05/05/29 赤津卒論
公立図書館の未来−指定管理者制度で何が変わるのか−
ひっ迫する地方財政の中、経費削減を目的に地方自治体は文化施設やスポーツ施設、福祉施設、公営住宅などの公の施設の管理・運営について、民間企業やNPO団体、ボランティア団体等に委託しようという動きがある。平成15年の地方自治法の一部改正により導入された指定管理者制度である。これによって公の施設が十分に活用され住民にとってより使いやすいものとなること、管理費王が低廉となること、市民活動が盛んになることなどが期待されている。しかし指定管理者について調べていくと、この制度のもともとの目的はPFI事業の推進だったことが分かった。PFI事業で建設した施設について、利用料の設定も含めた管理代行を可能にすることに主眼が置かれていたのだ。
今回私が取り上げたいのは、図書館行政である。公立図書館の運営は、管理者制度によってどのような変化を遂げることになるのだろうか。図書館の運営には、果たして民間企業の管理・運営が必要なのだろうか。これからの図書館のあり方や、存在意義を、指定管理者制度や、図書館先進国であるアメリカを取り上げ検討していきたい。
□指定管理者制度とは?
指定管理制度とは、平成15年9月の改正地方自治法の施行によってできた新しい制度である。公の施設の管理については従来、地方公共団体が*出資している法人他に委託することができるとされ、受託者の範囲は限定されるものであった(旧地方自治法第244条の2)。しかし地方自治法が改正されたことにより、地方公共団体が指定する受託者(指定管理者)の範囲の制限はなくなり、株式会社などの民間事業者も公の施設の管理を行なえることとなった。
*地方公共団体の出資法人のうち一定要件を満たすもの(1/2以上の出資法人等)
□PFI事業とは?
内閣府の民間資金等活用事業推進室ホームページによると「PFI(Private Finance Initiative:プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)」とは公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う新しい手法のことである。 民間の資金、経営能力、技術的能力を活用することにより、国や地方公共団体等が直接実施するよりも効率的かつ効果的に公共サービスを提供できる事業について、PFI手法で実施するという。 このPFIの導入により、国や地方公共団体の事業コストの削減、より質の高い公共サービスの提供を目指すとしている。「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(PFI法)」(平成11年7月制定)
□実際に指定管理者制度により図書館が運営されている事例
・山梨県山中湖村の山中湖情報創造館
運営:NPO法人地域資料デジタル化研究会
休館日:毎月末日と1月1日
開館時間:午前9時30分〜午後9時(日曜日と冬季期間は閉館時刻は午後7時)
貸出方法:24時間貸出システムを導入、点数無制限
全国で始めてNPOが指定管理者として協定した図書館。平成16年の開館から、1年間で蔵書冊数29,161冊、貸出冊数42,737冊(住民一人当たり7.2冊)。時間帯貸出状況は、朝9時30分から13時までが24.3%、13時から17時までが46.4%、17時から21時までが29.3%。
・三重県桑名市の桑名市立中央図書館
運営:鹿島グループ(図書館運営は図書館流通センター)
開館時間:午前9時〜午後9時
開館日数:300日以上
全国で始めて図書館運営にPFI手法を導入した。図書館を中心に保健センター、勤労青少年ホーム、多目的ホールからなる複合施設として誕生。旧図書館と比較すると、蔵書は13万冊から30万冊に、面積は約1,000uから約3,200uに、開館日数は約270日から約300日になった。職員数も6名から30名になり、司書率は95%。
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指定管理者制度の導入はサービス向上と経費削減を目的としているため、市内16図書館のうち比較的規模が小さく管理しやすい5つの図書館(門司図書館、国際友好記念図書館、戸畑図書館、大里分館、戸畑分館)に限定して導入(平成17年4月1日)。直営時58%であった司書率を75%以上にすること、平日の開館時間を1時間延長することを条件付けている。司書率は現在80%。指定管理者制度導入による経費削減によって、平成17年度の図書購入費の予算が1千万円増額。平成18年から他の7図書館にも指定管理者制度を導入。市内16図書館中、12館が指定管理者による運営をスタートしている。
□民間団体が図書館運営をしている事例
・高知県高知市の高知こどもの図書館
運営団体:NPO法人高知こどもの図書館
開館年:平成11年
平成7年に高知こどもの図書館を作る会が発足。「県立図書館移転後の施設をこどもの図書館に」という理念の下、数回に渡る賛同者の集い(意見交換会?)を実施。平成11年3月「高知こどもの図書館」設立、同7月特定非営利活動法人に認定。同12月に高知こどもの図書館を開館。職員3名のほかはボランティアで運営。地域でこども文庫をしてきた人の蔵書と個人蔵書により、開館時の蔵書は約2万冊、うち1万5千冊を開架。赤ちゃんから中高校生向けの本、児童文学に関する様々な資料の貸し出しを基本に、読書案内、ストーリーテリング、読み聞かせ、情報の収集と発信などの活動をしている。
・徳島県鳴門市の鳴門市立図書館(行政との協働)
運営団体:NPO法人ふくろうの会
本の読み聞かせボランティア「モモの会」(平成4年発足)に、図書館がNPO法人化を提案し平成14年NPO法人「ふくろうの森」が誕生。「市民参加の図書館作り」という意識から、次第に図書館業務一部委託という考えが行政側に生まれ、平成15年からカウンター業務と図書館行事への支援を委託。正会員数93名。
・群馬県太田市の太田市学習文化センター(NPO法人に委託)
運営団体:NPO法人
委託年:平成13年
図書館、集会施設を複合した学習文化施設として平成3年に誕生。NPO法人の委託業務は市民図書館の管理運営、中島こども分館での図書貸出し等業務全般、太田市学習文化センター(視聴覚ホール、ギャラリー、研修室)の貸出業務等の管理運営。組織の構成は有償サポーター(時給500円)が46名(男性4名、女性42名)、NPO職員7名。図書館の利用時間は午前9時から午後19時(土・日・祝日は午後17時まで。平日は中学生以下18時まで)。全面委託ではなく、市職員も事務などを行ない、対等な立場で勤務している。平成13年の業務委託に伴い、市職員を30名から18名に原因、現在は12名となっている。平成15年度より通年開館を実施。平成15年度は333日開館。
・北海道ニセコ町のニセコ町学習交流センター(ボランティア団体への委託)
運営団体:ボランティア団体あそぶっくの会
委託年:平成15年
図書館機能を主としたコミュニティ性の高い生涯学習施設。施設の事業は図書館機能のほかに、町民の憩いの場・交流の場として、映画界や講演会、展示会等の文化活動を行う。「あそぶっくの会」は本の読み聞かせを行なっていた団体を中心に、施設の設置に伴い設立。会員数67名(男性12名、女性55名)。町からの委託料は常勤する事務局長、ローテーションで勤務する事務職員・会員への謝礼と事務経費及び一部図書費として使用。利用時間は午前10時から午後18時で、月曜、祝祭日、第4金曜に休館。
□今後どのように研究していくか
指定管理者制度についての知識を得ずには何も語れないので、まずは指定管理者制度の理解を深めようと思う。また、平成19年8月の導入期限までにいくつの自治体が図書館運営において指定管理者制度を適応するのかなど、現状やその動向についても調べてみようかと。
図書館の運営についてだが、指定管理者制度によって、民間企業でも管理・運営が可能となった今、公の施設としてあり続けた図書館の存在意義やその目的を再度確認したい。また、指定管理者制度を導入するとなっても、利益を上げることができる施設でない図書館において、その運営には何のメリットがあるのだろうか。そして、図書館は行政による運営と民間による経営とでは、どちらが適しているのだろうか。そこにはどんな違いがあるのか調べていきたい。
今回取り上げるテーマはあくまで図書館行政なので、目的は図書館の将来像や存在意義などを検討することである。よっていずれ指定管理者制度を逸脱した研究になるかもしれない。しかし、それはそれでよしとして、現段階では指定管理者制度の図書館運営への導入について思いを巡らせてみることとする。
<出典>
・内閣府 民間資金等活用事業推進室HP「PFIとは」
http://www.8.cao.go.jp/pfi/aboutpfi.html
・文部科学省 中央教育審議会 生涯学習分科会 審議会資料(平成15年12月1日)
地方自治法改正による公の施設の管理に係る制度の変更
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo2/siryou/001/03120101/001/002.pdf
・文部科学省 図書館の振興「これからの図書館像−実践事例集−」
http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/
「これからの図書館経営」
http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/houkoku/06040715/003.pdf
・NPO法人高知こどもの図書館
http://www.i-kochi.or.jp/hp/kodomonotoshokan/index.html
・(財)ひと・まち交流財団 http://www.stks.city.sendai.jp/hito/WebPages/index2.html
・とちぎNPO研究会 発行:栃木県生活環境部文化振興課(2005年3月)
「創造・協働の森へ」ボランティア・NPOと公共施設の協働ガイドブック(p46〜49)
・とちぎNPO研究会、研究員個人資料「太田市学習文化センター」(文責:高橋浩樹)