余暇行政論レポート
呉服業界における夫婦別姓の波紋
小林綾香 990124Y
1 動機と目的
昨今、頓に男女平等が叫ばれている。男女雇用機会均等法や夫婦別姓もその一部である。この問題は夫婦間、社会に対してのみ影響を与えるかというと、実はそうでもない。古いしきたりと思われた夫婦同姓と、同じく今では冠婚葬祭くらいにしか見かけなくなった呉服に、実は“家紋”という形で関係がある。ここでは、まず別姓の是非については検討しないことにする。そして、どのように呉服と夫婦の姓が結びつくのか、まとめてみることにした。
2 家紋(紋所)について(http://www2.hotweb.or.jp/kimono/welcome.htmlより抜粋)
「女は紋を背負う」と言う。今でも、嫁入り道具として喪服を持たせる家庭は、その家庭の家紋を背に縫ったり染める。他にも正装といわれる特に黒留袖、色留袖、色無地などには必要となる。現在、紋の図柄の種類は300から400種類くらい、数にして7,000から 8,000紋に達する。
市販で売られ、いつでも買える喪服は、全て共通に使える女紋が既に刺繍されている。豊臣秀吉起源といわれる「五三の桐」、関西では桔梗(明智光秀の紋といわれている)、牡丹など様々だが、家系によって桐や藤を忌む家系もある。
戦国期におこった武家紋は鎌倉初期に、戦闘の際、敵味方を識別する印として考案されたのがはじめとされる。広い戦場で遠目のきく単純明快な形が旗、武具などに使われ、これらはのちに複雑な形に変化し、家紋へ移行していった。今我々が使っている家紋は、この武家紋に端を発している。
婚家先の紋(男紋)を定紋(じょうもん)といい、実家から持参した紋(女紋)を替紋(かえもん)といって、定紋は正式、替紋は略式に用いた。
紋の中には正式には使われない「しゃれ紋」というのがあって、刺繍や染めで友禅風に彩色をしたもの(加賀紋)、自分の紋とひいきの役者の紋等を一つに組み合わせたり(比翼紋)花鳥・山水・文字等を紋様化してつけたり(伊達紋)のような事もできる。今はない紋で遊ぶといった感覚は興味深い。
なぜ喪服に家紋が必要か? そういった質問に合理的な回答はない。なぜなら伝統の中にその必然性、合理性が埋没しており掘り起こすことが困難だからである。
3 夫婦別姓について(http://www.jca.ax.apc.org/mizuhoto/index.htmlより抜粋)
夫婦別姓選択制と婚外子差別撤廃などの民法改正案(民主・共産・社民などの議員立法)は、参議院で趣旨説明が行われたが(3月14日)、その後なかなか進んでいなかった。しかし、ついに5月25日(木)実質的に審議入りすることが決定した。今国会で、成立するとまでは言えないが参議院のなかで民法改正案が質疑応答されることは初めて。
第三 夫婦の氏(第七百五十条関係)
夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫若しくは妻の氏を称し、又は各自の婚姻前の氏を称するものとする。
第四 子の氏
一 嫡出である子の氏(第七百九十条関係)
1 嫡出である子は、父母の氏(子の出生前に父母が離婚したときは、離婚の際における父母の氏)又はその出生の際に父母の協議で定める父若しくは母の氏を称するものとする。
2 1の協議が調わないとき、又は協議をすることができないとき(3及び4の場合を除く。)は、家庭裁判所は、父又は母の請求により、協議に代わる審判をすることができるものとする。
3 子が称する氏を父母の協議で定める場合において、父母の一方が、死亡し、又はその意思を表示することができないときは、子は、他の一方が定める父又は母の氏を称するものとする。
4 子が称する氏を父母の協議で定める場合において、父母の双方が、死亡し、又はその意思を表示することができないときは、家庭裁判所は、子の親族その他の利害関係人の請求により、父又は母の氏を子が称する氏として定めるものとする。
以下は、とある女子高校でのアンケートの結果である。参考までに。(http://plaza8.mbn.or.jp/~eighsaqu/besseylaw.htmより抜粋)
<夫婦同姓の長所>
<夫婦同姓の短所>
*姓の変更の手続きが面倒。*離婚するときにまた面倒。*今までの自分がなくなってしまうようで嫌だ。*自由でなくなるような気がする。*男が姓を変えると婿養子といわれる。*親と別れたみたいで淋しい。*結婚したことが言わなくてもばれる(プライバシーの問題)。
<夫婦別姓の長所>
*自由な気がする。*面倒な変更手続きをしなくてすむ。*わざわざ人に言わなくてもいいので楽。*自分が今のままでいられる気がする。*よその家の子どもにならなくてすむ。*昔からの友達ともそのままつきあえる。*男の場合、婿養子といわれなくてすむ。*仕事の上で都合がいい。
<夫婦別姓の短所>
*わがままをしているように見られる。*夫婦に見えない。*淋しい。*浮気しそう。*子どもの姓で困る。*電話とか、郵便物で困る。*家族がバラバラのよう。*近所の人とかに変に見られそう。*お墓が困る。
ここでその賛否については詳しくは触れないが、夫婦別姓を掲げる一つの理由を掲載しておこう。
夫婦同姓を主張することの根底の問題は、「相手の姓を変えようとする希望」の存在である。自己の姓に関する自己決定権の充足を望むのは、自己に専属の姓に関する権利の問題であるから、婚氏選択に対立はあったとしても相手の権利を侵すものではない。しかし、相手の姓の変更を望むことは、相手の自己決定権を侵すことであり、「越権」以外の何ものでもない。相手の姓を変えようとする希望は、大変不合理なのである。しかもそれは、どちらかが自己の姓による夫婦同姓を望んだ場合のみに現れている。ここに、どちらか一方が姓を変えることを条件とした夫婦同姓婚姻の合理性の限界がある。その点、夫婦別姓では問題の「相手の姓を変えようとする希望」は構造上、発生のしようがないのである。
現在夫婦別姓を認可する企業も増えたが、金融・戸籍などではまだ認められていない部分もあり(マネーローダリングなどの防止のため)、事実婚と言う形で生活している夫婦も多い。そんな中で、自己の生来の姓を保持し続ける希望や、相手の姓を取得する希望とが互いに噛み合えば、夫婦同姓であろうと、夫婦別姓であろうと、何も問題はない。批判対象とされているのは、夫婦同姓婚姻そのものではなく、そこに内包されている越権的な「相手の姓を変えようとする希望」が存在する「可能性」である。ちなみに実は調べてみると、ここ日本でも明治31年(1898)までは夫婦別姓でも良かった。
4 影響はどんなものか(http://www.hi-ho.ne.jp/sawai/index.shtml#INDEXより抜粋)
結果から述べると、長時間ネット上を漂ったものの、あまり期待していたような適切な答えは返ってこない。また、私が知っている以外の新しい見解もあり興味深かった。しかし、着物に関してのHPの管理者はほとんどの方が既婚の主婦の方のためか、夫婦別姓についての見解を見つけるのはなかなか難しい。
最近は喪服でも自分の好きな紋を入れたりすることもあるようですが、私はあまりする気になれません。というのも、私は嫁入りの時に喪服を作っ
たので実家の紋が入っていますが、これって我が父母にとっては「親の未練」というか「親の想い」なのかな〜と。何しろ私の父は、婚約が決まった翌日、布団をかぶって会社をズル休みしちゃったような父親ですから、結婚して違う姓になっても、せめて自分と同じ家紋を付けていて欲しいと思ったのではないかと思うんです。(なんてったって式の準備よりも何よりも、真っ先に喪服を作ってくれたぐらいだから)
昔は「もっとしゃれた紋が良かったのに〜」なんて思っていたんですけど、 よくよく考えてみれば、今の時代、税金もかからず手間もかけずに代々引き継げるものって家紋ぐらいじゃないかしらん。 そう考えると、貴重なものかもしれませんね。家紋って。
嫁いでいくときも実家の女紋をつけていくのです。これは、嫁ぎ先によって紋を変えなければならないという不経済を無くす意味もありました。嫁ぎ先の紋に合わせていたら、嫁ぎ先が決まってから紋を全部入れ直さなくてはなりませんものね。
女紋は合理的にできているんです。 家紋(男紋)は家についてますが、女紋は人についてるのです。 女は男と違って家を代表していないので、正式な家紋をつけないというかその必要がない)ということもあるようです。
文化や伝統、風習の問題については「なぜ?」に対して、明確な解を示すことは困難なことが多いですね。 伝統って、何かしっかりした一般常識のような気がしますが、 追求すると何だかよく分からなくなる物でしょうね.
地域の伝統は、そこに住む家々の伝統の大まかな傾向であり、 家の伝統は、その家に住む人の意見の傾向. 誰かがこうなのだ!というとそうなってしまったり. 時代により、流行により変わって行ったり.
もちろん個人的な感情を込める事はできるでしょうし、 周りがうるさい時は、それにしたがってください.
昔の家制度を引きずって「女の人が夫となる人の家の戸籍に入れてもらう」みたいなニュアンスしか感じない。今では家父長制度は廃止され夫婦は新しい独立した戸籍を作ることになっているのに。 入籍じゃなくて「創籍」「造籍」「作籍」etcの方がマシだと思う。マスコミが好んで使う言葉ではあるけれど、私はこの言葉に触れるたびにムシズが走ります。
だから家紋も、どっちでもいい。好きな方をとればいいんじゃないの。両方を足して新しいのを作るとか。
非嫡子は今の法律では母方の姓を名乗ることになっているから、事実婚の夫婦間の子どもは女紋が普通だと思う。
ここで私が反省すべきなのは、どうやら伝統や家風に固執しすぎていた事だ。今まで私が考えてきた呉服には家紋を入れる、なぜなら「それは伝統だから」はあくまで一般論で、実際嫁入り道具としての喪服に家紋を入れるのは親である。家紋に直撃する一番の影響は人それぞれの感情であった。少なくとも夫婦別姓が公式に導入されても、大して呉服業界に影響はないものと思われる。夫婦別姓とは、その家紋と入れる、という一連の行動に際しての外部的な動きでしかなく、決して人の感情を上回るほどの強烈な動きには成り得ないからである。
5 感想
レポートの作成を終える地点で、意外だが、根本的なところへ結論が帰ってきた気がした。私がこのレポートを作成する過程で最も恐れたのは、呉服に対する関心の低さ以上に呉服に染み付いた“家社会”の残り香である。それは、男女平等が叫ばれる現代社会においてはタブーとされている古くさい匂いである。今や呉服はお洒落の一環としてのみ機能し、意味は忘れられながらもかろうじて跡を残していた形式は、これから更に淘汰されていくと私は予想している。しかし、「女性が家に入って嫁ぐと書く」、こういった言い回しに機敏に反応し、差別撤廃に戦う人を非難したいわけではない。ただ、時代に押され、日本の伝統と言ったものが薄れ、失われていくことを寂しい事とは思う。そして、合理性が優先される今、呉服の立場はより狭きに至った。確かに、呉服には「高い」「1人では着られない」「面倒」「持っていても無駄」というイメージがまず優先され、しかもそれは間違ってはいない。それでも、現在呉服屋は多数あり、成人式では振袖を、結婚式では白無垢を、と呉服を好む人々も根強くいる。呉服の持つカリスマ性には(たとえそれがお洒落の一環としてのみの機能であっても)やはり脱帽せざるを得ない。
参考
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http://www2.hotweb.or.jp/kimono/welcome.html
函館きもの振興会が開いているページ。着物について基本的なことはほぼ記載されていて、あまり着物に精通してはいなくても楽しめる。初心者が必ず迷う着物のしまい方など、困ったことがあれば覗いてみて損はないだろう。参考にしたのは、http://www2.hotweb.or.jp/kimono/kamon.htm家紋大全。
・ http://www.hi-ho.ne.jp/sawai/index.shtml#INDEX
着物好きの夫婦が開いているページ。質問コーナーが設けてあり、分からないことを書きこんでおくとここに訪れる着物好きの方や博識の方まで、それに答えてくれる。着物の持つ庶民ぽさを感じる。参考にしたのはhttp://home.kimono.gr.jp/sawai/kimono/bbs/bbs3.cgi?bbs2&84&16&1 の紋入れの話。このBBSに書き込まれた様々な本音が興味深い。
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http://www.jca.ax.apc.org/mizuhoto/index.html
福島瑞穂さんのHP。夫婦別姓に関してだけでなく、児童虐待法、ストーカー防止法、盗聴法廃止法案等の問題提起もしている。参考にしたのはhttp://www.jca.ax.apc.org/mizuhoto/seisaku/minpo_kaisei.html夫婦別姓法案。
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http://plaza8.mbn.or.jp/~eighsaqu/besseylaw.htm
夫婦別姓の法律理論を研究している。参考にしたのは「Bessey短信」。女子高で行った授業のレポートが掲載されており、新鮮な高校生の意見や感性を垣間見ることが出来るだろう。