030526 maeday
国際学部国際社会学科 前田佑介
[第2回卒論レジュメ]
『PFI(Private Finance Initiative)』
1、前回の質問について
・ まずは前回出た質問についての回答をしていきつつPFIについての理解を深めていく。
@ PFIとは何なのか?第三セクターとの違いは?具体例で説明してほしい。
→・日本でのPFIはまだ検討段階・計画段階のものが多く具体的な成果などが出てきている例が確認できていない。そこでまずはPFIの誕生地である英国の例で大枠を説明したい。
80年代頃から先進国では「小さな政府」への取り組みが本格化し、各種の規制緩和、民営化、アウトソーシング(公共サービス業務の民間企業への委託)が推進された。英国ではサッチャー政権誕生を契機に行政改革と財政再建を目指して大胆な改革が実行されて板。財政難と公共事業・公共サービスの劣悪化に対応するため、PFIという手法が誕生した。一口にPFIといっても、資金回収方法の違い、公共と民間の役割分担などの事業特性などからワンパターンに定義することはできないが、PFIの基本的な発想として「民間への徹底したリスク移転」「民間の創意工夫で生み出されたサービス優先」という大前提では共通している。そのためには可能な限りのリスクを民間に移転し、官民両者の役割分担を明確にすることが重要だ。この辺が第三セクターとの違いという話題と絡んでくる所であるがそれは後で述べたい。
では英国の具体例を用いてPFIの大意をつかみたいと思う。ただ以下に説明することはあくまで英国のPFIであって、日本版PFIとは多少異なってくることを予め断っておきたい。日本版PFIの類型については(参考)へ。
[ローダム・グランジ刑務所]
事業主体は英国の施設管理会社サーコと米国で民営刑務所を運営しているワッケンハット・コレクションズの英国法人が設立した特定目的会社。政府から500人の囚人を収容する刑務所の建設と25年間の運営・維持管理を請け負っている。総事業費3500ポンド(約82億円)は、親会社の出資金と銀行融資でまかない、刑務所の運営を代行する25年間に政府が支払い続ける刑務所の使用料で資金を回収した後、建物を政府に譲りわたす。
コストは刑務所を所管する内務省が試算した建設・運営コストよりも10パーセント低く抑えることに成功した。刑務所建設にあたって、この会社は設計段階から自身が運営・管理することを見越した設計を行い、職員数の削減や効率的管理を行った。企画・設計のような初期段階から管理・運営までを一貫して民間がおこなっている。第三セクターとの最大の違いはここと言えるだろう。
『自治体のためのPFI実務』によると、「第三セクターが破綻に陥った最も大きな理由の一つは、官民の役割分担が不明確なことからもたれ合いの構造ができてしまったことであり、その原因は官と民が同じ会社に入って同じ役割を担おうとしたことにあった。」ローダム刑務所の例にあったようにPFIでは、企画から運営までといったできるだけ多くの部分を民間に委ねようというのが原則である。公共側の役割は、概ね事業の基本計画を作ること、民間が行う事業の条件を明確にすること、その事業条件を守ること、民間が行う事業を監視すること、民間の事業が破綻した場合でも公共サービスを継続させること、という点に集約される。
(参考)日本版PFIの三類型
―効率的社会資本整備を推進するに当たり、日本版PFIの適用が考えられる事業の分野については、整備される社会資本の特徴、内容等に応じて以下の3つの類型に分類した。なお、実際の事業は、これらの類型のうち複数の性格を併せ持つ事業となるケースも考えられる。
第1類型:料金徴収型
料金収入又は関連事業収入を充当することにより民間事業者が整備費用を回収するもの
徴収する料金や関連事業収入を公共施設整備費用にあてることにより原則として成立する事業。
市場では供給が困難であるという公共施設本来の性格から、このタイプの事業の発掘には様々な課題があると考えられるが、事例ごとに事業成立可能性を探ることが必要である。
また、地下街と一体となる地下公共通路等については、関連事業収益を整備費に充当することが考えられ、民間事業者からの発意を尊重しつつ、その推進を図る必要がある。
第2類型:一体整備型
公共施設と民間施設とを一体的に整備することにより、公共施設整備を単独で実施するよりも効率が向上する(公共負担が軽減される)もの
公共側と民間側の事業ニーズが合致し、公共施設整備を公共が単独で実施するよりも官民連携による相乗効果などにより効率が向上する、一体的施設整備事業。
民間の参画により公共施設等の効率的整備が図られるほか、利用者の利便性の向上等のメリットが期待できる場合もある。また都市開発事業や、各種複合施設の整備など、種々の事業について可能性が考えられることから、官民連携施策の一環として積極的に推進していく必要があると考えられる。
第3類型:公共サービス購入型
公共主体に代わって民間事業者が施設を整備・管理することが相当合理的であり、当該公共主体から対価を受け取るもの
民間事業者が建設・管理する施設から提供されるサービスに対し、公共主体が対価を支払うことにより、効率が向上する事業。
その適用が期待できるサービスの内容は例えば以下のようなものが考えられる。
・運営面を含めて民間に高度なノウハウがあり、このノウハウを活用しての効率的、合理的な計画・建設・運営が期待できるもの。
・施設の全部又は一部の耐用年数が短い又は技術革新が激しく施設の陳腐化が早い施設を必要とするサービス。
・ニーズの変動が大きい、又は将来ニーズが小さくなることが見込まれる公共サービス。
公営の美術館やスポーツ施設など、民間の運営ノウハウが期待できる分野については、適切なリスク分担の下に、管理・運営についてまで民間に委ねることにより、効率化のインセンティブが適切に働く方法を検討する必要がある。
なお、民間が施設建設を行い、それを単純に公共に貸与又は分割譲渡するようなものについては、単なる「ファイナンスリース」であって、民間による管理・運営に関する効率化のインセンティブが働かない上、後年度負担の肥大を招くなどの問題点を有しており、英国でもPFIとして扱われていないことに留意する必要がある。
(以上、参考は国土交通省HP http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/policy/pfi/guide.htm から抜粋)
A お金の流れについては?出資と利益の配分先は?
@に示した刑務所の例でわかるように、建設・運営に関してはあくまで民間の責任で銀行からの融資、当該企業への出資金などで賄われる。刑務所の例は上に挙げた三類型で言えば「公共サービス購入型」になるが、その場合は当然に公共主体が使用料的な対価を支払い、事業費の回収と利潤に充てることになるだろう。またこの資金調達の際に生じるリスク等も民間の負担となるようだ。
B行政の監視範囲は?
事業の監視は協定(契約)等に定められた範囲内で行う。つまり全てのPFI事業について一律に監視範囲が決められているということはなく、ケースによって異なる。考えうる大体の監視範囲は以下の通り。(以下4点は
http://www.city.sendai.jp/zaisei/jigyou/pfi/shishin/02_03.html より抜粋)
・ 選定事業者により提供される公共サービスの水準の監視
・ 選定事業者からの、協定等の義務履行に係る事業の実施状況報告の定期的な提出
・ 選定事業者からの、公認会計士等による監査を経た財務の状況についての報告書(選定事業の実施に影響する可能性のある範囲内に限る。)の定期的な提出
・ 選定事業の実施に重大な悪影響を与えるおそれがある事態が発生したときには、選定事業者に対し報告を求めるとともに、第三者である専門家による調査の実施とその調査報告書の提出を求めること。
C従来の公共事業と何が違うのか?
また刑務所の例を利用させてもらうが、ローダム・グランジ刑務所の管理や運営をしていくにあたり、施設管理会社サーコと米国で民営刑務所を運営しているワッケンハット・コレクションズという別の企業が参加していることに触れた。これらの企業はPFI事業を進めるにあたり同じ目的を持ったもの同士として企業連合(コンソーシアム)を組む。そして企業連合に参加する企業がそれぞれ出資して、PFI事業を推進するための「特定目的会社(SPC:Special Purpose Company)」を設立するのである。従来の公共事業はこのSPCがするような機能を行政が受け持っていたと見てよいだろう。つまり、SPCがまとまった意思をもって、工事請負契約や管理運営委託契約などの個別契約を結んでいくのである。SPCはPFIに関するキーワードの「一貫性」を担保する上でも、重要な機関といえるのではないかな。
〈次回は国内のPFI事業についてレジュメ作成したいと思います〉
参考サイト
http://www.pref.hokkaido.jp/skikaku/sk-ssnji/pfi/pfi-index.htm
http://www.city.sendai.jp/zaisei/jigyou/pfi/shishin/02_03.html
http://www.ksky.ne.jp/~sacci/casestudy.htm
http://village.infoweb.ne.jp/~fwhz3669/kaikaku/pfi.htm
参考書
『図解やさしくわかるPFIビジネス』日本能率協会マネジメントセンター
『自治体のためのPFI実務』ぎょうせい
『検証・日本版PFI』自治体研究社