HC日光アイスバックス」の設立経過について

                                         中村祐司

 

昨年(1999)年始の下野新聞の記事で、古河電工の経営不振とこれに伴うアイスホッケー部の廃部について大きく報じられた。当時は「企業スポーツは曲がり角に来ているな」というぐらいの感想しか持たなかったが、その後の日光市や市民、支援企業、選手などの地域市民を主体とするクラブ設立に向けた動きが展開されるにつれて、これは地域スポーツの在り方を考える上で大変興味深い事例なのではないかと思うようになった。いずれ本格的に勉強しなければと思いつつ今日まできてしまったが、まずこのテーマに関わるインターネット情報から検討することとし、以下、これまでの経緯のまとめ(図表1)と、関連のホームページ紹介を聞き取り調査活動の事前準備として提示したい。

 

 

 

図表-1 「日光バックス」をめぐる動き年月日は下野新聞記事掲載時のもの。下線・太字等は中村。漢数字は算用数字に変更)

 

 

19990113日    日光市を本拠地とするアイスホッケー日本リーグの古河電気工業アイスホッケー部が今シーズンで活動を休止することが明らかに。

              不況下でチーム運営上での経済的負担と日本リーグなどでの成績不振が主たる要因とされた。(同部は1925(大正14)年に創部された日本で最も歴史のあるチーム。アイスホッケー部の維持費は年間45億円。また、同社が出資しているサッカーのJリーグ「ジェフ市原」に年間8億円かかるといわれる。)

19990116日    14日、日本リーグの当部が今季限りで活動を停止、そのまま廃部になることの正式発表。

 

19990406日    「古河電工アイスホッケーチームを愛する会」が4日、日本アイスホッケー連盟(日ア連)の堤義明会長に、署名約41000人分を手渡す。(同会は日光市民を中心にした私設応援団「闘魂会」(横田進代表)などが中心となって結成。日光市役所内応援団の大島広之氏(43)によれば、今月中にも応援団同士が集まり、今後の対応を協議する予定。日ア連では田名部匡省副会長が中心となり、チーム存続へ向けての活動を開始。

19990528日    古河電工アイスホッケー部の廃部を受け、「HC NIKKO Bucks」結成を支援するファンクラブ準備会(矢田宏会長)と、古河電工の選手たちが27日、新チーム設立に向けてのアンケート用紙の配布を行う。(準備会の会員約20人と選手十五人)

19990601日    新チームの年間必要経費は約35000万円。ファンクラブ会費約一億円を見込む。最終集計結果を日本アイスホッケー連盟の理事に提出する予定で、決起集会の開催、知事などへ陳情書も提出予定。

19990610日    日光バックス・ホッケークラブ設立委員会(千葉哲夫代表)が9日、日光市議会に対して設立に向けての支援を要請。定例市議会に、栃木県アイスホッケー連盟が『日光バックスホッケークラブ』の設立支援を求め、陳情書を提出。

千葉代表らは、市議会に対して(1)選手の雇用(2名程度)(2)市議会として県ならびに県内市町村への協力要請(3)法人格取得のための資本金支出(4)企業スポンサーの紹介など7項目を希望。

 

19990612日     ファンクラブ準備会(矢田宏会長)が11日、県庁で渡辺文雄県知事に「ホッケークラブ日光バックス設立支援を願う陳情書」を提出。

19990616日     栃木県アイスホッケー連盟(栃ア連)の千葉哲夫理事長らは15日、日本アイスホッケー連盟(日ア連)を訪れ、これまでの活動経過を報告した。報告を受けた日ア連の田名部匡省副会長は「現時点での新チーム立ち上げは不可能に近いだろう」との判断を示した。

               日ア連では今後一週間以内に東京・古河電工本社を訪れ、今シーズンに限っての資金援助を嘆願する予定。

19990626日     日ア連が25日に理事会を開催。堤義明会長が日光バックスの日本リーグ参戦へ前向きなコメントを発表。その理由として(1)日本リーグ試合興行権(入場者収入)のホームチームへの譲渡(2)日光市民などファンのチーム存続運動の盛り上がり(3)ユニホーム広告の許可、によりある程度の財源確保にめどが立ったことを指摘。古河電工サイドから資金面で何らかのバックアップの約束が得られたことも示唆。新チーム設立期限を、「リーグ開幕ギリギリ(十月上旬)まで」に延長。今シーズンの日本リーグ日程を、日光バックスを加えた六チーム体制で組む方針を明らかにした。チームは廃部となった古河電工チームの外国人選手を除く29選手(新人3選手)、スタッフ7人での運営を予定。

19990705日     日光バックスファンクラブ準備総会4日、日光霧降アイスアリーナ会議室で開催、栃ア連の千葉哲夫理事長は会合後、5日にも栃ア連の理事会を開き、会社の形態、組織構成などの検討に入ることを明らかにした。総会にはファン約百人が出席。千葉理事長は、年間約35000万円と試算したチームの活動資金について、「ファンクラブの年会費と入場料で一億円。今後、自治体を含むスポンサー収入で一億円ぐらいを集める予定。現時点で目標の約六○%まで来ている」と説明。残りの15000万円については、古河電工サイドからのバックアップがあることを示唆。

19990714日     栃ア連が13日夜、日光市体育館で緊急役員会を開き、今月末までに運営母体となる新会社を設立することを承認。役員会には斎藤隆男会長(日光市長)をはじめ顧問、参与、理事ら二十五人が出席。会社の形態、定款、組織構成などを検討。設立する会社名は「栃木アイスホッケークラブ」。チーム名は「日光バックス」。有限会社で資本金は四百万円を予定。栃ア連の役員が個人出資者となり一口五万円、一口以上を集めて資金をねん出予定。代表取締役は調整がつかず、栃ア連の小委員会にゆだねられた。

19990720日     旧古河電工アイスホッケー部の選手たちが19日、日光市清滝桜ケ丘町の古河電工リンクで今季初の氷上練習。旧古河電工アイスホッケー部の峯紳樹監督、日光でのプレーを願う新人3選手を含めた28選手(昨年まで主将は唐津智昭。「古河電工アイスホッケー部の廃部」は今年1月に発表)が参加。

 

19990806日     栃ア連(会長・斎藤隆男日光市長)は、有限会社「栃木アイスホッケークラブ」(資本金310万円)の法人登記を5日に済ませ発足させたことを報告。代表取締役には栃ア連参与で古河アイスホッケー部OBの瀬下光弘氏(72)、取締役に千葉哲夫理事長(65)、前栃ア連会長で顧問の小平英哉氏(70)。新会社は6日にも選手の移籍交渉を含めて、古河電工に経過報告を行う予定。資金面では当初の35000万円から約2億円に下方修正。新会社は9日にも総会を開催、新チームは28選手を予定。

19990807日     日光市の斎藤隆男市長が6日、日光バックスに財政支援する方針を明らかに。また、5日に設立した「栃木アイスホッケークラブ」の瀬下光弘代表取締役、栃ア連の千葉哲夫理事長ら4人が6日、古河電工日光事業所を訪れ、南健所長、森岡三男副所長に会社設立までの活動経過を報告。

19990819日     日ア連盟が18日、常任理事会を開き、廃部になった古河電工を引き継ぐ形で発足した市民クラブ「日光バックス」の日本リーグへの参加承認。各チームの代表者が集まるオーナー会議で正式決定の運び。計画では、ファンクラブから4500万円県内の大口スポンサーから4000万円を見込み、古河電工が一部選手の人件費(4000万円から5000万円)を負担興行収入で4000万円を想定。日光バックスは、古河電工と選手の移籍問題で最終的な詰めが残る。

19990831日     日光市が96日に開会する定例市議会に「栃木アイスホッケークラブ運営補助費」として1000万円の補正予算を盛り込むことが明らかに。

19990925日     24日、日光市の定例市議会の本会議で、「日光バックス」の運営母体となる有限会社「栃木アイスホッケークラブ」に1000万円を補助する補正予算を、原案通り可決。斎藤隆男市長「市民をはじめ多くのファンのチーム設立への盛り上がり状況などから、地域活性化および冬季スポーツの振興に寄与し、青少年の 健全育成の一助にもなると判断し、予算を計上した。予算執行は補助金交付申請を待って、チーム運営の状況を把握しながら行っていく」と説明。県アイスホッケー連盟理事長で同クラブの千葉哲夫取締役「議会、市に理解してもらいありがたい。1000万円は)市民の貴重な税金なので、大切に使いたい」とし、監督を含めたスタッフとチーム運営資金調達については現在、マネジャーを含め選手二十五人で、スタッフは検討中。日本アイスホッケー連盟は既に、第34回日本リーグの日程を発表。

20000331日     「HC日光アイスバックス」が30日、来シーズンの「第35回日本アイスホッケーリーグ」への参戦を正式に表明。来シーズンの参戦を決めた経緯について、(1)来季の運営資金の約7割を確保した(2)地元の金融機関から融資を受けられた(3)新たな大口スポンサー12ある―ことなどと説明。現時点で約1億円が不足。バックス事務局では営業力強化のため、運営スタッフを増員する予定。

               ホームページをリニューアル。

20000401日     日光バックス事務局では建部彰弘氏が務めてきたゼネラルマネジャーに、高橋健次氏が専務理事として就任することが8日に開かれる栃木アイスホッケークラブの出資者会議で正式に決定予定。

20000615日     第34回日本アイスホッケーリーグのオーナー会議14日開催。各チームが昨季の同リーグ入場者収益を報告、2000年シーズンの試合日程などを協議。会議には日ア連の役員、各チームのオーナーら約20が出席。HC日光アイスバックスからはオーナーの栃ア連の千葉哲夫理事長、高橋健次ゼネラルマネジャーが出席。昨季の日本リーグ入場者収益では、日光バックスは日光シリーズ計13試合で約16000人(有料入場者)を動員。売上金が約3000万円となり、経費を差し引いた純利益が、6チーム中トップの約2300万円を計上したことを報告。今季は昨季の30試合から40試合に増加。また、バックス事務局では来週にも、宇都宮事務所をオープンする。宇都宮市東宿郷三丁目のソフトウエア会社「関東タック」(荒井俊典社長)の協力を受け、同所で営業を開始する予定。

 

出典:「下野新聞」http://www.shimotsuke.co.jp/ の記事検索で「日光バックス」「古河電工」等の検索語を入力して、出てきた一覧記事を整理。

 

 

 

 上記が、今日に至るまでの「HC日光アイスバックス」(以下日光バックスの略)の歩みであるが、ここで日光バックスのホームページを紹介したい。

http://www.icebucks.net/(下図)

        トップページには左のような写真が掲げられているが、その下に「日光猿軍団」「日光市」「元気寿司」「ANA」「GREAT SKATE」「TKC」「HINO」「VOLVO」「BUSINESS ぷらら」といったスポンサーが名前を連ねている。日光バックスは「日本で唯一の理想郷・県民参加型クラブチーム」であり、「所属選手25人を選手 生活に専念させるべく、給料を支払い専属選手契約をかわすという理想の形態は(子供たちへの夢・希望 を継承させるという意味で)サッカーのようなメジャースポーツを除いて日本では初めてのケース」だと紹介されている。さらに「ジュニア、ユースチームの確立、県内 アイスホッケー・オリンピック代表選手の輩出などを通して栃木県民と共に進んでいきたい」と述べられている。

         (いずれもhttp://www.icebucks.net/clubinfo/clubinfo.html

このように気負いが感じられるほど意気込みが明らかにされている。また、「チーム紹介」(下図。http://www.icebucks.net/team/team.html)では各選手が

             写真入りで紹介され、プレー中の写真も掲載されている。栃木県立日光霧降アイスアリーナ(左図。http://www.icebucks.net/rinkinfo/rinkinfo.htm )についても、交通アクセス等が示されている。

                 「HP更新情報」(http://www.icebucks.net/whatsnew/whatnew.html)には選手の談話が、「Staff Journal」

                                   (http://www.icebucks.net/news/news.html) には113話(2000年6月現在)にわたって、チーム運営の舞台裏についての手記が公表されており興味深い。さらに「リンク集」( http://www.icebucks.net/link/link.html )には日本アイスホッケー連盟やジュニアチームなどのアドレスが掲載されている。古河電工のアイスホッケー部の廃部以降、日光バックスが立ち上がるまでの困難をこのホームページを読む限りは感じさせないものとなっている。しかし、ホームページによってファンとのコミュニケーションを密にし、新たなファン層を開拓しようとうする必死さが伝わってくるものとなっている。

 

 

 

 

 


日光バックスの設立過程は、地域に根ざす市民スポーツクラブを考察する上での格好の素材なのではないだろうか。インターネット情報を見る限りでも行政・企業・市民間の協働が何らかの形で現実のものとなっていることがうかがわれる。伝統あるアイスホッケーチームの存続が揺らぐという危機的状況に直面したからこそ、従来の価値観にとらわれない形でのチーム運営や地域・企業支援を達成できたようにも思われる。日光バックスの存在そのものが公的文化的価値を有するとすれば、ここに「公」を支える「民」が登場したといえるのではないだろうか。今回の整理を今後、関連諸アクターの相互関係を構造化するための実際の聞き取り調査活動に入る準備作業として捉えたい。

 

<関連リンクの紹介>

「日光バックスのホームページ」 http://www.icebucks.net/top.html :今までのアイスホッケーチームとは異なるアピールの仕方をしていることが感じられるページ。今後、アイスホッケーの新しいファン層の開拓にこのホームページはおおいに役立っていくのではないか。

「NHL.com」 http://www.nhl.com/ : 本場のナショナル・ホッケー・リーグのページ。日本アイスホッケー連盟のサイトよりも重量感がある。