠組みと方法の普及を行うとともに、住民が立案した村落振興事業を実施する際、使用者間の意見調整や技術的な支援を行っている。チームのローカルボランティアとそれをスーパーバイズするフィールド・マネージャーは、公募選定を経て委託した現地NGOが担っている。プロジェクト方式技術協力は、地方行政組織と連携して、M/Pチームが介して行われる村落振興事業の立案・実施に対して技術的、資金的支援を行っている。このような体制のもと、これまでに、住民のニーズに基づき、共同の水道タンク、水汲み場、トイレづくり、学校の校舎の修理、稲田用の水路整備等が、住民自身の共同作業により行われてきている。
(参照:JICA年報、1996年)

 

プロジェクトの実施段階

プロジェクトにはいくつかの形態があるが、ここではプロジェクト方式技術協力を念頭に置く。プロジェクト方式技術協力は資源供与(資機材、技術−専門家派遣、研修員受け入れ−)により技術協力を行う事業である。現状では参加開発能力の形成をプロジェクトの目的として明示しているものはなく、住民普及・啓蒙という視点で、目的達成のための投入として捉えているものがあるにすぎない。今後は、事前調査段階で参加型開発に配慮することにより、その必要性を判断したうえで、意思決定プロセスに住民が参加できる制度的枠組の整備、PC の各段階における住民と関係機関との間の協議メカニズムの確立及び住民の参加開発能力の形成を目的とした計画の立案と実施も考慮してゆくことが求められる。実施に当たっては専門家の登用や住民活動の支援に対するコストの負担を考慮すべきであろう。事例として、社会林業や母子保健衛生のプロジェクト方式技術協力において住民参加の視点を取り込んで実施しているケ−スがある。また、そのロ−カルコストとして地域住民の啓蒙普及を実施するための予算(啓蒙活動普及費)が、保健医療協力事業、人口家族計画事業及び農林水産業協力事業について認められてきている。

 

課題

     パートナーシップ型の協議共同

地域住民を対等な行為主体として

     開発プロジェクト全体への地域住民への参加

参加というだけでなく、それを通じて、能力・組織の形成が、経験的な学習能力を通じて地域の中に内在化・実体化される

     相当な柔軟性の確保、長期的・継続的・戦略的な関与

参加型開発はトップダウン方式で実施できる性格ではない。状況の進展・変化に臨機応変な対応が絶対的に必要であるため、柔軟性が求められる。

地域社会の能力・組織の形成、協議共同のメカニズムには、きわめて長い時間を必要とする

効果的な支援を展開するために、地域固有の伝統、経験的な組織・制度を十分に踏まえた上でそれらを積極的に活用していくという視点

 

http://www.jica.go.jp/relation/Index.html 国別/分野別援助研究会報告書『参加型開発と良い統治』第1部第3章参照

 

     開発にかかわる外部者の姿勢

地域住民を説教し、批判し、何をすべきかを押し付け、自分の考えを優先するといった、抑圧的な行為を改める。

外部者の役割は、指示棒を手渡し、地域住民をエンパワーし、住民の信用を築き、住民が自分自身のリアリティを決め、引き出し、分析することを助け、外部者のリアリティを押し付けないこと。

「誰の現実認識が優先されるべきか」という視点。 

 

ロバート・チェンバース良い参加は社会を変える    
イギリス・サセックス大学開発学研究所教授         
ロバート・チェンバース

 

 


自らを左右する力
1
月に事業に参加型開発のアプローチを取り入れているJICAなどの招きにより初めて日本を訪問しました。
参加型開発とは、人々が自分の生活を自分自身で左右していく力をつけることです。良い参加は、人々をエンパワーすることができます。人々を力づけるということは、いままで力を持っていた人たちが、その力を「持っていなかった人」に譲り、人々自身にゆだねることです。そうすれば人々は自分たちの開発問題に責任を持つようになり、開発のプロセスはより持続的になります。参加型開発の実施では、ジェンダー問題の解決をはじめ社会的弱者がエンパワーされていく事例が多くみられます。ジェンダー問題の解決は、経済発展と同様か、それ以上に大きな開発の原動力であると思います。

急いではならない
参加型開発を実施するためには、急いではいけません。援助をする側には決められた時間がありますから、それに引きずられ、できるだけ早く成果を出そうとする傾向があります。しかし多くの人々が真に参加するためには時間が必要です。参加型開発にあたって、地域住民のなかに入っていくファシリテーター(促進役)と呼ばれる人たちから、「どのようにするのが一番か」という質問をよく受けます。状況は常に異なりますが、最も重要なのは、まず外部の視点で意見を述べるのではなく、時間をかけて良い関係を作り、人々が自分たちの現実を正しく把握するまで待つことです。その後で初めて対等な立場で、ファシリテーターが求めに応じて自分の意見や知識を提供していくことです。
また、援助する側には、「予算を消化しなくてはいけない」という力も働きます。しかし、それを優先すると悪い結果を招きます。一般的に参加型のアプローチを採用すると、従来のやり方よりもかかる経費は少なくなり、外部からの投入は少なくて済むようになります。参加を促すために「参加しなさい」と命じてしまうことも、よくある間違いです。人々はこちらで用意した舞台に参加するのではなく、自分たちで作り上げていくのです。
開発援助に参加型のアプローチを用いる理由は複数のレベルで考えることができますが、何よりもそれによる良い変化を、人々が自分たちで続けていくことができることです。


人と人との関係から変える
さらに高いレベルで考えると、参加型は人と人との関係性を意味します。人がより良い関係で結ばれれば、より公平で、より民主的で、より友情にあふれる社会になります。良いパートナーシップは、普遍的な人の価値に関係しているのです。
過去10年間に、参加型開発という言葉は一般化しました。用いられる手法も劇的に広がりましたが、それとともに誤った使い方も蔓延しています。その一方で参加型開発を実現するために不可欠な、開発に関わる1人ひとりの態度の変化は広がらず、組織に必要とされる変化もほとんど起きていません。変化が必要であることすら、広く認識されていないようです。NGOの中にまで、参加型を追求して、旧来のやり方に固執する上司と対立して職を失った人がいます。参加型の実践にはまだリスクが伴うのです。しかし、例えば世界銀行のような大きな組織の中にも、その必要性を認識し、働きかけている人たちはいます。そうした人たちを孤立させることなく、互いにサポートしあうことが重要です。
参加型開発は論理的に予測を立てるログフレームの枠内には収まりません。例えば「橋をかける」といった開発のように、事前に何が起きるかを予測することはできないのです。参加型開発の実現のためには、それを認識して、組織の文化、そして組織内の手続きを変えていくことが必要です。

(
聞き手:元JICA専門家 野田直人)  http://www.jica.go.jp/frontier/2001_04/01.html JICAフロンティアより抜粋

 


1.


参加型開発と国際協力―変わるのはわたしたち
ロバート チェンバース (), その他 単行本 (2000/06/01) 明石書店

 

おすすめ度:5つ星のうち5
通常23日以内に発送

価格(税別): 3,800